2014年2月2日

海外医薬ニュース2014年2月2日号

 


【ニュース・ヘッドライン】




  • メディベーション/アステラスの抗癌剤の適応拡大試験が大成功
  • 大塚とルンドベックの非定型向精神薬の第三相が成功
  • ファイザー、抗癌剤の第三相が二本フェール
  • アヴェオ/アステラスの開発品の前途が更に暗くなった
  • ノバルティスが第二のALK阻害剤を承認申請
  • FDA諮問委員会がMSDの第二の経口減感作療法も支持
  • 米国で非24時間障害用薬が初承認


【新薬開発】


メディベーション/アステラスの抗癌剤の適応拡大試験が大成功

(2014年1月28日発表)

メディベーション(Nasdaq:MDVN)と開発販売パートナーのアステラス製薬が2012年に発売したXtandi(enzalutamide)の適応拡大試験の結果が、米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム(GU ASCO)で発表された。昨年10月の発表通りの良いデータで、開発が一歩先行しているジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone acetate)と比べて優っているように見える。

時間はかかるだろうが、将来的には黄体形成ホルモン放出ホルモンに代わって早期前立腺癌に用いられる可能性もありそうだ。

Xtandiはアンドロゲン受容体のシグナル伝達を阻害する経口剤で、ホルモン療法の一つ。前立腺癌は緩徐であることが多く、高齢者はLupron(leuprolide acetate、和名リュープリン)のような黄体形成ホルモン放出ホルモンで男性ホルモンの分泌を抑制することによって癌の進行を抑え、天寿を全うできる可能性がある。

しかし、ホルモン療法に反応しなくなる患者もいて、CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)と呼ばれる(ホルモン療法は薬物去勢療法とも呼ばれるのでこのような言い方になる)。PSA値が著しく上昇すると要注意で、具体的なタイミングについてはコンセンサスは無いようだが、早い段階で次の治療に進む方向に段々向かっている。他のホルモン療法薬も無効になり転移した場合、これまでは、症状が悪化した段階で化学療法を施行するパターンが多かった。多くの副作用を持つのでギリギリまで待機するのである。

XtandiやZytigaの最初の適応症は化学療法に反応しない患者を対象としていた。化学療法は英語でキモセラピー(chemotherapy)なので、ポスト・キモと呼ばれる。今回の適応拡大試験は症状がない、または軽微で、化学療法の対象にはならない転移性CRPCを対象としており、プリ・キモと呼ばれている。CYP17A1阻害剤Zytigaは、2012年に適応拡大が承認され、対象患者数が倍増した。

この二剤のプリ・キモのデータを比較すると、Xtandiは全生存期間のハザードレシオが0.71、Zytigaは0.79なのでXtandiのほうが若干良い。違いは効果発現の速さで、カプラン・マイヤー・カーブ(生存曲線)を見るとXtandiの曲線は偽薬の曲線と早い段階で乖離しはじめている。2年生存率はどちらも70%程度で、偽薬群の60%程度を10ポイント程度上回っているが、Zytigaの1年生存率は偽薬と大差ない。

昨年10月にヘッドライン・データが公表された時はメジアン生存期間が32.4ヶ月対30.2ヶ月と群間差が小さいことがやや失望的だった(Zytigaの試験は35.3ヶ月対30.1ヶ月)。今回分かったのは、メジアン値周辺の解析対象症例数が各群数十人と、著しく少ないことだ(治験全体では1717人を組入れた)。サンプル数が少ないため推定誤差が大きいのである。

この試験は中間解析で主目的を達成したため、観察期間が短くなりメジアン生存期間を適切に推定する検出力が損なわれてしまったのだろう。事情はZytigaの試験も同じで、アルファの配分が小さいことも響き、全生存の解析に有意差が出なかった。

異なった試験のデータを比較するのは難しく、Xtandiの試験の方が余命の短い患者が多かった可能性がある。偽薬群の当初の死亡率がZytigaの試験より高いからである。それでも、ハザードレシオで0.1近い差があることは無視できないだろう。

もう一つの主評価項目である放射線学的無進行生存期間(rPFS)でも大変良い結果が出た。尤も、この評価方法はCT/MRI検査を行うタイミングによって左右されるので、私は好きではない。Zytigaの試験と同様に、進行の兆候が無くても2ヶ月に一回検査するプロトコルであったことが容易に推定できるほど、検査時に進行認定される患者が多いのである。偽薬に割付けられた患者はPSA値が上昇し続けるだろうから医師が心配して早めに検査を行う可能性があり、バイアスが生じる余地がある。

メジアン投与期間が16.6ヶ月(偽薬群は4.6ヶ月)と長かったことは売上面でポジティブ。グレード3以上の有害事象の発生率は43%で偽薬群の37%より高かったが、投与期間が長いので多少割り引いて考えてもよいだろう。グレード3以上の心血管有害事象は2.8%対2.1%で、あまり増えなかったのはポジティブ。

両社は適応拡大申請に向かう予定。米国では承認を待たず、権威のあるコンペンディア(医薬品や治療法の解説書)に収載され保険還付が認められた段階で、使われるようになりそうだ。今後の適応拡大は、転移前のCRPCを対象とする第三相試験が進行中で2015年頃に結果が出る見込み。また、Zytigaなどとの併用法も開発されるだろう。

リンク:両社のプレスリリース(1/29付け、和文)

大塚とルンドベックの非定型向精神薬の第三相が成功

(2014年1月24日発表)

大塚製薬と開発パートナーであるルンドベックは、OPC-34712(brexpiprazole)の最初の第三相試験が成功したと発表した。データは3月に欧州精神科学会議で発表される予定。

OPC-34712は、D2受容体と5HT1A受容体を部分作動、5HT2受容体を阻害する作用を持ち、作用の点でも構造の点でも大塚のAbilify(aripiprazole、和名エビリファイ)と似ている。ClinicalTrials.govには第3相試験が15本登録されており、統合失調症だけでなく様々な用途が開発されている。Abilifyは特許期間が残り少ないので今後の夢を類縁体に託したのだろう。

今回成功したのは難治性鬱病に追加投与するアジャンクト用法で、既存の非定型向精神薬でもポピュラーな用途。症状診断スコアが偽薬比有意に改善したとのことだ。ClinicalTrials.govによれば二本が完了したはずだが、どちらが成功したのか、もう一本はどうだったのかは明らかではない。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文、pdf)

ファイザー、抗癌剤の第三相が二本フェール

(2014年1月27日発表)

ファイザーは、PF-00299804(dacomitinib)の第三相試験が二本フェールしたと発表した。もう一本進行中で、こちらは患者を厳選しているので成功する可能性がゼロとは言えないだろう。

PF-00299804は成長因子受容体のうちEGFR(erbB1)、her2(erbB2)、erbB4を不可逆的に阻害するチロシンキナーゼ阻害剤。09年に末期非小細胞性肺癌で化学療法とTarceva(和名タルセバ)による前治療歴を持つ患者の三次治療薬として第三相入りしたが、今回、フェールしていたことが明らかにされた。11年には二次、三次治療薬としてのTarceva対照試験も開始されたが、これもフェールだった。

残っているのはIressa(和名イレッサ)対照一次治療試験。二本フェールしたのだから成功を期待するのは難しいが、僅かな希望は、対象をEGFR活性化変異を持つ癌に限定していることだ。TarcevaもIressaも当初は全ての非小細胞性肺癌に承認されたが、その後、EGFR活性化変異を持つ症例に限定された。ファイザーの最初の二本は限定していないので、EGFR阻害剤が効く患者のデータが効かない患者のデータで希薄化され、差が検出できなかった可能性がある。要するに、実験方法が適切でなかった。

三本目は正しい患者を対象にしているので正しい結果が出るだろう。これまでに開発された薬を見ると、EGFRとher2の両方を阻害しても肺癌に対する効果はEGFRだけ阻害するTarcevaやIressaと大差ないようだ。一方、EGFRを不可逆的に(持続的に)阻害する薬は若干効果が高そうだ。erbB4も含めて不可逆的に阻害することで効果を増強できるかどうか、今度は答えが出るだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

アヴェオ/アステラスの開発品の前途が更に暗くなった

(2014年1月30日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、Tivopath(tivozanib)のトリプルネガティブ乳癌第二相試験を中止したと発表した。組入れが順調に進まないことを理由にしているが、おそらく、開発プログラム全体の前途に自信を無くし戦線を縮小し始めたのだろう。

tivozanibはキリンからインライセンスしたマルチキナーゼ阻害剤でVEGFR-1、2、3やc-KIT、PDGFRなどを阻害する。12年に腎細胞腫の第三相試験が成功し米国で承認申請されたが、延命効果が全く見られなかったことから承認されず、アステラス製薬は欧州での承認申請を断念、腎細胞腫における追加試験の費用も負担しないことを決めた。VEGFR阻害剤は参入企業が多く、今から開発してもビジネス・チャンスは残っていないかもしれない。

今回の試験の費用は両社折半で、二社協議の上で中止を決定した模様だが、プレスリリースはアヴェオ単独で発表しており、その意味でもアステラスの熱は冷めたのだろう。

リンク:アヴェオのプレスリリース

【承認申請】


ノバルティスが第二のALK阻害剤と抗IL-17抗体を承認申請

(2014年1月29日発表)

ノバルティスは、2013年決算の発表に合わせてパイプライン・アップデートを行い、LDK378を米国でALK変異型非小細胞性肺癌用薬として承認申請したことを明らかにした。ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザイコーリ)に次ぐ第二のALK阻害剤で、白金薬ベースの併用療法とXalkoriによる前治療歴を持つ患者を対象とした第二相試験に基づく加速承認申請。第一相試験では750mgを一日一回経口投与して反応率が60%、Xalkori経験者でも59%だった。

ALKはanaplastic lymphoma kinaseの略で当初はリンパ腫に関与する酵素と考えられたが、日本の基礎研究で一部の肺癌に関与していることが判明した。染色体転座でALKが他の遺伝子と結合し著しく活性の高いALKを作るようになる。非小細胞性肺癌の5%程度が該当する模様だ。日本の研究成果である割にはALK阻害剤の第一号も第二号も外資企業なのは残念で内資系にも頑張ってもらいたいが、両社とも海外と並行して日本でも臨床開発を進めているので、患者にとっては最早、外資も内資も関係ないのかもしれない。

AIN457(secukinumab)を欧米でプラク乾癬に承認申請したことも明らかにされた。第三相試験では、TNF阻害剤であるアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が有意に優れていた。用法は、当初は週一回、その後は4週間に一回の皮注である模様だ。IL-17に結合する抗体医薬で、イーライリリーやアムジェンも開発している。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がMSDの第二の経口減感作療法も支持

(2014年1月28日発表)

MSDは、FDAのアレルギー製品諮問委員会の多数がRagwitekの承認を支持したと発表した。賛成は9人の委員のうち6人、二人は反対、一人は棄権したが、この3人は、薬効確認試験の対象が50歳までに限定されていて50~65歳に関するエビデンスが不足していることが理由で、50歳までなら全員賛成だったようだ。

Ragwitekはブタクサ・アレルギーによる鼻結膜炎の予防薬。ブタクサのアレルゲンを含有する舌下錠で、シーズンの12週間前から毎日服用し、体をアレルゲンに慣れさせる減感作療法だ。これまでの注射用薬より使いやすい。稀に深刻な過敏反応が起きることがあるので、患者は自己注用エピネフィリンを常備することになりそうだ。

経口減感作療法は欧州が先行しており、MSDはデンマークのAlk Abelloからライセンス。チモシー・アレルギー用のGrastekは昨年11月に諮問委員会の支持を獲得。同月、フランスのStallergenes社が承認申請した5種類の草アレルゲンを配合したOralairも諮問委員会の支持を受けた。特許薬というほどではないが効く人には効くので、代替的な治療法として普及しそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


米国で非24時間障害用薬が初承認

(2014年1月31日発表)

FDAは、ヴァンダ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VNDA)のHetlioz(tasimelteon)を全盲者の非24時間睡眠覚醒障害の初の治療薬として承認したと発表した。この疾患は昼夜の変化を感じないことが理由で概日リズムが合わなくなり、睡眠、覚醒の時間が24時間サイクルとずれる。米国の罹患者は8万人。

HetliozはメラトニンのMT1/2受容体を作動する、武田の睡眠薬Rozerem(ramelteon、和名ロゼレム)に類似した作用を持つ薬。04年にBMSからBMS-214778をライセンスしたもの。主な有害事象は、頭痛、肝機能検査値異常、悪夢・異常夢など。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ヴァンダのプレスリリース

今週は以上です。

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