2013年12月15日

海外医薬ニュース2013年12月15日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • SABCS:I-SPY 2初の卒業はPARP阻害剤
  • アッヴィの4剤併用C型肝炎試験が再び大成功
  • アストラゼネカ、新規痛風治療薬の第三相が成功
  • tivozanibの試験がまたフェール
  • MSDがBACE1阻害剤の第三相を本格化
  • スペクトラム、belinostatを米国で承認申請
  • 経口I型ゴーシェ病治療薬が米国でも承認申請
  • バクスター、豚由来の第VIII因子を承認申請
  • Aloxiのコンビ薬が承認申請
  • オレキシジェンが体重管理薬の追加データ提出
  • FDA諮問委員会がBMSのSGLT2阻害剤と脂肪萎縮症治療薬を支持
  • FDA諮問委員会が武田の炎症性腸疾患治療薬を支持


【新薬開発】


SABCS:I-SPY 2初の卒業はPARP阻害剤

(2013年12月13日発表)

先週号でneratinibがI-SPY 2試験初の卒業生と書いたが、実際に治験を行っている研究者がSABCSサンアントニオ乳癌会議で行った発表によると、アッヴィAbbVie(NYSE:ABBV)のPARP阻害剤、ABT-888(veliparib)が最初の卒業生だった。

ABT-888はNCI米国立がん研究所が初の第0相試験を行ったことでも知られており、第二の『史上初』を獲得したことになる。他社のPARP阻害剤は第三相がフェールした。革新的な臨床開発方法が成果を生むことができるか、これからが本番だ。

I-SPY 2は複数の開発品を次から次へとテスト。特定のバイオマーカーを持つ癌に効果の兆しが見られたら症例を更に増やすことによって確認し、駄目なら打ち切る。ベイズ確率という手法を用いて標準療法より意味のある且つ有意な差があるかどうかを推定し、300人程度の第三相試験の成功確率が85%以上と判定されたら卒業して第三相に進む。対象はステージ2の早期乳癌。paclitaxel、doxorubicin、cyclophosphamideの標準的術前化学療法に試験薬を追加し、摘出術時に癌が消失したかどうかを調べる。

ABT-888は単剤ではなくcarboplatinとセットで試験された。白金薬で癌細胞のDNAに障害を与え、PARP阻害剤でDNA修復メカニズムを妨げるアイディアだろう。結果は、被験者の2~3割を占める、her2やエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体が何れも陰性のトリプルネガティブ乳癌で顕著な効果を示した。二剤を追加した群はpCR(病理組織学的完全反応率)が52%と標準療法の26%を上回り、第三相で有意な差が出るベイズ予測確率は92%となった。

PARP阻害剤ではアストラゼネカのAZD2281(olaparib)が今年、EUで承認申請された。第三相白金薬感受性卵巣癌維持療法試験はフェールしたが、事後的サブグループ分析でBRCAに変異のある患者に延命効果が見られた。米国では承認申請されていない模様だが、おそらく、FDAが事後的分析であることを嫌ったのだろう。サノフィのBSI-201(iniparib)は転移性トリプルネガティブ乳癌の後期第二相試験で効果の兆しが見られたが、第三相はフェールした。

このように、PARP阻害剤の開発歴は楽観を許さない。ABT-888が第三相試験でどのような成果を上げるか、注目される。

リンク:SABCSのプレスリリース

アッヴィの4剤併用C型肝炎試験が再び大成功

(2013年12月10日発表)

アッヴィは、C型慢性肝炎の第三相二次治療試験が成功したと発表した。奏効率は先に発表された一次治療試験と大差ない。まだ数多くの第三相試験が進行中だが、14年第2四半期の承認申請に向けて着々と歩みを進めている。

この試験はABT-450(プロテアーゼ阻害剤)、ritonavir(ABT-450の代謝を妨げる3A4阻害剤)、ABT-267(NS5A複製複合体阻害剤)を配合したコンビ薬と、ABT-333(非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)、そしてribavirinを、コンビ薬は一日一回、他の二剤は一日二回、12週間に亘って経口投与し、更に12週間経った段階でウイルスが検出されるかどうか(SVR12)を調べたもの。

被験者はインターフェロンとribavirinの二剤併用療法が奏功しなかった遺伝子型I型ウイルス感染者で、殆ど反応しなかったヌル・レスポンダーが49%を占めた。肝硬変を合併する患者は含まれていない(別の試験が進行中)。

結果は、SVR12が96%で、1a型(96%)にも1b型(97%)にも有効だった。二次治療試験としては大変良い成績だ。

他の試験は、肝硬変を合併する一次治療、二次治療の患者に同じ4剤を用いて12週間または24週間治療するもの、Ib型を対象に4剤併用とribavirin以外の3剤併用を比較する一次治療試験、二次治療試験、そしてIa型一次治療で4剤と3剤を比較する試験が進行中。

4剤併用という表現はritonavirを無視しているが、元々はHIV/AIDSの治療薬として開発されたもので、値段が高い。ribavirinはGE化したが決して安い薬ではない。新薬3剤と高価な2剤を併用するアッヴィのレジメンは効果だけでなく費用も高いだろう。

リンク:アッヴィのプレスリリース

アストラゼネカ、新規痛風治療薬の第三相が成功

(2013年12月13日発表)

アストラゼネカはRDEA594(lesinurad)の第三相試験が成功したと発表した。キサンチン酸化酵素阻害剤に不耐の痛風患者を組入れて尿酸管理奏効率を偽薬と比較したもの。この他にキサンチン酸化酵素阻害剤だけでは十分に管理できない患者を対象としたアドオン試験が3本進行中で、14年央に結果が出る見込み。

lesinuradは選択的URAT1阻害剤で、尿酸の排出を調節する腎臓近位管のトランスポーターを阻害する。allopurinolや武田のUloric(febuxostat)のようなキサンチン酸化酵素阻害剤は尿酸の合成を阻害するので、合成過剰ではなく排泄過少型の患者に適している可能性があり、また、併用でシナジーを生む可能性がある。やや心配なのは今回の第三相で、深刻例を含む血清クレアチニン上昇や腎有害事象が見られたこと。全4本の試験が完了すれば、リスクがどの程度なのか判明するだろう。

lesinuradは12年にArdea Biosciencesを12.6億ドルで買収して入手したもの。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

tivozanibの試験がまたフェール

(2013年12月13日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、開発パートナーのアステラス製薬が主導したtivozanibの第二相結腸直腸癌試験が中間解析で無益性認定されたことを明らかにした。oxaliplatinベースの一次治療を受ける患者を組入れてAvastinを併用する標準療法と比較したが、中間解析で治験を続行しても主目的を達成できる可能性は低いと判定された。

tivozanibはVEGF受容体阻害剤で、07年にキリンからアジア以外の権利を取得した。末期腎細胞腫の第三相活性薬対照試験が成功、米国で承認申請されたが、PFS(無増悪生存期間)のp値があまり低くないことや、延命効果が確認されずハザードレシオ自体はむしろ悪かったことから、承認されなかった。アステラスはEUでの承認申請を断念、腎細胞腫における追加試験の費用は負担しないことを決めた。

あと一本、トリプルネガティブ乳癌の第二相が進行中だが、もし成功したとしても、発売は早くて17年、VEGF受容体阻害剤の第一号発売の11年後となり、よほど効果や忍容性が優れていない限り、出番は無いだろう。難しい状態になった。

リンク:アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)

MSDがBACE1阻害剤の第三相を本格化

(2013年12月10日発表)

MSDは、MK-8931(旧SCH 900931)のアルツハイマー病第二/三相試験を続行すると共に、新たに前アルツハイマー病の第三相試験を開始すると発表した。アミロイド・ベータの切り出しに係るベータ・セクレターゼを阻害する小分子薬で、同社が買収したシェリング・プラウとライガンド(Nasdaq:LGND)の共同研究の成果。

BACE阻害剤はイーライリリーやエーザイなど多数の製薬会社が開発しているが、イーライリリーのLY2886721は第二相で肝毒性が示唆され、開発中止となった。クラス・イフェクトではないと考えられているが、BACE阻害剤の前臨床では網膜や神経細胞などに影響する可能性が示唆されているようだ。そのせいか、MSDの第二/三相試験ではデータ安全性監視委員会が200例の中間安全性解析を行い、無事、プロトコル変更なく続行となった。

アミロイド・ベータを阻害する薬は抗体医薬もガンマ・セクレターゼ阻害剤も第三相がフェールした。却って悪化する可能性が浮上したコンパウンドもあるが、アミロイド仮説を支持する研究者たちは発症してから阻害しても遅い、もっと早期段階で治療を開始すべきと主張するようになった。この新仮説を検討するのが前アルツハイマー病の第三相だが、難点は、試験期間中にアルツハイマー病に進行する患者がどの程度いるか、判然としないこと。進行が遅いと治療効果を検出できない可能性があるため、結局、多くの症例を組入れて長期間試験する必要がある。

前例の少ない試験は結果を予測することが難しく、フェールする確率が高まる。前アルツハイマー病試験も二度、三度と実施してノウハウを蓄積する必要がありそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認申請】


スペクトラム、belinostatを米国で承認申請

(2013年12月10日発表)

スペクトラム・ファーマシューティカルズ(NasdaqGS:SPPI)は、トポターゲット(OMX:TOPO)からライセンスしたPXD101(belinostat)を再発性・難治性末梢Tセルリンパ腫に米国で承認申請したと発表した。HDAC阻害剤で、129人を組入れた第二相単群試験ではORR(客観的反応率)が26%だった。

HDAC阻害剤は遺伝子の転写に係るヒストン・ジアセチラーゼを阻害し腫瘍の成長を妨げる。末梢Tセルリンパ腫ではアステラスが創製したIstodax(romidepsin)が09年に米国で承認、現在はセルジーンが販売している。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

経口I型ゴーシェ病治療薬が米国でも承認申請

(2013年12月11日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、Cerdelga(開発名GENZ-112638、eliglustat tartrate)を米国でI型ゴーシェ病の治療薬として承認申請し、FDAに受理されたと発表した。EUでも10月に申請受理されている。

グルコシルセラミド合成酵素阻害剤で、Cerezymeのような酵素補充療法と異なり経口投与できることが特徴。第三相では初治療でも、酵素補充療法を受けている患者がスイッチする用法でも、効果が見られた。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

バクスター、豚由来の第VIII因子を承認申請

(2013年12月10日発表)

バクスターは、遺伝子組換え型ブタ第VIII因子を後天性A型血友病の治療薬として承認申請した。昨年、経営破たんしたInspirationからOBI-1の権利を取得したもので、第二/三相試験が成功している。インヒビターを持つ患者に使われることになりそうだ。

リンク:バクスターのプレスリリース

Aloxiのコンビ薬が承認申請

(2013年12月9日発表)

スイスのHelsinn社とエーザイは、NEPAを化学療法誘導性悪心嘔吐の予防薬として米国で承認申請したと発表した。5-HT3受容体拮抗剤のAloxi(palonosetron)とNK1拮抗剤netupitantを配合したカプセル剤。この二種類はしばしば併用されるので、利便性が増すことになる。エーザイは米国で共同販促する。

リンク:両社のプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


オレキシジェンが体重管理薬の追加データ提出

(2013年12月11日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、体重管理薬Contrave(bupropion徐放性剤とnaltrexone徐放性剤のコンビ薬)の心血管アウトカム試験の中間解析予備的報告書をFDAに追加提出したと発表した。もし安全性が確認されるようならば、来年6月までに承認される可能性がある。米国は武田薬品が販売権を持っていて、オレキシジェンは共同販促するオプションを持っている。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

FDA諮問委員会がBMSのSGLT2阻害剤と脂肪萎縮症治療薬を支持

(2013年12月12日発表)

BMSとアストラゼネカは、FDA諮問委員会がForxiga(dapagliflozin)を支持したと発表した。2年前の諮問委員会では心血管安全性や腫瘍リスクを懸念し反対する委員が多数を占めたが、今回は、便益がリスクを上回る(承認に値する)と答えた委員が14人中13人、心血管安全性に関する合理的な裏付けがあると答えたのが10人と、覆った。承認申請後に完了した試験のデータを追加提出し、症例数が人年ベースで1.5倍に増えたことが寄与したようだ。

EUで2012年に承認されたSGLT2阻害剤が米国でも発売に一歩近づいたことになるが、腫瘍の問題が残っているので、まだ不透明だ。また、承認されたとしても、安全性問題は販売の足枷になる。

二型糖尿病薬は心血管アウトカム試験が義務付けられたが、叩けば埃が出るのが常で、DPP-4阻害剤はアウトカム試験で心不全の懸念が浮上した。心臓疾患のある患者には使うべきではないと主張する医学者もいるようだ。インスリンやSU剤はどうなのかと言いたくなるが、新人が何かと口うるさく言われるのは止むを得ないのかもしれない。

リンク:両社のプレスリリース

BMSとアストラゼネカは代謝学領域で開発販売提携している。BMSが買収したアミリンはアムジェンから遺伝子組換え型レプチンのmetreleptinをライセンス、小児成人の脂肪萎縮症の治療薬として米国で承認申請。諮問委員会で討議され、全身性脂肪萎縮症は12人中11人が支持、部分性脂肪萎縮症を伴う高トリグリセライド血症や糖尿病に関しては10人が反対となった。

脂肪萎縮症は世界で数千人の希少疾患で、糖尿病などの代謝性疾患にも使われるなら市場性が広がるか、失望的な結果になった。metreleptinは日本で塩野義製薬が承認申請、今年3月に承認された。日本の患者は100人。

リンク:両社のプレスリリース

FDA諮問委員会が花粉症経口免疫寛容療法を支持

(2013年12月11日、12日発表)

FDAアレルゲン性製品諮問委員会はStallergenes(Euronext Paris:GENP)が承認申請したOralairとMSDが承認申請したGrastekを検討、何れも承認を支持した。

どちらもアレルギー性鼻結膜炎のアレルゲンを含有する舌下錠で、欧州で販売されている。Grastekはコペンハーゲン証券取引所上場のALK-Abelloから導入したものでチモシー用だが、ブタクサ用が別途承認審査中。Oralairはハルガヤ、カモガヤ、多年生ライ麦、チモシー、ケンタッキー青草の5種類に対応している。効果は穏やかで、抗ヒスタミンに反応しない患者に対する代替的療法というのが私の印象だ。シーズンの4ヶ月前から毎日服用する。

Oralairは11日の委員会に上程され、10~65歳の患者には10人中9人が支持した。5~9歳に関しては症例数が少ないため、5人が賛成、5人が反対と分かれた。Grastekは12日の委員会で討議され、9人全員が5~65歳の患者に承認することを支持した。Grastekは日本でも鳥居薬品が開発中。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

リンク:MSDのプレスリリース

FDA諮問委員会が武田の炎症性腸疾患治療薬を支持

(2013年12月9日発表)

武田薬品は、FDA諮問委員会がEntyvio(vedolizumab)の承認を支持したと発表した。アルファ4ベータ7インテグリンを標的とするヒト化抗体で、リューコサイト社が97年にジェネンテックにライセンス、第二相で良好な結果が出たがライセンス返還となり、その後、リューコサイトがミレニアムと合併、最優先品目ではなくなったが、類薬のTysabriでPML(進行性多巣性白質脳症)の懸念が高まったため、リスクが小さい可能性のある薬として注目されるようになった。武田がミレニアムを買収、承認申請に漕ぎ着けたもの。

適応症は難治性の中重度クローン病と同じく炎症性大腸炎。後者は全諮問委員が支持したが、クローン病は導入試験が一勝一敗だったため、維持療法については大多数が支持したが導入療法は反対が上回った。維持療法は導入療法が奏功した患者に施行するので、導入に使えないなら維持にも使えないはずだが、奇妙な結果になった。

商業的に重要なのはTysabriとの差別化で、第一のポイントは、Tysabriはクローン病でしか承認されていないこと。炎症性大腸炎で支持されたことは価値がある。第二のポイントは、PMLリスク。Tysabriは厳重な誤用防止策が導入されており、もしEntyvioのPML安全性が認定され同様な策が免除されれば、大きなセールスポイントになる。

諮問委員は好意的に評価したが、こういうことは最悪の事態を想定して行うものなので、おそらく、Tysabriと同様なREMS(リスク評価緩和戦略)が課されることになるだろう。REMSの検討は時間が掛かるため、もし課された場合、優先審査対象である炎症性大腸炎での承認審査期限が来年2月18日から延期される可能性もあるだろう。

リンク:武田薬品のプレスリリース(英文)

今週は以上です。

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