2013年10月5日

海外医薬ニュース2013年10月6日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAの承認審査は続く
  • PD-1阻害薬はやっぱり凄い
  • バシリア/アステラスの抗真菌薬第三相試験が成功
  • イーライリリーがramucirumabを承認申請
  • バーテックスがKalydecoの適応拡大申請
  • オレキシジェンが体重管理薬を欧州で承認申請
  • GSK/ジェンマブがアーゼラの一次治療適応拡大をEUで申請
  • ファイザーのSERM・エストロゲン合剤が遂に承認
  • ルンドベック/武田の抗鬱剤が米国で承認
  • 米国でネオアジュバント用薬が初めて正式に承認


【今週の話題】


FDAの承認審査は続く

懸念された通り、米国連邦議会が新年度の予算を成立させなかったために連邦政府の機能がストップした。幸い、国民の生命安全に係る重要機能は維持されている模様で、FDAの承認審査も粛々と進行しているようだ。9月30日にルンドベック/武田の抗鬱剤とロシュの抗癌剤適応拡大が審査期限より早く承認されたのに続いて、10月3日にはファイザーのコンビ薬が承認された。承認審査の費用は半分を業界が負担しているのだから当然と言えば当然だが、事務的な作業が滞ることを恐れていたので一安心だ。

今回のような公務員の休業は、furloughと呼ぶようだ。英和辞書には賜暇と訳されており、国語辞典を引くと官僚が願い出て休暇を取ることと記されている。ちょっと違うような気がするが、日本語の方も古めかしそうなので、今日もし使われていたとしてもサラリーマンの年休と同じ意味で使われるのだろう。

報道によるとFDAの職員14779名のうち45%が休業となり、重大な案件を除いて、食品の安全性監視や施設の査察活動はストップしたようだ。しかし、医薬品の承認審査については、10月1日までにユーザーフィーが支払い済みである限り、新薬(PDUFA)もGE薬(GDUFA)も影響を受けない。諮問委員会も予定通り開催される。但し、予算未決が長期化した場合は影響が出ないとも限らない。

ユーザーフィーが10月1日以前に払われていない場合はNDA(小分子薬の承認申請)もBLA(生物学的製剤の承認申請)も受理されない。また、バイオシミラーの承認審査はストップする。FDAの兄弟組織であるNIHが主導する臨床試験も影響を受けている模様だ。

【新薬開発】


PD-1阻害薬はやっぱり凄い

(2013年9月29日発表)

ロシュは、RG7446/MPDL3280Aの第一相試験のデータを学会発表した。再発性非小細胞性肺癌患者の解析で、薬効評価対象53人のORR(客観的奏効率)は23%だった。best responseベースなので反応が持続しなかった症例も含まれているはずだが、過半がそれまでに3次治療まで受けた患者であることを考えればかなりの好成績だ。24週PFS(無増悪生存期間)率は44.7%。

PD-L1(レガンド)をブロックする抗体医薬なので、BMS/小野薬品やMSDなどが開発しているPD-1(受容体)をブロックする抗体医薬と似ている筈だが、この薬が面白いのはPD-L1陽性癌に対する効果が高そうなことだ。ロシュのIHC(免疫組織染色)法アッセイを用いて発現度合いを低い方から0~3に分類しORRとの関連を調べたところ、IHC3では6例中5例、2~3では13例中6例、1~3では26例中8例となった。また、喫煙経験者は未経験者よりORRが高かった。症例数が少ないので誤差範囲が広いはずだが、それでも、IHC2以上の患者にとっては極めて有望だ。

PD-L1は腫瘍細胞でしばしば高発現する表面分子で、細胞傷害性Tセルの表面分子であるPD-1などと結合して活性を抑制する。RG7446/MPDL3280Aは抗PD-L1ヒト抗体で、固定領域も改変されているようだ。

リンク:ロシュのプレスリリース

バシリア/アステラスの抗真菌薬第三相試験が成功

(2013年9月30日発表)

スイスのバシリア(SIX:BSLN)とアステラス製薬は、BAL8557/ASP9766(isavuconazole)の第三相侵襲性アスペルギルス症試験が成功したと発表した。一次治療薬としての効果をvoriconazoleと比較したところ、42日全死亡率が18.6%対20.2%となり、非劣性であることが確認された。非劣性マージンは10%で高いような気がするが、評価項目が全死亡というハードルの高いものなので、已むを得ないのかもしれない。

全死亡を主評価項目としたのは最近のFDAの考え方に従ったものだろう。伝統的な評価項目の一つである投与終了時総合的有効率でも35.0%対36.4%となり、非劣性だった。

全死亡はintent-to-treat、有効率は確定例/可能例の解析。非劣性試験はper protocol解析が一般的だが、深刻な感染症の場合は原因菌を特定する前に治療を開始するので、per protocolだと症例数が少なくなってしまうのかもしれない。逆に、有効率の判定はアスペルギルス感染ではなかった患者を含めても意味がないので、検査で確定した、あるいは可能例と判定された症例だけを対象としたのだろう。

isavuconazoleは他に二本の試験が進行中で、全て成功したら承認申請に向かう考えだろう。深刻な疾患なので効果が既存薬と大差ないのは残念だが、水溶性で添加物を用いていないため中重度腎障害を持つ患者にも有効・安全である可能性があり、この用途でFDAにファーストトラック指定されている。腎障害患者試験で確認されるならば出番が増えるだろう。

リンク:バシリアのプレスリリース

【承認申請】


イーライリリーがramucirumabを承認申請

(2013年10月3日発表)

イーライリリーは年次IRミーティングでIMC-1121B(ramucirumab)を欧米で承認申請したことを公表した。転移性胃癌で一次治療薬に不応だった患者に単剤投与して全生存期間を偽薬と比較した二重盲検試験、REGARD試験に基づくもの。似たような患者にpaclitaxelと併用した試験も成功したので、状態がそれほど悪くない患者には併用療法が用いられるのではないだろうか。

IMC-1121Bはイムクローン買収で入手した抗VEGFR-2ヒト抗体。作用機序はAvastin(bevacizumab)と似ており、有害事象も高血圧、出血、動脈塞栓などなど、類似している。

リンク:リリーのIRミーティングに関するプレスリリース

リンク:REGARD試験に関するプレスリリース

バーテックスがKalydecoの適応拡大申請

(2013年9月30日発表)

バーテックス(Nasdaq:VRTX)は懐の深い会社で、これまでに多くの開発品がフェールしたが、新興企業としては珍しいほど多くの医薬品を生み出してきた。開発品の豊富さは新興企業の中でダントツだ。最近の成功例が2012年に欧米で承認されたCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)だ。

嚢胞性線維症はCFTR遺伝子の変異によって発生する希少疾患だが、変異には様々なものがある。KalydecoはCFTRが細胞表面に移行した後に十分機能せず塩イオンなどが細胞に出入りすることができなくなる、ゲーティング変異の代表である、G551D変異型の患者に承認されている。今回は、それ以外のゲーティング変異に米国で適応拡大申請された。6歳以上を対象とした試験でFEV1が14%改善した。現在の対象患者数は世界で2000人、非G551Dゲーティング変異型は400人と推定されている。

リンク:バーテックスのプレスリリース

オレキシジェンが体重管理薬を欧州で承認申請

(2013年10月3日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、Contrave(bupropionとnaltrexoneのコンビ薬)をEUに体重管理薬として承認申請したと発表した。心血管疾患リスクに関する懸念から米国では承認されなかったが、大規模アウトカム試験の中間解析が年内に判明する見込みなので、このデータを追加提出することでEMA欧州薬品庁の同意を得ている。良好なら米国でも承認の可能性が出てくるので重要だ。

ContraveはGSKが抗鬱剤/禁煙補助薬として開発したノルエピネフィリン/ドーパミン再取込阻害剤のbupropionと、naltrexoneの体重減少副作用を逆手に取ったコンビ薬。特許の切れた薬同士の配合剤はGE薬の併用が最大のライバルになるが、Contraveは両方の成分の持続放出性製剤を配合しているので、bupropion持続放出性GE薬とnaltrexoneを併用しても効果や安全性が同じとは限らない。尤も、違うとも限らない。

北米メキシコでは武田が販売する(オレキシジェンは共同販促オプションを持っている)。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

GSK/ジェンマブがアーゼラの一次治療適応拡大をEUで申請

(2013年10月4日発表)

ジェンマブ(OMX:GEN)とグラクソ・スミスクラインは、慢性リンパ性白血病の二次、三次治療薬Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)を一次治療に用いる適応拡大申請を行ったと発表した。第三相試験では、fludarabineに不適な患者にchlorambucilと併用したところ、メジアンPFS(無増悪生存期間)が22.4ヶ月とchlorambucilだけの13.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.57、pは0.001を下回った。

ArzerraはロシュのRituxan(rituximab)と同様な、BセルなどのCD20表面分子に結合する抗体医薬だが、トランスジェニックマウスにヒト抗体を発現させたヒト化抗体(Rituxanはキメラ抗体)であることが異なり、また、結合するエピトープも異なる。用途が重なっているので直接比較試験で雌雄を明確にすることが望まれる。

リンク:ジェンマブ/GSKのプレスリリース

【承認】


ファイザーのSERM・エストロゲン合剤が遂に承認

(2013年10月3日発表)

エストロゲン補充療法のトップメーカーであるワイス(後にファイザーが買収)はライガンド(Nasdaq:LGND)からSERM(選択的エストロゲン受容体調節剤)のbazedoxifeneをライセンスして、単剤と結合エストロゲン合剤の二種類の製品を開発、欧米で承認申請した。単剤は閉経後骨粗鬆症治療薬としてEUではConbriza、日本ではビビアントという製品名で承認されたが、米国では脳梗塞や静脈血栓塞栓に関する懸念から承認されなかった。

合剤は2012年に欧米で承認申請され、今回、米国でDuavee名で承認された。更年期症状の一つである紅潮の治療、または、閉経後骨粗鬆症の予防に用いる。後者の用途は重大な骨粗鬆症リスクを持つ患者に限定され、治療を決定する前に、エストロゲンを用いない代替的な治療法の採用を十分に検討する。治療は可能な限り短期間で終わらせる。

ファイザー自身もライガンドから別のコンパウンドをライセンス、EUで閉経後骨粗鬆症治療薬Fablyn(lasofoxifene)として承認されたが、発売したという話は聞かない。SERMは当初考えられていたほど安全な薬ではないことが分かり、閉経後骨粗鬆症という病気も、単に骨塩密度が高いというだけのことで薬を飲まなければならないのか、薬物療法の是非が改めて見直されている。椎骨損壊があったり、家族が骨粗鬆症性骨折を経験していたりして、臨床的に重要な骨折のリスクが高いと推定される患者に限定する方向である。

エストロゲンはWomen's Health Studyで骨粗鬆症性骨折のリスクが低下する一方で、脳梗塞や静脈血栓塞栓のリスクが高まることが判明。エストロゲン製剤がアンチ・エイジング薬と見做され大人気だった米国でも、トップブランドであるワイスのPremarin(和名プリマリン)の売上高が半減した。Duaveeも大きな期待はできないだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

ルンドベック/武田の抗鬱剤が米国で承認

(2013年9月30日発表)

FDAは、ルンドベックと武田薬品のBrintellix(vortioxetine)を大鬱病の治療薬として承認したと発表した。様々な神経伝達物質の再取込を阻害するとともに-5HT1Aを作動、5-HT3を阻害する、特徴的な作用を持ち、様々な酵素で代謝されるため薬物相互作用が小さい。抗鬱剤はSSRIもSNRIも安価なGE薬が販売されており、Brintellixはこれらの薬に反応しない患者の代替的な選択肢になりそうだ。

大鬱病(major depression)は、要するに鬱病という意味である。この単語が広く使われるようになったのは、丁度、GSKが鬱病は心の風邪、一人で悩まずに医師に相談しようというTVコマーシャルを米国で流し始めた時期だ。一部の専門医が症状の軽い患者を鬱病に仕立て上げて儲けようという製薬会社の陰謀と決めつけ、批判した。私は、鬱病でない患者が誤診されるリスクよりも鬱病の患者が治療を受けるメリットの方が大きいと思うが、当時は大衆向け直接広告が急増した時期だったので、様々な批判が出たのである。

おそらく、メランコリックなだけで鬱病ではない患者を対象にした話ではないことを明確にするために、製薬会社も大鬱病という用語を使うようになったのだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ルンドベックと武田のリリース(10/1付)

米国でネオアジュバント用薬が初めて正式に承認

(2013年9月30日発表)

FDAは、Perjeta(pertuzumab)を乳癌のネオアジュバント療法に用いることを承認した。乳癌用薬の需要で一番大きいのはアジュバント療法、即ち、治癒目的の切除術を施行した後に再発防止のために投与する用途である。ネオアジュバントは切除前に薬物療法を行うもので、こちらも再発リスクが高い患者に行う。早期乳癌の40%程度が適応になる模様だ。

具体的には、腫瘍最大径が2cm超、局所進行性、炎症性乳癌など。全摘が適当だが患者が乳房温存術を望んでいる場合も、ネオアジュバントを施行して奏効したら温存術に切り替えるという方法が取られる。広く採用されているが、薬が正式に承認されたのは今回が初。

Perjetaは癌細胞の成長因子受容体her2がher3などと共役するのをブロックする抗体医薬なので、her2陽性乳癌にHerceptin(和名ハーセプチン)などと併用する。アンスラサイクリン系の抗癌剤と併用する場合の安全性は確立していない。

HerceptinもPerjetaも心毒性の懸念があり、累積投与量が閾値を超えるとリスクが高まるアンスラサイクリンと三剤併用するのは、末期癌なら兎も角、完治の可能性のある患者には不適切かもしれない。Perjetaはアジュバント試験が行われているので、やがて答えが出るだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース(10/1付)

今週は以上です。

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