2013年3月17日

海外医薬ニュース2013年3月17日

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国で手足口病ワクチンの第三相試験が成功
  • cangrelorがフェニックス試験で復活
  • バイオジェン・アイデックが持効性第VIII因子を米で承認申請
  • 硝子体黄斑癒着治療薬がEUでも承認
  • FDAがジスロマックの催不整脈性に関する安全性情報
  • FDAがGLP-1作用剤とDPP-4阻害剤の膵臓安全性を検討へ
  • ゼチーアの心血管アウトカム試験は2014年9月に完了へ


【今週の話題】


中国で手足口病ワクチンの第三相試験が成功

(2013年3月14日発表)

中国のワクチン会社であるシノバック・バイオテック(北京科興生物制品有限公司、Nasdaq:SVA)は、手足口病予防用ワクチンの第三相試験の成功を発表した。新生児1万人に4週間に二回接種したところ、エンテロウイルス71(EV71)による手足口病を予防するワクチン効率が95.4%(95%信頼区間87.5~98.3%)だった。深刻な有害事象の発生率は2.2%で、他のワクチンを投与した対照群の2.6%と大差なかった。中国SFDAに承認申請する予定。

手足口病はこれらの部位に痛みを伴う水疱、丘疹が現れる。原因はエンテロウイルス感染で、中でもEV71は中枢神経系症状が発生しやすく命を脅かすこともあるようだ。中国で流行しており、シノバックによると、年100万人以上が感染、数百人が死亡する。

シノバックは2003年にNasdaq上場企業となったが、好ましいやり方ではなかった。中国など外国企業が上場審査で不適格と判定された時にしばしば取る手段で、投資銀行に根回しをして上場廃止間際の企業に融資させ、その企業に自社を買収させた上で、旧経営陣が退職する。俗に裏口上場と呼ばれている。

私は裏口上場企業には近寄らないことにしている。2年前にはトロント証券取引所上場のSino-Forestという中国企業に対して取引所が経営首脳陣総退陣を命じたことがある。中国に広大な森林を持つはずが虚偽であることが判明し、架空売上の疑いも浮上したからだ。

だが、シノバックは例外なのかもしれない。新型インフルエンザ禍の2009年には10万人近い規模のワクチン試験を行い、世界で初めて新型インフルエンザ用ワクチンの承認を中国で取得した。この治験論文はNew England Journal of Medicineに刊行された。今回のEV71ワクチンは2010年12月に中国で治験許可、2011年に臨床入りした。欧米におけるワクチン開発と比べて開発スピードが早く、第三相試験の規模も小さくはない。

先日のTredaptiveのアウトカム試験のように、グローバル試験に中国の施設を組入れるケースが増えている。Plavix(clopidogrel)は中国だけで1万人規模の急性心筋梗塞アウトカム試験が行われたこともある。私見では、今後、東洋人のエビデンス作りは中国が主導するようになり、日本人は『欧米の新薬開発動向』ではなく『中国の臨床試験動向』を愛読するようになるだろう。

リンク:シノバックのプレスリリース

【新薬開発】


cangrelorがフェニックス試験で復活

(2013年3月10日発表)

サンフランシスコの新興製薬会社であるメディスン・カンパニー(Nasdaq:MDCO)が開発したARC-69931MX(cangrelor)の三本目の第三相試験の結果がACC米国心臓学会で発表され、同時に、New England Journal of Medicine誌のホームページで治験論文が公開された。一本目は中間解析で無益性が認定され二本目も中止されたが、CHAMPION PHOENIXという治験名通り、死にかけた薬が三度目のチャレンジで復活した。

cangrelorはアストラゼネカからライセンスした点滴用ADP受容体拮抗剤で、アストラゼネカが2011年に発売した経口剤、Brilinta(ticagrelor)の姉妹品と考えることができる。オンセット、オフセットが早く、投与後15分でADP誘導性血小板凝集をほぼ100%阻害、中止後60分で作用が消える。

経口ADP受容体拮抗剤の標準薬であるPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)を急性冠症候群のような救急患者に使う時は、PCIかCABGか治療方針を決める前に投与を開始したり、CABGが必要になった時は薬が抜けるまで数日待たなければならない。cangrelorなら治療方針変更にフレキシブルに対処できるので便利だ。

今回の試験は、PCIを受ける患者1万人超を組入れて、PCI施術中はcangrelorをボラス/点滴投与し終わったらclopidogrel負荷用量を投与する群と、初めからclopidogrel負荷用量を投与する群の周術期虚血性イベント(無作為化割付後48時間以内に発生した全死亡、心筋梗塞、虚血に対処するための血流再建術、ステント血栓)の発生リスクを比較した。過去1週間にclopidogrel等の投与を受けた患者は除外。被験者の過半が安定性狭心症、残りは非ST上昇型やST上昇型の急性冠症候群等だった。

結果は、虚血性イベントの発生率が4.7%でclopidogrel群の5.9%より低く、オド・レシオ0.78、統計的に有意だった。ステント血栓も0.8%対1.4%で有意に低かった。重度出血は0.16%対0.11%で有意差は無かった。サブグループ分析では、原因疾患別でも、米国でもそれ以外の国でも、75才以上でも未満でも、不均一性は見られなかった。メディスン・カンパニーは今年第2四半期(4~6月)に欧米で承認申請する予定。

この試験では不均一性がなかったが、その前の試験二本がフェールしたのは立派な不均一性だ。患者背景が若干異なるものの、一番大きいのは心筋梗塞の定義である模様だ。PCIの試験ではいわゆる心臓発作だけでなくバイオマーカーに基づいて判定された症状を伴わない心筋梗塞もカウントする。このような患者は症候性心筋梗塞のリスクが高いからだ。

ところが、cangrelorの三本の試験のように入院からPCIまでの時間が4時間と短いと、入院の原因となった虚血の再発と、PCIのストレスによって新たに発生する虚血の区別が難しくなる。一本目の試験はフェールしたがステント血栓や症候性心筋梗塞を減らす効果は窺われた。そこで、今回の試験では、ベースライン時点の評価を十分に行うことによって前者を除外できるようにした。

だが、私にはこの工夫だけでは説明できないように感じられる。被験者の過半は安定性狭心症だからだ。

また、この試験と治験論文には幾つかの難点がある。第一に、症候性心筋梗塞をどの程度防げたのか明らかではない。第二に、今回の試験の結果がどの程度一般化できるのか曖昧だ。スクリーニングした患者のうち、どの程度の患者がどのような理由で除外されたのか記されていない。第三に、clopidogrelより効果が高いBrilintaやEfient(prasugrel)と比べてどうなのかが分からない。

尚、この試験に関しては対照群のclopidogrelの用法が不適切という批判がある。PCI前にプリトリートしていない、負荷用量として300mgしか投与しなかった症例もある、等である。このような批判が出るのはclopidogrelの至適用法が明らかではない(コンセンサスがない)ことが原因なのだが、私見では、プリトリートの効用は明確ではなく、600mgを投与した患者のサブグループ分析でも効果が見られたのだから、問題ないだろう。

上記の難点はあるものの、効果のオンセット/オフセットが早く治療方針変更に素早く対応できる薬は便利だ。承認審査の過程でボロが出なかったならば、そして、治験間の不均一性をキチンと説明できることが確認されれば、承認され広く用いられるようになるだろう。

リンク:メディスン・カンパニーのプレスリリース

リンク:治験論文(New England Journal of Medicine、オープンアクセス)

リンク:論文筆頭著者とのインタビュー(Cardio Exchange)

【承認申請】


バイオジェン・アイデックが持効性第VIII因子を米で承認申請

(2013年3月12日発表)

バイオジェン・アイデック(Nasdaq:BIIB)は持効性遺伝子組換え型第VIII因子融合蛋白(rFVIIIFc)を米国で承認申請したと発表した。A型血友病の出血予防に用いる。1月に承認申請したB型血友病向けのrFXIFc第IX因子と同様に、2001年に当時のファルマシアからスピンアウトした会社(現Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI))の細胞融合技術を用いて半減期を延ばしたもので、rFVIIIFcの場合、19時間と既存製品の12時間を上回る。

臨床試験では、患者に応じて投与頻度を調節する群と週一回投与する群を、予防せず出血時に投与して治療するだけの群を比較したところ、出血エピソードが年率で各1.6回、3.6回、33.6回となり、予防に成功した。調節群の投与頻度はメジアンで3.5日に一回。既存製品は2~4日に一回なので、意外に短かった。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認】


硝子体黄斑癒着治療薬がEUでも承認

(2013年3月15日発表)

ベルギーのThromboGenics(Euronext Brussels:THR)は、EUがJetrea(ocriplasmin)を硝子体黄斑癒着(VMA)の治療薬として承認したと発表した。硝子体網膜界面の構成成分であるフィブロネクチンとラミニンを分解する、遺伝子組換え型短縮プラスミンで、臨床試験では2~3割の患者が一回の硝子体注射で消散した(偽薬群は1割前後)。米国外ではノバルティスのアルコン部門が販売する。米国では2012年10月に承認された。

リンク:ThromboGenicsのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがジスロマックの催不整脈性に関する安全性情報

(2013年3月12日発表)

FDAは、Zithromax(azithromycin dihydrate、和名ジスロマック)のQT延長リスクに関する安全性情報を発出した。他の抗生物質なら安全ということでもなく、同様にQT延長リスクを持っていたり他の有害事象リスクを持っていたりするので治療薬の選択は慎重に行うべきだが、ZithromaxをQT延長のリスクが高い患者に用いる場合はよく検討するよう注意を促している。

FDAは昨年、Zithromaxの心臓疾患死リスクを他の抗生物質と比較した疫学論文が刊行されたことを受けて、この研究の手法や内容を精査するとともにメーカーが実施したQT延長試験の結果を検討した。その結果、当該疫学研究の手法は健全と判定、知見の有効性を認めた。QT延長試験の結果も陽性だったようだ。このため、QT延長試験の結果をレーベルに掲載した。

リンク:FDAの安全性情報

FDAがGLP-1作用剤とDPP-4阻害剤の膵臓安全性を検討へ

(2013年3月14日発表)

FDAは、インクレチン・ミメティクスと総称される二型糖尿病薬が膵炎や膵管化生(前癌性の細胞変化)のリスクを高める可能性を示唆する未刊行の論文について、評価を行っていることを公表した。この論文は、死後(死因は特定されていない)に採取された少数の膵臓組織標本を検査検討したもの。FDAは論文著者に標本の採取・検査方法を問い合わせると共に、FDA自身が検討するために組織標本の提供を求めた。

インクレチン・ミメティクスはGLP-1などの天然のインクレチンを模倣したもので、BMSのByetta/Bydureon(exenatide、和名バイエッタ)、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)、3月にEUで承認され米国でも承認審査中のサノフィのLyxumia(lixisenatide)、欧米で承認審査中のGSKのalbiglutideなど、続々と新薬が登場している。

天然のGLP-1を分解する酵素を阻害するDPP-4阻害剤もインクレチン・ミメティクスと呼ばれるようになった模様で、MSDのJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)、BMSのOnglyza(saxagliptin、和名オングリザ)、武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)、ベーリンガー・インゲルハイムのTradjenta(linagliptin、和名トラゼンタ)が該当する。

インクレチン・ミメティクスは多彩な作用を持つが、その一つは膵臓の受容体に結合してインスリンの分泌を促すことであり、その意味ではSU剤と同じ系列に属する。数年前に急性膵炎の懸念が報告された時、FDAの市販後有害事象報告データベースを調べたところ、当時ははるかに多くの患者が服用していたインスリン感受性増感剤よりも報告数が多かった。作用機序的に止むを得ないのかもしれない。

急性膵炎のリスクは既知であり、米国や日本でも添付文書に明記されているのに対して、膵管化生は初耳だ。FDAが論文刊行前に声明を出したのは、論文刊行が巻き起こすであろう医師や患者の混乱を少しでも避けるための、言わば、緊急地震速報なのだろう。

リンク:FDAの安全性情報

ゼチーアの心血管アウトカム試験は2014年9月に完了へ

(2013年3月12日発表)

MSD(NYSE:MRK)はIMPROVE-IT試験のDSMB(データ安全性監視委員会)が予定通り中間解析を行ない、治験続行を推奨したと発表した。予定イベント数の75%に到達した昨年3月に続く二回目の中間解析で何も結論が出なかったことから、成否判明は2014年9月の治験完了後の見込みとなった。株式市場では安全性懸念で中止されることを懸念する声があった模様で、MSDの株価が回復した。

IMPROVE-IT試験は急性冠症候群の急性期を脱したが再発リスクの高い患者を組入れて、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)とsimvastatinの合剤であるVytorinを投与する群とsimvastatinだけの群の再発リスクを比較するもの。当初の目標組入れ数は1万人だったが、途中で18000人に拡大された。相対リスク削減率が9%余でも統計的に有意になる、極めて検出力の高い試験なので当初は中間解析で成功することも期待されていたのだが、実現しなかった。

検出力の高さは両刃の剣で、稀な副作用でも有意差が出てしまう可能性がある。もし効果が確認されなかった場合、デメリットが確認されるリスクだけが残ることになる。ネガティブ・サプライズを予想する声が出たのはこれが一因だろう。

ezetimibeは米国で広く用いられている割には臨床的転帰に関するエビデンスが乏しい。LDL-C治療薬の心血管疾患予防効果はLDL-C低下幅と相関すると考えられているので、ezetimibeの心血管疾患予防効果を検出するためにはスタチンよりも大規模な試験を行わう必要があり、時間が掛かるのは已むを得ない。

それにしても、米国で2002年に承認された薬が11年経った今でも臨床的転帰に関するエビデンスに欠いていることは残念だ。株式市場では、2014年に効果のないことが判明しても特許切れまで3年なので打撃は限定的、という10年前のVioxx(rofecoxib)と同じコメントを証券アナリストがしているようだ。

リンク:MSDのプレスリリース

今週は以上です。

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