2013年7月21日

海外医薬ニュース2013年7月21日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米検事局がノバルティスのジレニアのマーケティング方法を捜索
  • AAIC:様々な作用機序のアルツハイマー病薬パイプライン
  • レブラミドの第三相慢性リンパ性白血病試験が死亡リスクで中断
  • ブリディオンのFDA諮問委員会はキャンセルに
  • ロシュのErivedgeがEUで承認


【今週の話題】


米検事局がノバルティスのジレニアのマーケティング方法を捜索

(2013年7月17日発表)

米国の検事局が今月、ノバルティスに対して多発性硬化症用薬Gilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)のマーケティングに関する資料を提出するよう民事捜索要求を行ったことが判明した。ノバルティスが2013年第2四半期決算報告資料の中で明らかにしたもの。

Gilenyaは田辺三菱製薬が発見したS1P受容体調節剤で、2013年上半期の売上高が8億ドルを超える大型薬。今回の要求は医療従事者に対する報酬等に関するもので、おそらく、製薬会社が自社の医薬品を処方した医師に支払うキックバックの妥当性を調べるのだろう。

この種のキックバックには、(1)医薬品の特徴に関する録音を電話で聞くと家族全員でディナーをタダで食べることができる、(2)臨床研究の名目で簡単なアンケートに答えると数百ドルの報酬を得ることができる、(3)医療従事者向け勉強会で未承認用途での使用経験などをレクチャーした医師に講師料を払う、などがあり、シェアを拡大する手段として、あるいは、未承認用途での普及に拍車を掛ける方法として、人気がある。

しかし、米国では近年、取り締まりが厳しくなっており、(3)についてはファイザーなどの製薬会社が、多額の報酬を払った医師の名前を公表した。また、多くの製薬会社が司法省に多額の罰金・和解金を払っている。

ノバルティス自身も4億ドル以上の罰金・和解金を払うと共に、『高潔』を旨とすることに同意した。もし今回の疑惑が『企業高潔同意』に抵触すると判定された場合、更に巨額の罰金・和解金を課せられる可能性が生じる。

多発性硬化症用薬では今年3月にバイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)が米国で承認された。どちらも経口剤であり、忍容性はTecfideraのほうが良好であるように見えるので、Gilenyaには脅威になる。先発の利を生かして今のうちに何とか売上を伸ばしておきたいところだが、検事局の介入で見通しが不透明になってきた。

デトロイト市がチャプター9に基づく財政再建手続きの申請を行ったが、原因の一つは高齢者・低所得者向け医療保障制度である模様だ。ミシガン州は医療費抑制にアグレッシブだが、その中心であるデトロイトの財政が破綻したことは問題の深刻さ、解決の困難さを示している。合理的な解決策は効果の疑わしい医療を止めることや、医療費増大に繋がる違法行為を取り締まること等だ。デトロイト事件を機に、改めて医療費抑制・キックバック規制がステップアップするのではないだろうか?

リンク:ノバルティスの決算発表資料(pdfファイル。上記の記載は39頁目)

リンク:PharmaLiveの関連記事

【新薬開発】


AAIC:様々な作用機序のアルツハイマー病薬パイプライン

(2013年7月14日発表)

AAIC(アルツハイマー協会国際会議)でMSDのBACE1阻害剤、ルンドベック/大塚製薬の5-HT6拮抗剤、Chiesi社の小膠細胞モジュレータの臨床初期・中期試験のデータが発表された。MSDは第2/3相試験を開始、ルンドベック/大塚も年内に第3相を開始予定。更に、イーライリリーが抗アミロイド・ベータ抗体で再び第三相試験を開始することを改めて表明。武田薬品のアクトスを用いた第三相MCI(軽度認知障害)予防試験の計画も発表された。

何れも有望と判を押すことはできず、もし第三相試験がフェールしたとしてもアルツハイマー病研究の重要な一里塚になるだろう、位に書いておいた方が良さそうだが、少なくとも、研究意欲と予算は餓えていないようだ。

MSDのBACE1阻害剤、MK-8931(SCH 900931)は中重度アルツハイマー病(AD)患者に7日間反復投与した後期第1相試験の結果が発表された。脳脊髄液中のアミロイド・ベータ40(投与後24時間の時間加重平均値)が用量依存的に減少した(12mgを一日一回投与した群はベースライン比57%、40mg群は79%、60mg群は84%)。アミロイド・ベータ42も各群53%、71%、81%減少した。

同社は昨年12月に第2/3相試験を開始。第二相部分では200名、第三相部分は1700名の軽中度アルツハイマー病患者を組入れて、この三用量または偽薬を78週間投与し、認知機能(ADAS-Cog)と生活機能(ADCS-ADL)の変化を偽薬と比較する。結果が判明するのは2017年後半になりそうだ。

アミロイド仮説によると、アルツハイマー病はアミロイド・ベータの蓄積が炎症反応を誘発し、周辺の神経細胞に損傷を与える。BACE1はアミロイド前駆細胞からアミロイド・ベータを切り出す酵素の一つで、今回、BACE1を阻害すればアミロイド・ベータが産生され脳脊髄液中に分布するのを抑制できることが明らかになった。但し、小規模な試験なので症状改善作用は検討できない。アミロイド・ベータを切り出すもう一つの酵素であるガンマ・セクレターゼ阻害剤の第三相試験はフェールした。

安全性面では、BACE1ノックアウトマウスには神経細胞の導電障害が見られるようだが、BACE1阻害剤のサルやヒトの試験では見られない模様であり、発達期を終えた高齢者では問題ないのかもしれない。イーライリリーのLY2811376で見られた網膜色素上皮異常はノックアウトマウスでは見られないのでオフターゲット毒性と考えられている。何れにせよ、第2/3相試験が完了すれば答えが出るだろう。MSDの第2/3相試験はBACE1阻害剤を開発しているイーライリリーやエーザイ、ロシュなど多くの製薬会社にとっても注目だ。

尚、MK-8931は旧シェリング・プラウがライガンド社(Nasdaq:LGND)と行った共同研究に関連している模様であり、ライガンドは売上高ロイヤルティを得ることができる。

リンク:MSDのプレスリリース

アミロイド仮説はエラン/ジョンソン・エンド・ジョンソン/ファイザーやイーライリリーが第三相試験を実施したが、何れもフェールした。一番惜しかったのがLY2062430(solanezumab)の試験で、イーライリリーは当局に承認申請を打診したが断念、改めて第三相試験の実施を決めたが、7月12日の投資家向けウェブキャストで、具体的な内容を公表した。

最初の二本の試験のプール分析では、軽度AD患者のADAS-Cog14で治療効果34%(p=0.001)、ADCS-iADLで同18%(p=0.045)と良い結果が出た。このため、追加試験では軽度患者だけを2100人組入れて検出力を大幅に増強し、この二項目を主評価項目とする。新しい工夫はアミロイド・ベータの関与が疑われる症例だけをPETや脳脊髄液検査でスクリーニングすること。前二本では組入れ患者の75%が該当したが、今回の試験では50%と保守的な前提を置いている。

当然のことながら組入れに時間が掛かり、同社は22ヵ月を想定。治験期間は18ヶ月なので、結果が出るのは16年末から17年前半になりそうだ。組入れを迅速に完了すべく努力するだろうし、データ安全性監視委員会の裁量で中間薬効解析を行うことも可能なので、前倒しになる可能性もありそうだ。

LY2062430などの試験で注意しなければならないのは、目先の症状改善作用ではなく、長期的な悪化を穏やかにする効果を検討していることだ。アセチルコリン還元酵素阻害剤(AChE阻害剤)の試験では、ADAS-Cogなどが改善した。LY2062430の最初の二本の第三相では、悪化が偽薬より小さかった。AChE阻害剤でもやがて悪化し始めるので結局は同じなのだが、統計学的に有意な治療効果があったとしても、患者にとっての意味は違うかもしれない。

尚、この二本の治験論文は既に医学誌に提出されたとのことなので、査読で問題が生じない限り、間もなく刊行されるのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのウェブキャストの一覧

ルンドベックは、昨年、5-HT6アンタゴニストLu AE58054のPOC試験成功を発表した。今回、開発販売パートナーである大塚製薬と連名で学会発表プレスリリースを出したが、データは記されていない。治験登録や報道によると以下のような内容であり、特に効果が高いようには見えない。

この試験は2009年末に欧州、豪州、カナダの医療施設で開始された。中度ADでdonepezil(エーザイのアリセプト)を服用している患者278人を偽薬群とLu AE58054群に無作為化割付して24週間治療し、ADAS-Cogの変化を比較した。結果は、偽薬群がベースライン比1.5ポイント悪化したのに対して、Lu AE58054群は1ポイント改善した(p=0.004)。二次的評価項目のグローバル評価や生活機能でも改善のトレンドが見られた(この場合の『トレンド』は、有意ではないという意味)。

安全性面では5-HT6アンタゴニストもdonepezilもアセチルコリンを増強するのでコリン性副作用である下痢、悪心、嘔吐が懸念されたが、発生数は各群14例と17例で若干増える程度だった。有害事象による治験離脱は各10例と23例で倍増。肝機能検査値異常によるものが11例と多かったことが響いたが、服用を止めても、続けても、正常に戻るとのことなので、判断は難しい。

臨床検査値異常に基づく治験離脱は、症状が無くても強制的に離脱するようプロトコルで定めている場合があるからだ。もし一時的で深刻ではないと判断されれば、今後の試験ではプロトコルが見直され、ドロップアウトが減ることになるだろう。

5-HT6は主として脳の学習や記憶に係る部位に発現する受容体で、活性化するとGABAやアセチルコリンの分泌を抑制するとのことだ。アセチルコリン還元酵素阻害剤はアセチルコリンを長持ちさせるので、この二剤の併用は異なった方法でアセチルコリンを増強することになる。新しい作用機序だが、標的が既存薬と類似している点で安心感がある。

とはいえ、治療効果の2.5ポイントは決して高くない。一般的にAD治療薬の効果は5ポイント程度欲しいと言われている。実際にはこんなに効果が高い薬はないが、それでも、2.5ポイントというのは既存薬の治験データの下限である。また、ADAS-Cogのp値がこんなに良い、つまり、検出力の高い試験であったにもかかわらず他の評価項目で有意差が出なかったのは奇異だ。

両社は年内に軽中度ADの第三相donepezilアドオン試験を開始する予定。第二相試験の再現を狙うためには、中東欧やアジアの施設をできるだけ除外して、米国を含む英語圏を中心に実施する方が良いだろう。軽度患者に対する有効性は確認されていないので、中度患者だけのサブグループ解析ができるようにデザインしたほうが成功確率が高まるだろう。

5-HT6アンタゴニストはワイス(現ファイザー)がSAM-531で第二相試験を行ったが開発中止、現在はSAM-760/PF-05212377にシフトしたようだ。GSKも742457で後期第二相試験を実施、ある程度の効果が見られたが、その後、開発を中断している様子だ。両社とも、Lu AE58054の第三相試験の成否を注目しているだろう。

リンク:MedPageのLu AE58054に関する記事(要登録)

変わり種では、イタリアのChiesi PharmaceuticalsのCHF5074の第二相延長試験の結果も発表された。脳細胞でマクロファージ様の機能を果たす、小膠細胞をモジュレートする薬とのことだが、良く分からない。今回の第二相データも良く分からない。

元々は、MCI(軽度認知障害)を持つ患者74人を偽薬、一日200mg、400mg、600mgの4群に割付けて12週間治療した偽薬対照二重盲検試験なのだが、何も報じられていないので、おそらくフェールしたのだろう。偽薬群以外はオープンレーベル延長試験、そして更に、長期延長試験に進んだ。

今回発表されたのは64週時点の中間解析で、聞いたことのない複数のテストで認知機能がベースライン比で有意に改善した。ApoE-4陽性患者のほうが陰性より良い結果が出た。有害事象は用量依存的な下痢で、200mgの発生率は1.4%だったが600mgでは16%に達した。

この種のデータで気を付けなければならないのは、第一に、サバイバル・バイアスがあることだ。解析対象は約30例とintent-to-treatの半分である。残りの半分には効果がない、または、有害で治療を止めざるを得ないと保守的に評価すると、治療効果が半減してしまう。

そもそも、今回の解析は治験の主目的ではないだろう。フェールした試験でも様々な評価項目を比較すれば偶然に有意差が出ることもある。この薬の開発を断念するのは早計で、もう少し研究を続けた方が良い、程度に受け止めておいた方が良さそうだ。

リンク:MedPageの関連記事(要登録)

リンク:アルツハイマー協会のMK-8931、CHF5074、pioglitazoneの試験に関するリリース

最後に、上記のアルツハイマー協会のリリースによると、二型糖尿病薬pioglitazone(武田薬品のActos)を用いた第三相MCI予防試験が計画されているようだ。武田薬品は、ApoE4とTOMM40の多型、そして年齢を用いてアルツハイマー病のリスクを予測する手法をAAICで発表したとのプレスリリースを出したが、第三相試験はこの手法を用いて高リスク健常者をスクリーニングし、pioglitazoneのMCI発症予防効果を検討する模様だ。

PPAR作動剤ではGSKがAvandia(rosiglitazone)を用いて第三相AD治療試験を行ったが、効果がなかった。pioglitazoneも2000年代に第二相試験が行われたが、その後、音沙汰がなかった。安全性疑惑が生じたことが影響したのかもしれないし、そもそも、大きな効果がなかったのかもしれない(もし効果の兆しでもあったのなら、もっと早く、AD治療で第三相を始めただろう)。

今回の話で感心するのは、武田が、特許失効期に入ったActosの臨床試験をまだ行う模様であることだ。研究者主導試験なのだろうが、通常は、特許が切れた薬の試験のスポンサーになることはあり得ない。今回の試験が成功したら新しい治療薬のヒントが生まれるので意味がない訳ではないが、情報は広く一般に公開されるだろうから、武田が特に有利になるわけではないだろう。おそらくは、純粋に、ADの医学の進歩を後押しする意図なのではないか。

リンク:武田のプレスリリース

レブラミドの第三相慢性リンパ性白血病試験が死亡リスクで中断

(2013年7月18日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ORIGIN第三相試験でRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)群の投与を中止したと発表した。死亡率に群間の偏りが発生し、FDAが治験中断を命じた。残念な出来事だが、この試験に組入れられた強化化学療法不耐患者は、Revlimidにも耐えられないのだろう。

ORIGIN試験は、B細胞性慢性リンパ性白血病の治療を初めて受ける、fludarabineやbendamustineに不適な疾患(糖尿、慢性心不全など)を持つ高齢者450人を、Revlimid群とchlorambucil群に無作為化割付してPFS(無増悪進行期間)を比較したもの。中間解析でRevlimid群の死亡例が210人中34人と、対照群の211人中18人を大きく上回ったため、Revlimid群の投与を止めることになった。

Revlimidは多発骨髄腫の薬として数多くの試験が行われている。抗癌剤なので副作用が多いが、広く用いられており、その意味で、許容されている。他の慢性リンパ性白血病試験は続行する模様であり、おそらく、Revlimidの未知の危険性が浮上したということではなく、脆弱な患者に使える程忍容性が高い訳ではないことを示したと受け止めるべきなのだろう。

ところで、セルジーンのプレスリリースによるとORIGINという名称は商標登録されているようだが、そうすると、サノフィが持効性インスリンのLantusで行ったORIGIN試験はどうなるのだろうか?

リンク:セルジーンのプレスリリース

リンク:ORIGIN試験の治験登録

【承認審査・委員会】


ブリディオンのFDA諮問委員会はキャンセルに

(2013年7月16日発表)

MSDはBridion(sugammadex、和名ブリディオン)に関するFDA麻酔鎮痛薬品諮問委員会がキャンセルされたと発表した。安全性確認試験を実施した機関にFDAが立入り調査を行った時に、何か懸念が生じたようだ。

この選択的筋弛緩剤結合剤は、全身麻酔薬rocuroniumやvecuroniumに結合して効果を速やかにオフセットする。2008年に欧州などで承認され、2010年承認の日本で特に普及しているようだ。米国では2007年に承認申請され優先審査指定を受けたが、過敏反応リスクに関する懸念から承認されず、健常者を対象にアレルギー感受性試験を行うことになった。過敏反応が起きる閾値を下げてしまう可能性があるようだ。但し、治験では深刻な症例は発生していない模様。

アレルギー感受性試験は4施設で行われたが、FDAがこのうち一つの施設を立入り調査した時に観察事項があった模様。どのようなものかは分からないが、諮問委員会をキャンセルするほどなのだから、その施設のデータの信ぴょう性に係るものなのだろう。もし解析から除外することになったら、症例不足で安全性を検討できなくなるかもしれない。

Bridionは上記の麻酔薬を開発したオルガノンの開発品で、同社を買収したシェリング・プラウをMSDが買収した。シェリング・プラウ時代は大型新薬と期待されたものだが、米国の発売はまたお預けになった。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


ロシュのErivedgeがEUで承認

(2013年7月15日発表)

ロシュは、Erivedge(vismodegib)がEUで末期基底細胞腫向けに承認されたと発表した。Curis(Nasdaq:CRIS)からライセンスしたヘッジホッグ・アンタゴニストで、膜貫通型蛋白Smoothenedに結合・阻害して、末期基底細胞腫でしばしば見られるヘッジホッグ・パスウェイの異常亢進を緩和、癌細胞の成長とアポトーシス回避メカニズムを抑制する。基底細胞腫は米国で年100万人が診断される、珍しくない疾患だが切除術が有効で末期に進むのは1%未満と推測されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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