2013年8月11日

海外医薬ニュース2013年8月11日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Vicalの6年間の忍耐が報われるか
  • ケリックスが高リン血症治療薬を米国で承認申請
  • GSKがサーバリックスの新投与スケジュールとヴォトリエントの適応拡大を欧州で申請
  • ロシュのパージェタのネオアジュバント療法をFDA諮問委員会が討議へ
  • FDA諮問委員会がバイエルの肺高血圧症治療薬を支持
  • FDA諮問委員会はサムスカの適応拡大を支持せず
  • ノボの第XIII因子は再び審査完了通知
  • セルジーンの新薬がEUで承認
  • テバの長期作用性G-CSFがEUで承認


【今週の話題】


Vicalの6年間の忍耐が報われるか

(2013年8月1日発表)

米国の新興企業、Vical(Nasdaq:VICL)は、Allovectin-7(velimogene aliplasmid)の第三相悪性黒色腫試験のトップライン・データが今月中に纏まる見込みであることを明らかにした。2013年第2四半期決算発表に合わせてアップデートしたもので、重要情報の漏出を避けるために、自主的な沈黙期間(アナリストなどとコンタクトしない)に入った。

Allovectin-7はMHCクラスIを構成する蛋白であるHLA-B7とベータ2マイクログロブリンの遺伝子をプラスミッドに組入れた、脂質リポソームをベクターとする遺伝子治療。腫瘍細胞に直接注射すると、これらの蛋白が発現、白人の保有率が低いタイプのHLAを用いているため免疫刺激性が高く、他の腫瘍細胞に対する免疫も強化されるようだ。

遺伝子療法もワクチン型免疫強化療法も希望と挫折を繰り返しており、Allovectin-7も2000年前後に実施された第三相試験がフェール。投与量を200倍に増やした第二相試験でORR(客観的奏効率)12%、127人中4人が完全反応とサイトカイン療法と同程度の成績を上げ、05年にFDAの特別プロトコル評価を得て第三相試験の準備を整えたが、スポンサー(開発販売提携先)が中々見つからず、結局、アンジェスMGがアジアでの開発販売権取得の見返りに2300万ドルの研究開発費提供・出資を行っただけだった。

07年に第三相試験を開始、当初は11年に完了するはずだったが、被験者の生存期間が予想以上に長かったせいか、大幅に遅延。今回、6年を経てやっと結果が判明する運びとなった。

この第三相試験は、ステージIII/IVの悪性黒色腫で化学療法未施行の患者375人をAllovectin-7群と化学療法群に二対一の割合で無作為化割付したもの。Allovectin-7は8週サイクルで2mgを週一回、6週連続で標的腫瘍に直接注射。化学療法群は治験医の判断でdacarbazineまたはtemozolomideを用いた。主評価項目は24週以上経過した段階での持続的ORRで、優越性解析。2010年に組入れ完了したので、結果は既に判明しているはずだが公表されていない。

なぜ公表されなかったのか?考えられるのは、第一に、FDAが全生存期間の解析も行うよう強く要請した可能性。ORRの解析結果を公表すると治験医や患者にバイアスを与えてしまい、延命効果の解析の厳格性を損ねてしまう可能性がある。第二相試験のメジアン生存期間は18ヶ月に過ぎなかったので、1年後に全生存の解析結果が出るまでの辛抱、の筈だった。

もう一つ、ORRの解析がフェールした可能性も考えられる。主評価項目がフェールした場合、副次的評価項目で有意差が出ても信憑性が低くなるが、それでも、調べないよりマシだ。免疫強化療法は化学療法より副作用が少ないので、ORRが数値上、大差ないなら、治験を続行しても被験者に不当な不利益を与えることにはならないだろう。IL-2もそうだが、免疫強化療法は一部の患者に長期間持続的な効果を発揮する傾向があるので、初めから全生存期間を主評価項目にすべきだったと私は思う。

次に、なぜ結果判明が2年も遅れたのか?おそらく、組入れ/除外条件を見直したからだろう。第二相試験のサブポピュレーション分析結果を元に、免疫力が低下している患者や脳/肝転移のある患者は除外した。また、薬効を発揮するためには少なくとも2サイクルの投与が必要と判定されたため、健康状態の著しく悪い患者も除外した。その結果、余命が比較的長い患者だけが集まったのだろう。

最後に、そして最大の謎は、第三相試験の成否だ。悪性黒色腫は免疫強化療法に比較的よく反応する。現実に、第二相試験のORRは悪くなかった。従って、通常ならば、成功を期待できるだろう。ただ、気になるのはこの試験の経緯だ。不透明な点が多いのである。このため、自信を持って成功を期待するのは難しい。

治験が成功し全生存期間が化学療法を有意に上回った場合、次のハードルは、BMSのYervoy(ipilimumab)との競争だ。数年後にはBMS-936558(nivolumab)などの抗PD-1抗体の第三相試験結果も開票する。BMSは両薬の併用も試験しており、将来は、高価な新薬の併用が主流になるかもしれない。Vicalも他社と提携、あるいは身売りをすることによって、開発販売競争を勝ち抜く必要がありそうだ。

リンク:Vicalのプレスリリース

【承認申請】


ケリックスが高リン血症治療薬を米国で承認申請

(2013年8月8日発表)

ケリックス・バイオファーマシューティカルズ(Nasdaq:KERX)はZerenex(ferric citrate)を慢性腎疾患透析期の患者の高リン血症治療薬としてFDAに承認申請した。台湾のPanion社からライセンスしたもので、日本ではケリックスからサブライセンスした鳥居薬品がJTT-751として開発、今年1月に承認申請している。

リンク:ケリックスのプレスリリース

GSKがサーバリックスの新投与スケジュールとヴォトリエントの適応拡大を欧州で申請

(2013年8月7日発表)

グラクソ・スミスクラインは欧州で子宮頸癌予防用ワクチンCervarix(和名サーバリックス)の新投与スケジュールを承認申請した。半年間に3回接種ではなく、2回接種とのことだ。おそらく、コスタリカで行われた観察的研究を踏まえて改めて検証したのだろう。GSKのリリースによると3回接種に取り替わるものではなく、代替的手段との位置付けのようだが、コストが下がるのでもし本当に効果が大差ないなら二回接種の方が普及するだろう。

このコスタリカの調査は2011年にJournal of National Cancer Institute誌に論文発表された。メジアン4.2年間追跡したところ、HPV16/18型の持続的感染を予防するワクチン効果は3回接種患者(n=2957)で80.9%、何らかの理由で2回しか接種しなかった患者(n=422)は84.1%、1回だけの患者(n=196)は、何と、100%だった。

無作為化割付試験ではないし、HPV16/18型に感染するかどうかはパートナーや性活動にもよるのでサンプル数が少ないと誤差が大きくなる。一回も接種しなかった人のデータも見てみたいものである。それはそれとして、2回接種でも十分な量の抗体を獲得できるならば、何らかの理由で2回目をスキップせざるを得なかった人には朗報だし、1回目で副反応(副作用)が出た患者は2回目を見送り、十分に検討した上でもし必要なら6ヶ月目に接種するようなことも可能になるだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:Kleimerらの論文(JNCI誌、オープンアクセス)


GSKは、Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)を卵巣癌の維持療法薬として欧州で適応拡大申請したことも発表した。VEGFR2チロシンキナーゼ阻害剤で、現在は腎細胞腫に承認されている。

臨床試験では、卵巣癌の一次治療(治癒目的ではない切除術と化学療法)を受けて部分反応・疾病安定化した患者に一日800mgを投与したところ、PFS(無増悪生存期間)がメジアン17.9ヶ月、偽薬群は12.3ヶ月、HR0.77でp=0.0021となった。全生存期間は未だ成熟しておらず差が無いようだ。深刻な有害事象の発生率は各26%と11%で、肝機能検査値異常や発熱、高血圧など既知の副作用が増加した。

リンク:

GSKのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ロシュのパージェタのネオアジュバント療法をFDA諮問委員会が討議へ

(2013年8月9日発表)

FDAは9月12日に腫瘍学薬諮問委員会を招集して、ロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を用いるネオアジュバント療法について検討すると発表した。her2陽性早期乳癌の第二相試験でHerceptinやdocetaxelと併用したところ、病理組織学的完全反応率が45.8%とHerceptin・docetaxelの二剤だけの29.0%を有意に上回った。優先審査指定を受け、審査期限は10月31日。

早期乳癌の摘出術の前に化学療法を施行して腫瘍を小さくするネオアジュバント療法は広く採用されているが、正式に承認されている薬はないとのことだ。何か特別な理由があるのか、FDAの分析が注目される。

リンク:ロシュのプレスリリース

FDA諮問委員会がバイエルの肺高血圧症治療薬を支持

(2013年8月6日発表)

FDAの心血管腎臓薬諮問委員会は、バイエルが承認申請したsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激剤、Adempas(riociguat)の承認を全員一致で支持した。5種類の肺高血圧症のうち、肺動脈高血圧症と血管内膜切除不適の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療に用いる。優先審査指定を受けているので、審査期限は不明だが、10月には承認されるのではないか。日本でも5月にCTEPH向けに承認申請された。

sGC刺激剤は酸化窒素合成酵素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに介入、sGCの一酸化窒素感受性を改善する。一日三回、経口投与する。治験では6分歩行テストの成績を30~50メートル改善し、WHO機能クラスの悪化を抑制した。他の作用機序の薬と併用することも可能な模様だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

FDA諮問委員会はサムスカの適応拡大を支持せず

(2013年8月5日発表)

FDA心血管腎臓薬諮問委員会は、Samsca(tolvaptan)の適応拡大申請を検討したが、便益がリスクを上回ると判定した委員は少数だった。予想された結果であり、承認されない可能性が高まった。

大塚製薬は体液貯留型/中立型の低ナトリウム血症治療薬Samscaを常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療に充てる適応拡大試験を成功させ、承認申請したが、ネックとなったのは肝毒性だ。Hyの法則該当例が300人に一人と多く、肝不全・肝移植のリスクが3000人に一人と高い、と推定された。

ADPKDは緩徐だが深刻な合併症をもたらすので、便益が明確なら承認される可能性があったが、腎濾過率改善作用は小さく、病気があまり進行していない患者を対象としたため腎不全予防効果は確認できなかった。更に、ドロップアウトが23%と多かったため、薬効解析データを慎重に評価する必要があった。

このため、便益がリスクを上回ると判定したのは15人の委員のうち6人だけで、9人は反対した。審査期限は9月1日だが、大塚は審査完了通知を受領することになりそうだ。

ノボの第XIII因子は再び審査完了通知

(2013年8月8日発表)

ノボ ノルディスクは、2013年第2四半期決算発表に際して、FDAからNovoThirteen(catridecacog)の審査完了通知を受領したことを明らかにした。先天性第XIII因子欠乏症(患者は世界で900人)の出血事故予防用途で承認申請し、欧州では昨年9月に承認されたが、米国は昨年2月に続き今年6月も審査完了通知しかもらえなかった。今回はcGMP問題が絡んでいる模様なので、時間が掛かるかもしれない。

NovoThirteenはZymoGenetics(後にBMSが買収)からライセンスした遺伝子組換え型第XIII因子Aサブユニットで、Bサブユニットと結合し、活性化するとフィブリンとクロスリンクして網状に変え、構造を強化すると共に溶解されにくくする。

様々な用途探索試験が実施されているが、潰瘍性大腸炎は第二相試験がフェールし開発中止となったことも公表された。

リンク:ノボの決算発表資料(pdfファイル、第17頁に関連情報有り)

【承認】


セルジーンの新薬がEUで承認

(2013年8月9日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はEUがpomalidomideを多発骨髄腫の三次治療薬として承認したと発表した。最終治療に反応しなかった難治性患者にdexamethasoneと併用する。28日サイクルで21日間、経口投与する。治験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン3.6ヶ月とdexamethasoneだけの群の1.8ヶ月を上回り、全生存のハザードレシオも0.53で有意な差があった。セルジーンにとっては、Thalomid(thalidomide)、Revlimid(lenalidomide、和名レブナミド)に次ぐ第三のIMiDSとなる。

米国ではPomalystのブランド名で2月に承認、月1万500ドルの価格で発売された。欧州ではImnovid名に決まったようで、EUに製品名変更通知を行う予定。

リンク:セルジーンのプレスリリース

テバの長期作用性G-CSFがEUで承認

(2013年8月8日発表)

テバ(NYSE:TEVA)は、Lonquex(lipegfilgrastim)が化学療法誘導性好中球減少症の治療薬としてEUで承認されたと発表した。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim)と同じ遺伝子組換え型長期作用性G-CSFだが、バイオシミラーとしての承認ではなく、新薬として申請・承認された模様だ。

Lonquexはテバが2010年に買収したドイツのGE薬メーカー、ratiopharmaの開発品で、テバはnovel glycoPEGylated filgrastim moleculeと呼んでいる。

リンク:テバのプレスリリース

今週は以上です。

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