2013年5月12日

海外医薬ニュース2013年5月12日版



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAがUSAN一般名を採用しなかった理由
  • 免疫グロブリンのアルツハイマー治験がフェール
  • ベクティビックスの薬効確認試験が成功
  • イーライリリーのenzastaurinは開発中止に
  • エーザイがハラヴェンをEUで適応拡大申請
  • FDAがアドエア後継品を承認
  • 体重管理薬Belviqは6月発売へ
  • FDAがバルプロ酸の胎児知能発育リスクを通知


【今週の話題】


FDAがUSAN一般名を採用しなかった理由

(2013年5月6日発表)

FDAは、今年2月にher2陽性転移性乳癌向けに承認されたジェネンテックのKadcylaについて、処方する時はHerceptinと勘違いされないように製品名またはFDAが決定した一般名であるado-trastuzumab emtansineを用いるよう、注意を促す通知を行った。コンペンディア(医薬品情報集)や医療情報システムのデータも改定するよう呼びかけた。

KadcylaはHerceptinの抗体に細胞毒を結合したもので、体重1kg当り3.6mgを3週間に一回点滴静注する。Herceptinは初回が4mg/kg、二回目以降は2mg/kgを週一回点滴静注なので、初回に限れば間違えてもそれほど変わらないが、二回目以降は量が不足する。そもそも、Kadcylaの現在の承認用途はHerceptinによる前治療を受けた患者なので、Herceptinを投与しても効果は弱いかもしれない(これは明確ではない)。

Kadcylaが承認された時、一般名が米国の命名機関が定めたUSANであるtrastuzumab emtansineと異なるので奇異に感じたが、取り違え懸念が理由だったわけだ。確かに最初の一語はHerceptinと同じであり、早合点するリスクがある。手書きの処方箋だと二語目が読めずに薬剤師がHerceptinを用意するようなことも起こりうるかもしれない。

幸い、市販後には取り違え事故は報告されていないが、臨床試験で一例、発生したとのことだ。厳格かつ慎重に実施される臨床試験で起きた以上、油断はできない。それにしても、なぜこのタイミングで通知したのだろうか?

リンク:FDAのプレスリリース

【新薬開発】


免疫グロブリンのアルツハイマー治験がフェール

(2013年5月7日発表)

バクスター(NYSE:BAX)はGammagard(ヒト由来免疫グロブリン)の軽中度アルツハイマー病第三相試験がフェールしたと発表した。ADCS(米国のアルツハイマー病共同研究グループ)が米国立加齢研究所の支援を受けて実施したもので、390人を組入れて認知機能や生活機能を偽薬と比較したが、二種類の用量の何れも、どちらの薬効評価項目でも、偽薬並みだった。バクスターはGammagardの他のアルツハイマー病試験を中止する。

サブグループ分析で、中程度の患者やApoE4疾病関連遺伝子を持つ患者では高用量を投与した群でADAS-cog(認知機能に関する評価項目)の悪化が小さいトレンドが見られたが、差は1~3ポイントに過ぎない。軽度患者では逆に1ポイント悪く、また、ApoE4型ではない患者では調整MMSE(認知機能に関する副次的な評価項目)が偽薬より悪かった。後者は説明可能かもしれないが、前者は筋が通らないので中程度サブグループの数字も軽度サブグループのものも偶然と考えるのが適切だろう。

ヒト由来免疫グロブリンは複数の小規模な試験で効果の兆しが見られたため、供給不足や価格の高さの障害を乗り越えて第三相試験に進んだ。しかし、裏付けが弱く、組入れ数も少ないので私は懐疑的に見ていた。想定されるメカニズムもアミロイドプラク等の除去なので、数多くの試験がフェールした抗アミロイド療法と類似している。

リンク:バクスターのプレスリリース

リンク:同 治験データ(pdfファイル)

ベクティビックスの薬効確認試験が成功

(2013年5月7日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumumab、和名ベクティビックス)のASPECCT試験が成功したと発表した。野生型krasを発現する転移性結腸直腸癌の三次治療モノセラピー試験で、全生存期間がErbitux(cetuximab)と比べて非劣性だった(ハザードレシオ0.966、95%信頼区間0.839、1.113)。この試験はEUの規制に基づき薬効確認試験として実施された。成功したので、EUにおける承認が条件付き承認から通常の承認に切り替えられることになるだろう。

この二剤は何れもEGFRに結合する抗体で、違いはVectibixが完全ヒト抗体、Erbituxはキメラ抗体であること。開発当初はマウス由来のアミノ酸を含まない完全ヒト抗体のほうが効果や安全性が高いことが期待されたが、他のケースと同様に、大差なかった。

さて、条件付き承認制度は医薬品の開発をスピードアップするために、本来の薬効評価項目(例:延命効果)ではなく代理マーカー(例:反応率)で判定して承認する制度だ。同様な制度を最初に導入した米国では、承認後薬効確認試験が義務付けではなかったためネグレクトが多発した。このため、EUは導入に際して「条件付き承認」であることを明確にし、薬効確認試験を義務付けた。

制度には欠陥が付き物であり、失敗を恐れていたら制度改革はできない。重要なのは、導入後に厳格なモニタリングを行い問題点を把握した上で、必要な修正を行うことだ。迅速承認制度はEUモデルが最も優れている。

リンク:アムジェンのプレスリリース

イーライリリーのenzastaurinは開発中止に

(2013年5月10日発表)

イーライリリーはenzastaurinのびまん性巨大B細胞リンパ腫第三相試験がフェールしたと発表した。難治性神経膠芽腫の第三相も中間解析で打ち切られており、同社は開発を中止した。

enzastaurinはPKCベータ~AKTパスウェイを阻害する経口剤。今回の試験では化学療法とrituximabを併用する一次治療で寛解した患者のPFS(無増悪生存期間)を向上する効果を検討したが、増悪症例数が予想より少なかったため組入れ拡大・試験期間延長が行われ、結果判明が遅れた経緯がある。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


エーザイがハラヴェンをEUで適応拡大申請

(2013年5月7日発表)

エーザイはEUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の適応拡大申請を受理したと発表した。転移性乳癌の三次治療薬として日米欧で承認されているが、二次治療薬としての承認を求めている。

延命効果がXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)より優れることを確認しようとした第三相試験はフェールしたが、数値上は大差なかったので、二次治療薬として承認されている薬と同程度の効果を持つと考えることもできる。しかし、非劣性仮説を検証するための試験ではないので、厳密に言えば、同程度かどうかは分からない。EMA欧州薬品庁は様々なエビデンスを総合的に検討した上で結論を出すことになりそうだ。EMAよりもFDAのほうが慎重に評価するのではないだろうか。

Halavenは非小細胞性肺癌などの適応拡大試験も実施されており、こちらの首尾も注目される。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


FDAがアドエア後継品を承認

(2013年5月10日発表)

FDAは、GSKのBreo Ellipta(fluticasone furoateとvilanterolのコンビ薬;Elliptaは吸入器の製品名)をCOPDの維持療法薬として承認した。Advair(fluticasone propionateとsalmeterolのコンビ薬)の後継品に当たる。違いは、吸入頻度が一日二回ではなく一回で足りることと、喘息症用途は未承認であること。

オフレーベル使用される可能性があるので、Advairなどの他のステロイド・長期作用性ベータ2作用剤コンビ薬と同様に、喘息患者に用いると喘息関連死が増加するリスクがあることが枠付警告されている。COPDは高齢者の病気だが、18歳未満には推奨しないと念押ししたのも、オフレーベル使用を意識したのだろう。

増悪リスク削減効果に関するエビデンスが認められるかどうかが注目されたが、4月の諮問委員会同様に、FDAも効能として認めた。

GSKはAdvairとの直接比較試験も実施したが、効果が優れるわけではないようだ。一日一回の利便性と、新吸入器であるElliptaの使い易さ、格好良さをアピールすることになりそうだ。尤も、AdvairのGE品は未だ発売されていないので、今すぐ乗換をプッシュする必要はない。

Breo ElliptaはGSKとテラバンス(Nasdaq:THRX)の共同開発プロジェクトの成果。この提携が面白いのは、最終的に製品化された薬がどちらの会社の創製品であってもテラバンスが11~14%の売上ロイヤルティを得ることだ(年商が60億ドルを超えたら10%未満に引き下げ)。その代り、米国承認達成金としてGSKに3000万ドルを支払う。

将来、Breoが年商数十億ドルの超大型薬に育ったら、GSKがテラバンスを買収することになるだろう。テラバンスも意識しているのか、先日、GSKからのロイヤルティを受け取る会社と新薬開発を行う会社に企業分割する計画を明らかにした。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース

体重管理薬Belviqは6月発売へ

(2013年5月7日発表)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)と米州における販売権を持つエーザイは、米国麻薬取締局がBelviq(lorcaserin HCl)の麻薬指定を官報で公告したと発表した。30日後の発効を待って、いよいよ発売されることになる。

Belviqは5HT-2cアゴニストで食欲抑制・満腹感促進作用を持つ。一年間の試験で体重が偽薬比3~3.7%低下した。肥満症治療ガイドラインの考え方に即して、12週間治療して5%以上体重が減らなかったら服用中止する。治験では4割程度の患者がこの条件を満たした。

2009年に米国で承認申請され、ラットの癌原性試験や二型糖尿病試験のデータの追加提出を経て、2012年6月に承認された。薬物依存性が見られたため麻薬取締局が規制を検討、予想された通り、スケジュールIV指定となった。医薬品の麻薬規制の中では最も軽く、エーザイが日本で承認申請したこともあるsibutramineもスケジュールIVだ。

問屋取得価格は一ヶ月分が199.5ドルとのことなので、ヴィーヴァスが昨年9月に発売したQsymia(標準用量は月120ドル、部分反応者に使う高用量は183.9ドル)より高い。新興企業は大手と開発販売提携することが多いが、最近の共同開発品は両社が十分な利益を得るために価格を高く設定することが多い。

リンク:アリーナのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがバルプロ酸の胎児知能発育リスクを通知

(2013年5月6日発表)

FDAは、妊婦がバルプロ酸を服用すると子供の知能発育に影響する可能性があることを通知した。NEAD試験の結果に基づくもので、胎児が6歳に達した時のIQがcarbamazepineなど他の抗癲癇薬と比べて有意に低かった。他の疫学研究でも同様な結果が出ていることから、FDAは、妊婦が偏頭痛を予防する目的で服用することを禁忌とし、妊婦カテゴリーをXに変えた。癲癇や双極障害の妊婦については他の薬が無効または不耐の場合に限定するよう推奨しているが妊婦カテゴリーはDを維持した。

バルプロ酸や他の抗癲癇薬の多くは催奇性を持っており、かといって、妊娠中の癲癇発作も防がなければならないので、医師と患者は難しい判断を迫られることになる。判断にはエビデンスが必要なのでレジストリーを設けてデータを集めることが重要だ。今回の通知は直接的には偏頭痛予防用途が対象だが、他の用途でも重要な情報になるだろう。














 VALCARBALAMOPHENY
症例数629410055
IQ平均値97105108108
95% CI94-101102-108105-110104-112



注:VAL=Valproate、CARBA=Carbamazepine、LAMO=Lamotrigine、PHENY=Phenytoin。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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