2014年3月9日

海外医薬ニュース2014年3月9日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • AAAAI:抗IL-13抗体はある種の喘息症に有効
  • Jakafiは真性赤血球増加症にも有効
  • ロシュのMET阻害剤も第三相がフェール
  • FDAが抗PCSK9抗体の認知神経学的有害事象に関心
  • JNJの多剤耐性肺結核治療薬がEUで承認
  • ゾレアがEUで蕁麻疹に承認
  • FDAがフィニバックスのオフレーベル用途に警告強化


【新薬開発】


AAAAI:抗IL-13抗体はある種の喘息症に有効

(2014年3月5日発表)

AAAAI(米国アレルギー・喘息・免疫学会議)でロシュの抗IL-13ヒト化抗体、RG3637(lebrikizumab)の難治性喘息症後期第二相試験二本の結果が発表された。POC試験と同様に、血中periostin値が高い患者の喘息発作や呼吸能力を改善した。昨年夏に第三相試験入りしたが、治験登録によれば、結果が判明するのは2017年のようだ。

この二本の試験は、高量吸入ステロイドを含む二剤併用療法を施行しても発作を十分に抑制できない重度喘息症を対象にした。periostinは気管支上皮細胞が分泌する蛋白で、気管支の過感受性や炎症に関与しているようだ。IL-13によって分泌が増加するので、IL-13が関与するタイプの喘息症を判別するバイオマーカーにもなる。

RG3637のPOC試験でperiostin値に基づく二分位解析を行ったところ、高値群でFEV1の有意な改善が見られた。このため、今回は初めからperiostin値に基づく二グループを分別して、偽薬、37.5mg、125mg、250mgを4週間に一回、皮注したところ、高periostin群の喘息発作が偽薬比で各81、77、22%減少した。FEV1も各6.8%、10.7%、10.1%改善した。有害事象の発生率は三群合計で70%と偽薬群の63%を若干上回ったが、深刻なものは2.0%対1.7%で大差なかった。

喘息発作抑制効果に関しては用量依存していない。250mgを用いたPOC試験でも喘息発作抑制作用は確認されなかったので、低量で足りるのかもしれない。ロシュは第三相試験でも三種類の用量をテストしているので、至適用量が明確になるだろう。

この試験は元々は第三相試験として開始されたが、不純物が見つかり生産プロセスを改善する必要が生じたため、後期第二相に変更された。バイオ薬の場合、生産プロセスを変えると力価などに変化が生じる可能性があるため、治験データを承認申請に使えなくなることがある。ロシュ(ジェネンテック)は、抗CD11aヒト化抗体Raptiva(efalizumab)の開発でこの問題に直面したことがあるので、その経験を生かしたのだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

リンク:POC試験論文(Correnら、NEJM、オープンアクセス)

Jakafiは真性赤血球増加症にも有効

(2014年3月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)と開発販売パートナーであるノバルティスは、Jakafi(ruxolitinib)の難治性真性赤血球増多症試験が成功したと発表した。上期中に世界で承認申請される見込み。

Jakafiは2011年に米国で、翌年にはJakavi名でEUでも、中高度リスク骨髄線維症の治療薬として承認されたJAK1/2阻害剤。真性赤血球増多症はエリスロポイエチン受容体のJAK2変異が関与している可能性がある。この試験は真性赤血球増多症でヒドロキシウリアによる治療に十分に反応しない患者を対象に試験を実施。瀉血を受けずに赤血球量を管理できて、脾臓が肥大しなかったら奏効と見做した。データは学会で発表される予定。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ロシュのMET阻害剤も第三相がフェール

(2014年3月3日発表)

ロシュは、MetMab(onartuzumab)のMETLung試験の独立データ監視委員会が治験中止を勧告したことを発表した。続行しても成功する可能性が低いため。他の肺癌試験についても打ち切りになる可能性がありそうだ。

MetMabはHGFの受容体であるMETを標的とするヒト化モノクローナル抗体。通常の抗体は二組の重鎖・軽鎖を持つが標的がMETの場合はアゴニストとして作用してしまうため、片側だけの一価抗体に改変した。第二相試験でMET陽性非小細胞性肺癌に効果の兆しが見られたため、2011年に開始された第三相試験では、Tarceva(erlotinib)併用で、MET陽性且つTarcevaの適応であるEGFR活性化変異型の非小細胞性肺癌で二次、三次治療を受ける患者を組入れて、Tarcevaだけの群と全生存期間を比較した。

昨年12月に同様な内容の二次・三次治療試験と一次治療試験も開始されたが、一本目が無益性で打ち切りとなると、続行は難しいのではないだろうか。胃食道癌でも第三相試験中だが、こちらは癌も併用薬も異なるので、一概には言えないだろう。

MET阻害剤ではアーキュール(Nasdaq:ARQL)も小分子薬のtivantinibで非扁平上皮非小細胞性肺癌のTarceva併用二次・三次治療試験を行ったが、2012年に無益性で中止した。MET陽性肝臓癌で第三相試験中。両剤とも第二相試験のサブグループ分析で有望なデータが出て注目されるようになったが、少なくとも肺癌では期待に応えることができなかった。

リンク:ロシュのプレスリリース

FDAが抗PCSK9抗体の認知神経学的有害事象に関心

(2014年3月8日発覚)

新作用機序に基づく高脂血症治療薬として抗PCSK9モノクローナル抗体が注目されているが、第三相試験を行っている三グループのうちリジェネロン/サノフィとアムジェンに対して、FDAが認知神経学的安全性を調べるよう要請していたことが発覚した。リジェネロンが2月にSECに提出した年次報告書(Form 10-K)に記されていたのだが、サノフィの年次報告書にも記されていたことで一躍注目されるようになった模様だ。

記載によると、FDAはPCSK9阻害剤の認知神経学的有害事象に気付き、両社のREGN727/SAR236553(alirocumab)の第三相プログラムでリスクを評価するよう要請した。長期心血管アウトカム試験などで認知神経学的検査を行うことも提案した。

メディア報道によると、AMG145(evolocumab)を開発しているアムジェンも同様な要請を受けた模様。一方、PF-04950615(bococizumab)を開発しているファイザーは、少なくとも報道の時点では要請を受けていない模様。三グループとも、自社の臨床試験では記憶障害や認知障害などの認知神経学的有害事象のシグナルは見られなかったと言っている。

代表的な高脂血症治療薬であるスタチンは、認知障害に関連するという研究結果も発表されている。もし正しいとしたら、PCSK9阻害という作用機序ではなくコレステロールを減らすこと自体に(大きな問題ではないのだろうが)リスクがあることになる。このような場合に、FDAは、既に承認した薬のメーカーではなくこれから承認審査を受ける会社に真相解明を求めることがあり、今回もこのパターンなのかもしれない。

一方で、FDAは世界で開発されている様々な会社の様々な試験データを見ることができる。ある会社の開発品で安全性懸念が生じた場合は、他社の開発品についても、被験者の安全性を確保するために、あるいは、承認審査で問題になりそうな事項について十分な情報を得るために、注意や評価を求める必要があるが、守秘義務があるため理由を明確にすることはできない。もしこのパターンだとしたら、抗体医薬なので霊長類試験で懸念が生じたことは考えにくく、他社の臨床試験で懸念が生じたのだろう。

リンク:リジェネロンの2013年年次報告書(2/13付)

【承認】


JNJの多剤耐性肺結核治療薬がEUで承認

(2014年3月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EUがSirturo(bedaquiline)を多剤耐性肺結核の治療薬として承認したと発表した。第二相試験の24週奏効率に基づく条件付き承認で、昨年開始された7剤併用試験で長期的な奏効率の上昇が見られるようならば本承認されるだろう。細菌のATP合成酵素を阻害するジアリールピリミジン系抗生剤、肺結核の新薬は久しぶり。

リンク:JNJのプレスリリース

ゾレアがEUで蕁麻疹に承認

(2014年3月6日発表)

ノバルティスは、Xolair(omalizumab、和名ゾレア)がEUで慢性特発性蕁麻疹の治療薬として適応拡大されたと発表した。抗ヒスタミン治療に十分反応しない患者に用いる。治験では4割前後の患者で痒みや蕁麻疹を防ぐことができた。2003年に難治性喘息症治療薬として承認された抗IgEヒト化モノクローナル抗体で、米国でも承認審査中。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがフィニバックスのオフレーベル用途に警告強化

(2014年3月6日発表)

FDAは、塩野義製薬が創製し海外ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているDoribax(doripenem、和名フィニバックス)のレーベル変更を承認したと発表した。

このカルバペネム系抗生物質は米国では複雑性尿道感染症と複雑性腹腔内感染症に承認されているが、人工呼吸器関連肺炎試験の中間解析でimipenemとcilastatinを併用した群より死亡率が高いことが判明、治験中止となった。FDAによると死亡率は23%で、対照群の16.7%より高かった。このため、未承認用途ではあるが、レーベルに記載することを認めた。一方で、承認されている用途に関する評価は従来通り変化が無いことも明記した。

EUでは院内感染肺炎にも承認されているが、人工呼吸器関連肺炎試験の中止を受けて、高量を十分な期間投与し、患者背景に応じて用量を調節することを勧告した。一方、FDAは院内感染肺炎は承認していない。欧米の当局の評価が食い違うことになる。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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