2013年9月8日

海外医薬ニュース2013年9月8日号




【お詫びと訂正】



9月1日号でEfient(prasugrel)のACCOAST試験に関して、『報道によると、2年前に出血リスクを理由に中止になったようだ。』と書きましたが、正しくは昨年11月に中止でした。お詫びして訂正します。


【ニュース・ヘッドライン】




  • 大塚製薬がアステックスと買収合意
  • Lancetが日本人研究者の論文を撤回
  • ESC:リクシアナとオングリザの心血管アウトカム試験
  • GSK、癌治療用ワクチンの第三相試験は最初の解析がフェール
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが抗IL-6抗体を承認申請
  • ハーセプチン皮注がEUで承認
  • GSKのbraf阻害剤がEUでも承認


【今週の話題】


大塚製薬がアステックスと買収合意

(2013年9月5日発表)

大塚製薬は米国のアステックス ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ASTX)を8.86億ドルで買収することで合意した。一株当たり8.5ドル、過去3ヶ月間の終値平均の1.48倍の水準。今後、株式公開買い付けに進む。機関投資家株主の一部から低すぎるという不満が出ているが、同社の財務的価値の中心はいつGE化しても不思議のない薬に関するロイヤルティ権と第二相段階の開発品数品なので、多くは望めないだろう。発表後の株価も8.73ドルと、買収価格と大差ない。

アステックスは2011年に英国のアステックス社と米国のスーパージェン社が合併したもの。代表作は骨髄異形成症候群用薬(MDS)Dacogen(decitabine)で、スーパージェンが1999年にテバの子会社、ファーマケミーからdecitabine及び関連化合物の知的所有権を取得、米国で2006年に承認された。米国ではエーザイが販売、希少疾患用薬排他権は今年5月に失効したが、競合薬であるセルジーンのVidaza(azacitidine)と同様に、まだGE品は発売されていない。

海外ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売。欧州では急性骨髄性白血病薬として2012年に承認されたばかりなので、2022年までGE化の懸念はない。但し、Vidazaが2018年にGE化するリスクがある。

パイプラインでは、Dacogenの改良品であるSGI-110(別名S-110)が注目される。decitabineと異なり宿主細胞のDNAに組入れられなくてもメチル化を阻害でき、また、安定的なので半減期が長いとのこと。改良品なのでDacogenより優れていることを立証しないと商業的な成功は難しいだろう。エーザイが優先的インライセンス権を持っている。

日本の製薬会社は腫瘍学での出遅れを挽回すべく企業買収を通じて開発プラットフォームとパイプラインを調達している。アステックスは武田のミレニアムほどの大物ではないが、ゲームに参加するための参加料としては手頃だ。

リンク:アステックスのプレスリリース

Lancetが日本人研究者の論文を撤回

(2013年9月7日発表)

Lancet誌は2007年に刊行したJIKEI HEART STUDYの治験論文を撤回した。慈恵医大関連病院で実施されたDiovan(valsartan、和名ディオバン)の心血管アウトカム試験で、ARBは降圧を超えた心血管保護作用を持つという仮説を検証したもの。国内、海外で実施された様々なARBの全てのアウトカム試験は否定的な結果になったが、何故かこの試験とKYOTO HEART STUDYでは仮説が立証された。日本は欧米と比べてARBのシェアが著しく高いので、当時は多くの医師が快哉を叫んだだろう。

Lancet誌における日本の研究者の論文撤回としては、昭和医大藤が丘病院に在籍していた研究者が玄々堂君津病院で実施したCOOPERATE試験の論文以来だろう。この試験もACE阻害剤にARBを追加するデュアル・レニン-アンジオテンシン・ブロックに関わるものであり、やはり、日本はARB信者が多いと言えよう。

ディオバン三部作ではノバルティスの社員が大学在籍者として関与していたが、このエピソードは、山中教授がノーベル賞を受賞した直後の虚言研究者騒動を思い出させる。ひょっとして私でも一年間ボランティアをすれば一生、ハーバードや東大の研究者を名乗ることができるのだろうか?高名な科学者を共同著者として論文を刊行しても、誰からもクレームは来ないのだろうか?

今回の件は関わった個人や組織を非難して終われる問題ではないだろう。この機会に学会や企業は襟を正さなくてはならない。政治家や官僚も他人事ではないだろう。化粧品副作用騒動では、厚生労働省が承認した成分と聞いて安心して使ったという声も出ている。トクホも、今のままではコレステロールを下げる成分を含有する食べるタバコが承認されかねない。科学を軽視すべきではない。

リンク:Lancetの撤回発表分(購読者以外は冒頭のみ閲覧可能)

リンク:Retraction Watchの記事(Lancet発表文がかなり引用されている)

【新薬開発】


ESC:リクシアナとオングリザの心血管アウトカム試験

(2013年9月1日発表)

ESC欧州心臓学会のホットライン演題から、第一三共のLixiana(edoxaban、和名リクシアナ)のHOKUSAI-VTE試験とBMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin)のSAVOR-TIMI 53試験を取り上げよう。この二本の試験はNew England Journal Medicine誌に同時オンライン刊行された。

HOKUSAI-VTE試験は症候性深静脈血栓や肺塞栓の患者に対する再発予防効果をワーファリンと比較したもの。Xa阻害剤ではバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)やBMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)でも同様な試験が行われたが、HOKUSAIは最初の数日間、両群とも低分子量ヘパリンで治療した点が異なる。

治療当初は特に強い抗血栓作用が求められるようで、Xareltoは第二相試験の経験を踏まえて最初の3週間は15mgを一日二回、その後は20mgを一日一回に減量する用法を採用した。Eliquisも最初の7日間は10mg一日二回、その後は5mg一日二回だ。従って、Lixianaの試験で最初は既存の薬を使ったのは一理ある。Lixianaの用法は60mg一日一回だが、クレアチニン・クリアランスが30~50 ml/分の患者や体重60kg未満の患者は30mgを用いた。

この三剤の試験のヘッドライン・データを比較すると、

再発性症候性静脈血栓塞栓:

  • Lixiana 3.2%対3.5% HR0.89(非劣性)


  • Xarelto 2.1%対3.0% HR0.68(非劣性)


  • Eliquis 2.3%対2.7% HR0.84(非劣性)


臨床的に重要な出血:

  • Lixiana 8.5%対10.3%
  • Xarelto 8.1%対 8.1%
  • Eliquis 4.3%対 9.7%(優越性)


となり、薬効も安全性もEliquisのデータが一番良い。このため、学会ではEliquisに見劣りするという意見が多かったようだ。

Lixianaのデータにはヘパリン治療期の血栓塞栓、出血が含まれているはずなので、もしこの時期のイベントを除いても全体の解析と大差ないならば、Eliquisに軍配が上がるだろう。BMS/ファイザーはこの用途の適応拡大を申請する予定。

リンク:HOKUSAI-VTE試験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

DPP-4阻害剤OnglyzaのSAVOR-TIMI 53は、FDAの糖尿病薬開発ガイドラインに則り新薬の心血管リスクが高くないことを確認する目的で、二型糖尿病で心血管疾患既往/高リスク患者16492人をOnglyza群と偽薬群に無作為化割付しメジアン2.1年間追跡した大規模試験。FDAに対するフェーズIVコミットメントとして、膵炎を始めとする様々な有害事象の発生も監視した。

FDAが規制を強化した時には、新薬の開発が遅れるとか製薬会社に過剰な資金負担を強いるため開発意欲が低下するとかの反対意見があったが、製薬会社は真実を求めれば答えてくれるのである。費用は数百億円のオーダーになるだろうが、糖尿病薬の10年間、20年間累計の購入額と比べれば決して大きくない。大規模な試験で稀な副作用を検討しておけば、将来、疑惑が浮上した時に反論するエビデンスになるので、保険という意味合いもある。

さて、SAVOR試験の結果は、心血管疾患の発生率が2年間のカプランマイヤー推定で7.3%となり、偽薬群の7.2%と比べて非劣性であることが確認された。武田のDPP-4阻害剤の同様な試験も同様だった。リスク削減を期待していた研究者には残念な結果だが、結局、血糖治療を行っても心血管リスクを削減することはできない、あるいは、スタチンを始めとして心血管リスクを抑制する様々な手段が実用化された今日では血糖治療薬にできることは限られているのだろう。

血糖治療は心血管リスクを削減するという仮説が浮上したのは、UKPDSでmetforminが肥満患者の心血管リスクを削減するトレンド(有意ではないが有意水準に近い)が見られたことが契機だ。検出力の高い試験を行えば有意差が出るはず、と数多くの大規模試験が行われたが、何れもフェールし幾つかの試験ではむしろ有害だった。

UKPDSに関しては数十のサブ試験の論文が刊行されているが、解析回数が増えれば増える程、偶然に有意差が出てしまうリスクが高まる。論文著者が明記しているように、探索的研究に過ぎず別途前向き試験を行って確認する必要があることを肝に銘じるべきだろう。

検出力の高い大規模な試験を行うとノイズを拾うリスクが高まるという法則は今回のSAVOR試験にも当てはまる。但し、このノイズは安全性に関わることなので、今後の研究で否定されるまでは真実である可能性を意識しておいた方が良いだろう。

ノイズの第一は、心不全による入院の発生率が3.5%対2.8%、p=0.007と、有意に多かったことだ。主要低血糖イベントの発生率も2.1%対1.7%、p=0.047だった。Onglyza固有のリスクなのかもしれないが、低血糖症は心臓に悪影響を与える可能性があるので、ACCORD試験と同様に、積極的な血糖治療に潜む危険性が表面化したのかもしれない。もしそうだとしたら、二型糖尿病の治療方針全体に係る重要なエビデンスになりうる。

第二は最近話題になった膵臓安全性。膵癌は5例対12例、p=0.095で大差なかったが、2年程度の試験で癌原性を発見できるはずがない。一方、膵炎の方ははっきりしない。慢性膵炎を含めれば両群大差なかったが、急性膵炎は0.3%(22例)対0.2%(16例)、うち明確に(definite)膵炎と診断されたのは17人対9人、p=0.17。症例数が少ないので有意差は出なかったが、もし被験者数と症例数が何れも2倍だったら有意水準に達しただろう。

また、心血管疾患による死亡は3.2%対2.9%、ハザードレシオ1.03、有意ではなかったが、それ以外の理由による死亡は1.7%対1.3%、HR1.27、p=0.051と有意水準まであと一歩だった。死因は区々で、主要な死因は何れもOnglyzaのほうが多いという奇妙な結果である。

このように、SAVOR試験は報道されているほど良い結果ではなかった。Nesina(alogliptin)のEXAMINE試験の論文も同時にオンライン刊行されたので読んでみたが、対応するデータが記されていない項目があり、クラス・イフェクトなのかSAVOR試験だけのノイズなのか明確ではない。

これらの試験のデータはFDAやEMAに提出されるので、欧米の承認審査機関の評価を待ちたい。

リンク:SAVOR-TIMI 53試験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

リンク:BMS/アストラゼネカのプレスリリース(9/2付)

GSK、癌治療用ワクチンの第三相試験は最初の解析がフェール

(2013年9月5日発表)

グラクソ・スミスクラインは、癌治療用MAGE-A3ワクチンの第三相悪性黒色腫試験の共同主評価項目のうち、全症例の解析がフェールしたことを発表した。もう一つの主評価項目の解析は2015年に行われる見込み。また、非小細胞性肺癌の第三相試験結果は来年上半期に開票する予定。

MAGEは通常の成人細胞には殆ど発現しないが、悪性黒色腫の2/3、非小細胞性肺癌の1/3で高発現している。MAGE-A3ワクチンはMAGEのA3サブユニットに対する免疫を誘導し癌細胞を攻撃させるもので、アジュバントとしてAgenus社のサポニン誘導体とMPL、そしてTLR-9アゴニストを用いている。今回の悪性黒色腫試験はMAGE-A3を高発現するIIIB/C期の黒色腫で切除術を受けた患者を組入れて無病生存率(DFS)を偽薬と比較した。

ClinicalTrials.govの治験登録を読む限りでは主評価項目は一つのようだが、GSKのプレスリリースによると、全症例の解析のほかに、特定の遺伝子署名を示す患者だけの無病生存期間も主評価項目とのこと。どんな遺伝子署名なのかは不明。Agenusのプレスリリースによれば、こちらの解析だけが成功した場合でも承認申請できる可能性があるようだ。全ての主評価項目の解析が完了していないため、最初の解析データや安全性データは未だアンブラインドされていない。

日本では良くデザインされた無作為化割付対照試験の裏付けがないまま様々なペプチドワクチンが研究、治療に用いられているが、残念なことである。丸山ワクチンの時代とは違い、今日の科学なら、有効なワクチンとそうでないワクチンを的確に見分けることができるだろう。それはそれとして、海外でもワクチン療法は苦戦しており、MAGE-A3ワクチンも元々の期待値が低いのでフェールしてもサプライズではないだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


ジョンソン・エンド・ジョンソンが抗IL-6抗体を承認申請

(2013年9月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、CNTO 328(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病(MCD)治療薬として欧米で承認申請したと発表した。IL-6を標的とするキメラ抗体で、中外/ロシュの抗IL-6受容体ヒト化抗体Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)に似ている。Actemraも初承認はキャッスルマン病だった。JNJは様々な抗IL-6抗体をリウマチや癌向けに開発しているが、遂に水面に浮上した。

MCDはキャッスルマン病の一種で、リンパ球が増殖し複数の異なった箇所のリンパ節や臓器のリンパ組織が腫脹、免疫力が低下したり臓器が障害を受けたりする。JNJは79人を組入れた第二相試験に基づいて申請した模様で、データは今年の学会で発表される。

IL-6はTセルやBセルなどが分泌する炎症促進的サイトカイン。IL-6受容体は細胞膜だけでなく血液中にも存在してIL-6と複合体を形成する。この複合体が細胞内のgp120と複合体を形成して活性を発揮するので、IL-6受容体とIL-6の関係は、通常のレガンドと受容体の関係とは異なる。つまり、抗IL-6抗体も抗IL-6受容体抗体も他の条件が同じなら薬効や安全性は大差ないかもしれない。

従って、JNJの抗IL-6抗体シリーズは、リジェネロンがサノフィと共同開発している抗IL-6受容体抗体REGN88/SAR153191(sarilumab)などと同様に、Actemraには強力なライバルになりそうだ。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認】


ハーセプチン皮注がEUで承認

(2013年9月2日発表)

ロシュは、Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)の皮注用製剤がEUで承認されたと発表した。既存の製剤は30分点滴静注だが、皮注は5分で足りる。おそらく自己注も可能だろうから、乳癌摘出後の再発予防で用いる場合の利便性が大きく向上する。面白いのは、点滴用は用量を体重に合わせて決定するが、皮注は600mg一本であること。ハロザイム社の技術を用いて開発した。

リンク:ロシュのプレスリリース

GSKのbraf阻害剤がEUでも承認

(2013年9月2日発表)

GSKはTafinlar(dabrafenib)がEUで承認されたと発表した。ロシュのZelboraf(vemurafenib)と同様なbraf阻害剤で、braf-V600E変異型の切除不能/転移性の黒色腫に用いる。この変異を持たない癌では成長を促進してしまう可能性があるので、禁忌。米国では今年5月に承認され問屋取得価格が月7600ドルとZelborafより安価に発売された。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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