2013年9月15日

海外医薬ニュース2013年9月15日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ベクチビックスをnras変異型に使うと患者が早死にする!
  • 旧三井製薬の開発品がブレークスルー・セラピー指定!
  • BMS、Yervoyの第三相試験がフェール
  • ギリアッドがidelalisibを承認申請
  • GSK、主力薬のGE化を前に諮問委員会が新薬を支持
  • ロシュ、諮問委員会がパージェタの適応拡大を支持
  • サノフィが米国でリキスミアの承認申請を撤回
  • アブラキサンが米国で膵癌に承認
  • セルトリオン、レミケードのバイオシミラーがEUで承認
  • EUでProcysbiが承認


【今週の話題】


ベクチビックスをnras変異型に使うと患者が早死にする!

(2013年9月11日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumab、和名ベクチビックス)のPRIME試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたと発表した。今年のASCO米国臨床腫瘍学会で発表されたのと同内容で、krasだけでなくnrasの変異も事前に確認しないと、患者を早死にさせてしまう可能性があることを示唆している。

この、医師や患者にとって極めて重要な発見は、米国では6月に、EUでも9月に、レーベルに記載されたが、日本はまだのようだ。日本の抗癌剤の承認の仕方は海外と異なり、細かいところは医師の判断に委ねる傾向があるので、ネグるのかもしれない。

VectibixとErbitux(cetuximab、和名アービタックス)の抗EGFR抗体二剤は、転移性結腸直腸癌に承認された後に、krasという主要関連遺伝子に変異のある患者に用いると却って有害であることが判明、禁忌となった。

PRIME試験はEloxatin(oxaliplatin、和名エルプラット)など三剤を併用するFOLFOXレジメンにVectibixを追加する効果を確認したもので、krasのエクソン2変異を持たない結腸直腸癌だけを対象とした。今回の論文は、他の箇所やnrasの多型の影響を検討した、事前に設定された後顧的研究。

結果は、krasもnrasも野生型の患者(野生ras型)はメジアン生存期間が26.0ヶ月とFOLFOXだけの群の20.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.78、95%信頼区間0.62~0.99と良好だった。一方、krasやnrasのエクソン2、3、4の何れかに変異のある変異ras型ではハザードレシオ1.25、95%信頼区間1.02~1.55と好ましくない結果となった。転移性結腸直腸がんのうち野生krasは5~6割を占める。今回の試験では、変異ras型が17%を占めた。

判断が難しいのは、第一に、この試験の所見だけで結論を下してもよいか?第二に、有害性はFOLFOX併用時に限られるのか?FDAは事実を尊重し、FOLFOX併用時はras変異は禁忌とした。EUは限定せず、ras変異は禁忌とした。もう一つの広く用いられている併用レジメンであるFOLFIRI/IFLレジメンの併用で同様な試験を行うのは倫理的な問題があり難しいだろうから、EU方式が妥当と感じられる。

第三の難題は、Erbituxも同じなのか、ということだ。メーカーが確認試験を行うのが望ましいが、これも、非現実的だろう。日米欧の審査機関がどう判断するか、注目される。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:NEJM論文(抄録だけオープンアクセス)

旧三井製薬の開発品がブレークスルー・セラピー指定!

(2013年9月11日発表)

2001年にシエーリングに買収された三井製薬のヒストン・ジアセチラーゼ1阻害剤、SNDX275(三井製薬の開発コードMS-275、entinostat)が、FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けた。シエーリングを買収したバイエルから2007年に権利を取得した、米国マサチューセッツのSyndax Pharmaceuticalsが申請したもの。

HDAC阻害剤は旧藤沢薬品のFR901228が末梢Tセルリンパ腫用薬Istodax(romidepsin)として米国でセルジーンによって販売されている。薬理解明に携わった中島秀典によると、FR901228 は、『当時の藤沢薬品の開発力や日本での臨床開発の限界を超えていた.米国に出さなかったら,日本で潰れていただろう.画期的過ぎた』と記している。この画期的すぎる技術が、SNDX275の代になって、ブレークスルーと認められた。

尤も、ブレークスルー・セラピー指定は技術や作用機序ではなく、治療薬としての効果に与えられるものだ。SNDX275の場合、非ステロイド系アロマターゼ阻害剤に反応しなかったエストロゲン受容体陽性転移性乳癌の第二相試験でexemestane(非ステロイド系アロマターゼ阻害剤)と併用したところ、メジアン生存期間が28.1ヶ月と、exemestaneと偽薬を併用した群の19.8ヶ月を上回った(p=0.04)。

2014年にECOG(米国の腫瘍学共同治験グループ)などが共同で第三相試験を開始する予定。対象患者が第二相と若干異なるが、成功が期待されるところだ。

リンク:Syndaxのプレスリリース

リンク:中島秀典、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の探索研究経緯(日薬理誌 132, 173~176)

【新薬開発】


BMS、Yervoyの第三相試験がフェール

(2013年9月12日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は、抗CTLA-4完全ヒト化抗体Yervoy(ipilimumab)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。残念なことだが、他の用途の試験の成功に期待したい。

この第三相試験は去勢抵抗性(去勢やホルモン療法に反応しなくなった)前立腺癌でdocetaxelによる治療に不応・不耐な患者に放射線療法を行った後に、Yervoyで治療する手法を検討したもの。メジアン生存期間は11.2ヶ月、偽薬群は10.0ヶ月で大差なく、ハザードレシオは0.85、p=0.053だった。この試験の検出力はハザードレシオが0.7なら90%というもので、楽観的過ぎたのだろう。

Yervoyは2011年に欧米で切除不能または転移性の黒色腫向けに承認された。活性化したTセルが発現する抑制的副刺激受容体、CLTA-4に結合してレガンドをブロックすることによって、免疫を強化する。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


ギリアッドがidelalisibを承認申請

(2013年9月11日発表)

ギリアッド・サイエンシーズ(Nasdaq:GILD)はGS-1101(別名CAL-101、idelalisib)を米国で低悪性度NHL(非ホジキン型リンパ腫)向けに承認申請したと発表した。Bセルの活性化、増殖、生存に必須の酵素であるPI3K(phosphoinositide-3 kinase)デルタを阻害する経口剤で、2011年にCalistoga Pharmaceuticalsを3.75億ドル及び達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

承認申請の根拠はRituxan(rituximab)及びアルキル化剤に不応の難治性低悪性度NHLを組入れた第二相試験の中間解析。反応率53.6%、メジアン反応持続期間11.9ヶ月、PFS(無増悪生存期間)11.4ヶ月と良い結果だった。深刻な有害事象は下痢、肝機能検査値異常、好中球減少症など。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


GSK、主力薬のGE化を前に諮問委員会が新薬を支持

(2013年9月10日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAの肺アレルギー薬諮問委員会がAnoroの承認を支持したと発表した。長期作用性ムスカリン拮抗剤umeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolのコンビ薬で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法としてElliptaという吸入器を用いて一日一回、吸入する。単剤では十分に増悪を防げない患者に、ステップアップ・セラピーとして用いる。

第三相では二種類の用量をテストしたが、FDAは高用量は承認しない方向。薬効については13人の委員全員が、安全性については10人が支持し、便益がリスクを上回る、即ち承認に値すると判定した委員は11人だった。

AnoroはGSKとテラバンス(Nasdaq:THRX)の共同開発プロジェクトから生まれた製品で、テラバンスは売上高の最大10%を受け取る。COPDの合剤は開発が活発で、ベーリンガー・インゲルハイムやノバルティスなどとの競争が繰り広げられることになりそうだ。

GSKは吸入用ベータ2作用剤コンビ薬の先駆で、Advair(和名アドエア)が大成功した。米国の特許が2010年に失効した後も、同等性評価方法が確立していないためにGE品の承認が遅れていたが、FDAが先般、ガイドラインを公開したことから、2016年頃に発売の可能性が出てきた。喘息症でも承認されているAdvairには敵わないが、市場が大きいのでAnoroの投入は重要な特許切れ対策になるだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

ロシュ、諮問委員会がパージェタの適応拡大を支持

(2013年9月13日発表)

ロシュは、FDA腫瘍学薬諮問委員会がPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)の適応拡大を支持したと発表した。早期乳癌のネオアジュバント療法に用いるもので、14人の委員中13人が支持した(一名棄権)。現在は転移性乳癌の一次治療薬として承認されているが、市場が大きく拡大する。

Perjetaは抗2C4ヒト化抗体。Herceptinの標的であるher2が、her3などヒト表皮受容体ファミリーの他の受容体と共役するのを防ぐので、Herceptin耐性癌にも効果が期待される。ネオアジュバント療法は治癒目的の切除術を受ける患者に予め抗癌剤治療を行うことによって、腫瘍を小さくして切除しやすくしたり、視認できない腫瘍を叩くもので、乳房温存術の前に施行することが多い。米国では年1.5万人が受けるという。

乳癌は早期に発見して摘出することが多く、薬の需要も、転移癌より摘出後の再発を予防するアジュバントの方が大きい。従って、アジュバント療法の適応拡大は重要な開発課題だが、癌を切除して健康になった患者が対象なので、開始前に十分に安全性を検討する必要がある。更に、アジュバント試験は時間が掛かる。そこで、ネオアジュバント療法試験という、まだ切除していない、しかし早期段階の患者の試験が重要になる。

今回の適応拡大申請は第二相試験に基づくものだ。ネオアジュバント療法の承認はPerjetaが第一号になりそうだが、今後は、末期癌の開発と並行してネオアジュバントも第二相試験を行い、目途が立った段階でアジュバントの第三相を開始する、雁行的開発方法が一般的になるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

サノフィが米国でリキスミアの承認申請を撤回

(2013年9月12日発表)

サノフィは、GLP-1作用剤Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の米国での承認申請を撤回したことを明らかにした。サノフィのプレスリリースによると、FDAが進行中の心血管アウトカム試験の中間データを要求したが、治験の厳格性が損なわれるため、15ヶ月後に最終解析結果が出るまで待つことを決めた。安全性問題や承認申請の欠陥によるものではないとのことだが、それならなぜ撤回したのか理解できない。

この二型糖尿病薬は今年、欧州や日本で承認された。日本のインタビューフォームによると、心臓障害発生リスクは偽薬の1.44倍、95%信頼区間1.04~2.00と有意に高かった。非致死的卒中の発生率が0.7%対0.4%で数値上高かったようだ。EUの審査文書によると、MACE(主要有害心臓事象:心血管死や非致死的心筋梗塞、卒中)のハザードレシオは1.25、95%信頼区間は0.67~2.35なので有意ではないが、95%上限がFDAの要求値より高い。また、動悸・頻脈のリスクがあるようだ。

こうしてみると、Lyxumiaの承認が遅れたのは心血管リスクのハードルをクリアしていないことが原因で、FDAは心血管アウトカム試験の中間解析データで懸念を払拭することを提案したが、サノフィが拒否したという経緯なのではなかろうか。

ところで、日本人は欧米人と比べて脳梗塞のリスクが高いとされる。PMDAは非致死的卒中の発生率が高いことをどのように評価したのだろうか。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


アブラキサンが米国で膵癌に承認

(2013年9月6日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、FDAがAbraxane(アルブミン懸濁型パクリタキセル、和名アブラキサン)を転移性膵臓腺腫の一次治療薬として承認したと発表した。Gemzar(gemcitabine)と併用した試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月とGemzarだけの群の6.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.72だった。主な有害事象は骨髄抑制、疲労、末梢神経症など。

Gemzarを膵癌に用いる時は様々な投与スケジュールが存在するが、併用試験では28日サイクルで初日にAbraxane 125mg/m2を30~40分かけて点滴静注した後、gemcitabine 1000mg/m2を30~40分かけて点滴静注、第8日と第15日はgemcitabineだけを同様に投与した。対照群はgemcitabineを週一回、7週連続投与した後に一週間休み、その後は28日サイクルで第1、8、15日に投与した。

AbraxaneはTaxolの新製剤で、溶剤に起因する過敏反応がなく、忍容性が比較的良いため点滴時間が短く、高集中度投与にも適している。膵癌で承認され、悪性黒色腫試験も成功するなど、Taxolが承認されていない用途でも成果が出始めた。

リンク:FDAのリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

セルトリオン、レミケードのバイオシミラーがEUで承認

(2013年9月10日発表)

米国の注射用薬メーカーであるホスピラ(NYSE:HSP)は、EUがRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラーを承認したと発表した。韓国のセルトリオン(KOSDAQ:068270)が開発・承認申請したもので、ホスピラはInflectra、セルトリオンはRemsimaという製品名で販売する模様だ。欧米で抗体医薬のシミラーが承認されたのは初。セルトリオンは日本でもパートナーである日本化薬と共に承認申請した。Remicadeの欧州での売上高は20億ドル、日本は900億円。

RemicadeはTNF阻害剤の先駆で、リウマチや潰瘍性大腸炎など様々な自己免疫疾患に用いられている。バイオ薬は30年程度の歴史しかなく、生産技術に関する知的所有権がまだ残っているため、完全に同じ方法で作ることができず、同等性の評価が難しい。ジェネリックと呼ばずにシミラーと呼んでいるのは、完全に同じとは言えないからである。

このため、先に承認されたエポエチンなどのサイトカイン系のバイオシミラーは、化学合成される小分子薬のGE品ほど高いシェアを取れていない。製薬会社に情報伝達活動が求められるなど、通常のGE品とは全く異なるマーケットになっている。シミラーの開発も容易ではなく、少なくとも向こう10年ほどは少数の会社しか発売できないだろう。それだけに、GE薬メーカーにとっては、コモディティ化していない高付加価値商品である。

尚、セルトリオンの創業者大株主は負債を返済するために持ち株を売却する意向を示しており、投資銀行と方策を検討している。

リンク:ホスピラのプレスリリース

リンク:セルトリオンの身売り報道に関するコメント(7/31付)

EUでProcysbiが承認

(2013年9月12日発表)

Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)は、EUがProcysbi(mercaptamine)を腎性シスチン蓄積症の治療薬として承認したと発表した。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

米国で4月に承認されたが、年25万ドルと既存製品の30倍高い価格が付けられた。医療費抑制に熱心な欧州で受け入れられるか注目される。

リンク:Raptorのプレスリリース

今週は以上です。

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