2014年1月19日

海外医薬ニュース2014年1月19日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • tivantinib、減量して治験続行
  • MSDが抗PD-1抗体を他社に先駆けて承認申請に着手
  • FDA諮問委員会はイグザレルトの適応拡大を認めず
  • FDA諮問委員会はMSDのPAR-1阻害剤を支持!
  • ギリアッドのHCVポリメラーゼ阻害剤がEUで承認


【新薬開発】


tivantinib、減量して治験続行

(2014年1月16日発表)

アーキュール(Nasdaq:ARQL)は、ARQ 197(tivantinib)のライセンス先である第一三共と協和発酵キリンの第三相試験についてアップデートを行った。第一三共が欧米などで実施している肝細胞腫試験は投与量の減量により好中球減少症の発生率が低下することが確認されたため、データ監視委員会が治験続行を勧告。取り敢えず息が繋がった。協和の試験は安全性問題で中止されたが、組入れ済みの症例の解析結果が明らかにされた。

ARQ 197は小分子のc-MET阻害剤。EGFR阻害剤とのシナジーが期待されTarceva(erlotinib)併用で非扁平細胞性非小細胞性肺癌の第三相二次治療試験が実施されたが、中間解析で延命効果がTarceva単剤を上回る可能性は著しく低いと判定され、中止となった。

一方、協和が日本などアジア地域で実施した同様な試験は、間質性肺疾患が増加、目標症例数460名だったが組入れ中止となった。307名の解析が行われたが、メジアン生存期間12.9ヶ月とTarceva単剤群の11.2ヶ月と大差なかった。尚、欧米試験ではアジアほど多発しておらず、今回の試験でも、アジア人はEGFR誘導性間質性肺疾患の感受性が高いことが示唆された。いつまでも放置しないで、原因を探索すべきだろう。

第一三共が欧米などで実施中の第三相MET過剰発現型肝細胞腫試験は、データ監視委員会が好中球減少症の増加を懸念し、昨年9月に投与量を240mg一日二回から120mg一日二回に半減するプロトコル変更を行った。その後、所定の症例数に達するまでモニターしたところ、好中球減少症の発生率が低下したため、今回の続行勧告に至った。

第三相で用いられた錠剤と第二相試験のカプセル製剤の薬物動態の違いが影響したようだ。錠剤なら120mg一日二回でカプセルの240mg一日二回と同じ血漿濃度を達成できる由である。結局、今回のトラブルは生物学的同等性の検討が不十分だったために起きたことになる。

リンク:アーキュールのプレスリリース

【承認申請】


MSDが抗PD-1抗体を他社に先駆けて承認申請に着手

(2014年1月13日発表)

MSDは、米国でMK-3475(lambrolizumab)のローリング承認申請を開始したと発表した。悪性黒色腫でBMSのYervoy(ipilimumab)による治療を既に受けた患者が対象になる。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は初期臨床試験で有望な成績を上げ、第三相入り。同社とBMS、ロシュが激しい開発競争を行っているが、少なくとも現時点ではBMSを抜いて一番手に躍り出た。

今回の承認申請は後期第一相試験のデータに基づくものと推測されるが、100例以上の症例があるため、内容的には第二相に匹敵する。MSDは第一相、第二相とは思えないほど多くの症例を組入れてキチンとしたデザインの試験を行うことがあるが、今回はこの戦略が開発期間短縮に寄与したと言えるだろう。

BMSの試験も症例数の点では大差ないはずなので、MSDが承認申請できるならBMSもできないことはないはずだが、治験のデザイン(反応評価の厳格さなど)が承認審査に耐えうるものなのか、CMC(化学的評価、生産方法、生産管理)が確立しているか、なども問題になる。特に、抗体医薬は量産方法の確立が重要な課題になるので、この進み具合がポイントだろう。

癌細胞はPD-1を利用して免疫機構の機能を妨げるとされる。MK-3475やBMSが小野薬品と共同開発しているBMS-936558/ONO-4538(nivolumab)は、活性化したTセルなどが発現するPD-1に結合して、癌細胞などが発現するPD-L1やPD-L2が結合・作動するのを妨げ、間接的に免疫を強化する。一方、ロシュのRG7446/MPDL3280AはPD-L1に結合する。これまでの試験では、反応評価方法は区々だが、反応率は2~4割だった。非小細胞性肺癌にも有望そうだ。

尚、日本では小野薬品が昨年12月に承認申請、一番乗りしている。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はイグザレルトの適応拡大を認めず

(2014年1月16日発表)

FDA心臓腎臓薬諮問委員会は、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の急性冠症候群適応拡大に関して11人の委員中10人が反対、1人が棄権、賛成はゼロという厳しい評価を下した。EUでは昨年5月に承認されており、対照的な結果になった。

Xareltoは整形術後の深静脈血栓の予防や心房細動患者の脳卒中予防に承認されている。急性冠症候群(心筋梗塞など)では亜急性期の患者を組入れた大規模なアウトカム試験が実施され、再発リスクを16%削減する効果が確認されたが、頭蓋内出血などの臨床的に重要な出血事故も有意に増加した。

比較的安全な低用量(2.5mg一日二回)が承認申請されたが、この群でも頭蓋内出血が有意に増加しているためか、FDA側が改めて薬効のエビデンスを検討。追跡打切り例が多く解析が盤石とはいえないと判定した。12年2月に開催された諮問委員会でも11人中6人が承認に反対し、審査完了となった。

米国での開発販売権を持つジョンソン・エンド・ジョンソンは打切り例の追跡調査を行いデータを提出したが、再び審査完了。FDA側の示唆を踏まえて、フォローアップがキチンとしている当初の90日間だけ投与する用法、データで申請、今回の諮問委員会に至った。しかし、90日間のデータが特に良い訳ではなく、また、事後的解析に過ぎないせいか、好意的な評価は受けられなかった。

XareltoのようなXa阻害剤はワーファリンの代替として開発されたが、このワーファリンは、アスピリン及びPlavix(clopidogrel)と併用すると重大な出血事故のリスクが高まることが判明した。BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)の第三相急性冠症候群試験も重大出血リスクから途中で打ち切られた。抗血栓薬と三剤併用するのは過剰介入なのだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

FDA諮問委員会はMSDのPAR-1阻害剤を支持!

(2014年1月15日発表)

FDAの心臓腎臓薬諮問委員会は、MSDが承認申請したZontivity(vorapaxar)を検討、11人の委員中10人が賛成、1人が反対と圧倒的多数が支持した。FDA審査官も肯定的であるようなので、安定期冠動脈疾患の再発予防薬として承認される可能性が高まった。意外だ。

ZontivityはMSDが09年に411億ドルで買収したシェリング・プラウの開発品。血小板のPAR-1受容体に結合し、トロンビンが活性化した血小板の活性を更に高めるのを防ぐ。動脈で血栓が形成される初期の過程には作用しないため、PlavixのようなP2Y12阻害剤やアスピリンと補完的と考えられている。

私も期待していたが、第三相試験で大きな波乱があった。急性冠症候群を組入れた試験で重大な出血のリスクが高まることが判明、投薬中止となったのである。薬効面でもハザードレシオ0.89、p=0.07と、大きな効果を示せなかった。

リスクは脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA;脳梗塞に進むリスクが高い)の既往患者で特に高かったため、同時進行していた安定期冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患の患者を組入れた第三相試験は、該当患者を除外して続行、成功した。MSDはデータを精査した上で昨年、安定期冠動脈疾患で脳卒中・TIA歴のない患者に限定して承認申請した。このユニバースに限定した事後的解析によると、心筋梗塞・脳卒中・心血管疾患死のリスクを偽薬比18%削減、NNTは62人。

安全性面では、GUSTO基準に基づく中重度出血の発生率が約3年間で3.0%と偽薬群の2.0%より有意に高まった。NNHは100人という計算になる。頭蓋内出血の発生率は0.6%対0.4%で、発生率自体は低く統計的に有意ではないものの1.4倍に高まった。

私は承認されないと予想していたが、FDAも諮問委員も好意的だった。治験の規模が大きくサブセグメント分析の信頼性が許容可能なものであったことが寄与したようだが、Xareltoに対する評価と食い違うようにも感じる。

この二つの諮問委員会は登場人物が異なり、Xareltoの諮問委員会の方が煩方(うるさがた)が多かった。心血管薬審査チームのリーダーで現行のアウトカム試験実施方法を厳しく批判しているMarcinak氏も、MSDのZetia(ezetimib、和名ゼチーア)のエビデンスに関して鋭く批判したNissen博士も、薬害監視団体の代表者であるWolf氏もvorapaxarの諮問委員会には参加しなかった。諮問委員会の直前に反対派委員の招致がキャンセルされた、Efiient(prasugrel)の事例を連想してしまう。

何れにせよ、vorapaxarに重大な出血リスクがあることは確かなので、発売後は、再発リスクが特に高い患者だけに限定して、慎重に用いられることになるのではないか。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


ギリアッドのHCVポリメラーゼ阻害剤がEUで承認

(2014年1月17日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、Sovaldi(sofosbuvir)がEUで慢性C型肝炎の治療薬として承認されたと発表した。C型肝炎ウイルスのゲノムが産生するNS5Bポリメラーゼを阻害する核酸誘導体で、I型だけでなく様々なジェノタイプに有効。

ジェノタイプにより薬剤感受性が異なるため、併用レジメンや治療期間が異なる。I型、IV型、V型、VI型ウイルス感染者はribavirinやPEG化インターフェロンと三剤併用で12週間治療。但し、PEG化インターフェロンに不適・不耐な患者はribavirin併用24週間コースも可。III型は不適・不耐でない場合も含めて、この二種類のコースから選択可。

一方、II型はribavirin併用12週間コースで十分。このほかに、慢性C型肝炎で肝移植を待っている患者にribavirin併用で肝移植の時まで治療することも認められた。尚、日米欧はI型感染者が多い。

Sovaldiは米国でも昨年12月に承認、問屋取得価格が12週間分で84000ドルという大変高い価格で発売された。12週間の治療で済めばPEG化インターフェロンの費用が大幅に下がるので、もう一つの高価な新薬であるプロテアーゼ阻害剤を併用しない今回の用法なら、それほど負担は増えないだろう。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

今週は以上です。

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