2013年6月9日

海外医薬ニュース2013年6月9日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:ベーリンガーのVEGFR阻害剤の第三相が成功?
  • ASCO:MSDの抗PD-1ヒト化抗体はnivolumabより効果が高い?
  • ASCO:第二のALK阻害剤はザーコリ耐性癌にも有効
  • ASCO:アフィニトールはher2陽性乳癌にも有効
  • ASCO:ネクサバールも分化甲状腺癌に有効
  • タイケルブの胃癌試験はフェール
  • アイリーアも病的近視による血管新生に有効
  • サノフィがPARP阻害剤とXa阻害剤の開発を中止
  • アストラゼネカがSyk阻害剤の承認申請を断念


【新薬開発】


ASCO:ベーリンガーのVEGFR阻害剤の第三相が成功?

(2013年6月3日発表)

ASCO米国臨床腫瘍学会で様々な新薬の第三相試験成績が発表された。ベーリンガー・インゲルハイムは株式を公開していないせいか開発状況に関する情報が少なく、学会発表が重要な情報源になる。同社がトリプル・アンジオキナーゼ阻害剤と呼ぶBIBF 1120(nintedanib)の第三相非小細胞性肺癌二次治療試験の結果が発表されたが、成功したともフェールしたとも言える内容だった。

この、欧州、南アフリカ、アジアの施設で実施された二重盲検試験は1314人の患者をdocetaxelとnintedanibを併用する群とdocetaxelと偽薬の群に無作為化割付し、PFS(無増悪生存期間)を比較したもの。

結果はメジアン3.4ヶ月対2.7ヶ月、HR0.79、p=0.0019となり統計学的に有意に上回った。尤も、メジアン値の差は1ヶ月足らずで、悪心嘔吐や下痢、肝機能検査値異常などの副作用の増加を正当化できるかどうか微妙だ。更に、全生存期間はメジアン10.1ヶ月対9.1ヶ月、HR0.94で大差なかった。

サブグループ分析では線種の患者に好成績だった。メジアンPFSは12.6ヶ月対10.3ヶ月、全生存期間は12.6ヶ月対10.3ヶ月でp値が0.05を下回った。とはいえ、所詮サブグループ分析に過ぎず、また、全生存期間のログランクp値は0.0359なので多重性の補正を行えば統計学的に有意とは言えないだろう。

VEGFを阻害する薬の非小細胞性肺癌における代表格はロシュのAvastin(bevacizumab)だが、4割を占める扁平上皮腫には効果が弱く、吐血リスクが高まる可能性もあるのでむしろ有害かもしれない。線種などには有効なので、今日の標準的一次治療薬になっている。ところが、本試験はAvastin経験者を除外したので、エビデンスとしての価値が低い。nintedanibも扁平上皮腫に効果が弱いとなると、出番は殆どないことになる。

nintedanibの第三相非扁平上皮非小細胞性肺癌試験(Alimta併用)は中間解析で無益性が判定され、打ち切りになったようだ。肺癌には有効ではないのだろう。この他に、卵巣癌や特発性肺線維症で第三相試験が行われており、年内にも結果が発表されるのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

ASCO:MSDの抗PD-1ヒト化抗体はnivolumabより効果が高い?

(2013年6月2日発表)

今回のASCOの目玉の一つはPD-1のパスウェイに介入する抗体医薬だ。BMSが小野薬品からライセンスしたBMS-936558(nivolumab)やロシュの抗

PD-L1抗体RG7446/MPDL3280A、そしてMSDのMK-3475(lambrolizumab)が悪性黒色腫に良績を出した。

BMS-936558は第三相入りが最も早く非小細胞性肺癌や腎細胞腫でも第三相と開発が最も進んでいる。RG7446はPD-L1発現状況を手掛かりにして有効性を予測できる可能性があり、もし実現すれば、PD-1/PD-L1に介入する薬の中で第一選択になるだろう。一方、lambrolizumabは今年、第三相入りしたばかりだが、順調なら2015年にも成否判明と、BMSとの差を急速に詰めている。

このlambrolizumabは、ASCOで百人を超える大規模な後期第一相試験の途中経過(中間解析)が発表された。用量漸増試験の目標用量である10mg/kgを2週間に一回投与した群は第三者評価によるORR(客観的反応率)が52%。昨年11月の学会発表時点の51%と大差なく、症例が増えても数値が安定的であることは好ましい。3週間に一回、あるいは2mg/kgを3週間に一回投与した群のORRは25~27%と見劣りするので、10mg/kg2週間に一回が至適なのだろう。

nivolumabの試験のORRは40%だったので、lambrolizumabの方が効果が高そうだ。尤も、異なった試験、しかも第一相や第二相のデータを比較するのは見込み外れの元であり、また、免疫強化療法はORRと延命効果が必ずしも相関しない。更に、標的を同じくする抗体医薬はヒト化抗体でも完全ヒト抗体でも効果は大差ないというのがこれまでの薬の教訓である。第三相試験の結果が出るまでは、nivolumabが逆転・キャッチアップする可能性もあると考えた方が良いだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

ASCO:第二のALK阻害剤はザーコリ耐性癌にも有効

(2013年6月3日発表)

FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けたノバルティスのALK阻害剤、LDK378の治験データが発表された。第一相試験で変異ALK陽性非小細胞性肺癌78人に一日750mgを投与したところ、ORR60%と高い成果を上げた。

ファースト・イン・クラスのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)による治療を受けた患者では59%、未経験者は62%とのことなので大差ない。in vitroでもXalkori耐性変異型に有効だったとのことなので、Xalkoriの次に使う薬、あるいはXalkoriに代わる薬として有望だ。中枢神経系転移を防ぐ可能性も指摘されているようだ。

現在、変異ALK陽性非小細胞性肺癌の第二相試験が進行中で、うち一本は化学療法やXalkori経験者を対象としているので、早ければ2014年にも発売される可能性がある。

変異ALK型は非小細胞性肺癌の数パーセントを占める稀なタイプで、独立行政法人科学技術振興機構の補助金を受けて間野博行らが行った研究で発見された。標的が決まれば今日のコンパウンド・ライブラリー・スクリーニング技術を用いることで有望なコンパウンドを迅速に発見することができる。激烈な開発競争のスタートだ。

Xalkoriが最初にゴールできたのは、おそらく、MET阻害剤として既に臨床入りしていたアドバンテージがあったからだろう。水面下ではALK選択性が高い、あるいは、Xalkori耐性型に活性を持つコンパウンドが数多く開発されているはずと推測していたが、遂に姿を現した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ASCO:アフィニトールはher2陽性乳癌にも有効

(2013年6月2日発表)

ノバルティスのmTOR阻害剤、Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)はホルモン療法再発性her2陰性転移性乳癌に用いることが承認されているが、her2陽性乳癌にも有効であることが第三相試験で確認された。

タクサン系の抗癌剤とHerceptin(trastuzumab、ロシュ)による一次治療を受け、Herceptinに抵抗性を示した患者を組入れて、vinorelbine、Herceptin、Afinitorの三剤併用とvinorelbine、Herceptin、偽薬の二剤併用を比較したところ、メジアンPFSが7.0ヶ月対5.8ヶ月、HR0.78、pは0.01未満と有意に延長した。全生存の解析は未だ機が熟していない(イベント数が目標に到達していない)。ノバルティスは適応拡大申請する予定。

Herceptin抵抗癌に使う薬としてはKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)が今年2月に米国で承認された。併用薬が異なるものの、治療効果(メジアンPFSの対照群との差)は3ヶ月、HRも0.65なので、Afinitorの数値は見劣りする。それでも、どちらも特有の副作用を持つし、vinorelbineを好む医師もいるので、選択肢が増えることはポジティブだ。

素朴な疑問は、併用療法なのにHerceptinに抵抗性を持つかどうか、どうやって見分けるのだろう?

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ASCO:ネクサバールも分化甲状腺癌に有効

(2013年月6日2発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)の第三相甲状腺癌試験の成功を発表した。末期・転移性分化甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療がフェールした患者に、400mgを一日二回投与したところ、メジアンPFSが10.8ヶ月と偽薬群の5.8ヶ月を上回り、HR0.587で統計学的に有意だった。バイエルは適応拡大の予定で、承認されれば腎細胞腫、肝細胞腫に次ぐ第三の用途となる。

甲状腺癌は世界で年16万人が診断されるが、死亡は年2.5万人で、他の癌ほど予後が悪くはない。放射性ヨウ素による治療が有効だからだ。不応・転移例でも直ぐに死亡するわけではないので、単にPFSを延ばすだけでなく、全生存期間を延ばす効果も期待される。ところが、今回の試験では全生存期間に群間差がなかった。偽薬群の71%が増悪後にNexavarによる治療を受けたせいかもしれないが、延命効果を持たない可能性も残っている。承認審査で議論になるだろう。

甲状腺癌にはVEGFR阻害剤が有効である模様で、2011年にはアストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が甲状腺髄様腫に承認された。エーザイのE7080(lenvatinib)もNexavarと同様な試験の結果が来年3月までに判明する見込み。CaprelsaはRET陰性型には効果が弱かったので、実際にはVEGF受容体ではなくRET阻害が作用機序なのかもしれない。様々な薬のデータが出揃えば、明らかになるだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

タイケルブの胃癌試験はフェール

(2013年6月3日発表)

グラクソ・スミスクラインは、her2/EGFR阻害剤Tykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の第三相her2陽性末期胃癌一次治療試験がフェールしたと発表した。抗her2ヒト化モノクローナル抗体Herceptinが承認されている用途であることを考えれば意外な結果だ。詳細は把握していないが、her2陽性の定義が異なるのかもしれない。また、併用薬がcapecitabineは同じだがもう一剤がcisplatinではなくoxaliplatinであることも影響したのかもしれない。

リンク:GSKのプレスリリース

アイリーアも病的近視による血管新生に有効

(2013年6月6日発表)

バイエルは、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)の近視性脈絡膜血管新生(mCNV)第三相試験が成功したと発表した。ノバルティス/ロシュのLucentis(ranibizumab)の試験も成功しており、この種の疾患には抗VEGF抗体が有効なのだろう。バイエルはアジア地区から適応拡大申請する計画。

mCNVはアジアに多いとされ、Eyleaの試験もシンガポールや日本などの施設で実施された。2mgを硝子体内注射し、その後、必要に応じて追加投与する医療の実態に準拠した用法を採用した。対照群は『シャム』と記されているので、注射器で目に空気を吹き掛けて恰も注射したように見せかけたのだろう。眼科の臨床試験の慣例で、二重盲検ではなくダブルマスク試験という用語を使っている。

視力を評価する試験では特殊な視力検査表を用いるので分かりにくいが、24週間の治療でEylea群は14字改善、シャム群は2字の改善に留まった。Lucentisの試験でも1年で14字改善しており、効果は大差ないように見える。

リンク:バイエルのプレスリリース

サノフィがPARP阻害剤とXa阻害剤の開発を中止

(2013年6月3日発表)

サノフィはPARP阻害剤iniparibと点滴用Xa阻害剤otamixabanの開発中止を明らかにした。前者はトリプル・ネガティブ乳癌に続いて、扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相試験がフェールし、また、卵巣癌の第二相試験も良い結果ではなかった模様だ。otamixabanは非ST上昇型急性冠症候群の第三相試験で、効果が非分画ヘパリンを上回らなかった。

PARP阻害剤は最近話題のBRCA変異型乳癌/卵巣癌に有効な可能性があり、だからこそサノフィもBiPar社を買収してiniparibを入手したのだが、残念な結果になった。アストラゼネカが2006年にKuDOS社を買収して入手したolaparibでBRCA変異型卵巣癌に第三相試験を開始する見込みなので、こちらに期待することになる。

otamixabanは他社のXa阻害剤とは異なり点滴用であるため用途が急性期に限られる。安価な非分画ヘパリンと効果が同じでは売れないので優越性試験を行ったのだろうが、第二相試験の成績は特に有望とは見えなかったので、フェールしてもやむを得ないのだろう。大型薬の特許切れが近付くとステージアップのハードルが下がるのか、有望とは思えない薬の第三相入りや第三相試験のフェールが増加する。この点では今回も、2000年前後に見られた現象も、共通している。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

アストラゼネカがSyk阻害剤の承認申請を断念

(2013年6月4日発表)

アストラゼネカはライジェル・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:RIGL)からfostamatinib disodiumをライセンスして経口抗リウマチ薬として第三相試験を実施、三本とも成功したのだが、承認申請はせず権利を返還すると発表した。ライジェルは開発続行を表明しており、おそらく、承認申請した上で販売パートナーを探すことになるのではないか。

Syk阻害剤はマストセルやマクロファージ、BセルのIgG受容体の細胞内シグナル伝達を阻害する。第三相試験では100mgを一日二回投与する用法と、5週目からは150mgを一日一回に切り替える用法を検討したが、後者は効果が弱い。前者は三本とも成功、ACR20奏効率が偽薬群を15ポイント程度上回ったが、承認されている薬と比べて特に良くはない。

とはいえ、後期第二相試験でも同程度だったので、初めから分かっていたことである。ここにきて開発中止・ライセンス返還を決めたのは意外な感じがする。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:ライジェルのプレスリリース

今週は以上です。

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