2013年5月26日

海外医薬ニュース2013年5月26日




【ニュース・ヘッドライン】




  • EMAがRAS阻害剤併用のリスクを検討へ
  • ファイザーの抗体薬物複合体の試験がフェール
  • MSDがアデノシン2A受容体アンタゴニストの開発を中止
  • 長期作用性ベータ・インターフェロンが承認申請
  • FDA諮問委員会がオレキシン受容体拮抗剤の承認を支持したが...
  • アステラスはtivozanibをEUで承認申請しない
  • EUがイグザレルトを急性冠症候群に用いることを承認
  • 尿を出させる薬と出させない薬の合剤がオランダで承認
  • 武田の貧血治療薬がスイスでリコール


【今週の話題】


EMAがRAS阻害剤併用のリスクを検討へ

(2013年5月17日発表)

EMA(欧州薬品庁)がレニン・アンジオテンシン系(RAS)をブロックする降圧剤を併用するリスクについて再検討を開始した。BMJ誌に刊行されたMakaniらのメタアナリシス論文などで、高カリウム血症や低血圧、腎不全のリスクが高まる可能性が示唆されたため。

このメタアナリシスはレニン阻害剤Tekturna/Rasilez(aliskiren、和名ラジレス)の試験も含んでいるが、ラジレスは糖尿病性腎症のACE阻害剤/ARB併用アウトカム試験で上記の懸念が浮上し、既に併用禁忌となっているので、検討対象となるのはACE阻害剤とARBの併用だろう。Micardis(telmisartan、和名ミカルディス)のONTARGET試験などで上記の懸念が浮上している。心不全患者の入院リスク削減などポジティブな作用も考慮した上で結論を出すことになりそうだ。

ACE阻害剤とARBを併用してRASを強力に阻害する、というと思い出すのは2003年にLancet誌に掲載されたCOOPERATE試験だ。非糖尿病性の腎症の治療法として、ACE阻害剤とARBの併用が単剤より有益であることを立証した、日本発の世界的なエビデンスとなった。

この論文はLancetが6年後に撤回したのだが、患者同意書や治験記録の不備が理由であり、論文の結論が正しいかどうかは曖昧なままだ。記録不備だけなら治験結果には影響しないかもしれないが、手順に不正や不適切な点があったのなら、解析や結論にも虚偽があるかもしれない。かといって、虚偽を証明するのは容易ではないので、手順不適切を理由に論文を握りつぶすことで解決したのだろう。だが、その結果、デュアルRASブロックの無効性・危険性の確認が遅れ、不適当な医療が続けられた可能性がある。

もう一つ、思い出すのはDiovan(valsartan、和名ディオバン)のKYOTO HEART STUDYだ。この試験はACE阻害剤を服用している患者も組入れたが、特に問題があったとは報告されていない。この治験論文もケアレスミスが理由で撤回された。後に、著者の一人がノバルティスの社員であることが発覚し、京都府立医大病院などが取引停止を決めた。確かに重大な問題だが、この論文の結論が正しいかどうかの方が重要な問題だろう。

データのインプットミスならば、その症例を除外して解析すれば、論文の結論が正しいかどうか検証することができるはずだ。大学側の不正・不適切な行為を追求せず、メーカーの不正・不適切な行為を糾弾するのは問題のすり替えに過ぎないような印象を受ける。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:Harikrishna Makaniらの論文(BMJ、オープンアクセス)

【新薬開発】


ファイザーの抗体薬物複合体の試験がフェール

(2013年5月20日発表)

ファイザーは、CMC-544(inotuzumab ozogamicin)の第三相非ホジキン型リンパ腫(NHL)試験の中止を発表した。再発性・難治性アグレッシブNHLにRituxan(rituximab、和名リツキサン)と併用する効果を検討したが、中間解析で無益性が判定された。この試験の対照群はTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)またはgemcitabineとRituxanを併用したが、前者の併用は効果が大変高く、CMC-544が勝てなかったとしても已むを得ないだろう。

CMC-544は抗CD22ヒト化抗体にcalicheamicinを結合した抗体薬品結合体で、UCBが買収したセルテックがファイザーが買収したワイスにライセンスしたもの。2007年に第三相入りしたが、直後に優れた治療法が発見され試験で採用された治療法が陳腐化してしまい、組入れが進まずに中止された。運のない薬だ。再発性・難治性のCD22陽性急性リンパ芽球性白血病でも第三相試験中。今度こそ運命の女神が微笑んでくれるだろうか。

リンク:ファイザーのプレスリリース

MSDがアデノシン2A受容体アンタゴニストの開発を中止

(2013年5月23日発表)

MSDは、MK-3814(preladenant)のパーキンソン病薬としての開発を中止すると発表した。MK-3814はアデノシン2A受容体アンタゴニストで、早期患者のモノセラピーと進行患者のアドオンで三本の第三相試験が実施されたが、何れもフェールした。

類薬では、協和発酵キリンがKW-6002(istradefylline、和名ノウリアスト)を承認申請したが、承認したのは日本だけで、FDAは有効性や前臨床試験での懸念を理由に承認しなかった。2010年にはバイオジェン・アイデックも前臨床試験で懸念が浮上したことを理由にヴァーナリス社からライセンスしたBIIB014/V2006(vipadenant)の開発を中止した。

パーキンソン病はモデルマウスの登場で開発に拍車がかかり、数多くの画期的新薬が臨床入りしたが、結局、殆どがフェールした。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認申請】


長期作用性ベータ・インターフェロンが承認申請

(2013年5月21日発表)

バイオジェン・アイデックは、Plegridyを再発寛解型多発性硬化症の再発予防薬として米国で承認申請した。同社のAvonexの活性成分であるインターフェロン・ベータ-1aにポリエチレン・グリコール(PEG)を結合して作用を長期化したもので、皮注頻度を週一回ではなく二週に一回、または四週に一回に減らすことができる。EUでも承認申請される見込み。

アルファ・インターフェロンではロシュもMSDもPEG化品にシフトした。ベータ・インターフェロンのPEG化は難しい模様で、時間が掛かったが、承認されればAvonexにバイオ・シミラーが登場しても打撃を最小限に抑えることができるだろう。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がオレキシン受容体拮抗剤の承認を支持したが...

(2013年5月22日発表)

FDA末梢・中枢神経系薬諮問委員会が招集され、MSDが慢性不眠症治療薬として承認申請したオレキシン受容体拮抗剤、MK-4305(suvorexant)を検討した。高用量の安全性を懸念する声が多かったが、低用量については肯定的な意見が多かった。尤も、FDA審査官はどちらの用量にも懸念を持っているようなので、順調に承認されるかどうかは分からない。昨年12月に承認申請された日本の方が先に承認されるのではないか。

オレキシンは筑波大の桜井武が98年に発見した、外側視床下部で分泌されるホルモンで、ナルコレプシーという突然眠ってしまう病気に関与している可能性がある。当然のことながら臨床試験ではナルコレプシーの発生状況が監視された。専門家パネルが疑い例45例を検討し何れもナルコレプシーではないと判定したが、FDAは少なくとも1例は可能例と判定した。更に、用量依存的なキャリー・オーバー・イフェクト(翌朝に眠気が残る)も見られた。自殺行動も8例と、偽薬群のゼロより多かった。

MSDは、第三相試験でテストされた30mgや40mgではなく、低用量(高齢者については15mg、非高齢者は20mg)で開始する用法を採用した。一方、FDAは、低用量でもリスクが見られるため第二相試験でテストされた10mgを用いて追加試験を行うことを望んでいる様子だ。

諮問委員会は、薬効に関しては概ね肯定的で、睡眠維持効果については17人中16人が、入眠促進効果については12人が、支持した。一方、安全性については、低用量は13人が支持したが、高用量を支持したのは7人と半分以下だった。

低用量だけが承認される可能性が出てきたが、FDAの末梢・中枢神経系薬の審査チームはタフなので、容易くは翻意しないだろう。睡眠薬のキャリー・オーバー・イフェクトは多くの交通事故の原因になっていると言われており、また、既存薬では夢遊病や転倒事故などに関する注意・警告も発出されている。効果は総睡眠時間が10~20分伸びる程度なので、リスクと便益が釣り合うか、微妙なところだ。

オレキシン受容体拮抗剤ではスイスのアクテリオン社もalmorexantを第三相入りさせたが、安全性確認試験の結果を受けて開発を中止した。何が問題だったのかは公表されていないが、薬品審査機関には報告しただろう。FDAが慎重なのは、almorexantの知見も影響しているのではないだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

アステラスはtivozanibをEUで承認申請しない

(2013年5月23日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、SECに提出した臨時報告書(form 8-K)の中で、VEGF受容体拮抗剤Tivopath(tivozanib)の開発パートナーであるアステラス製薬がEUでは承認申請しないこと、及び、今後の腎細胞腫試験の費用は負担しないことを決めた旨、公表した。

Tivopathは切除不能腎細胞腫の第三相試験が成功、PFS(無増悪生存期間)が既承認の類薬であるNexavar(sorafenib)を有意に上回ったが、全生存期間は大差なく、むしろ、悪い可能性が浮上した。このため、FDAも諮問委員会も承認に後ろ向きなスタンスだ。アステラスがEUの承認申請を断念したのは事前相談で否定的な評価を受けたからだろう。アヴェオが単独で追加試験を行うのは困難だろうから、Tivopathの開発は暗礁に乗り上げた。

リンク:アヴェオが提出したform 8-K

【承認】


EUがイグザレルトを急性冠症候群に用いることを承認

(2013年5月24日発表)

EUがXarelto(ribaroxaban、和名イグザレルト)の適応拡大を承認した。バイエルのプレスリリースによると、急性冠症候群後の、心臓バイオマーカーが上昇している患者に標準療法と併用し、アテローム血栓性イベントを防止する用法が承認された由だが、意味不明だ。心臓バイオマーカーが上昇したままで再発リスクが高いと判定された患者だけに限定されたのだろうか?

承認申請の根拠となったATLAS ACS2-TIMI 51試験では用量依存的な出血リスクが見られたが、急性冠症候群再発予防効果は用量依存的ではなかった。バイエルは低用量の2.5mg一日二回経口投与だけを承認申請した模様だが、FDAはフォローアップ打切り例が多いことなどを理由に、承認しなかった。EUも、出血リスクを排除できないと考えて、用途を高リスク患者に限定したとしても不思議はない。

リンク:バイエルのプレスリリース

尿を出させる薬と出させない薬の合剤がオランダで承認

(2013年5月23日発表)

アステラス製薬は、Vesomni(tamsulosinとsolifenacinの合剤)がオランダで承認されたと発表した。今後、EUの他の国でも相互認証方式で承認される見込み。適応と効能は、良性前立腺肥大に伴う中重度の蓄尿症状(切迫や頻尿)や排尿症状の改善で、単剤だけでは不十分な場合に用いる。

tamsulosinはアルファ1ブロッカーで、専ら男性の病気である良性前立腺肥大に伴う排尿障害に用いると、尿の出が良くなる。solifenacinはM3受容体拮抗剤で、専ら高年女性の病気である過活動膀胱に用いると、尿切迫・失禁を減らすことができる。両剤の作用は一見すると正反対だが、良性前立腺肥大に第二選択としてM3受容体拮抗剤を用いることも、過活動膀胱にアルファ1ブロッカーを用いることもある。現実は理論より奇なり。患者は十人十色であり、効けばメカニズムはどうでも良いのである。

今後、同社のもう一つの過活動膀胱治療薬であるMybetriq(mirabegron、和名ベタニス)とのコンビ薬も登場するのではないだろうか。

リンク:アステラスのプレスリリース(pdfファイル)

【医薬品の安全性】


武田の貧血治療薬がスイスでリコール

(2013年5月22日発表)

スイスの薬品審査機関であるスイスメディクは、武田薬品がRienso(ferumoxytol)のリコールを開始したと発表した。市販後に過敏反応が致死例1例を含む4例、報告されたため。スイスでの投与例は1000例程度であることを考えれば、この発生率は比較的高い。

RiensoはAMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)が開発した静注用鉄製剤で、鉄欠乏性貧血症の治療に用いる。武田は欧州などの権利を持っている。スイスで販売されていたのは特定のバッチだけで、このバッチはスイス以外では販売されていないとのことなので、米国を含む他の国には波及しない可能性もありそうだ。

リンク:スイスメディクのプレスリリース(Google Translateで英訳)

今週は以上です。

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