2013年3月3日

海外医薬ニュース2013年3月3日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ロイヤルティ・ファーマがエランに買収オファー
  • バンコマイシン系静注点滴薬の第三相試験が成功
  • AAD:apremilastの効果は穏やかだが忍容性に注目したい
  • cilengitideの第三相神経膠芽腫試験がフェール
  • Heplisavは審査完了
  • 塩野義の性交疼痛治療薬が米国で承認
  • 持効性エビリファイ筋注が米国で承認
  • 米国でバイエルのVEGF受容体阻害剤が適応拡大
  • EUでSelincroとIlaris(適応拡大)が承認


【今週の話題】


ロイヤルティ・ファーマがエランに買収オファー

(2013年2月25日発表)

米国のロイヤルティ・ファーマは、アイルランドの新興製薬会社エランに買収オファーを行ったことを公表した。一株当り11ドル、総額65.5億ドルの巨大買収だ。エランがオファーを無視して独自の事業計画を公表したことに業を煮やし、公表に踏み切った。今後、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどエランの主要な株主が価格引き上げを求めることになりそうだ。

エランは多発性硬化症用薬Tysabri(natalizumab)を開発したことで有名。2012年のグローバル売上高16億ドル、安全性面でやや難があるものの再発予防効果ではピカイチだ。このほかにアルツハイマー病薬の開発や、既存薬の徐放製剤の開発を事業の柱としていたが、近年は事業売却を進め、アルツハイマー病薬はファイザーとの共同開発プロジェクトに関する権益の5割強をジョンソン・エンド・ジョンソンに売却。ドラッグ・デリバリーは事業ごと売却した。

更に、今年2月には、Tysabriもバイオジェン・アイデックとの提携を合弁方式からライセンス契約に切り替えた。アルツハイマー病の第三相プロジェクトは既にフェールしたので、今後の利益の柱はTysabriのロイヤルティ収入だけとなっている。同社は、Tysabriの契約変更で入手する頭金、32億ドルを活用して有望新薬の導入交渉を活発化する考えだ。

一方のロイヤルティ・ファーマは、新薬に係るロイヤルティ権を買収する一風変わったビジネスモデルを採用している。ニューヨークのマンハッタンに本社を構えるが、会社自体はアイルランドの単位型信託という形を取っている。以下のように、1996年の創立以降、様々な医薬品のロイヤルティ権を取得している。


  • 2006年にアストラゼネカからHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)関連の権利を7億ドルで買収。
  • 2007年にノースウェスタン大学から抗癲癇薬Lyrica(pregabalin、和名リリカ)関連権を7億ドルで買収。
  • 同年にニューヨーク大学からRemicade(infliximab、和名レミケード)関連権を6.5億ドルで買収。
  • 2011年にアステラス製薬からDPP-IV阻害剤に係る権利を6億ドルで買収。
  • 2012年にバイオジェン・アイデックが昨年2月に米国で承認申請した多発性硬化症薬BG-12(dimethyl fumarate)に係る権利を7.6億ドルで買収。


ロイヤルティ権というと新興企業が開発品を大手に導出するケースを連想するが、同社の「仕入れ先」は大学関係と企業買収関連が多い。大学にしてみれば、政府の補助に頼れない中、新たなプロジェクトの予算を手当てするためには長期間に亘る不確定な収入よりも今、一時金で貰う方がよいだろう。また、企業買収を行った会社は、不要資産の売却収入を買収資金の返済に充てることができる。

こうしてみると、ロイヤルティ・ファーマのビジネスモデルは時代が生み出したものといえるだろう。

リンク:ロイヤルティ・ファーマのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:エランのプレスリリース

【新薬開発】


バンコマイシン系静注点滴薬の第三相試験が成功

(2013年2月25日発表)

Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、バンコマイシン系抗生物質であるdalbavancinの二本目の第三相試験が成功したと発表した。急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症における治療効果がバンコマイシンとlinezolid(オキサゾリジノン系抗生剤、和名ザイボックス)を用いた群と非劣性だった。同社は米国で2013年央に、欧州でも年末に、承認申請する予定。

dalvancinはファイザーが2005年に19億ドルで買収したVicuron Pharmaceuticalsの開発品。週一回の静注点滴でMRSAやMRSEを含むグラム陽性菌の治療ができる抗生物質として2004年に承認申請されたが、製造基準問題や治験デザインの妥当性などがネックとなり、2008年に申請撤回となった。その後、Durataが全世界の開発販売権を取得、FDAの特別プロトコル評価を経て二本の試験を実施、何れも成功した。

今回の二本目の試験では、薬物関連治療時発現有害事象の発生率が12.2%で対照群の10.1%より数値上高く、治療時発現有害事象による治験離脱も2.4%対1.9%で上回った。深刻な有害事象がどの程度増えるのか、詳細発表が注目される。大手製薬会社に見捨てられた薬が蘇るのか、それともファイザーの目に狂いはないことが明らかになるのか?承認審査や発売後の需要も注目される。

リンク:Durata社のプレスリリース

AAD:apremilastの効果は穏やかだが忍容性に注目したい

(2013年3月2日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はCC-10004(apremilast)の乾癬治療第三相試験の結果がAAD(米国皮膚学会)で報告されたことを発表した。効果はバイオ薬(TNF阻害剤)ほどではなさそうだが、経口剤であることや日和見感染症のリスクが小さそうなことを考えれば、methotrexate不応・不耐患者には有益な治療手段になりそうだ。将来的に、methorexateに代わる第一選択薬になる可能性も残っているだろう。

apremilastはPDE-4阻害剤で、TNFアルファやIL-6、17、23、インターフェロン・ガンマなどの分泌を抑制する。一日二回、経口投与。第三相は乾癬と乾癬性関節炎に計5本実施され何れも成功した。3月に米国で乾癬性関節炎向けに、下期(7~12月)に乾癬向けと欧州で両方の適応症に、承認申請される見込み。

一本目の乾癬治療試験(ESTEEM 1)のデータは今回初めて公表された。16週間の治療後のPASI-75(PASI症状診断スコアが75%以上改善した患者の比率)が33.1%と偽薬群の5.3%を有意に上回った。この試験は初めて治療を受ける患者からバイオ薬経験者まで様々な前治療歴を持つ患者が組入れられたが、初治療サブグループのPASI-75は38.7%対7.6%なのでそれほど変わらない。有効率はバイオ薬ほど高くないと考えてよいだろう。

一方で、忍容性はよさそうだ。主な有害事象は下痢、悪心、頭痛。深刻な有害事象の発生率は2.1%対2.8%、重度有害事象は3.6%対3.2%で大きな差はなく、日和見感染症や心血管疾患も増えなかった。無事承認されたら、バイオ薬を使う前に試してみる薬になるのではないだろうか。

リンク:セルジーンのプレスリリース

cilengitideの第三相神経膠芽腫試験がフェール

(2013年2月25日発表)

ドイツのメルクは、EMD121974(cilengitide)の第三相試験がフェールしたと発表した。神経膠芽腫の標準的一次療法である放射線療法とTemodor(temolozomide)のコースに追加する効果を、MGMT遺伝子のプロモーターがメチル化して機能しないタイプの癌に限定して検討したが、成功しなかった。

同社はMGMTプロモーターがメチル化していない患者を組入れた第二相試験も実施中だが、期待薄になった。

リンク:メルクのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Heplisavは審査完了

(2013年2月25日発表)

ダイナバックス・テクノロジーズ(Nasdaq:DVAX)はFDAからHeplisavの審査完了通知を受領したと発表した。HeplisavはB型肝炎ワクチンで、アジュバントとしてTLR9アゴニストを添加していることが特徴だが、この前例のないアジュバントの安全性がネックである模様だ。

昨年11月に開催された諮問委員会では、14人の委員中13人が有効性を認めたが、安全性は支持5人、不支持8人、棄権一人と不支持が上回った。治験でウェゲナー肉芽腫とギラン・バレー症候群が一例ずつ発生し、クリニカル・ホールドになったこともある。2007年にMSDが世界権を取得したが、クリニカル・ホールド後に返還した。

同社は40歳以上の慢性腎疾患患者に限定して承認を得るべくFDAと相談する考え。慢性腎疾患患者は抗体ができにくく既存のワクチンだと何度も接種しなければならないので、Heplisavのような効果の高いワクチンが発売されれば意義がある。とは言え、安全性が問題だけに、追加試験を行わずに承認を得るのは難しいのではないだろうか。

リンク:ダイナバックスのプレスリリース

【承認】


塩野義の性交疼痛治療薬が米国で承認

(2013年2月27日発表)

塩野義製薬は、米国でOsphena(ospemifene)が承認されたと発表した。閉経後膣萎縮症に伴う中重度性交疼痛の緩和に用いる。QuatRx Pharmaceuticalsから2010年にライセンスした経口選択的エストロゲン受容体調節剤で、臓器によって受容体を作動したり阻害したり異なった働きをする。

性交疼痛はエストロゲン外用薬で治療することが多いが、エストロゲン単剤療法は脳卒中や深静脈血栓のリスクを高める。Osphenaも子宮内膜肥大に加えてこれらの疾患が枠付警告されているが、発生頻度は脳梗塞が千人当り0.72、出血性脳卒中は同1.45、深静脈は1.45なので、リスクはエストロゲンより小さそうだ。

リンク:塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:FDAのプレスリリース

持効性エビリファイ筋注が米国で承認

(2013年3月1日発表)

大塚製薬とルンドベックは、Abilify Maintenaが米国で2月28日に承認されたと発表した。非定型向精神薬aripiprazoleの持効性製剤で、一回の筋注で効果が30日間持続する。治療開始後2週間はaripiprazoleの経口剤(Abilify、和名エビリファイ)を併用する。

AbilifyはBMSと共同販売しているが、特許が切れる2015年4月に提携解消となる。非定型向精神薬の長期作用性注射用製剤はジョンソン・エンド・ジョンソンなどの製品が成功しているのでBMSがライセンスすると思われたが、2011年にルンドベックが共同開発販売権を取得した。Alkermes社が同様なaripiprazole新製剤を2014年にも承認申請する予定なので、予定通り1年早く発売できることはプラスだ。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文)

米国でバイエルのVEGF受容体阻害剤が適応拡大

(2013年2月25日発表)

バイエルは、米国でStivarga(regorafenib)の適応拡大が承認されたと発表した。切除不能消化管間質腫瘍で他の抗癌剤に反応しなくなった患者に用いる。米国では年間3300~6000人が消化管間質腫瘍と診断される。ノバルティスのGleevec(imatinib)やファイザーのSutent(sunitinib)が承認されている。

StivargaはNexavar(sorafenib)の水素原子をフッ素原子に置換した小分子薬で、Nexavarと同様に、オニクス社(Nasdaq:ONXX)との共同創薬研究の成果。転移性結腸直腸癌のラスト・ホープとして昨年9月に承認された。日本でも昨年、この二つの適応症で承認申請された。VEGFを阻害する薬なので出血、血圧上昇、胃腸穿孔などのリスクがあり、致命的な肝毒性が枠付警告されている。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

EUでSelincroとIlaris(適応拡大)が承認

(2013年2月28日、3月1日発表)

EUで、ルンドベックのアルコール依存治療薬Selincro(nalmefene HCI)と、ノバルティスのIlaris(canakinumab、和名イラリス)の痛風発作予防適応拡大が承認された。

Selincroはオピオイド拮抗剤。様々な会社が病的賭博など様々な用途で開発したが、アルコール依存の第三相試験が成功。飲酒量が偽薬比6割減少した。フィンランドのBioTie Therapiesから導入。新薬排他権期間が5年と短いため米国では承認申請しない予定。

リンク:ルンドベックのプレスリリース(pdfファイル)

Ilarisは抗IL-1ベータ抗体で、クリオピリン関連周期性症候群に次ぐ二つ目の用途が承認された。難治性痛風で年3回以上発作が起きる患者が対象。日本でも薬価が一回143万円と高価な薬なので、価格を見直すか、他の適応拡大が成就するまで待つか、思案のしどころだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿