2013年10月27日

海外医薬ニュース2013年10月27日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDA:オサイリスの細胞性医薬品は治験申請/販売承認が必要
  • エーザイの抗癲癇薬はスケジュールIIIに
  • メディベーション/アステラスの適応拡大試験が成功
  • ガーダシルの後継ワクチンの開発が成功
  • MK-0859は何年もの間、体内に留まる
  • キュービストが皮膚感染症治療薬を米国で承認申請
  • GSKが喘息症用薬とHIV/AIDSコンビ薬を承認申請
  • FDA諮問委員会がギリアッドの新規作用機序抗HCV薬を支持
  • FDA諮問委員会がソブリアードも支持
  • EUの委員会がルンドベック/武田やアクテリオンの新薬を支持
  • EUで肝静脈閉塞症治療薬が承認
  • 米国でアクテムラの皮注用製剤が承認


【今週の話題】


FDA:オサイリスの細胞性医薬品は治験申請/販売承認が必要

(2013年10月22日公表)

米国のオサイリス・セラピュティクス(Nasdaq:OSIR)は細胞性医薬品事業をオーストラリアのメソブラスト(ASX:MSB)に売却することを決めたが、その直前に、FDAが重要な通知を行っていたことが判明した。同社が販売しているGrafixやOvationに関して、天然細胞製品とは認められないので治験申請または生物学的製剤申請を行うよう求めたもの。追加的な開発費負担が発生したことが事業売却の背景の一つだったのではないか。

このリスクは同社のSEC提出資料、フォーム10-Kにも記されていた。ヒトから採取した細胞や組織、そしてこれらを製品化したものは、一定の条件を満たす限り、医薬品としての規制が免除される。同社はヒト間葉系幹細胞性製品であるGrafixなど三製品を規制対象外として2010年以降、順次発売。2013年上半期の売上高は合計930万ドル、前年同期の3倍以上に増加した。2013年8月18日号で書いたように、Grafixは糖尿病性潰瘍治療試験が成功、市場拡大が期待されていた。

ところが、FDAが10月22日に公表したUntitled Letter(題名のない書簡)によると、5月から6月にかけて実施した立ち入り調査でこれらの製品が規制免除の要件を満たしていないことが判明。オサイリスに対して、治験許可申請を行って臨床試験を目的として製品供給する、または、生物学的製剤として販売許可を取得することを求めた。

今後の対応はメソブラストが選択することになるのだろう。書簡送付は9月で、事業売却が発表された10月7日より前なので、メソブラストは知っている筈だ。幸い、Grafixは臨床試験が成功したと報告されているので販売承認取得の目途が立っている筈だが、医薬品は薬効や安全性、品質のハードルが高いので、承認申請の準備に費用や時間が掛かりそうだ。

リンク:FDAのUntitled Letter

エーザイの抗癲癇薬はスケジュールIIIに

(2013年10月22日発表)

エーザイの抗癲癇薬Fycompa(perampanel)は米国で2012年10月に承認された。1年を経てやっと麻薬取締局(DEA)がスケジューリングを決定したので、意見公募期間を経て11月にも発売可能になりそうだ。

米国では、薬物依存のリスクを持つ医物質は麻薬取締局(DEA)が依存性の高さに応じてIからVまでのカテゴリーに分類し、夫々のカテゴリーに応じた生産、処方、流通規制を課す。Iが最も厳しい規制を受ける。新薬の場合、FDAが必要に応じて開発者に依存性試験の実施を求め、その結果などに基づいてカテゴリー分けして、販売承認後にDEAに連絡、DEAが最終決定する。ところが、近年はDEAのカテゴリー分け(『スケジューリング』)手続きが長期化しており、有効な新薬を逸早く医療現場に届けることができなくなった。

新薬は承認から5年間、市場を独占する排他権が与えられ、その間はGE品が承認されないが、スケジューリングが遅れると排他権を享受できる期間が減少し、投資採算が悪化してしまう。対策として、エーザイはコロンビア特別区巡回控訴裁判所に職務執行令状を出してDEAに早く結論を出すよう命ずることを請願した。同時に、FDAに対して、独占権の発効時期を承認時ではなく、DEAがスケジューリングを決定し医薬品添付文書の内容が確定した時期に変更するよう請願した。

前者は控訴裁判所が10月22日付で却下した。職務執行令状という例外的な救済手段が必要であることが十分に立証されていない、と判断した。エーザイ、そして他の医薬品開発企業にとって残念な判決だが、Fycompaだけに関していえば、影響は小さい。同じ10月22日付の官報(Federal Register)で、スケジュールIIIに分類する予定であることをDEAが公表したからである。11月21日まで意見を受け付け、その後、最終決定する。

抗癲癇薬では、ファイザーのLyrica(pregabalin)、UCBのVimpat(lacosamide)がスケジュールV、ヴァレアントのPotiga(ezogabine/USAN)はIV。IIIはモルヒネ系の一部や、ジャズ・ファーマシューティカルズのナルコレプシー治療薬、Xyrem(sodium oxybate)と同じ。意外に厳しい評価で販売面では不利だが、主として難治性の癲癇患者に使われるだろうから、大きなハンデにはならないだろう。

新薬排他権起算日問題は未決定。レーベルは頻繁に見直され、メーカーの都合による改定もあるのでレーベル確定を起算日とすることにはテクニカルな問題がありそうだ。しかし、エーザイの主張にも一理あるので、FDAが再考する可能性は十分にあるだろう。何れにせよ、結論が出るまで時間が掛かりそうだ。

リンク:Federal Register(2013年10月22日付)の当該箇所(pdfファイル)

【新薬開発】


メディベーション/アステラスの適応拡大試験が成功

(2013年10月22日発表)

Xtandi(enzalutamide)をアステラス製薬と共同開発しているメディベーション(Nasdaq:MDVN)は、化学療法未経験の去勢抵抗性転移性前立腺癌患者を対象とした適応拡大試験が中間解析で成功したと発表した。全生存のハザードレシオは0.7、pは0.0001未満、メジアン生存期間は32.4ヶ月で偽薬群の30.2ヶ月を上回った。

共同主評価項目であるCT画像などに基づくPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.19、pは0.0001未満となり成功。独立データ安全性評価委員会は、治験を完了して偽薬群の患者がXtandiによる治療を受けられるようにすることを勧告した。

前立腺癌の治療法は、切除、放射線療法、ホルモン療法など。ホルモン療法(薬物去勢療法とも呼ばれる)によってアンドロゲンをブロックすれば進行を抑制することができるが、やがて、PSA値が再上昇し始めると去勢抵抗性前立腺癌と分類される。

前立腺癌は緩徐なのでその後の治療方針は国や医療施設、あるいは患者の年齢などによって異なるが、転移したり、癌の進行に伴う症状が出始めると、化学療法の可否を検討することになる。今回の治験はこの段階の患者を対象に日本を含む世界の医療施設で行われた。

Xtandiは経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤で、2012年に米国で、翌年には欧州でも承認され、日本でも承認審査中。現在の用途は化学療法を受けて再発した/不応だった患者だが、今回の用途が承認されれば、もっと早い段階で使えるようになる。

作用機序的にはホルモン療法の一つなので、将来はbicalutamideなどの代わりに、更に早い段階で用いられる可能性もある。bicalutamideはアンタゴニストではなくアゴニストとして作用してしまう可能性が指摘されており、直接比較試験をやれば勝てるかもしれない。市場性はこの用途が一番大きいので、挑戦する価値がある。

この活性成分は、Michael JungとCharles SawyersがUCLA時代に発見したもの。第二世代品がARN-509で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが今年6月に関連資産を6.5億ドル+達成報奨金3.5億ドルで買収、今月、第三相試験を開始した。

抗癌剤の偽薬対照単剤投与試験は倫理的な問題を孕んでおり、例えば今回の試験は、Zytiga(abiraterone acetate)が承認された後だったら不可能だっただろう。偽薬群の患者がenalutamideまたはZytigaで治療できるようになったことは、その意味で、好ましい結果だ。ARN-509の試験は転移前の患者を対象にすることでこの問題をクリアした。

リンク:両社のプレスリリース

ガーダシルの後継ワクチンの開発が成功

(2013年10月24日発表)

MSDは、V503の第三相試験が成功し年内に承認申請する計画であることを明らかにした。米国のワクチン・プログラムを検討する委員会、ACIPで報告するとともに、プレスリリースを出した。

V509は同社の子宮頸癌予防用ワクチン、Gardasil(和名ガーダシル)の後継品で、6型、11型、16型、18型に加えて、新たに31型、33型、45型、52型、58型のウイルス抗原を加えた9価HPVワクチン。子宮頸癌の原因になりうるウイルスの87%をカバーしている。データは今後、発表されるが、カバレッジが広い分、子宮頸癌予防効果も高いだろう。

尤も添付文書に記載されている子宮頸癌予防効果(『ワクチン効率』)は配合されている型のウイルスによる子宮頸癌/前癌性病変だけを評価したものなので、カバレッジが広くもっと多くの子宮頸癌を予防できるとしても、添付文書上の予防効果は大して変わらないかもしれない。奇妙な話だが、専門家の真実と私たち一般人の真実は必ずしも同じではないのだ。

GardasilやGSKのワクチンの弱点は、既に感染している人に対する子宮頸癌予防効果が弱いこと。このため、性的感染していない可能性が高い、9~10歳の接種が望ましい。それ以外の年齢でも適応にはなるが、保険還元の対象になる年齢層は国によって区々だ。

リンク:MSDのプレスリリース

MK-0859は何年もの間、体内に留まる

(2013年10月4日発表)

MSDが第三相試験を実施しているCETP阻害剤、MK-0859(anacetrapib)は、服用を止めても消失するまで何年も掛かることが判明した。流石に活性は低下するようだが、副作用リスクも低下するのか、長期的な暴露による弊害が発生しないかどうか、進行中のアウトカム試験が完了したらデータを十分に検討する必要がありそうだ。

この問題は、Gotto等の論文原稿がAmerican Journal of Cardiology誌に受理され、ホームページに掲載されたことによって表面化した。臨床開発の早い段階で半減期の長さが明らかになったため、18ヶ月間投与するDEFINE試験に参加した患者を対象に、投薬完了後のHDL-C値やLDL-C値の推移と薬剤の残存状況を追跡調査した。その結果、完了後12週間経っても血漿濃度が投与中の定常状態のトラフ(谷)値の4割程度にしか下がらず、LDL-C値やHDL-C値も治療開始前の水準に戻らなかった。

それどころか、2~4年経っても少量が残り、効果も消えないことが判明した。

慢性疾患の薬物療法は薬を飲み続けないといけないのが難だが、悪いことばかりではない。遺伝子療法やiPS療法は、副作用など不都合な事態が生じた時でもスイッチをオフにすることができないが、薬は投与を止めればオフにできる。しかし、MK-0859のように薬物や作用が何年も続く薬は、副作用を止めることができないかもしれない。

MK-0859はHDL-Cを倍以上に増やし、LDL-Cを4割程度減らす効果を持つため、心筋梗塞予防効果を検討する大規模アウトカム試験が進行中で、2017年頃に結果が出る見込み。メジアン4年追跡するので、累積投与量相関的な副作用が発生しないかどうか、ある程度の結論を出すことができるだろう。

リンク:Gotto等(The American Journal of Cardiology誌)

【承認申請】


キュービストが皮膚感染症治療薬を米国で承認申請

(2013年10月22日発表)

マサチューセッツ州の新興製薬会社であるキュービスト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:CBST)は、TR-701(tedizolid phosphate)を急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症の治療薬として米国で承認申請したと発表した。MRSAを含むグラム陽性菌に有効な、第二世代oxazolidinoneで、静注用と経口剤が用意されている。同社が今年9月にTrius Therapeuticsを買収して入手したもので、北米や欧州以外ではバイエルが開発販売する。

リンク:キュービストのプレスリリース

GSKが喘息症用薬とHIV/AIDSコンビ薬を承認申請

(2013年10月22~25日発表)

GSKは、fluticasone furoateの吸入用製剤を喘息症維持療法薬として米国で承認申請した。Breo(fluticasone furoateとvilanterolの合剤)の活性成分の一つだが、FDAは長期作用性ベータ2作用剤を喘息症に用いることに懐疑的でCOPD向けにしか承認されていないので、単剤だけでも承認を取っておくことが重要だ。ベストセラー製品であるAdvairやFluventに配合されているfluticasone propionateの新しい塩で、一日一回の吸入で足りることが特徴。

GSKは、HIV/AIDS治療用のトリプルコンビ薬を欧米で承認申請したことも発表した。塩野義製薬が創製しファイザーを含む三社の合弁会社であるViiVヘルスケアが販売しているインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤、Tivacay(dolutegravir)の活性成分と、GSKが開発した核酸系逆転写阻害剤、abacavirとlamivudineを配合しており、一日一回の服用で足りるためピル・バーデンが緩和する。

ギリアッドが販売しているStribild(和名スタリビルド)と比べると、インテグラーゼ阻害剤はdolutegravirの方がIsentress(和名アイセントレス)抵抗性ウイルスの多くに活性を維持している点で優れ、プロテアーゼ阻害剤でブーストしていない点も同時服用薬との相互作用に悩まなくてよいので好ましい。しかし、abacavirはある種の遺伝子多型を持つ患者は副作用が発生しやすく、Stribildのtenofovir disoproxil fumarateの方が第一選択薬に適している。このため、総合的にはStribildに見劣りする。

リンク:fluticasone furoateのプレスリリース(10/23付)

リンク:トリプルコンビ薬米国申請のリリース(10/22付)

リンク:同、欧州申請のリリース(10/25付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がギリアッドの新規作用機序抗HCV薬を支持

(2013年10月25日発表)

FDAの抗ウイルス薬諮問委員会が、ギリアッド(Nasdaq:GILD)のGS-7977(sofosbuvir)を慢性C型肝炎の治療薬として承認することを全員一致で支持した。ウイルスの遺伝子に組み込まれている、NS5Bポリメラーゼという増殖に必要な酵素を阻害する経口剤で、承認されればクラス初。プロテアーゼ阻害剤と異なり、遺伝子型I型に加えてII型、III型、IV型などにも有効で、II型やIII型を治療する場合は、ribavirinと二剤併用で足りるのでインターフェロン不耐患者にも適している。

I型やIV型は、少なくとも現時点ではインターフェロンやribavirinと三剤併用する必要があるが、全体の治療期間は12週間で足りるので、副作用に苦しむ期間を短縮し、インターフェロンやribavirinの薬剤費を減らすこともできる。将来的にはプロテアーゼ阻害剤やNS5A複製複合体阻害剤と組み合わせて、I型でもインターフェロン抜きで治療することが可能になるだろう。

2011年にファーマセットを110億ドルで買収して入手したパイプライン。高い買い物だったが、競合他社のセットバックによって、投資回収の道筋が開けてきた。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

FDA諮問委員会がソブリアードも支持

(2013年10月24日発表)

FDA抗ウイルス薬諮問委員会は、Sovriad(simeprevir、和名ソブリアード)の承認も全員一致で支持した。慢性C型肝炎の治療に用いるNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤で、ジョンソン・エンド・ジョンソンがメディビアから共同開発独占販売権を得て開発、承認申請したもの。日本では先月、承認された。

Incivek(telaprevir、和名テラビック)などとの違いは、一日一回服用で足りること。臨床試験データ上では効果も高そうだが、直接比較試験ではないので明確ではない。慢性C型肝炎の奏効率はウイルス量や人種、合併症の進行度合いなどによって異なるので、患者背景が異なると奏効率も変わる可能性がある。

NS3プロテアーゼにQ80K置換のあるウイルスには効果が弱い。米国の場合、Ia型ウイルスの半分近くがこの遺伝子多型を持っているため、事前に検査を行って、もし該当する場合は他の薬を選ぶことになりそうだ。一部の諮問委員は禁忌にすべきと主張した模様。また、アフリカ系や東アジア系の患者における奏効率が見劣りした模様。有害事象はラッシュや光過敏などで、忍容性はそれほど悪くなさそうだ。

リンク:JNJのプレスリリース

EUの委員会がルンドベック/武田やアクテリオンの新薬を支持

(2013年10月25日発表)

EMA(欧州薬品庁)の医薬品科学的評価委員会であるCHMPが10月の会議でルンドベック/武田の新規抗鬱剤とアクテリオンの新規肺高血圧症治療薬の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

ルンドベック/武田薬品のBrintellix(vortioxetine)は、成人大鬱病の治療薬として承認申請された。セロトニンなどの神経伝達物質の作用を阻害/増強する経口剤。鬱病はSSRIなど既存の薬が有効で、第二選択薬が奏功するケースも含めて過半の患者が改善するが、難治性の患者には有望な選択肢になるだろう。主な有害事象は悪心。米国では9月に承認された。

リンク:両社のプレスリリース

スイスのアクテリオンが承認申請したOpsumit(macitentan)は経口エンドテリンA/B受容体拮抗剤で、II型とIII型の肺高血圧症の治療に用いる。希少疾患としては大規模なアウトカム試験が行われ、6分歩行距離を3%程度改善する効果等が認められた。主な有害事象は貧血や鼻咽頭炎など。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

適応拡大では、TNF阻害剤のCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)を乾癬性関節炎に用いることが支持された。一方、アムジェンのXgeva(denosumab、和名ランマーク)を非転移性去勢抵抗性前立腺癌の骨転移予防に用いることは支持されなかった。2年超の期間に骨に転移する患者が52%から47%に、5ポイント程度減る程度の効果しかなく、副作用リスクを正当化できないと判断した。この用途はFDAも同様な理由で承認しなかった。

Xgevaは画期的な作用機序を持つため顎骨壊死症のリスクが小さいことが期待されたが、この用途では高量を投与するせいか15人に一人の割合で発生した。

リンク:CHMPのXgeva適応拡大に関するコメント(pdfファイル)

【承認】


EUで肝静脈閉塞症治療薬が承認

(2013年10月22日発表)

イタリアのGentium(Nasdaq:GENT)は、Defitelio(defibrotide)がEUで承認されたと発表した。造血幹細胞移植の前段階として化学療法を施行すると重度VOD(肝静脈閉塞症)が発生するリスクがあるが、この治療に用いる。Defitelioはブタ粘膜DNA由来の一本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチド。あまりキチンとした試験は行われていないが、米国の患者登録データにより移植後の生存率を向上する効果が示唆されたため、例外的条項に基づいて承認された。

リンク:Gentiumのプレスリリース(pdfファイル)

米国でアクテムラの皮注用製剤が承認

(2013年10月22日発表)

ロシュは、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)の皮注用製剤が米国で承認されたと発表した。既存の静注用製剤は患者の体重1kg当り8mgを4週間に一回投与するが、皮注用は体重に係らず162mgを週一回、自己注する。日本では今年3月に承認。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年10月20日

海外医薬ニュース2013年10月20日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意
  • サビエントが会社更生手続きを申請
  • 抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功
  • ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請
  • JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請
  • FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず
  • アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認
  • ノボの第8因子が米国で承認
  • ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認
  • Iclusigの適応拡大試験が中止に



【今週の話題】


肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意

(2013年10月8日、11日発表)

テキサスのUSP Labs LLCがOxyElite ProあるいはVERSA-1名で販売していたサプリメントで、多くの急性肝障害が発生していることが判明した。FDAは、CDC(疾病管理予防センター)やハワイ健康省と共同で原因を探求すると共に、これらの製品にaegelineという安全性が確立していない物質が配合されているためメーカーに警告状を送付、USPは販売を中止した。

FDAによると、ハワイで29例の原因不明な急性非ウイルス性肝炎が発生、うち11例は激性肝炎入院例で、2例は肝移植を受け1例は死亡した。29例中24例は過去60日間にOxyElite Proを服用していた。同製品はネットや小売店を通じて全国販売されているため、FDAが他州のデータを調査したところ、同製品や他の体重管理または筋肉増強サプリメントを服用した後に原因不明激性肝炎を発症した4例が見つかった。

aegelineはベルノキというミカン科の植物から抽出された物質で、USPがスポーツ・フォーミュラとして製品化した。同社は以前にもDMAA配合サプリメントでFDAから製品廃棄命令を受けている。日本でも中国で購入されたダイエット用サプリメントで急性肝障害が発生したことがある。

医薬品やハーブが原因で肝障害が発生しうることは広く知られているが、メカニズムは明確ではない。因果関係を立証するのも容易ではなく、今回も、aegelineが原因と断定されたわけではなさそうだ。だからと言って、安閑とする訳にもいかない。美白化粧品の事件にも言えることだが、不確かなものには手を出さないのが生きる知恵だ。

aegelineは N-[2-hydroxy-2(4-methoxyphenyl) ethyl]-3-phenyl-2-propenamideと呼ばれることもあるようだ。ベルノキ(Aegle marmelos)は、Wikipediaによると、Bael、Bengal quince、golden apple、stone apple、wood apple、biliなどと呼ばれることもある。海外から輸入されたサプリメントを服用している人は、aegelineが含有されていないかチェックした方が良いだろう。

リンク:FDAの安全性注意喚起

リンク:同 続報

リンク:DMAAに対するFDAの対処(2013年7月16日付)

リンク:Aegelineの紹介(SYNMR BIOTECHNOLOGYのウェブサイト)

リンク:ベルノキの紹介(日本新薬のウェブサイト・・・本事件とは全く関係ありません)

サビエントが会社更生手続きを申請

(2013年10月14日発表)

カナダのサビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SVNT)は、米国デラウェア州の破産裁判所にチャプター11の適用を申請した。同社は2010年に遺伝子組換え型ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)が重度難治性痛風の治療薬として米国で承認され、翌年に発売したが、売れなかったようだ。チャプター11が適用され会社更生手続きが認められたら、資産と負債の一部をUS WorldMeds社とその子会社に5500万ドルで売却することで合意している。

US WorldMedsはケンタッキー州の特化型医薬品メーカーで、主力製品はB型ボツリヌス毒素、Myobloc/Neurobloc。アイルランドのエランが開発、2004年に権利をUS WorldMedsの子会社であるSolstice Neurosciencesに売却したもの。日本でもエーザイが今年3月に痙性斜頸治療薬ナーブロックとして発売した。

リンク:サビエントのSEC提出資料

【新薬開発】


抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功

(2013年10月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーであるサノフィは、REGN727/SAR236553(alirocumab)の最初の第三相高脂血症治療試験が成功したと発表した。LDL-C治療薬のように効果を簡単に測定できる薬は後期第二相試験を見れば効くかどうか見当が付く。従って、第三相試験の注目点は効果の持続性と安全性だ。大きな問題はなかったようだが、100例程度の小規模な試験なので、まだ油断はできないだろう。

alirocumabは、肝臓のLDL受容体の零落を誘導するPCSK9に結合しブロックするフルヒト化抗体。アムジェンなど、開発競争が激化している分野で、第三相試験の結果が出たのは今回が初めて。高脂血症患者に二週間に一回の頻度で自己皮注させ、24週間後のLDL-C値をezetimibe(和名ゼチーア)を一日一回経口服用した群と比較した。用量は75mgで開始し、70mg/dL未満に下がらない患者は150mgに増量した。結果は、47%減少しezetimibe群の15%より有意に大きかった。過半の患者は増量の必要が無かった。

この試験のデザインは違和感がある。70mg/dL未満に下げる必要があるのは心血管疾患のリスクが高い患者だ。もし高リスク患者なら、倫理面の理由で、対照群はezetimibeではなく効果が高いatorvastatinやrosuvastatinによる治療を受けるべきだっただろう。もし高リスクでないならこんなに下げる必要はなかっただろう。尤も、今回の試験は様々な第三相試験の一つに過ぎない。この薬の本命の用途である、高用量スタチンを服用しても尚、LDL-C目標値に到達しない高リスク患者に追加投与して、心血管疾患の発生を予防する試験も行われる筈である。

安全性面では感染症が若干増えた程度で大きな問題はなかったようだ。ezetimebe群も偽薬を自己皮注したが、注射箇所反応の発生率は両群大差なかった。ezetimibeはスタチンと比べても安全性が高いので、互角だったことはポジティブだ。尤も、過去の試験では肝機能検査値異常やラッシュ、白血球破砕性血管炎が発生したこともあるので、高用量スタチン併用時の安全性をもっと大規模、長期の試験で確認することが肝要だろう。

リンク:両社のプレスリリース

【承認申請】


ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請

(2013年10月14日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、BIBF 1120(nintedanib)を腺腫非小細胞性肺癌に二次治療薬としてEUに承認申請したと発表した。トリプル・アンギオキナーゼ・インヒビターで、Sutent(sunitinib、和名スーテント)などのVEGF受容体阻害剤と同様に、VEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する。

第三相試験ではdocetaxelによる治療を受ける扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌患者に200mgを一日二回、経口投与し、PFS(無増悪生存期間)を偽薬群と比較した。結果は、メジアン3.4ヶ月対2.7ヶ月、ハザードレシオ0.79で有意な差があったが、二次的評価項目である全生存の解析はフェールした。

比較的成績が良かったのは被験者の約半数を占めた腺腫で、PFSが4.0ヶ月対2.8ヶ月、ハザードレシオ0.77、p=0.0193、全生存期間が12.6ヶ月対10.3ヶ月、ハザードレシオ0.83、p=0.0359だった。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、肝機能検査値異常。

扁平上皮非小細胞性肺癌だけを組入れたAlimta(pemetrexed、和名アリムタ・・・扁平上皮非小細胞性肺癌に承認されている)併用第三相試験は中間解析で無益性が認定され打ち切られた。このタイプの癌は他のVEGF受容体阻害剤もAvastinも無効または深刻な有害事象が増加し危険だったので意外感はないが、成功した試験が一本だけでp値があまり低くなく、延命効果のエビデンスがサブグループ分析だけであることは残念だ。FDAと異なりEUはサブグループ分析を受け入れる傾向があるので、それが頼りだろう。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

リンク:ASCO2013の抄録

JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請

(2013年10月15日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、HIV/AIDS治療用プロテアーゼ阻害剤のPrezista(darunavir)とギリアッドが開発した3A4阻害剤cobicistatの合剤をEUに承認申請したと発表した。

プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低く、服用頻度が多くなりがちだが、3A4肝臓酵素で代謝される薬は3A4阻害作用を持つプロテアーゼ阻害剤ritonavirを少量併用すると一日一回服用で足りるようになることが判明、ritonavir-boosted regimenとして広く用いられるようになった。ritonavirを開発したアボット(現アッヴィ)が自社のプロテアーゼ阻害剤lopinavirと合剤にして発売したKaletra(和名カレトラ)は成功した。JNJの合剤は、第二のKaletraを目指すことになる。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず

(2013年10月16日発表)

FDAの内分泌学代謝学薬諮問委員会は、アマリン(Nasdaq:AMRN)が申請したVascepa(icosapent)の適応拡大に関して11人中9人が反対、賛成は2人だけだった。

このEPA製剤は重度トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として2012年に承認された。今回の適応拡大はTG値が200~500mg/dLで心血管疾患のリスクが高くスタチンを服用している患者に併用して予防するというもの。日本で行われたJELIS試験を連想させる。しかし、FDAも諮問委員会も、EPAでトリグリセライドを減らす治療が心血管疾患を予防するというエビデンスは明確ではない、と判定した。

TG値が500mg/dL以上の患者は米国に400万人、今回の適応拡大が認められれば対象患者数が10倍に増えるはずだったが、REDUCE-ITという名称のアウトカム試験の結果が2016年に出るまで、お預けとなった。競合品であるGSKのEPA/DHA製剤であるLovaza(和名ロトリガ)のGE品発売時期が迫っており、アマリンには大変残念な結果になった。

リンク:アマリンのプレスリリース

【承認】


アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認

(2013年10月18日発表)

スイスのアクテリオン(SIX:ATLN)は、FDAがエンドテリンA/B受容体拮抗剤Opsumit(macitentan)を肺動脈高血圧症の治療薬として承認したと発表した。同社のTracleer(bosentan)との違いは、一日二回ではなく一回の服用で足りること、肝毒性が若干低いこと、そして、大規模な試験で運動機能や症状悪化を遅らせる効果が確認されていること。

最初の二点はギリアッドのLetairis(ambrisentan)にも当て嵌まるが、Tracleerの先発の利を覆すことはできなかった。多少問題があっても、長年用いた薬をスイッチすることには抵抗があるからだ。また、TracleerもLetairisも運動機能改善効果自体は確認されている。Tracleerは希少疾患用薬排他権の失効を控えているのでアクテリオンはOpsumitの販促に力を入れるだろうが、Letairisと同じ障壁に直面しそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アクテリオンのプレスリリース

ノボの第8因子が米国で承認

(2013年10月16日発表)

ノボ ノルディスクは、NovoEight(turoctocog alfa)がA型血友病用薬として米国で承認されたと発表した。他社の特許を侵害する模様であり、発売は失効後の2015年4月になる。第VIII因子はバクスターやバイエル、ファイザーなどが販売、バイオジェン・アイデックも開発中。バイオ・ミー・ツー(me, too)と呼ぶことも、バイオシミラーと呼ぶこともできそうだ。バイオシミラーは参入障壁が高く価格も一般のGE薬より遥かに高いだろうから、特許性新薬会社にとって、付加価値は小さくとも開発リスクの小さい有力な事業領域になるだろう。

リンク:ノボのプレスリリース

ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認

(2013年10月18日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Striverdi Respimat(olodaterol、ソフト・ミスト吸入器用)が英国、デンマーク、アイスランドでCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。速効、長期作用性のベータ2作用剤で、一日一回、二度吸入する。なぜEMAの中央化手続き(実質的に、加盟国全てで承認を取れる)ではなく非中央化手続きを取ったのか、なぜ報告国(承認審査を分担)であるオランダでは未承認なのかは、不明。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


Iclusigの適応拡大試験が中止に

(2013年10月18日発表)

先週報告したように、アリアド(Nasdaq:ARIA)の慢性骨髄性白血病用薬Iclusig(ponatinib)は服用期間相関的な血栓性疾患リスクが発覚、FDAが臨床試験を部分停止したが、その後、一次治療試験EPICが新規組入れだけでなく既組入れ患者に対する投与も中止されることになった。

今まで発生しなかったから続けても大丈夫、とは言えないことを考えればやむを得ないが、こうなると心配なのが需要に与える影響だ。深刻な疾患なので治療を止める可能性は小さいが、新規に治療を開始する患者は減るのではないだろうか。用量を再検討するなり、アスピリン併用の効果を検討するなりした方が良いだろう。

リンク:アリアドのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年10月13日

海外医薬ニュース2013年10月13日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却
  • PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?
  • FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ
  • ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始
  • ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功
  • バイエルの新薬がまた一つ、承認
  • アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?


【今週の話題】


オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却

(2013年10月7日発表)

米国のオサイリス・セラピュティクス(Nasdaq:OSIR)といえば、これまで、ヒト間葉系幹細胞性医薬品であるProchymal(remestemcel-L)の将来性に自信満々で、リード・インディケーションである移植片対宿主病(GvHD)だけでなく急性放射線症候群やクローン病など様々な疾患で臨床試験を行い、成功してもイマイチでもポジティブ・シンキングを貫いてきた。しかし、サノフィが開発販売権を返還してから一年経ち流石に秋バテが出たようで、間葉系幹細胞性医薬品事業の売却を決定した。

取得したのはオーストラリアの幹細胞性医薬品開発企業、メソブラスト(ASX:MSB)。代価は5000万ドルと開発承認達成報奨金5000万ドル、そして10%以下の売上ロイヤルティ。頭金・達成報奨金はメソブラスト株式で払うこともできる。因みにジェンザイム(後にサノフィが買収)がインライセンスした時は、頭金だけで1.3億ドル、達成報奨金は売上目標達成金も含めて12.5億ドルだった。評価が暴落したことを示している。

Prochymalはカナダやニュージーランドで限定的に販売承認を受けている。メソブラストは重篤な成人性GvHDを組入れた第三相試験の結果を待って米国で承認申請する予定。

Prochymalは成人健常者の骨髄から採取した間葉系幹細胞を培養したもの。炎症抑制作用や組織修復支援作用が期待されている。GvHDは血液癌の優れた治療法である同種造血幹細胞移植を施行した後に発生しがちな副作用で、移植された造血幹細胞由来の免疫細胞が患者の体を攻撃する。ステロイドによる治療が奏功しなかった場合、命に係る。

尚、Prochymalは日本では日本ケミカルリサーチが持田製薬と提携して急性GvHD治療薬として第三相試験中。

リンク:オサイリスのプレスリリース(pdfファイル)

PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?

(2013年10月9日発表)

アルツハイマー病など様々な神経変性疾患の治療にPERK阻害剤が有効である可能性が浮上した。動物試験論文がScience Translational Medicine誌に刊行され、英国のBBCや新聞が大きく取り上げだ。動物の、しかも人為的に発生させた疾患の治療に成功しただけの話であり、深刻な副作用も見られた模様。そもそも、中枢神経系の動物試験はあまりアテにならない。それでも、新しい研究分野として大いに注目されるのではないだろうか。

論文によると、PERK(プロテイン・キナーゼRNA様小胞体キナーゼ)は転写因子であるeIF2アルファをリン酸化し、殆どの遺伝子の翻訳・蛋白生成をストップさせる。ウイルスが侵入・増殖した細胞や癌化した細胞が異常な蛋白を生成するのを防ぎ、変性を誘導する役割を担っているようだ。ある種の中枢神経系疾患では蛋白の折り畳み異常(三次元構造が崩れて適切に機能できなくなるだけでなく、異物と認識される可能性もある)が原因でPERKが作動し神経変性を誘導している可能性がある。

プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)やアルツハイマー病ではリン酸化eIF2アルファが増加している。そこで、論文著者は、プリオン病を導入したマウスに過去に抗癌剤として開発されたことのあるPERK阻害剤、GSK2606414を投与したところ、発症を抑制し寿命を延ばすことに成功した。

PERKは膵臓酵素の一つでもあり。そのせいか、体重が20%も減少したため、動物試験に関する規制に従い試験中止となった(欧州は動物愛護に関する規制が厳しい)。PERK欠乏者は糖尿病になりやすく、筋骨格や肝臓、腎臓の疾患を合併しやすいと言われている。今回の試験でも血糖値の穏やかな上昇が見られた。

今後の研究課題は、まず再現性を確かめ、UPR(非折畳蛋白反応)パスウェイを詳細に分析し、PERK阻害剤以外の介入方法を検討することだろう。同時に、中枢神経に選択的に作用するPERK阻害剤の探索も行われるだろう。

リンク:Morenoらの論文抄録(Science Translational Medicine誌)

FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ

(2013年10月8日発表)

新年度予算が成立せず連邦政府の機能の多くがストップする中、FDAの新薬、新GE薬、医療機器の承認審査は続行しているが、ユーザー・フィー制度の存在しない分野は例外であるようだ。11月5~6日に予定されていたアレルゲン減感作療法用経口剤二剤に関する諮問委員会がキャンセルされた。なぜ減感作療法が例外になったのか、経緯は知らないが、米国は医療用薬品に関する法律が二種類あり、境界線上の薬に関して法制上の位置付けと一般的な認識が食い違うことがしばしばある。

この諮問委員会は、MSDがデンマークのALK Abello(CSE:ALK-B)から北米メキシコにおける権利をライセンスして開発したGrazax(欧州名)と、フランスのStallergenesが開発した製品を検討するはずだった。前者はオオアワガエリ(チモシー芝)とブタクサの抗原を夫々配合した二製品、後者は5種類の抗原を配合した製品で、草アレルギーによる結膜炎の予防に用いる。特効薬という印象はないが、効く人には穏やかな効果がありそうだ。

減感作療法は抗原を少量ずつ反復投与することによって体を慣れさせる。フランスではアレルギー性結膜炎患者の過半が減感作療法を受けるらしい。注射が一般的だが、経口液、そして今回のような錠剤が開発され、先行する欧州ではある程度のシェアを獲得した。治療のハードルが下がるので将来性は高い。日本でも鳥居薬品がライセンスしてアレルギー性結膜炎や喘息症で第二/三相試験中。

ユーザー・フィー制度は、受益者負担の考えに基づき、医薬品等の承認審査に必要な予算の半分を業界が負担するというもの。承認申請時の費用だけでなく、米国に一定の施設を持つ企業は毎年、ユーザー・フィーを払わなければならない。見返りに、FDAは承認審査を期限内に完了する努力義務を負い、臨床開発に関する相談などのサービスも強化された。利益相反の問題を内包しているため、予算の半分は国が負担する。PDUFAと呼ばれる法律で新薬に関して最初に導入され、その後、GE薬や医療機器にも広がった。

医薬品に関する法律は二種類あり、元々の承認審査組織であるCBER(生物学的製剤評価研究センター)は主として古い法律、CDER(医薬品評価研究センター)は主として新しい法律に基づいて規制している。インターフェロンや抗体医薬は以前はCBERが担当していたが、CDERに移管された。このエピソードを見ても分かるように、両者の境界線は曖昧だ。

CBERが分掌する製品のうち、血液由来の製品やアレルゲン抽出製品はPDUFAの対象外になっている。このため、政府の予算がないと承認審査できない。勿論、人命に係る重要な安全性問題が浮上した場合は別である。諮問委員会キャンセルについて、MSDはプレスリリースを出していないようだ。ALKやStallergenesの出したリリースは簡素なもので、米国の予算不成立問題は、外国人にとっては呆れた以外の言葉が無いのだろう。

リンク:
ALKのプレスリリース


リンク:Stallergenes のプレスリリース

【新薬開発】


ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始

(2013年10月10日発表)

ルンドベックと開発パートナーの大塚製薬は、Lu AE58054のアルツハイマー病第三相試験を開始した。軽中度アルツハイマー病でdonepezil(Aricept)を服用している北米の医療施設の患者930人を、偽薬群と30mg群、60mg群に無作為化割付して24週間治療、ADAS-cogの変化を比較する。他に三本実施する予定。

Lu AE58054は5-HT6受容体アンタゴニストで、脳の学習・記憶に係る部位に多く発現する受容体を阻害してアセチルコリンなどの分泌を増強する。POC試験ではADAS-cogが偽薬比有意に改善したが、治療効果は2.16ポイントに過ぎず臨床的に意味があるかどうかは議論の余地がありそうだ。また、全般症状や生活機能に関するスコアには有意差は無かった。

POC試験は中度患者に90mgを一日一回投与した点が第三相と異なっている。一般的に、軽度患者の方が症状の進行が緩徐で治療効果を検出し難い。POC試験で見られたコリン性有害事象や肝機能検査値を懸念したのだろうが、用量を減らした点もマイナスだ。元々限界的な効果しか確認されていない上に、条件が厳しくなったことを考えれば、大きな期待はできないだろう。

リンク:ルンドベック/大塚製薬のプレスリリース

ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功

(2013年10月9日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-1101(idelalisib)の第三相慢性リンパ性白血病(CLL)試験が中間解析で成功したと発表した。再発性/難治性のCLLで化学療法に適さない、リンパ節腫脹のある患者を対象としたrituximab併用試験で、150mgを一日二回、経口投与した。主評価項目は無増悪生存期間。ギリアッドは承認申請について当局と相談する考え。

idelalisibはPI3K(phosphoinositide-3 kinase)デルタ阻害剤で、Bセルの活性化、増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する。9月に難治性の緩慢性非ホジキン型リンパ腫のサルベージ療法として第二相試験の反応率データに基づいて承認申請された。rituxan、bendamustineと三剤併用試験も進行中。2011年にCalistoga社を一時金3.75億ドル及び達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認】


バイエルの新薬がまた一つ、承認

(2013年10月8日発表)

FDAは、Adempas(riociguat)を二種類の肺高血圧症の治療薬として承認した。CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈高血圧症)で、前者の適応は史上初。CTEPHは血管内膜切除によく反応するが、不応/再発患者や手術に適さない場合はAdempasが適用になる。PAHは既に複数の薬が承認されているが、作用メカニズムが異なるため不応患者がスイッチしたり、既存薬に追加する用途が期待される。

AdempasはsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)の酸化窒素感受性を高める作用を持ち、酸化窒素合成酵素による血管平滑筋弛緩パスウェイを増強する。第三相試験では6分歩行テストの成績を偽薬比40m前後、改善した。8月の諮問委員会では低血圧リスクを回避するために最大用量を抑えるべきという意見もあったが、結局、1mg一日三回で開始して最大2.5mgまで滴定という用法が認められた。催奇性があるので女性に用いる場合はREMS(リスク評価緩和戦略・・・副作用事故を削減するための特別なプログラム)の対象になる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?

(2013年10月9日発表)

アリアド(Nasdaq:ARIA)は、昨年12月に米国で承認されたbcr-abl阻害剤、Iclusig(ponatinib)の効能追加・適応拡大試験に関してFDAが治験の部分的中断(新規組入れ中断)を求めたことを明らかにした。第二相試験に基づき加速承認されたが、延長試験で重篤な動脈血栓の発生率が上昇したため。

第二相試験でも8%の患者で発生したためレーベルで枠付警告されているが、メジアン24ヶ月間の追跡試験では11.8%に上昇した。年率発生率は上昇していないので、通常の副作用と異なり、服用を続ける限りリスクも続くのだろう。同社は用量を承認されている45mgから30mg(場合によっては15mg)に減らす対応策をFDAと相談する考え。

Iclusigが適応となるのはGleevec(和名グリベック)やSprycel(和名スプリセル)に反応しなくなった慢性骨髄性白血病またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病なので、治療しないリスクが大きく、深刻な副作用があっても使わざるを得ない面がある。GleevecやSprycelにも程度の差はあれ深刻な副作用があり、また、用途は異なるが多発骨髄腫治療薬のRevlimid(和名レブラミド)にも深刻な血栓性疾患リスクがある。

このため、8%が12%に高まる程度なら需要に大きな影響はなくアスピリンを服用することで対処できる可能性もあると考えていたが、意外だったのは、二日後にFDAが出した安全性情報だ。血栓性疾患という大括りで見ると発生率は少なくとも20%、というのである。致死的心筋梗塞例もあったとのこと。

Iclusigは一次治療の第三相Gleevec対照試験が進行中なので、結果が出れば副作用リスクを比較することができるが、この試験の患者組入れも中断されただろう。はっきりしない状態が続くことになり、Iclusigの販売にはアゲンストだ。この問題がはっきりするまではアリアドが大手製薬会社の買収ターゲットになる可能性は低いだろう。

リンク:アリアドのプレスリリース

リンク:FDAの安全性情報(10月11日付)

今週は以上です。

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2013年10月5日

海外医薬ニュース2013年10月6日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAの承認審査は続く
  • PD-1阻害薬はやっぱり凄い
  • バシリア/アステラスの抗真菌薬第三相試験が成功
  • イーライリリーがramucirumabを承認申請
  • バーテックスがKalydecoの適応拡大申請
  • オレキシジェンが体重管理薬を欧州で承認申請
  • GSK/ジェンマブがアーゼラの一次治療適応拡大をEUで申請
  • ファイザーのSERM・エストロゲン合剤が遂に承認
  • ルンドベック/武田の抗鬱剤が米国で承認
  • 米国でネオアジュバント用薬が初めて正式に承認


【今週の話題】


FDAの承認審査は続く

懸念された通り、米国連邦議会が新年度の予算を成立させなかったために連邦政府の機能がストップした。幸い、国民の生命安全に係る重要機能は維持されている模様で、FDAの承認審査も粛々と進行しているようだ。9月30日にルンドベック/武田の抗鬱剤とロシュの抗癌剤適応拡大が審査期限より早く承認されたのに続いて、10月3日にはファイザーのコンビ薬が承認された。承認審査の費用は半分を業界が負担しているのだから当然と言えば当然だが、事務的な作業が滞ることを恐れていたので一安心だ。

今回のような公務員の休業は、furloughと呼ぶようだ。英和辞書には賜暇と訳されており、国語辞典を引くと官僚が願い出て休暇を取ることと記されている。ちょっと違うような気がするが、日本語の方も古めかしそうなので、今日もし使われていたとしてもサラリーマンの年休と同じ意味で使われるのだろう。

報道によるとFDAの職員14779名のうち45%が休業となり、重大な案件を除いて、食品の安全性監視や施設の査察活動はストップしたようだ。しかし、医薬品の承認審査については、10月1日までにユーザーフィーが支払い済みである限り、新薬(PDUFA)もGE薬(GDUFA)も影響を受けない。諮問委員会も予定通り開催される。但し、予算未決が長期化した場合は影響が出ないとも限らない。

ユーザーフィーが10月1日以前に払われていない場合はNDA(小分子薬の承認申請)もBLA(生物学的製剤の承認申請)も受理されない。また、バイオシミラーの承認審査はストップする。FDAの兄弟組織であるNIHが主導する臨床試験も影響を受けている模様だ。

【新薬開発】


PD-1阻害薬はやっぱり凄い

(2013年9月29日発表)

ロシュは、RG7446/MPDL3280Aの第一相試験のデータを学会発表した。再発性非小細胞性肺癌患者の解析で、薬効評価対象53人のORR(客観的奏効率)は23%だった。best responseベースなので反応が持続しなかった症例も含まれているはずだが、過半がそれまでに3次治療まで受けた患者であることを考えればかなりの好成績だ。24週PFS(無増悪生存期間)率は44.7%。

PD-L1(レガンド)をブロックする抗体医薬なので、BMS/小野薬品やMSDなどが開発しているPD-1(受容体)をブロックする抗体医薬と似ている筈だが、この薬が面白いのはPD-L1陽性癌に対する効果が高そうなことだ。ロシュのIHC(免疫組織染色)法アッセイを用いて発現度合いを低い方から0~3に分類しORRとの関連を調べたところ、IHC3では6例中5例、2~3では13例中6例、1~3では26例中8例となった。また、喫煙経験者は未経験者よりORRが高かった。症例数が少ないので誤差範囲が広いはずだが、それでも、IHC2以上の患者にとっては極めて有望だ。

PD-L1は腫瘍細胞でしばしば高発現する表面分子で、細胞傷害性Tセルの表面分子であるPD-1などと結合して活性を抑制する。RG7446/MPDL3280Aは抗PD-L1ヒト抗体で、固定領域も改変されているようだ。

リンク:ロシュのプレスリリース

バシリア/アステラスの抗真菌薬第三相試験が成功

(2013年9月30日発表)

スイスのバシリア(SIX:BSLN)とアステラス製薬は、BAL8557/ASP9766(isavuconazole)の第三相侵襲性アスペルギルス症試験が成功したと発表した。一次治療薬としての効果をvoriconazoleと比較したところ、42日全死亡率が18.6%対20.2%となり、非劣性であることが確認された。非劣性マージンは10%で高いような気がするが、評価項目が全死亡というハードルの高いものなので、已むを得ないのかもしれない。

全死亡を主評価項目としたのは最近のFDAの考え方に従ったものだろう。伝統的な評価項目の一つである投与終了時総合的有効率でも35.0%対36.4%となり、非劣性だった。

全死亡はintent-to-treat、有効率は確定例/可能例の解析。非劣性試験はper protocol解析が一般的だが、深刻な感染症の場合は原因菌を特定する前に治療を開始するので、per protocolだと症例数が少なくなってしまうのかもしれない。逆に、有効率の判定はアスペルギルス感染ではなかった患者を含めても意味がないので、検査で確定した、あるいは可能例と判定された症例だけを対象としたのだろう。

isavuconazoleは他に二本の試験が進行中で、全て成功したら承認申請に向かう考えだろう。深刻な疾患なので効果が既存薬と大差ないのは残念だが、水溶性で添加物を用いていないため中重度腎障害を持つ患者にも有効・安全である可能性があり、この用途でFDAにファーストトラック指定されている。腎障害患者試験で確認されるならば出番が増えるだろう。

リンク:バシリアのプレスリリース

【承認申請】


イーライリリーがramucirumabを承認申請

(2013年10月3日発表)

イーライリリーは年次IRミーティングでIMC-1121B(ramucirumab)を欧米で承認申請したことを公表した。転移性胃癌で一次治療薬に不応だった患者に単剤投与して全生存期間を偽薬と比較した二重盲検試験、REGARD試験に基づくもの。似たような患者にpaclitaxelと併用した試験も成功したので、状態がそれほど悪くない患者には併用療法が用いられるのではないだろうか。

IMC-1121Bはイムクローン買収で入手した抗VEGFR-2ヒト抗体。作用機序はAvastin(bevacizumab)と似ており、有害事象も高血圧、出血、動脈塞栓などなど、類似している。

リンク:リリーのIRミーティングに関するプレスリリース

リンク:REGARD試験に関するプレスリリース

バーテックスがKalydecoの適応拡大申請

(2013年9月30日発表)

バーテックス(Nasdaq:VRTX)は懐の深い会社で、これまでに多くの開発品がフェールしたが、新興企業としては珍しいほど多くの医薬品を生み出してきた。開発品の豊富さは新興企業の中でダントツだ。最近の成功例が2012年に欧米で承認されたCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)だ。

嚢胞性線維症はCFTR遺伝子の変異によって発生する希少疾患だが、変異には様々なものがある。KalydecoはCFTRが細胞表面に移行した後に十分機能せず塩イオンなどが細胞に出入りすることができなくなる、ゲーティング変異の代表である、G551D変異型の患者に承認されている。今回は、それ以外のゲーティング変異に米国で適応拡大申請された。6歳以上を対象とした試験でFEV1が14%改善した。現在の対象患者数は世界で2000人、非G551Dゲーティング変異型は400人と推定されている。

リンク:バーテックスのプレスリリース

オレキシジェンが体重管理薬を欧州で承認申請

(2013年10月3日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、Contrave(bupropionとnaltrexoneのコンビ薬)をEUに体重管理薬として承認申請したと発表した。心血管疾患リスクに関する懸念から米国では承認されなかったが、大規模アウトカム試験の中間解析が年内に判明する見込みなので、このデータを追加提出することでEMA欧州薬品庁の同意を得ている。良好なら米国でも承認の可能性が出てくるので重要だ。

ContraveはGSKが抗鬱剤/禁煙補助薬として開発したノルエピネフィリン/ドーパミン再取込阻害剤のbupropionと、naltrexoneの体重減少副作用を逆手に取ったコンビ薬。特許の切れた薬同士の配合剤はGE薬の併用が最大のライバルになるが、Contraveは両方の成分の持続放出性製剤を配合しているので、bupropion持続放出性GE薬とnaltrexoneを併用しても効果や安全性が同じとは限らない。尤も、違うとも限らない。

北米メキシコでは武田が販売する(オレキシジェンは共同販促オプションを持っている)。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

GSK/ジェンマブがアーゼラの一次治療適応拡大をEUで申請

(2013年10月4日発表)

ジェンマブ(OMX:GEN)とグラクソ・スミスクラインは、慢性リンパ性白血病の二次、三次治療薬Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)を一次治療に用いる適応拡大申請を行ったと発表した。第三相試験では、fludarabineに不適な患者にchlorambucilと併用したところ、メジアンPFS(無増悪生存期間)が22.4ヶ月とchlorambucilだけの13.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.57、pは0.001を下回った。

ArzerraはロシュのRituxan(rituximab)と同様な、BセルなどのCD20表面分子に結合する抗体医薬だが、トランスジェニックマウスにヒト抗体を発現させたヒト化抗体(Rituxanはキメラ抗体)であることが異なり、また、結合するエピトープも異なる。用途が重なっているので直接比較試験で雌雄を明確にすることが望まれる。

リンク:ジェンマブ/GSKのプレスリリース

【承認】


ファイザーのSERM・エストロゲン合剤が遂に承認

(2013年10月3日発表)

エストロゲン補充療法のトップメーカーであるワイス(後にファイザーが買収)はライガンド(Nasdaq:LGND)からSERM(選択的エストロゲン受容体調節剤)のbazedoxifeneをライセンスして、単剤と結合エストロゲン合剤の二種類の製品を開発、欧米で承認申請した。単剤は閉経後骨粗鬆症治療薬としてEUではConbriza、日本ではビビアントという製品名で承認されたが、米国では脳梗塞や静脈血栓塞栓に関する懸念から承認されなかった。

合剤は2012年に欧米で承認申請され、今回、米国でDuavee名で承認された。更年期症状の一つである紅潮の治療、または、閉経後骨粗鬆症の予防に用いる。後者の用途は重大な骨粗鬆症リスクを持つ患者に限定され、治療を決定する前に、エストロゲンを用いない代替的な治療法の採用を十分に検討する。治療は可能な限り短期間で終わらせる。

ファイザー自身もライガンドから別のコンパウンドをライセンス、EUで閉経後骨粗鬆症治療薬Fablyn(lasofoxifene)として承認されたが、発売したという話は聞かない。SERMは当初考えられていたほど安全な薬ではないことが分かり、閉経後骨粗鬆症という病気も、単に骨塩密度が高いというだけのことで薬を飲まなければならないのか、薬物療法の是非が改めて見直されている。椎骨損壊があったり、家族が骨粗鬆症性骨折を経験していたりして、臨床的に重要な骨折のリスクが高いと推定される患者に限定する方向である。

エストロゲンはWomen's Health Studyで骨粗鬆症性骨折のリスクが低下する一方で、脳梗塞や静脈血栓塞栓のリスクが高まることが判明。エストロゲン製剤がアンチ・エイジング薬と見做され大人気だった米国でも、トップブランドであるワイスのPremarin(和名プリマリン)の売上高が半減した。Duaveeも大きな期待はできないだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

ルンドベック/武田の抗鬱剤が米国で承認

(2013年9月30日発表)

FDAは、ルンドベックと武田薬品のBrintellix(vortioxetine)を大鬱病の治療薬として承認したと発表した。様々な神経伝達物質の再取込を阻害するとともに-5HT1Aを作動、5-HT3を阻害する、特徴的な作用を持ち、様々な酵素で代謝されるため薬物相互作用が小さい。抗鬱剤はSSRIもSNRIも安価なGE薬が販売されており、Brintellixはこれらの薬に反応しない患者の代替的な選択肢になりそうだ。

大鬱病(major depression)は、要するに鬱病という意味である。この単語が広く使われるようになったのは、丁度、GSKが鬱病は心の風邪、一人で悩まずに医師に相談しようというTVコマーシャルを米国で流し始めた時期だ。一部の専門医が症状の軽い患者を鬱病に仕立て上げて儲けようという製薬会社の陰謀と決めつけ、批判した。私は、鬱病でない患者が誤診されるリスクよりも鬱病の患者が治療を受けるメリットの方が大きいと思うが、当時は大衆向け直接広告が急増した時期だったので、様々な批判が出たのである。

おそらく、メランコリックなだけで鬱病ではない患者を対象にした話ではないことを明確にするために、製薬会社も大鬱病という用語を使うようになったのだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ルンドベックと武田のリリース(10/1付)

米国でネオアジュバント用薬が初めて正式に承認

(2013年9月30日発表)

FDAは、Perjeta(pertuzumab)を乳癌のネオアジュバント療法に用いることを承認した。乳癌用薬の需要で一番大きいのはアジュバント療法、即ち、治癒目的の切除術を施行した後に再発防止のために投与する用途である。ネオアジュバントは切除前に薬物療法を行うもので、こちらも再発リスクが高い患者に行う。早期乳癌の40%程度が適応になる模様だ。

具体的には、腫瘍最大径が2cm超、局所進行性、炎症性乳癌など。全摘が適当だが患者が乳房温存術を望んでいる場合も、ネオアジュバントを施行して奏効したら温存術に切り替えるという方法が取られる。広く採用されているが、薬が正式に承認されたのは今回が初。

Perjetaは癌細胞の成長因子受容体her2がher3などと共役するのをブロックする抗体医薬なので、her2陽性乳癌にHerceptin(和名ハーセプチン)などと併用する。アンスラサイクリン系の抗癌剤と併用する場合の安全性は確立していない。

HerceptinもPerjetaも心毒性の懸念があり、累積投与量が閾値を超えるとリスクが高まるアンスラサイクリンと三剤併用するのは、末期癌なら兎も角、完治の可能性のある患者には不適切かもしれない。Perjetaはアジュバント試験が行われているので、やがて答えが出るだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース(10/1付)

今週は以上です。

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