2013年6月23日

海外医薬ニュース2013年6月23日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESCの注目演題
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンがARN-509を買収
  • 最高裁がリバース・ペイメントの違法性判断基準を提示
  • イエダニ免疫寛容療法用舌下錠の第三相試験が成功
  • ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤の第三相試験データ
  • MLN02が10年の時を経て遂に承認申請
  • 米国でリーシュマニア症治療薬が承認申請
  • FDA諮問委員会がサムスカの適応拡大を検討へ
  • Vibativが院内感染肺炎の治療にも承認


【今週の話題】


ESCの注目演題

(2013年6月18日発表)

9月に開催されるESC欧州心臓学会のレートブレーカー(『ホットライン』)が発表された。注目されるのは先ず、9月1日の11時に発表されるHokusai VTE試験。第一三共が開発した第三の経口Xa阻害剤、edoxabanの静脈血栓塞栓予防効果を検討した大規模アウトカム試験だ。8250人の症候性深静脈血栓・肺塞栓の患者を組入れて、edoxabanと低分子量ヘパリンの再発予防効果を比較した。

心房細動患者の脳卒中予防効果をワーファリンと比較したEngage AF-TIMI48試験の結果も年内に発表されるだろう。成功なら承認申請に進むことになるが、第二のXa阻害剤であるBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)の売り上げが伸び悩んでいることから考えると、市場のパイは当初考えられたほど大きくはないようだ。

続いて発表されるのはサノフィ・アベンティスの点滴用Xa阻害剤、otamixabanの非ST上昇型急性冠症候群再発予防試験。フェールし開発中止になったことが先に公表されている。

9月2日には、DPP-4阻害剤二剤の心血管アウトカム試験の結果が発表される。武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)のEXAMINE試験と、BMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、和名は大塚製薬のオングリザ)のSAVOR-TIMI 53で、何れも血糖値目標に到達していない二型糖尿病で心筋梗塞などのリスクが高い患者を組入れて、主要有害心血管イベントを防ぐ効果を偽薬と比較した。

後者は非劣性解析が成功したものの優越性解析はフェールした旨、メーカー側が公表している。やはり、血糖治療だけでは心筋梗塞を防ぐことはできないのだろう。この二本の試験はFDAの要請に基づき様々な有害事象の群間比較が行われる。リンパ球減少症、感染症、過敏反応、肝臓障害、骨損壊、膵炎、皮膚反応(スティーブンス・ジョンソン症候群や血管浮腫など;血管浮腫症例ではACE阻害剤との関連性も検討)、腎障害、中度・高度腎障害の患者における安全性、などだ。

膵炎はインクレチン療法のクラス・イフェクトと考えられる。ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーもTradjenta(linagliptin)の米国のレーベルを改定し、市販後に致死例を含む膵炎の発生が報告されていることや、膵炎歴を持つ患者における安全性が確立していないことを追記した。各剤の市販後の報告数は決して少なくないので、心血管アウトカム試験でも発生しただろうから、十分に検討できるだろう。

膵島細胞腫は稀なので統計学的な検出力が足りないだろうが、全てのインクレチンのデータが出揃えばメタアナリシスが可能になるかもしれない。

尚、MSDのJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)のTECOS試験の結果は来年になる見込み。EXAMINE試験はNesinaの第三相試験で浮上した心血管毒性・肝毒性懸念を払拭するために必要な試験、SAVORはFDAの新しい規制に対応するための試験であるのに対して、Januviaは規制強化前に承認されたので、急いで行うモティベーションがなかったのだろう。

規制強化は新薬の開発・発売を遅らせる好ましくない面もあるが、規制すればメーカー側は真摯に対応する。日本のように、日本の糖尿病患者は癌で死亡することのほうが多いから心血管アウトカム試験は不要と考える国では、その重要な癌のリスクを評価する手掛かりすら掴むことができず、結局、他の国が規制したから追随するという医学先進国とは思えない対応しかできなくなる。

リンク:ESCのホットライン演題

リンク:BMS/アストラゼネカの6月19日付プレスリリース

リンク:ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーの6月20日付プレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンがARN-509を買収

(2013年6月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)はAragon PharmaceuticalsのARN-509を取得することで合意した。この第二世代アンドロゲン・シグナル阻害剤は、メディベーション/アステラス製薬の前立腺癌用薬Xtandi(enzalutamide)を発見した研究者が創製したフォローオン・コンパウンドで、Xtandiより力価が高いとされる。小規模な第二相試験で良好な成績を上げた。

AragonがARN-509以外の事業をスピンアウトし、残った企業をJNJが6.5億ドルで買収する。開発目標を達成した場合は達成報奨金を最大3.5億ドル払う。JNJが前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)を入手するためにCougar Biotechnologyを買収した時の9.7億ドルと同程度だが、既にXtandiが販売されていることを考えると割高な印象がある。

XtandiはAragonの創立者であるCharles SawyersとMichael JungがUCLAで行った研究の成果で、メディベーションはUCLAからライセンスした。ARN-509はAragonがUCLAからライセンスしたのだが、構造的に類似した化合物であることから、メディベーションは自分が権利を持っていると主張。昨年12月に第一審が主張を却下したが、控訴を検討しているようだ。

リンク:JNJのプレスリリース

リンク:ARN-509の前臨床論文(Cancer Research、オープンアクセス)

最高裁がリバース・ペイメントの違法性判断基準を提示

(2013年6月17日発表)

米国は、特許性新薬の特許に挑戦しGE薬を発売することに成功した会社がGE薬市場を半年間独占できる特許挑戦排他権制度があるため、GE薬メーカーが特許挑戦し、特許権者が特許侵害で提訴するのが日常茶飯事だ。GE薬メーカーは挑戦しなければ損、特許権者は提訴すれば30ヶ月間、GE薬の承認をストップすることができるので提訴しなければ損なのだが、迷惑するのが裁判所だ。薬学、生物学、そして特許法のプロとプロの対決なので容易に結論が出ない。

流れが変わったのはサノフィ・アベンティスのPlavixやアルタナ/ワイス(何れも当時)のProtonixのGE薬戦争だ。GE薬メーカーが判決確定前に発売したが、結局敗訴し、巨額の損害賠償金を払うことになった。特許性新薬メーカーはこのat-risk launchの脅威に怯え、GE薬メーカーは裁判所が以前ほど好意的ではないことを痛感、和解ディールを結ぶのが一般的になった。多くの場合、特許が切れる数ヶ月前に発売できる条項と、特許権者が何らかの形でGE薬メーカーに利益を供与する条項が付される。

民事訴訟では和解はごく一般的な、ある意味では最も望ましい解決方法なので、裁判所も和解ディールに前向きだ。FTC連邦取引委員会はこのリバース・ペイメントをカルテルと見做し告訴したが、複数の控訴裁判所が、特許失効前に発売可能である以上カルテルとは言えないと判定した。特許法で規定されている権利には反トラスト法が適用されない、という考え方もしばしば採用された。ところが、昨年、連邦第三巡回裁判所がリバース・ペイメントは原則違法と判定。控訴裁判所の意見対立が見られることから最高裁がFTCの上告を取り上げ、今回、判断を下した。

5対3の多数意見として下された判断によると、特許失効前の発売が可能というだけでは足りず、その薬の市場規模や和解ディール全体の内容を踏まえて結論を出さなければならない。今回の判決はソルベイ(当時)とワトソン(当時)がテストステロン補充療法Androgelの特許裁判を巡って行った和解に関するものだが、適法性を認めた控訴審判決を最高裁が廃棄・差し戻した。

FTCにとっては一歩前進だが、最高裁はちゃんと審理せよと言っているだけで、リバース・ペイメントは違法と言っているわけではないだろう。第一審・控訴裁判所は今までより手間を掛けて結論を出さなければならなくなった。特許性新薬メーカーの場合も、明らかな利益供与ではなく、企業として合理的な範囲内でGE薬メーカーに儲けさせるスキームを用意する必要があるだろう。

大型薬の特許失効が近付くと自社営業員による販促を止めてCSOに委ねるのが一般的だが、GE薬メーカーに販促を委託し手数料を払ったり、その薬や他の薬の原体を購入したり、あるいは、GE薬メーカーが保有している何かの特許をライセンスしたり、新興市場でGE薬を代わりに販売してもよいだろう。

リンク:FTCのプレスリリース

リンク:FDA Law Blogの解説

【新薬開発】


イエダニ免疫寛容療法用舌下錠の第三相試験が成功

(2013年6月19日発表)

デンマークの免疫寛容療法用薬メーカーであるALK Abelloは、イエダニ・アレルギー用舌下錠の最初の第三相試験が成功したと発表した。同社はチモシーやブタクサ・アレルギー用舌下錠を販売しており、米国でもMSDが承認申請中。家ダニ用は米国ではMSD、日本でも鳥居薬品が開発している。草なら兎も角イエダニの錠剤は抵抗があるかもしれない。

免疫寛解療法は少量のアレルゲンを継続的に投与することで体を慣らし、アレルギー性の鼻炎や喘息発作を予防するもの。フランスを始め欧州では人気があるようだ。ALKはトップメーカーで世界シェア33%、2012年の売上高は注射用が約170億円、経口ドロップが124億円、急崩壊舌下錠のGrazaxは34億円で前期比10%増となっている。

イエダニ・アレルギーの患者は欧州主要5ヵ国で3100万人、うち、免疫寛容療法の対象になる既存療法不応不適な中重度患者は125万人と推測されている。治療を受けているのは34万人、市場規模2億ユーロ程度なので、簡便な錠剤で治療ができるようになれば拡大の余地がある。

今回の試験はアレルギー性鼻炎が対象だが、もう一本の試験と鳥居の試験はアレルギー性喘息患者を組入れており、免疫寛容療法の用途が拡大するか、注目される。ALKはアレルギー性喘息増悪予防試験の結果が2013年第3四半期に出るのを待って2014年に欧州で承認申請する考え。

リンク:ALKのプレスリリース

ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤の第三相試験データ

(2013年6月22日発表)

イーライリリーのLY2189265(dulaglutide)の第三相試験結果がADAで発表された。週一回皮注型ではBMS/アストラゼネカのBydureon(exenatide持効製剤)、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)、GSKのEperzan(albiglutide)に次ぐ第4のGLP-1作用剤で、年内に承認申請される予定。

プレスリリースや抄録を読む限りでは先行品と比べて特に優れているようにも見えないが、低量なら悪心嘔吐の発生率が低いので、取っ付き易いかもしれない。第三相試験全体で膵安全性がどうだったのかも注目される。

dulaglutideはDPP-4に分解され難く改変したヒトGLP-1とヒト免疫グロブリンG4の固定領域重鎖をペプチド・リンカーで繋げて半減期を最長95時間と長期化したもの。第三相試験では様々な実薬と効果を比較したが、Byetta(exenatide)やJanuvia(sitagliptin)だけでなく、意外にも、metforminと比べてもHbA1c低下が有意に大きかった。

ベースライン比低下幅を見ると、低用量(0.75mg週一回)が0.71%、高用量(1.5mg週一回)は0.78%、metforminは0.56%。差は決して大きくないが、一次治療における効果がmetforminと同程度なら大したものだ。既存の週一回皮注型GLP-1作用剤も同程度の効果を持っており、やはり、GLP-1作用剤の最大の長所はDPP-4阻害剤より効果が高いことと言えるだろう。もう一つの特徴である体重抑制作用も確認されたが、意外にも、metforminとは大差なかった。

3mgまでテストした後期第二相試験では、HbA1cは1.5mgと大差なかったが体重低下は3mgのほうが大きかった。Victozaと同様に血糖治療作用と体重低下作用ではプラトー量が異なるのだろう。尤も、3mgは心拍数が若干増加し、悪心嘔吐も増える。二型糖尿病の治療に用いるならば1.5mgで十分だろう。0.75mgとの比較では、一部の試験で効果がやや高かったが、悪心嘔吐下痢が増加するのでどちらが良いか微妙なところだ。

GLP-1作用剤は膵炎のリスクが要チェックだ。dulaglutideは第一相試験で著高量投与群でアミラーゼ上昇が4例発生。1~2mgを投与した第二相試験でも膵炎が一例発生。今回の第三相では膵癌が2例発生したが、薬との関連性はhighly unlikelyと判定されたようだ。

GLP-1作用剤第一号であるByettaと比べて週一回投与型はGLP-1の血中濃度の山谷が小さく、これが効果の高さに繋がっているのだろうが、一方で、メカニズムに基づく副作用のリスクも高まる可能性があり、第三相試験全てのプール分析データが注目される。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


MLN02が10年の時を経て遂に承認申請

(2013年6月21日発表)

武田薬品はMLN02(MLN0002と呼ばれることもある。一般名vedolizumab)を米国でクローン病と潰瘍性大腸炎の治療薬として承認申請した。免疫細胞が発現する接着分子であるアルファ4/ベータ7インテグリンに結合するヒト化抗体で、 小腸血管内皮細胞のMAdCAM-1にトラップされて細胞毒性的Tセル等が腸に移行し炎症を亢進するのを妨げる。

アルファ4だけをブロックするTysabri(natalizumab)もクローン病に承認されているが、PML(進行性白質脳症)のリスクが高まるため余り用いられていない。武田はベータ7もブロックすることでPMLリスクを緩和できると想定していたが、臨床試験のデータで裏付けられたかどうかが注目点だ。

MLN02は武田の子会社であるミレニアム・ファーマシューティカルズがミレニアム前の99年に買収したリューコサイトの開発品。97年にジェネンテックにライセンス、第二相試験が成功したが、治療効果が決して高くなく一部の評価項目では有意差がなかったため返還。ミレニアムは量産法を確立して2007年に再び第二相に挑戦、武田グループ入りと前後して第三相入りした。

リンク:武田のプレスリリース

米国でリーシュマニア症治療薬が承認申請

(2013年6月19日発表)

カナダの製薬会社であるPaladin Labs(TSX:PLB)はFDAがImpavido(miltefosine)の承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。PDUFAは12月19日。適応症はリーシュマニア症で、承認された場合、熱帯病薬開発奨励制度に基づき優先審査券を獲得し、他の薬の承認申請を行う時に優先審査を求めたり、権利を第三者に売却して換金することも可能になる。

ImpavidoはAeterna Zentarisからライセンスした経口剤で欧州などで承認されており、また、WHOの必須薬リストにも採用されている。リーシュマニア症はサシチョウバエが媒介する感染症で、世界で年150~200万人が感染し、7万人が死亡すると推測されている。米国の感染者は少ないと推測され大きな売り上げは期待できないので、優先審査券を有効活用することが肝要だ。

リンク:Paladinのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がサムスカの適応拡大を検討へ

(2013年6月19日発表)

FDAは8月5日に心臓腎臓薬諮問委員会を招集して大塚製薬のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)の適応拡大申請を検討すると発表した。このバソプレシン2受容体拮抗剤はSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)による低ナトリウム血症の治療薬として2009年に米国で承認された。新用途はADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)。米国の患者数は45万人と結構いるが、新薬の適応症としてはあまり聞かない病気であり、薬効評価方法も確立していないだろうから、これが諮問委員会召集の理由かもしれない。

もう一つ考えられるのは肝毒性だ。ADPKD試験ではSIADH治療に用いる量の倍を投与したが、1000例中3例でALT著増と総ビリルビン著増を併発した。FDAのガイドラインによると、慢性病の治療薬の場合、Hyの法則に該当する症例の発生頻度は1000例中1例未満であることが望まれる。もし上記3例のうち一例でも、肝炎や既知の肝毒性を持つ薬を同時使用していなかった症例があった場合、このガイドラインに抵触することになる。

FDAと大塚は上記の事象を安全性通知やドクターレターで医療従事者に連絡、SIADHでも肝臓疾患を持つ患者や30日以上の連続投与を禁止した。ADPKDでは30日以上投与するので違う方法を考えなければならない。この遺伝性疾患は5割の患者がやがて透析を受けるようになる深刻な疾患なので、治療するリスクと治療しないリスクを慎重に比較することになる。おそらく、リスク回避策(REMS)が議題に上がるのではないか。

この場合、問題になるのは日程だ。審査期限は9月1日なので、もしREMSが不十分と見做され再提出になった場合、審査期限が延期される可能性があるだろう。

FDAは新薬の承認審査に際して諮問委員会の意見を求める必要がある。だから、諮問委員会召集はニュースでも何でもないのだが、優先審査の場合は日程がタイトなので、諮問委員会用の資料を1ヶ月前に作成・配布する手間を惜しんでスキップすることが珍しくない。

リンク:FDAのリリース

【承認】


Vibativが院内感染肺炎の治療にも承認

(2013年6月21日発表)

FDAはテラバンスのVibativ(telavancin)をグラム陽性菌による院内感染肺炎(ベンチレータ関連肺炎を含む)の治療に用いる適応拡大を承認した。他の薬が不適切な場合の第二選択薬。2009年に複雑皮膚皮膚構造感染症治療薬として承認されている。テラバンスは第3四半期に発売する予定。

VibativはMRSAにも活性を持つグリコペプチド系抗生物質で、2005年にアステラスがライセンスしたが、腎毒性やQT延長リスクが見られることからライセンス返還となった。テラバンスはライセンスアウトするのではないだろうか。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テラバンスのプレスリリース

今週は以上です。

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