2013年12月8日

海外医薬ニュース2013年12月8日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスのDAC阻害剤の第三相が成功
  • I-SPY 2試験で初の卒業生
  • ランタス新製剤の第三相が成功
  • 腎細胞腫は二次治療もVEGFR阻害剤?
  • イーライリリー、LY2216684の開発を中止
  • ZambonがEUでパーキンソン病薬を承認申請
  • ギリアッドの画期的抗HCV薬が米国で承認
  • XiaflexがPeyronie病に適応拡大
  • FDAがレノックス・ガストー症候群治療薬の皮膚毒性を警告


【新薬開発】


ノバルティスのDAC阻害剤の第三相が成功

(2013年12月6日発表)

ノバルティスは、LBH589(panobinostat)の第三相再発性難治性多発骨髄腫試験が成功したと発表した。データは後日、学会発表される予定。LBH589はクラスI、II、IVのジアセチラーゼを阻害する汎DAC阻害剤で、アルファ・チューブリンやp53などの遺伝子翻訳を阻害し、アポトーシスを誘導する。

今回の第三相は、bortezomib(武田のVelcade)とdexamethasoneを用いる標準療法にLBH589を追加する効用を検討したもので、主評価項目であるPFS(無増悪生存期間)が有意に延びたとのこと。ノバルティスは承認申請に向けて欧米の審査機関と相談する考え。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

I-SPY 2試験で初の卒業生

(2013年12月4日発表)

ロサンジェルスのプーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)がI-SPY 2試験を『卒業』したと発表した。PB272は11月に転移性乳癌で第三相入りしたところだが、早期乳癌のネオアジュバント(術前化学療法)でも第三相のI-SPY 3試験が始まることになる。

I-SPY 2試験は米国の20の医療機関がFDAやバイオマーカー・コンソーシアムの支援を得て実施しているステージ2早期乳癌の第二相試験で、8種類の新薬のpCR(病理組織学的完全反応:手術前の多剤併用療法で腫瘍が完全に消失)を検討する。事前に設定された10種類のバイオマーカーのうち一つ以上に該当するサブグループでベイズ推定によるpCRが標準療法より高ければ卒業して第三相に進み、全て駄目ならその薬はドロップする。

新しい開発手法なので不透明なところもあるが、数多い開発品の中から最も有望なものを素早くスクリーニングすることが期待されている。試験薬の提供者はアムジェン、ファイザーなど多数に亘り、一社だけではできないことを可能にした。治療成果とバイオマーカーを関連付けるのは有望な手法だが、これまでは結論が出るまで何年もかかり、EGFR阻害剤や抗EGFR抗体は市販後何年も経った段階でやっと最適な患者が見つかった。それまでは費用の面でも副作用の点でも患者のためにならない治療を行っていた訳で、こんなことを繰り返してはならない。

PB272はEGFR、her2、her4を阻害する小分子薬で、元々はワイスがHKI-272として開発していたものを2011年にプーマがライセンスした。I-SPY 2では、her2陽性でホルモン受容体陰性の患者に対して、標準療法だけよりも優れているベイズ予測確率が94.7%(p値では0.0053に相当)、第三相試験が成功する確率が78.1%だった。her2陽性患者全体でも良い数値が出た。

I-SPY 2試験が2010年に開始された当時は第三相試験の成功確率が85%以上なら卒業と報じられていたが、ハードルが引き下げられたのかもしれない。汎erbB阻害剤がher2陽性乳癌に適するというのは決して新しい発見ではない。初の卒業生が出たのは快挙だが、これらのことを考えると、医学的な意義は小さいのかもしれない。

リンク:プーマのプレスリリース

ランタス新製剤の第三相が成功

(2013年12月3日発表)

サノフィはLantus(insulin glargine、和名ランタス)の新製剤であるU300の第三相試験成功を発表した。14年上期に欧米などで承認申請する予定。日本の試験を含めて複数の試験が実施され、血糖管理効果がLantusと非劣性だった。夜間の低血糖リスクは一部の試験では有意に小さかったがノボ ノルディスクのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)ほどではなく、EDITION III試験ではトレンドに留まった。

U300は薬物動態や薬力学を向上、血中濃度を長期間安定的にコントロールする。mL当り300単位とLantusの100単位より大きく、皮注量が少なくて済む。一日一回の投与頻度は同じ。将来、Lantusのバイオシミラーが発売される日に備えたとも言えそうだ。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

腎細胞腫は二次治療もVEGFR阻害剤?

(2013年12月2日発表)

Journal of Clinical Oncology誌のホームページで、ファイザーのTorisel(temsirolimus、和名トーリセル)の直接比較試験の結果が論文刊行された。腎細胞腫でSutent(sunitinib、和名スーテント)による治療を既に受けた患者を組入れて、Toriselとsorafenib(バイエルのNexavar、和名ネクサバール)のPFS(無増悪生存期間)を比較したもの。

結果は両群同程度でToriselが優れるという仮説は棄却されたが、意外なことに、全生存の解析では有意に劣っていた。Toriselはメジアン12.3ヶ月、sorafenibは16.6ヶ月、ハザードレシオは1.31だった。

SutentとsorafenibはどちらもVEGFの受容体チロシンキナーゼを阻害する。常識的に考えれば二次治療には一次治療薬と異なった作用機序の薬を用いたほうが良さそうなもので、私自身、SutentとNexavarをシーケンシャルに用いるやり方に疑問を持っていたが、今回の試験結果は常識を覆す意外なものだった。

この試験はあくまで特定の二剤を比較したものに過ぎず、最適な二次治療薬を検討するならToriselではなく同じmTOR阻害剤のAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)をテストすべきかもしれない。Afinitorは複数の腎細胞腫試験が成功していて薬効のエビデンスが強固だ。

VEGFR阻害剤もsorafenibではなくInlyta(axitinib、和名インライタ)をテストすべきだったかもしれない。同様な二次治療試験でsorafenibより効果が高かったからだ(尤も、一次治療でSutentを用いたサブグループに関しては大差なかったが)。

リンク:Hutsonらの治験論文(JCO誌)

イーライリリー、LY2216684の開発を中止

(2013年12月5日発表)

イーライリリーはLY2216684(edivoxetine)の第三相試験が全てフェールしたため開発を中止すると発表した。選択的ノルエピネフィリン再取込阻害剤で、第三相ではSSRIだけでは症状を十分に管理できない鬱病患者を組入れて、LY2216684で補完する効果を検討した。セレトニン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤を服用するのと同じ効果になるのではないかと思っていたが、そうでもないようだ。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


ZambonがEUでパーキンソン病薬を承認申請

(2013年12月5日発表)

イタリアのZambon社は、Newron Pharmaceuticalsからライセンスしたアルファ・アミノアミド誘導体、safinamideをパーキンソン病治療薬としてEUで承認申請したと発表した。早期、中期、進行患者に追加投与する。米国では14年第1四半期に承認申請する予定。

第三相入りしたのは04年なので、9年掛かったことになる。元々はスイスのセラノ(後にドイツのメルクが買収)が世界開発販売権を持っていたが、治験成果が区々であったせいか、12年に返還した。日本はMeiji Seikaファルマが権利を保有。

リンク:Zambonのプレスリリース

【承認】


ギリアッドの画期的抗HCV薬が米国で承認

(2013年12月6日発表)

FDAは、ギリアッド(Nasdaq:GILD)のSovaldi(sofosbuvir)をC型慢性肝炎の治療薬として承認した。特徴は、第一に、遺伝子型I型からIV型まで様々なウイルスに有効であること。第二に、治療期間をIII型は24週間、それ以外は12週間に短縮できること。第三に、I型以外はribavirinと併用する、インターフェロンを使わない治療法であること。FDAはI型に関しても、インターフェロン不耐・不適なら二剤併用24週間コースも可とした。

Sovaldiはヌクレオチド系のNS5Bポリメラーゼ阻害剤で、ファースト・イン・クラス。インターフェロン、ribavirinと三剤併用した試験で見られた主な有害事象は疲労、頭痛、悪心、不眠、貧血など。

ギリアッドは11年にファーマセット社を110億ドルで買収して入手した。コストが高いせいか価格も極めて高く、WAC(問屋取得価格)は12週間分が84000ドル、一日10万円だ。C型肝炎治療薬は発売後の売上高が急速に増加するが1~2年でピークを付ける傾向があり、稼げる時に稼いでおく作戦だろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

XiaflexがPeyronie病に適応拡大

(2013年12月6日発表)

FDAは、コラーゲン分解酵素製剤のXiaflex(collagenase clostridium histolyticum)をPeyronie病の治療に用いることを承認した。ペニスの皮下に瘢痕組織が蓄積し勃起時に曲率変形が起きる病気で、米国では年5000~6000人が注射薬や手術による治療を受ける模様。同剤は09年にデュピュイトラン拘縮(指から掌にかけての結合組織にコラーゲンが蓄積、指が曲がる)の治療薬として承認された。

Auxilium Pharmaceuticals(NasdaqGM: AUXL)の製品で、欧州アフリカの権利はSwedish Orphan Biovitriumが、カナダやオーストラリアなどの権利はスイスのアクテリオン社が、日本の権利は旭化成が持っている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Auxilliumのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがレノックス・ガストー症候群治療薬の皮膚毒性を警告

(2013年12月3日発表)

FDAはルンドベックのOnfi(clobazam、和名マイスタン)の稀だが深刻な皮膚有害事象に関する安全性情報を発した。レノックス・ガストー症候群の治療薬として11年に承認、欧州では癲癇治療薬として30年以上の使用歴があり日本でも2000年に発売されたが、FDAの自発的有害事象報告に米国で6例、海外で14例のスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死による入院例が報告され、一名は失明、一名は死亡した。Onfiを服用開始してから2ヶ月以内の発症が多く、原因薬の可能性があるとのこと。

日本でも10月に重大な副作用として添付文書に記載された。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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