2013年3月31日

海外医薬ニュース2013年3月31日




【ニュース・ヘッドライン】




  • ロンザがテバとのバイオシミラー合弁を再検討
  • KYOTO HEART STUDY治験論文の筆頭著者が退職
  • 第二世代オキサゾリジノンの第三相試験は二本目も成功
  • palifosfamideの第三相軟組織肉腫試験はフェール
  • ベーリンガーとリリーがempagliflozinを承認申請
  • JNJがTMC435を米国でも承認申請
  • 経口多発性硬化症薬の本命が米国で承認
  • 米国でジョンソン・エンド・ジョンソンのSGLT2阻害剤が承認
  • ファイザーのBosulifがEUでも承認
  • EUもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始


【今週の話題】


ロンザがテバとのバイオシミラー合弁を再検討

(2013年3月31日発表)

ロイター報道によると、バイオ薬受託生産大手のロンザ社は、2009年にテバと設立した合弁事業を再検討している。バイオ薬のGE品であるバイオシミラーはエポエチンやG-CSFでは既に実現。次の焦点はRituxan(rituximab、和名リツキサン)やRemicade(infliximab、和名レミケード)といった抗体医薬だが、一筋縄では行かないようだ。

テバはRituxanのバイオシミラーで第三相試験を行っていたが、昨年10月、中止した。理由は明らかではないが、当局の承認審査基準が確立されていないことが一因のようだ。FDAがガイドラインを作るのを待てばよいのだが、それでは競争に勝てない。道なき道を手探りで進んでこそ、パイオニアとしての名誉と利益を享受できるのである。

FDAが要求しそうな全ての試験を行っておく、というオプションも非現実的だ。開発コストは製品価格に上乗せしなければならないので先発品に対する価格競争力が低下してしまう。もしFDAが要求しなかった場合、他のバイオシミラーとの価格競争も不利になる。

記事によると、ロンザが2009年に合弁を結んだ頃はバイオシミラーの開発コストを1億ドル程度と見込んでいたが、規制が厳しくなり見通しを立て難くなっているという。合弁見直しはこれが原因のようだ。

規制強化でバイオシミラーの開発中止・遅延したケースは他にも出ている。MSDはPEG化エリスロポイチンMK-2578の開発を中止した。先発品の心血管リスクが表面化しMSDも心血管安全性試験を実施しなければならなくなったので、ペイしないと判断した。

韓国のサムソンとバイオジェン・アイデックの合弁にも奇妙な動きがある。2012年に設立されたばかりだが、Rituxanのバイオシミラーの臨床試験を中止したと報じられている。今年に入ってこの合弁会社は、MSDに複数の開発品の公表されていない地域での販売権を供与した。どちらにとっても、開発費用やリスクを分散することが狙いではないだろうか?博打を打たなければならない時は、二股、三股を掛けるのが得策だ。

これらの動きと異なり、ノバルティスのGE薬部門はRituxanバイオシミラー等の第三相試験を続けている。韓国のCelltrion社は昨年、韓国でRemicadeバイオシミラーの承認を取得し、EUでもEU初の抗体医薬バイオシミラーとして承認審査中とのことだ。とは言え、「道なき道を進みパイオニアとしての名誉と利益を獲得する」戦略の中には、取り敢えず承認申請してみて当局の意見を聞く戦術も含まれるだろうから、勝算があるとは限らない。

インドではRituxanのバイオシミラーが販売されているが、ロシュによると、先発品とは特性が異なるという。エポエチンや半化学合成品である低分子量ヘパリンでも特性はメーカーや国によって異なることが様々な学会や論文で報告されている。シミラー(類似品)なのだから多少異なっていても構わないのだが、違いを発見する技術(検査技術)は日進月歩なので、新たな違いが発見され臨床的意義が議論になるリスクは高い。バイオシミラー・ビジネスは未だまだ茨の道のようだ。

リンク:ロイターのニュース

リンク:Korea Joongang Dailyのニュース(韓国でRemicadeバイオシミラー承認)

KYOTO HEART STUDY治験論文の筆頭著者が退職

(2013年3月2日発表)

先週の話ではないが、Diovan(valsartan、和名ディオバン)の「降圧を超えた心血管保護作用」を立証した日本初の画期的エビデンスであるKYOTO HEART STUDYを主導した研究者が退職した。京都府立医大循環器内科学・腎臓内科学教室のホームページには、「松原弘明教授は2013年2月末日で退職されました。」とだけ記されている。報道によると、論文が撤回されたことに責任を感じて辞職を申し出たようだ。

辞任で幕引きというのはよくあるパターンだ。所属する組織は守られ、追及者は溜飲を下げて鉾を収める。しかし、医学では責任を取ったことにはならない。もしvalsartanが他のARBと比べて特別に良い薬だとしたら、医療にとって重要な発見を見過ごしてしまうことになる。その意味で、もう一つのエビデンスであるJIKEI HEART STUDYを再検討して、問題がないことを確認する必要がある。

逆に、もしKYOTO HEART STUDYがまやかしだとしたら、二度と騙されないために、手口を精査して対策を練る必要がある。

リンク:京都府立医大循環器内科学・腎臓内科学教室教授室の記載

リンク:毎日新聞の報道

【新薬開発】


第二世代オキサゾリジノンの第三相試験は二本目も成功

(2013年3月25日発表)

米国のTrius Therapeutics(Nasdaq:TSRX)は、TR-701(tedizolid phosphate)の急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)第三相試験が成功したと発表した。治療後の病変部位の縮小や臨床的奏効率がZyvox(linizolid、和名ザイボックス)と非劣性だった。今回の試験は両剤とも点滴用製剤で治療を開始して医師の判断で経口剤にスイッチする用法をテストした。経口剤だけを比較した試験も既に成功。同社は年内に米国で、来年上期には欧州でも、承認申請する予定。

TR-701は第2世代oxazolidinone、Zyvoxは第一世代で、経口剤のコースが一日一回、6日間服用とZyvoxの一日二回、10日コースより簡便。二本の第三相では、医薬品関連治療時発現有害事象もやや少なかった。in vitroではZyvox耐性菌にも活性があったようだが、治療効果が非劣性なのだから、臨床的な意義は明確ではない。Zyvoxは2015年に特許が切れるので、価格競争力は劣ることになる。

リンク:Triusのプレスリリース

palifosfamideの第三相軟組織肉腫試験はフェール

(2013年3月26日発表)

米国のZiopharm Oncology(Nasdaq:ZIOP)は、ZIO-201(palifosfamide)の第三相転移性軟組織肉腫試験がフェールしたことを発表した。一次治療を受ける患者にdoxorubicinと併用する効果を検討したが、PFS(無増悪生存期間)はdoxorubicin単剤群と大差なかった。独立データ監視委員会は被験者を追跡して二次的評価項目である延命効果を確認することを勧告したが、同社は打ち切りを決定した。

発表を受けて26日の同社の株価は65%下落、時価総額は1.5億ドルとなった。発表前は5億ドル程度だったので、2月3日号で紹介したFeuerstein・Ratainの法則(時価総額3億ドル未満の会社の抗癌剤第三相試験は成功しない)は当てはまらないが、大きく異なるわけでもない。

リンク:Ziopharmのプレスリリース

【承認申請】


ベーリンガーとリリーがempagliflozinを承認申請

(2013年3月25-26日発表)

二型糖尿病薬で複数の開発品の開発販売提携を結んでいるベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤BI 10773(empagliflozin)を欧米で承認申請した。BMS/アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin、EUで昨年11月に承認)、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したInvokana(canagliflozin、後述のように米国で先週、承認)に次ぐ第三号で、力価と選択性が高い。25日に米国で承認申請したこと、26日にEUで申請受理されたことがそれぞれ発表された。

リンク:ベーリンガーとイーライリリーのプレスリリース(米国申請)

リンク:同(EU申請受理)

JNJがTMC435を米国でも承認申請

(2013年3月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはMedivirからライセンスしたNS3/NS4Aプロテアーゼ阻害剤、TMC435(simeprevir)をC型慢性肝炎の治療薬として承認申請した。同社が欧州などの開発販売権を持つIncivek(telaprevir、和名テラビック)と異なり一日一回の経口投与で足りることが特徴。忍容性も比較的良さそうだ。

TMC435は日本でも海外と並行して開発が進められ、今年2月に承認申請された。日本は高齢になって初めて診断され治療を受ける人が欧米より多く、そのせいか、標準療法不耐例も少なくない。インターフェロン抜きやribavirin抜きでも有効なレジメンの開発や、同じプロテアーゼ阻害剤でも副作用プロファイルの異なる薬の登場が望まれている。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


経口多発性硬化症薬の本命が米国で承認

(2013年3月27日発表)

バイオジェン・アイデックは、Tecfidera(dimethyl fumarate、開発コードBG-12)が再発寛解型多発性硬化症向けに米国で承認されたと発表した。経口剤では米国で三剤目だが、深刻な副作用のリスクが小さいので、年商30億ドル超のトップセラーになるだろう。

この薬はドイツで中重度乾癬治療薬として20年近い市販歴を持つfumarateの腸溶性新製剤。作用機序は不明だが、Nrf2転写パスウェイを活性化し、NFカッパBのパスウェイを抑制して炎症促進的サイトカインの分泌を減らしたり、細胞の酸化ストレス耐久性を高めたりするようだ。臨床試験では再発を偽薬比40~50%削減したので、インターフェロン・ベータやテバのCopaxone(glatiramer acetate)より効果が高そうだ。

効果は同社のTysabri(natalizumab)が一番だが深刻な副作用があるので、Tecfideraのほうがバランスが良い。ノバルティスが田辺三菱製薬から導入して開発したGilenya(finglimod、和名ジレニア/イムセラ)も経口剤で再発リスク削減率がTecfideraより高いが、10%程度の違いは誤差の範囲内である。この指標は誤差範囲が大きいのでよほど大きな直接比較試験を行わない限り、有意差は出ないだろう。副作用面ではGilenyaは感染症や初回投与時の不整脈のリスクを持つ。

経口剤の第二号であるサノフィのAubagio(teriflunomide)は効果が見劣りし、肝毒性が枠付警告されている。

一方、Tecfideraの試験では日和見感染症や腫瘍は見られず、白血球減少程度である(治療開始前と一年毎に全血球検査を行うことが推奨されている)。4割程度の患者が紅潮を経験し、嘔吐を含む胃腸性有害事象のリスクもあるので嫌がる患者もいるだろうが、服用を続けるうちに緩和するようなので、事前によく説明しておけばアドヒランス面の妨げにはならないだろう。最初の7日間は120mgを一日二回、その後は240mgを一日二回服用する。

米国の問屋取得価格(WAC)は54900ドル。高いが、Gilenyaの約60000ドルよりは安い。Aubagioは約45000ドルと安いので、再発リスクがそれほど高くない患者やTecfidera不耐患者にはリーズナブルかもしれない。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

米国でジョンソン・エンド・ジョンソンのSGLT2阻害剤が承認

(2013年3月29日発表)

FDAとジョンソン・エンド・ジョンソンは、夫々、二型糖尿病薬INVOKANA(canagliflozin)が二型糖尿病薬として承認されたと発表した。SGLT2という主として腎細管に分布するトランスポータを阻害して、腎臓で濾し取られたグルコースが再び血液中に戻されるのを妨げる。結果、余分なグルコースが尿と一緒に排出され、血糖値が低下する。

特徴的なのは体重が穏やかに減少すること。一日20分程度の中程度の運動と同じくらいのカロリーが排出されることや利尿作用が寄与しているようだ。降圧作用も持つ。この裏返しで、減塩食療法を取っている人や降圧剤服用者、高齢者は脱水リスクに気を付ける。最初の3ヶ月間は起立性低血圧によるめまいや失神が起きることがある。

副作用面でもう一つ特徴的なのは、性器真菌感染や尿道感染のリスクがあること。尿道のグルコースが細菌の栄養になってしまうようだ。患者が自分でよく観察して感染症の有無を確かめる。

このように、これまでの血糖降下剤と異なる副作用があるので患者教育が重要だが、臨床試験の有害事象離脱率は偽薬より若干高い程度なので、忍容性は比較的良いと考えられる。100mg一日一回経口投与、初回は朝食前に服用する。作用機序的に腎機能が重要なので、腎濾過率に基づいて適否や用量(300mgまで増量可)を決定する。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは田辺三菱製薬からライセンスした。両社はSGLT阻害剤の開発で先行しT-1095/RWJ-394718をPOC段階まで進めたが2003年に断念。腸でガラクトースの吸収に寄与するSGLT1を阻害しない、SGLT2選択的阻害剤にスイッチし、遂に、結果を出した。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

ファイザーのBosulifがEUでも承認

(2013年3月28日発表)

ファイザーはBosulif(bosutinib)がEUで承認されたと発表した。フィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病で慢性期(CP)、加速期(AP)、ブラスト危機期(BP)の各段階の成人患者が再発し、既存のbcr-bal阻害剤が不適である場合に用いる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始

(2013年3月26日発表)

FDAに続いて、EUの承認審査機関であるEMAもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始した。ADA米国糖尿病学会の機関誌であるDiabetes誌に掲載されたUCLA医科大学のButlerらの論文が契機(先週号を参照)。EMAは二型糖尿病薬の医薬品監視プログラム、SAFEGUARDを実施中で、このデータを利用することも検討しているようだ。

疫学的試験には色々な問題点があるので、複数の国や地域で、信頼できるデータベースに基づいて行うことが望ましい。癌原性物質でも何年も服用しなければ癌が発生しないので、長期的な追跡が必要だ。その意味で、米国とEUの承認審査機関が別々に疫学的研究を行うのは大歓迎だ。日本もできないのだろうか?

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年3月24日

海外医薬ニュース2013年3月24日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAが9種類のブレークスルー・セラピーを認定
  • アムジェンの黒色腫ウイルス療法試験が成功
  • ビクトーザは高量で抗肥満作用が若干上昇
  • Lemtradaの延長試験中間解析
  • FDA諮問委員会がオピオイド依存症治療用インプラントの承認を支持
  • CHMPが新薬5品に肯定的意見
  • Bronchitolは米国では承認されず
  • FDAが初のボツリヌス解毒剤とTOBI新製剤を承認
  • 続報:インクレチン療法の膵臓新生物問題


【今週の話題】


FDAが9種類のブレークスルー・セラピーを認定

(2013年3月15日発表)

FDAのMargaret Hamburg長官が、マサチューセッツ・バイオテクノロジー評議会の講演で、これまでに9種類の開発品をブレークスルー・セラピー(BT)として認定したことを明らかにした。申請は31件で、このうち10件は却下、11件審査中、1件は申請撤回されたとのこと。

BT指定は2012年のFDA Safety and Innovation Act(FDASIA)によって導入された制度で、早期段階の臨床試験や非臨床試験で深刻な疾患・症状に対して既存の治療法より著しく優れる可能性が示唆された開発品に適用される。指定されると、新薬開発を効率的に進めるための様々な助言を得ることができる。

9品のうち、これまでに公表されているのは三品で、まず、バーテックス社(Nasdaq: VRTX)のKalydeco(ivacaftor)。G551D変異型の嚢胞性線維症の治療薬として2012年に承認されたCFTRポテンシエイターで、他のタイプの嚢胞性線維症の適応拡大と、VX-809併用療法がBT指定された。

その次に明らかになったのがファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)で、予定適応症はマントルセル・リンパ腫とワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症。2013年に前者の適応症で承認申請される予定。

そして、ノバルティスのLDK378。ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)と同じALK阻害剤で、Xalkoriに不応不耐のALK陽性転移性非小細胞性肺癌向けに2014年に承認申請される予定。

これら三品に違和感があるのは、何れも臨床開発が進んでいてBT指定されなくても1~2年内に承認申請されるであろうことだ。前臨床のエビデンスに基づいてBT指定を獲得することも可能、と立法時に喧伝され期待が盛り上がったので、やや肩透かしだ。LDK378はファースト・イン・クラスですらない。

それだけに、他に6品がBT指定されたというニュースは心強い。製薬会社が公表していないのは、おそらく、開発初期段階の開発品はフェールする確率が高く、また、早く公表すると競合他社の目を惹いてしまうので、目処が付くまで緘口令を敷く方が有利だからだろう。

この講演で長官が強調していたのは、第一に、FDAが希少疾患用薬の開発を後押ししていること。過去5年間に承認された新薬の3分の1は希少疾患用薬だった。米国では7000種類の希少疾患の総計で3000万人が罹患している。数の上では高脂血症などと変わらず、国民厚生政策において重要な課題である。勿論、7000種類の病気に一つ一つ対応するためには大変な努力とリソースが必要だ。FDAは、効率的な開発を支援するために相談に応じ、結果的に、小規模な臨床試験だけで承認される薬が増えている。

メーカーにとっても、患者が少なくても価格を年数千ドル、数万ドルに設定することによって、開発投資を回収し十分な利益を獲得することが可能になった。ビッグ・ファーマも積極的に参入するようになったが、開発資金に乏しく規制当局と折衝した経験も少ない新興企業には特に魅力的な分野だろう。

第二は、重複するが、開発の早い段階でFDAと相談することの重要性。上記のKalydecoを例に挙げて説明していた。

第三は、regulartory science(規制の科学)。優れた薬、安全な薬を実用化するためには、開発する側の科学の進歩と同時に、評価する側の科学も進歩しなければならない。画期的な作用機序を持つ薬の開発アドバイスを行い、承認審査するためには、FDA側がそのメカニズムに関する人類の知見を全て動員する必要がある。

規制の科学を怠ったまま迅速承認を繰り返すのは危険ですらある。安全性で私が連想するのは、薬物相互作用だ。21世紀に入って、米国のレーベルの記載内容が拡充の一途を辿っている。Plavix(clopidogrel、和名プラビックス)のように、薬物代謝酵素遺伝子多型に関する記述も増加している。

血圧や血糖、LDL-Cの治療は深刻な疾患を予防する重要な手段だが、リスクがそれほど高くない患者を治療する場合は便益も小さくなるので、リスクがそれほど高くない副作用を十分に検討することが必要になる。一般に、効果を検出するよりも深刻な副作用を検出する方が困難なので(副作用の方が目立つなら承認されないだろう)、スタチンにおける横紋筋融解症やPPAR作動剤における骨折、膀胱癌のような極稀だが深刻なリスクをどのようにして検出するかも重要なテーマになる。

耳新しいのは、Special Limited Use(特別用途指定)という承認方式を議員も交えて検討しているという話だ。例として挙げていたのは薬物耐性菌による深刻な感染症に用いる抗生物質や、肥満症のような慢性疾患。リスクが高く万人向けに承認することはできなくとも、その薬以外に治療法がないような患者に限定して用いるならば、リスクと便益のバランスを取ることができるかもしれない。

このような議論は以前からあるが、米国の場合は医師の判断で未承認用途に使うことが可能なので、適正使用が担保できず、実現しない、または、オフレーベル処方に目を瞑って承認するのが実態である。立法化するためには、厳しい処方制限の導入とバーターせざるを得ないのではないか。

リンク:FDA長官講演筆記録

【新薬開発】


アムジェンの黒色腫ウイルス療法試験が成功

(2013年3月19日発表)

アムジェンは、Oncovex GM-CSF(talimogene laherparepvec)の第三相黒色腫試験の成功を発表した。持続的反応率16%と対照群の2%を有意に上回った。肝心の延命効果に関しては未だイベント数が足りず、トレンドに留まっている模様。年内に予想される最終解析が成功するまで何とも言えないだろう。

この治療法は、単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組入れたもの。腫瘍に直接注射すると、腫瘍細胞選択的にウイルスが増殖して細胞膜を破壊、セルライシスを誘導する。更に、細胞の外に出たウイルスとGM-CSFが免疫機構を刺激し、癌細胞に対する免疫を強化する。アムジェンは2011年にバイオベックスを頭金4.25億ドル、承認・売上高達成報奨金最大5.75億ドルで買収して入手した。

今回の第三相では、切除不能IIIB/IIIC/IV期黒色腫400人をOncovex GM-CSF群とGM-CSF皮注群に2:1の割合で無作為化割付したもの。持続的反応率が主評価項目だが、二次的評価項目とされた全生存の解析の方が重要だろう。

今回の解析結果は、ASCOで発表される予定。ASCOは発表内容の事前公表を原則として認めていないが、SECのインサイダー取引規制に触れかねない重要事項については、ASCOの許可を得てトップライン・データだけ公表することを認めている。おそらく、学会前に抄録が公開されるだろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

ビクトーザは高量で抗肥満作用が若干上昇

(2013年3月18日発表)

ノボ ノルディスクは二型糖尿病薬Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)を体重管理薬としても開発している。前者の用途では1.2mgまたは1.8mg(日本は0.9mg)を一日一回、皮注するが、後者は3mgを中心に高量を試験していることが特徴だ。今回、二型糖尿病を併発する肥満症・オーバーウェート患者を組入れた1年間の第三相試験の結果が発表されたが、3mgの効果が1.8mgより若干高い程度だったため、ノボの株価が下落した。

Victozaは天然のGLP-1の遺伝子を組換えて、更に、パルミチン酸を結合することで作用を長期化したもの。他社製品を含めて、GLP-1作用剤は血糖治療薬では唯一、体重が低下する。このため、オフレーベルで肥満症の治療に用いられることもあるようだ。

欧米におけるGLP-1作用剤の第一号であるByetta(exenatide)を中心に様々な研究が行われてきた。体重低下は悪心・嘔吐の副作用のせい、という説もあるが、相関性は明確ではない。悪心・嘔吐を経験しない人でも体重が減ることがあり、経験する人でも減らないことがある。効果は個人差が大きく、一部の患者は10kg以上減るが、増える人もいるようだ。

VictozaはByettaより作用の持続性が高いので、体重低下作用が高く個人差も小さい可能性がある。また、肥満治療における至適用量は血糖治療と異なるかもしれない。ノボの試験結果が注目される所以である。

今回の第三相試験は846人を偽薬、1.8mg、3mgの3群に1:1:2の割合で無作為化割付して56週間治療したもの。ベースライン時点の平均値は体重106kg、BMIは37kg/m2、HbA1cは8%だった。各群の体重低下率は2%、5%、6%で、5%以上の減量に成功した患者の比率は13%、35%、50%となり、Victozaは偽薬より有意に優れていた。HbA1cが7%以下に低下した患者の比率も27%、67%、69%と有意に上回った。治験完了率は66%、78%、77%と、他剤の過去の同様な試験と同程度だった。

FDAの体重管理薬開発ガイドラインで要求されている治療効果と比べると、体重低下(偽薬群との差が3~4%)は不十分だが、5%レスポンダーはハードルをクリアしている。どちらかを満たせば十分であり、承認されている体重管理薬も後者しか満たしていないものが多いので、Victozaの効果は合格圏内と言えるが、既存の薬を大きく上回る訳ではなさそうだ。

第三相試験は他に三本あり、食事療法後の減量維持(メンテナンス)試験は既に成功。肥満・糖尿病予備群を組入れた試験は今年4~6月に、睡眠時無呼吸患者の試験は7~12月に、結果が出る見込み。二型糖尿病でない患者はVictozaによる治療を続けるモティベーションがそれほど高くないだろうから、治験完了率が低下し、その分、効果が低下するだろう。

ノボはこれら四本を前期第三相試験と呼んでいる。すべて完了した後に、血糖値に問題のない肥満症・高リスクオーバーウェート患者だけを組入れた試験を開始するのではないだろうか。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース(pdfファイル)

Lemtradaの延長試験中間解析

(2013年3月21日発表)

サノフィのジェンザイム部門は、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として欧米で承認審査中のLemtrada(alemtuzumab)の1年延長試験の結果をANN米国神経学会やプレスリリースで発表した。

第三相試験二本に参加した患者を組入れて、長期的な転帰を観察したもの。Lemtradaの治療スケジュールは1年目は5日間の1コースだけ、2年目も3日間の1コースだけと元々少ないが、3年目に当たる延長試験では8割以上の患者が投与を受けなかった。通常の延長試験とは異なり、投与中止後の効果の持続性や安全性を観察した離脱試験と考えるべきだろう。

再発率は年率0.24~0.25回となり、効果が維持されたと考えられる。一方、自己免疫性甲状腺有害事象の発生率は3年間累計で30%とのことなので、3年目に更に高まったことになる。

他の薬にはないリスクを持つことを考えれば、Lemtradaは第三選択、第四選択として用いられることになりそうだ。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がオピオイド依存症治療用インプラントの承認を支持

(2013年3月21日発表)

サンフランシスコの新興医薬品開発会社タイタン・ファーマスーティカルズが昨年10月に米国で承認申請したProbuphine(buprenorphineインプラント)がFDA諮問委員会の支持を受けた。15人の諮問委員のうち10人が支持、4人が不支持、1人が棄権した。REMS(リスク評価・緩和戦略)に改善の余地がある模様なので予定通り4月末に承認されるかどうかは不透明だが、良い方向に向かっている。

Probuphineはbuprenorphineの新製剤で、上腕皮下に4~5本インプラントすると効果が4~6ヶ月持続する。適応症はオピオイド依存症で、米国の罹者数は130万人とのこと。既存の舌下錠よりコンプライアンスの向上が見込まれ、また、子供が誤飲するリスクがない。但し、治験では多くの患者が経口剤を併用せざるを得なかった模様なので、現実の社会での便益はあまり明確ではない。

販売はBraeburn Pharmaceuticalsが担当する。親会社はニューヨークの投資会社、Apple Tree Partnersで、セルジーンに買収されたGloucester Pharmaceuticalsと同じ。おそらく、Braeburnも事業が軌道に乗ったら他の製薬会社に売却されるのだろう。

リンク:タイタンのプレスリリース

CHMPが新薬5品に肯定的意見

(2013年3月22日発表)

EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPが3月の会議で5種類の新薬の承認とバイエルのXa阻害剤等の適応拡大に肯定的意見、ISIS/サノフィの高脂血症治療薬に再び否定的意見、を出した。肯定的意見を受けたものは2~3ヶ月内に承認されるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的意見を獲得した新薬は以下の5品。

名称:Iclusig(ponatinib)

会社:アリアド・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ARIA)

適応症:既存薬に不応・不耐、またはT315I変異型の慢性骨髄性白血病及びフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病

ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)等と同じabl阻害剤で、腫瘍関連遺伝子であるablが成長シグナルを送り続けるのを妨げる。BMSのSprycel(dasatinib、和名スプリセル)やノバルティスのTasigna(nilotinib、和名タシグナ)に反応しなかった、あるいは不耐で、Gleevecに適さない患者、またはこれら三剤に抵抗性を持つことで知られるT315I変異型の患者に用いる。急性リンパ芽球性白血病の場合はbcrと

ablの遺伝子の一部が結合してきわめて活性の高いbcr-abl蛋白を発現するフィラデルフィア染色体転座を持つタイプに限定され、また、Tasignaは未承認なのでSprycel不応・不耐だけで足りる。米国では昨年末に承認、問屋取得価格9580ドル/月で販売されている。マサチューセッツ州のアリアドの開発品。

リンク:アリアドのプレスリリース

名称:Tecfidera(dimethyl fumarate、開発コードBG-12)

会社:バイオジェン・アイデック

適応症:再発寛解型多発性硬化症

ドイツで乾癬治療などに20年近い市販歴を持つフマル酸の腸溶性新薬。多発性硬化症の再発予防薬としては数少ない経口剤だ。作用機序は不明だが、Nrf2転写パスウェイを活性化し、NFkappaB依存的な炎症促進的サイトカインの分泌を抑制する。臨床試験では既存の注射薬より高い効果を示し、また、ノバルティス/三菱田辺製薬のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と異なり感染症や癌が増加しなかったことが注目される。主な有害事象は紅潮、悪心嘔吐、肝機能検査値異常。

多発性硬化症は神経細胞の「導電線」の「被覆」に相当するミエリンが免疫細胞の攻撃を受けて損傷し、漏電する。症状はその神経細胞の機能により区々だが、歩行障害が代表的とされる。直ぐに命に係る訳ではないが、働き盛りの時期に発症することも多く、10年、20年後に自力歩行できなくなる可能性もあるので、QoLの面で深刻だ。特定のタイプのウイルスに感染して出来た免疫が類似した蛋白を持つミエリンを誤認する、という説もあるが、真偽は定かではない。患者は寒い地域に多い。日本でも新潟出身の人気落語家が発症、未だに復帰していない。

Tecfideraは効果や利便性が高く、第一選択薬として使われる可能性が高い。Gilenyaに代わって経口剤のベストセラーになりそうだ。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

名称:Aubagio(teriflunomide)

会社:サノフィ(ジェンザイム部門)

適応症:再発寛解型多発性硬化症

Tecfideraと同じ経口剤だが効果は既存の注射薬と同程度なので、比較的軽い患者に用いられることになりそうだ。米国では昨年9月に承認、問屋取得価格は年45000ドルとベータ・インターフェロンより数%、Gilenyaより3割近く安く販売されている。

活性成分は抗リウマチ薬Arava(leflunomide)の活性成分の代謝物。Aravaは肝毒性が枠付警告されており、Aubagioも米国で同様な警告が導入された。

大型薬の特許切れ対策として光学異性体や代謝物を新薬として発売する例は枚挙に暇がないが、EUは、明らかな長所が無い限り新規活性成分として認めない方針を取っている。teriflunomideは用途が異なるので大丈夫と考えていたが、意外なことに、認められなかった。10年間の新薬排他権を獲得できないので、知財戦略の見直しが必要になった。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

名称:HyQvia(ヒト免疫グロブリン、遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼ)

会社:バクスター

適応症:一次性免疫不全症候群と二次性低ガンマグロブリン血症

皮注用ヒト免疫グロブリンと、その生物学的利用率を高める遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼのセット商品。後者はハロザイム・セラピュティクス(Nasdaq:HALO)からライセンスしたもの。免疫グロブリン欠乏患者にヒト由来の抗体を補充し、感染症を予防する。

リンク:ハロザイムのプレスリリース

名称:Stribild(elvitegravir、cobicistat、emtricitabine、tenofovir disoproxil)

会社:ギリアッド(Nasdaq:GILD)

適応症:HIV/AIDS

四種類の医薬品の合剤。elvitegravirは日本たばこからライセンスして新開発したインテグラーゼ阻害剤で、他のクラスの抗HIV薬と比べて忍容性がよく、市販歴が短いので耐性ウイルスが少ない。cobicistatは新開発の3A4阻害剤で、elvitegravirの代謝を遅らせ抗HIV効果を長持ちさせる。emtricitabineとtenofovirは核酸系逆転写阻害剤で、前者はGSKのlamivudineの類薬であり画期性は小さいが後者は効果と忍容性が高く、この二つの活性成分を配合する合剤は、今や、世界の標準療法になった。

HIV/AIDSの多剤併用療法はピル・バーデンが問題だが、3A4を阻害する薬の薬物相互作用を逆用するritonavirブーストと呼ばれる手法や、コンビ薬の開発で随分解消された。Stribildは同社のAtriplaと同様に、一日一回、一錠服用で足りる。日本でも日本たばこが承認申請し、今月、スタリビルド配合錠名で第二部会を通過した。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

適応拡大で注目されるのは、Xarelto(rivaroxaban)を急性冠症候群の再発予防に用いることが肯定的意見を受けたことだ。米国では諮問委員会で反対が賛成を若干上回り、承認されなかった。アスピリンと二剤で、あるいはアスピリンとclopidogrelと三剤で併用するが、出血リスクも高まるのでリスクと便益のバランスを考えなければならない。第三相試験では2.5mgと5mg(何れも一日二回投与)をテストしたが、後者は出血リスクが特に高く、前者しか承認申請されなかったようだ。

Xa阻害剤と言えば、第一三共のedoxabanも今年、第三相心房細動試験や深静脈血栓塞栓治療試験の結果が明らかになる見込み。ベーリンガーのPradaxaと合わせて、新世代抗血栓薬の臨床データ出そろうことになる。

リンク:バイエルのプレスリリース

一方、ISISがサノフィのジェンザイム部門と共同開発したApoB-100アンチセンス薬、Kynamro(mipomersen)は、昨年12月に続いて、否定的意見となった。長期投与が必要なのに治験の離脱率が高いことと、肝臓脂肪蓄積の長期的な転帰が明らかではないことが理由だ。米国では1月にホモ接合型家族性高脂血症向けに承認されたので、Xareltoとは逆のパターンである。

ホモ接合型の患者数は米国と欧州主要5か国の合計で600人と超希少疾患だ。高力価スタチンを服用してもLDL-C値が数百mg/dLと極めて高く、心臓疾患のリスクが高い。

リンク:ISISの簡素なプレスリリース

Bronchitolは米国では承認されず

(2013年3月19日発表)

オーストラリアのPharmaxis(ASX:PXS)は、FDAがBronchitol(mannitol)の承認申請に関して審査完了通知を出したと発表した。1月の諮問委員会では誰一人として承認を支持しなかったので、順当な結果だ。FDAは追加的薬効確認試験と小児の喀血リスクの検討を求めたとのこと。

Bronchitolは嚢胞性線維症の治療に用いる吸入用ドライパウダー製剤。第三相試験の一本はフェールし、もう一本は成功したものの途中で治験を離脱した患者が多かった。

EUでは昨年、承認された。欧米共に、ケースバイケースで承認審査のハードルを緩和しているが、どのケースで緩和するか、食い違いが目立つ。

リンク:Pharmaxisのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


FDAが初のボツリヌス解毒剤とTOBI新製剤を承認

(2013年3月22日発表)

FDAは、既知の7種類のボツリヌス神経毒全てに有効な解毒剤を初めて承認した。ウマ由来の抗体の混合物で、テロ等に備える戦略的国家備蓄計画の中で備蓄される予定。炭疽菌治療薬と同様に、動物試験の薬効データと臨床試験の安全性データに基づいで承認された。カナダのCangene

(TSX:CNJ)の開発品。

リンク:FDAのプレスリリース

FDAは、TOBI Podhaler(tobramycin吸入用粉末)を承認したことも発表した。嚢胞性線維症患者の緑膿菌肺感染症を治療する。ネブライザ用の製剤が既に承認されている。

リンク:FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


続報:インクレチン療法の膵臓新生物問題

(2013年3月22日発表)

先週号で取り上げた、インクレチン療法(GLP-1作用剤とDPP-4阻害剤)の膵細胞異形成・膵癌リスクに関する論文がADA米国糖尿病学会の機関誌であるDiabetes誌に刊行された。同時に、薬害監視で著名なPublic Citizenが、FDAの自発的有害事象報告(AERS)の分析に基づいて、インクレチン療法を受けている患者はglipizide服用患者より膵癌発症報告が多いと警告した。どちらも決定的なエビデンスではないと感じられるが、看過することもできない。メーカーと世界の承認審査機関はこの問題を精査して結論を出す義務がある。

論文抄録によると、この研究はUCLA医科大学等の研究者が臓器提供者の膵臓を検査したもの。二型糖尿病でインクレチン療法を受けた8例とそれ以外の治療を受けた12例、そして二型糖尿病ではない対照例14例を検討したところ、インクレチン療法を受けた患者では外分泌細胞の増殖や異形成、アルファセルの肥大や神経内分泌癌が増加していた。

Public Citizenの調査は、2010年1月~2012年6月までのAERSデータとIMS処方箋データを用いて、代表的なSU剤であるglipizideと、Byetta(exenatide)、Victoza(liraglutide)、Januvia(sitagliptin)の三剤合計を比較したもの。

処方箋数は3500万枚と3300万枚で同程度だったが、膵癌を発症しこれらの薬が「主に疑われる」と評価された症例は1例対292例でインクレチン療法のほうが多かった。症例を精査したところ、膵癌の既知のリスク要因は持っていなかった。

前者の研究は症例数が少なく、何とも言えない。異形成がどの程度、生命の脅威なのかも良く分からない。今日の新薬はマウスやラットに長期間投与して良性・悪性腫瘍の発生状況を観察する癌原性試験が行われているが、これらの齧歯動物とヒトは同じではないので、インプリケーションを解明するのは容易ではない。

後者はリポーティング・バイアスがある可能性が高い。新薬の発売当初は有害事象報告が多く、年月を経るにつれ、減少していくのだ。glipizideのような古い薬と比較する時は他の副作用の報告数なども調べてリポーティング・バイアスの多寡について見当を付けておく必要がある。MSDが2004年9月にVioxx(rofecoxib)の販売を中止した直後に調べたところ、有害事象報告が飛躍的に増加して驚いたことがある。

また、額面通りに受け止めても発生頻度は10万枚に一例程度なので、それほど高くない(AERSに報告されるのは氷山の一角で本当はもっと多いと考えるべきだが)。

どちらも不確かな話だが、二種類の研究で類似した結果が出たことは看過できない。元々、インクレチン療法は膵炎のリスクを持ち、開発当初に考えられていたほど膵臓に優しい薬ではないことが明らかになっている。多くの患者が服用しているのだから、健康保険データベースを用いた疫学研究などを行って、脅威がリアルなのかフェイクなのか、目処を立てる必要がある。特に、二型糖尿病患者の死因として癌が最も多い日本人にとって重要な調査課題だ。

リンク:Diabetes論文

リンク:Public Citizenのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年3月17日

海外医薬ニュース2013年3月17日

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国で手足口病ワクチンの第三相試験が成功
  • cangrelorがフェニックス試験で復活
  • バイオジェン・アイデックが持効性第VIII因子を米で承認申請
  • 硝子体黄斑癒着治療薬がEUでも承認
  • FDAがジスロマックの催不整脈性に関する安全性情報
  • FDAがGLP-1作用剤とDPP-4阻害剤の膵臓安全性を検討へ
  • ゼチーアの心血管アウトカム試験は2014年9月に完了へ


【今週の話題】


中国で手足口病ワクチンの第三相試験が成功

(2013年3月14日発表)

中国のワクチン会社であるシノバック・バイオテック(北京科興生物制品有限公司、Nasdaq:SVA)は、手足口病予防用ワクチンの第三相試験の成功を発表した。新生児1万人に4週間に二回接種したところ、エンテロウイルス71(EV71)による手足口病を予防するワクチン効率が95.4%(95%信頼区間87.5~98.3%)だった。深刻な有害事象の発生率は2.2%で、他のワクチンを投与した対照群の2.6%と大差なかった。中国SFDAに承認申請する予定。

手足口病はこれらの部位に痛みを伴う水疱、丘疹が現れる。原因はエンテロウイルス感染で、中でもEV71は中枢神経系症状が発生しやすく命を脅かすこともあるようだ。中国で流行しており、シノバックによると、年100万人以上が感染、数百人が死亡する。

シノバックは2003年にNasdaq上場企業となったが、好ましいやり方ではなかった。中国など外国企業が上場審査で不適格と判定された時にしばしば取る手段で、投資銀行に根回しをして上場廃止間際の企業に融資させ、その企業に自社を買収させた上で、旧経営陣が退職する。俗に裏口上場と呼ばれている。

私は裏口上場企業には近寄らないことにしている。2年前にはトロント証券取引所上場のSino-Forestという中国企業に対して取引所が経営首脳陣総退陣を命じたことがある。中国に広大な森林を持つはずが虚偽であることが判明し、架空売上の疑いも浮上したからだ。

だが、シノバックは例外なのかもしれない。新型インフルエンザ禍の2009年には10万人近い規模のワクチン試験を行い、世界で初めて新型インフルエンザ用ワクチンの承認を中国で取得した。この治験論文はNew England Journal of Medicineに刊行された。今回のEV71ワクチンは2010年12月に中国で治験許可、2011年に臨床入りした。欧米におけるワクチン開発と比べて開発スピードが早く、第三相試験の規模も小さくはない。

先日のTredaptiveのアウトカム試験のように、グローバル試験に中国の施設を組入れるケースが増えている。Plavix(clopidogrel)は中国だけで1万人規模の急性心筋梗塞アウトカム試験が行われたこともある。私見では、今後、東洋人のエビデンス作りは中国が主導するようになり、日本人は『欧米の新薬開発動向』ではなく『中国の臨床試験動向』を愛読するようになるだろう。

リンク:シノバックのプレスリリース

【新薬開発】


cangrelorがフェニックス試験で復活

(2013年3月10日発表)

サンフランシスコの新興製薬会社であるメディスン・カンパニー(Nasdaq:MDCO)が開発したARC-69931MX(cangrelor)の三本目の第三相試験の結果がACC米国心臓学会で発表され、同時に、New England Journal of Medicine誌のホームページで治験論文が公開された。一本目は中間解析で無益性が認定され二本目も中止されたが、CHAMPION PHOENIXという治験名通り、死にかけた薬が三度目のチャレンジで復活した。

cangrelorはアストラゼネカからライセンスした点滴用ADP受容体拮抗剤で、アストラゼネカが2011年に発売した経口剤、Brilinta(ticagrelor)の姉妹品と考えることができる。オンセット、オフセットが早く、投与後15分でADP誘導性血小板凝集をほぼ100%阻害、中止後60分で作用が消える。

経口ADP受容体拮抗剤の標準薬であるPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)を急性冠症候群のような救急患者に使う時は、PCIかCABGか治療方針を決める前に投与を開始したり、CABGが必要になった時は薬が抜けるまで数日待たなければならない。cangrelorなら治療方針変更にフレキシブルに対処できるので便利だ。

今回の試験は、PCIを受ける患者1万人超を組入れて、PCI施術中はcangrelorをボラス/点滴投与し終わったらclopidogrel負荷用量を投与する群と、初めからclopidogrel負荷用量を投与する群の周術期虚血性イベント(無作為化割付後48時間以内に発生した全死亡、心筋梗塞、虚血に対処するための血流再建術、ステント血栓)の発生リスクを比較した。過去1週間にclopidogrel等の投与を受けた患者は除外。被験者の過半が安定性狭心症、残りは非ST上昇型やST上昇型の急性冠症候群等だった。

結果は、虚血性イベントの発生率が4.7%でclopidogrel群の5.9%より低く、オド・レシオ0.78、統計的に有意だった。ステント血栓も0.8%対1.4%で有意に低かった。重度出血は0.16%対0.11%で有意差は無かった。サブグループ分析では、原因疾患別でも、米国でもそれ以外の国でも、75才以上でも未満でも、不均一性は見られなかった。メディスン・カンパニーは今年第2四半期(4~6月)に欧米で承認申請する予定。

この試験では不均一性がなかったが、その前の試験二本がフェールしたのは立派な不均一性だ。患者背景が若干異なるものの、一番大きいのは心筋梗塞の定義である模様だ。PCIの試験ではいわゆる心臓発作だけでなくバイオマーカーに基づいて判定された症状を伴わない心筋梗塞もカウントする。このような患者は症候性心筋梗塞のリスクが高いからだ。

ところが、cangrelorの三本の試験のように入院からPCIまでの時間が4時間と短いと、入院の原因となった虚血の再発と、PCIのストレスによって新たに発生する虚血の区別が難しくなる。一本目の試験はフェールしたがステント血栓や症候性心筋梗塞を減らす効果は窺われた。そこで、今回の試験では、ベースライン時点の評価を十分に行うことによって前者を除外できるようにした。

だが、私にはこの工夫だけでは説明できないように感じられる。被験者の過半は安定性狭心症だからだ。

また、この試験と治験論文には幾つかの難点がある。第一に、症候性心筋梗塞をどの程度防げたのか明らかではない。第二に、今回の試験の結果がどの程度一般化できるのか曖昧だ。スクリーニングした患者のうち、どの程度の患者がどのような理由で除外されたのか記されていない。第三に、clopidogrelより効果が高いBrilintaやEfient(prasugrel)と比べてどうなのかが分からない。

尚、この試験に関しては対照群のclopidogrelの用法が不適切という批判がある。PCI前にプリトリートしていない、負荷用量として300mgしか投与しなかった症例もある、等である。このような批判が出るのはclopidogrelの至適用法が明らかではない(コンセンサスがない)ことが原因なのだが、私見では、プリトリートの効用は明確ではなく、600mgを投与した患者のサブグループ分析でも効果が見られたのだから、問題ないだろう。

上記の難点はあるものの、効果のオンセット/オフセットが早く治療方針変更に素早く対応できる薬は便利だ。承認審査の過程でボロが出なかったならば、そして、治験間の不均一性をキチンと説明できることが確認されれば、承認され広く用いられるようになるだろう。

リンク:メディスン・カンパニーのプレスリリース

リンク:治験論文(New England Journal of Medicine、オープンアクセス)

リンク:論文筆頭著者とのインタビュー(Cardio Exchange)

【承認申請】


バイオジェン・アイデックが持効性第VIII因子を米で承認申請

(2013年3月12日発表)

バイオジェン・アイデック(Nasdaq:BIIB)は持効性遺伝子組換え型第VIII因子融合蛋白(rFVIIIFc)を米国で承認申請したと発表した。A型血友病の出血予防に用いる。1月に承認申請したB型血友病向けのrFXIFc第IX因子と同様に、2001年に当時のファルマシアからスピンアウトした会社(現Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI))の細胞融合技術を用いて半減期を延ばしたもので、rFVIIIFcの場合、19時間と既存製品の12時間を上回る。

臨床試験では、患者に応じて投与頻度を調節する群と週一回投与する群を、予防せず出血時に投与して治療するだけの群を比較したところ、出血エピソードが年率で各1.6回、3.6回、33.6回となり、予防に成功した。調節群の投与頻度はメジアンで3.5日に一回。既存製品は2~4日に一回なので、意外に短かった。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認】


硝子体黄斑癒着治療薬がEUでも承認

(2013年3月15日発表)

ベルギーのThromboGenics(Euronext Brussels:THR)は、EUがJetrea(ocriplasmin)を硝子体黄斑癒着(VMA)の治療薬として承認したと発表した。硝子体網膜界面の構成成分であるフィブロネクチンとラミニンを分解する、遺伝子組換え型短縮プラスミンで、臨床試験では2~3割の患者が一回の硝子体注射で消散した(偽薬群は1割前後)。米国外ではノバルティスのアルコン部門が販売する。米国では2012年10月に承認された。

リンク:ThromboGenicsのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがジスロマックの催不整脈性に関する安全性情報

(2013年3月12日発表)

FDAは、Zithromax(azithromycin dihydrate、和名ジスロマック)のQT延長リスクに関する安全性情報を発出した。他の抗生物質なら安全ということでもなく、同様にQT延長リスクを持っていたり他の有害事象リスクを持っていたりするので治療薬の選択は慎重に行うべきだが、ZithromaxをQT延長のリスクが高い患者に用いる場合はよく検討するよう注意を促している。

FDAは昨年、Zithromaxの心臓疾患死リスクを他の抗生物質と比較した疫学論文が刊行されたことを受けて、この研究の手法や内容を精査するとともにメーカーが実施したQT延長試験の結果を検討した。その結果、当該疫学研究の手法は健全と判定、知見の有効性を認めた。QT延長試験の結果も陽性だったようだ。このため、QT延長試験の結果をレーベルに掲載した。

リンク:FDAの安全性情報

FDAがGLP-1作用剤とDPP-4阻害剤の膵臓安全性を検討へ

(2013年3月14日発表)

FDAは、インクレチン・ミメティクスと総称される二型糖尿病薬が膵炎や膵管化生(前癌性の細胞変化)のリスクを高める可能性を示唆する未刊行の論文について、評価を行っていることを公表した。この論文は、死後(死因は特定されていない)に採取された少数の膵臓組織標本を検査検討したもの。FDAは論文著者に標本の採取・検査方法を問い合わせると共に、FDA自身が検討するために組織標本の提供を求めた。

インクレチン・ミメティクスはGLP-1などの天然のインクレチンを模倣したもので、BMSのByetta/Bydureon(exenatide、和名バイエッタ)、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)、3月にEUで承認され米国でも承認審査中のサノフィのLyxumia(lixisenatide)、欧米で承認審査中のGSKのalbiglutideなど、続々と新薬が登場している。

天然のGLP-1を分解する酵素を阻害するDPP-4阻害剤もインクレチン・ミメティクスと呼ばれるようになった模様で、MSDのJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)、BMSのOnglyza(saxagliptin、和名オングリザ)、武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)、ベーリンガー・インゲルハイムのTradjenta(linagliptin、和名トラゼンタ)が該当する。

インクレチン・ミメティクスは多彩な作用を持つが、その一つは膵臓の受容体に結合してインスリンの分泌を促すことであり、その意味ではSU剤と同じ系列に属する。数年前に急性膵炎の懸念が報告された時、FDAの市販後有害事象報告データベースを調べたところ、当時ははるかに多くの患者が服用していたインスリン感受性増感剤よりも報告数が多かった。作用機序的に止むを得ないのかもしれない。

急性膵炎のリスクは既知であり、米国や日本でも添付文書に明記されているのに対して、膵管化生は初耳だ。FDAが論文刊行前に声明を出したのは、論文刊行が巻き起こすであろう医師や患者の混乱を少しでも避けるための、言わば、緊急地震速報なのだろう。

リンク:FDAの安全性情報

ゼチーアの心血管アウトカム試験は2014年9月に完了へ

(2013年3月12日発表)

MSD(NYSE:MRK)はIMPROVE-IT試験のDSMB(データ安全性監視委員会)が予定通り中間解析を行ない、治験続行を推奨したと発表した。予定イベント数の75%に到達した昨年3月に続く二回目の中間解析で何も結論が出なかったことから、成否判明は2014年9月の治験完了後の見込みとなった。株式市場では安全性懸念で中止されることを懸念する声があった模様で、MSDの株価が回復した。

IMPROVE-IT試験は急性冠症候群の急性期を脱したが再発リスクの高い患者を組入れて、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)とsimvastatinの合剤であるVytorinを投与する群とsimvastatinだけの群の再発リスクを比較するもの。当初の目標組入れ数は1万人だったが、途中で18000人に拡大された。相対リスク削減率が9%余でも統計的に有意になる、極めて検出力の高い試験なので当初は中間解析で成功することも期待されていたのだが、実現しなかった。

検出力の高さは両刃の剣で、稀な副作用でも有意差が出てしまう可能性がある。もし効果が確認されなかった場合、デメリットが確認されるリスクだけが残ることになる。ネガティブ・サプライズを予想する声が出たのはこれが一因だろう。

ezetimibeは米国で広く用いられている割には臨床的転帰に関するエビデンスが乏しい。LDL-C治療薬の心血管疾患予防効果はLDL-C低下幅と相関すると考えられているので、ezetimibeの心血管疾患予防効果を検出するためにはスタチンよりも大規模な試験を行わう必要があり、時間が掛かるのは已むを得ない。

それにしても、米国で2002年に承認された薬が11年経った今でも臨床的転帰に関するエビデンスに欠いていることは残念だ。株式市場では、2014年に効果のないことが判明しても特許切れまで3年なので打撃は限定的、という10年前のVioxx(rofecoxib)と同じコメントを証券アナリストがしているようだ。

リンク:MSDのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年3月10日

海外医薬ニュース2013年3月10日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:ナイアシンの前途に暗雲
  • 画期的抗インフルエンザ薬のPOC試験が成功
  • GSK/塩野義の抗HIV薬は先行品より効果が高い可能性
  • 武田薬品がvedolizumabを欧州で承認申請
  • GSKがalbiglutideをEUでも承認申請
  • イグザレルトの適応拡大は二巡目の審査でも認められず
  • PerjetaがEUでも承認


【今週の話題】


ACC:ナイアシンの前途に暗雲

(2013年3月9日発表)

ACC米国心臓学会で、MSDのTredaptive(ナイアシン徐放製剤とDP1阻害剤laropiprantの合剤)の心血管アウトカム改善作用を検討したHPS2-THRIVE試験の詳細が発表された。心筋梗塞などのリスクを削減することはできず、一方、深刻な胃腸出血や感染症が増加し糖尿病の発生・合併症増加も見られた。そもそも、治験開始前に全員に投与したラン・イン期間中も、無作為化割付試験期間中も、有害事象を理由にドロップアウトする人が少なくなかった。

2012年12月23日号で書いたように、この試験だけではナイアシンが悪いのか、laropiprantが悪いのか、相乗効果なのか分からない。しかし、学会発表者はナイアシン犯人説に傾いているようだ。AIM-HIGHなど過去の試験でも心血管予防効果は見られず、また、上記の有害事象はナイアシンの既知のリスクだからだ。

一方で、この試験の対象患者はナイアシンの典型的な適応と異なる、という指摘も一理ある。サブポピュレーション分析で、LDL-Cが比較的高い患者には心血管リスク削減効果の兆候が見られるからだ。超大型薬の特許切れを控える製薬会社が万人に有益な次の超大型薬を狙ったことが裏目に出た可能性も大いにあるだろう(この試験はオックスフォード大学の臨床試験ユニットが主導したが、製薬会社側の意図が完全に無視された訳ではないだろう)。

何れにせよ、CETP阻害剤に続いてナイアシンの心血管アウトカム試験がフェールし、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)やフィブレートの心血管リスク削減効果も明確には確認できていないことを考えると、『LDL-C低下=心血管リスク低下』とか、『HDL-C上昇=心血管リスク低下』といった単純な考え方は拒否せざるを得ない。コレステロールを治療するのは目的ではなく手段に過ぎないことを肝に銘じるべきだろう。

この試験は、中国、英国、スカンジナビア諸国の医療施設で、心筋梗塞や脳梗塞・TIA、末梢動脈疾患、あるいは糖尿病と冠状心疾患を併発する約25000人を組入れて、Tredaptiveと偽薬の心筋梗塞・脳卒中・血管再生術施行リスクを比較したもの。

約5万人をスクリーニングし、ランイン期間中にsimvastatin(必要によりezetimibeを追加)を用いて総コレステロール量を135mg/dL以下に治療すると共に、全員にTredaptiveを一ヶ月投与して忍容性を確認した上で、無作為化割付を行った。組入れ目標は当初は2万人だったが、治験開始の1年後に引き上げられた。

患者背景をみると男性が83%、平均年齢65歳、冠動脈疾患既往が78%、糖尿病が32%となっており、近年の心血管アウトカム試験としては女性が少ない。ベースライン時点(コレステロール治療後)の平均値はLDL-C(直接法)が63mg/dL、HDL-Cが44mg/dLで、前者は治療目標到達、後者も男なら低HDL-C症ではない。

ナイアシンは紅潮や胃腸副作用に耐えられない人が少なくないが、紅潮はlaropiprantを併用することで改善するはずだ。それでも、ランイン期間中に1/3の参加者がドロップアウトし、無作為割付期間中(メジアン3.9年)にも25%が離脱した。偽薬群は16%で、差の殆どは有害事象因によるものだ。深刻な有害事象も多く、糖尿病性合併症(発生率群間差3.7ポイント)、糖尿病発症(1.8ポイント)、感染症(1.4ポイント)、胃腸系(1.0ポイント)、筋骨格系(0.7ポイント)、出血(0.7ポイント)等が有意に多かった。

肝心の心血管アウトカムは、リスク・レシオ0.96、95%信頼区間0.90-1.03、ログランク・テストのp値は0.29と、有意差は無かった。約4年間の累計リスク(カプラン・メイヤー推定)は14.5%で偽薬群の15.0%と大差ない。

副作用に苦しむだけで便益なしという惨憺たる結果だが、ベースライン時点のLDL-C値に基づくサブポピュレーション分析に注目したい。58mg/dL未満と比べて58~77mg/dLのグループ、77mg/dL超のグループは数字が比較的よく、不均一性の解析はp=0.02となった。この解析は多重性の補正をしておらず(通常、補正しない)、また、各グループの群間差は有意ではないが、例えば、複数のコレステロール治療薬を服用しても120mg/dLの患者にナイアシンを追加投与する場合の便益はこの試験では分からないのである。

それ以上に分からないのは、ナイアシンの単独犯なのか、共犯、またはlaropiprantだけの犯行なのかということだ。EUはナイアシン単剤の便益・安全性の再検討を開始する模様であり、年商10億ドル超のナイアシン徐放製剤市場にどのような影響が出るか、注目される。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:オックスフォード大学のHPS2-THRIVE試験のウェブサイト(プレスリリースやスライドのリンク有)

【新薬開発】


画期的抗インフルエンザ薬のPOC試験が成功

(2013年3月4日発表)

バーテックス・ファーマスーティカルズ(Nasdaq: VRTX)は、VX-787のPOC試験成功を発表した。VX-787は新しい作用機序を持つA型インフルエンザ治療薬。ウイルスの複製を阻害するとのことだが、詳しいことは分からない。Tamiflu(oseltamivir、和名タミフル)のようなノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を持つウイルスも散見されるようになったので、A型専用とは言え代替的な治療薬が実用化されれば有益だ。

POC(プルーフ・オブ・コンセプト)試験は画期的なメカニズムを持つ薬が本当に効くのか、見当を付けるために行う試験で、通常は前期第二相に相当する。抗ウイルス剤ならin vitroで活性を確認できるので、患部に必要な量を安全に届けることができるかどうかが鍵になる。今回の『インフルエンザ・チャレンジ試験』は104人のボランティアにH3N2ウイルスを与え、24時間経った段階で、4種類の用量または偽薬を一日一回、5日間に亘って経口投与し、インフルエンザ発症例のウイルス発芽状況や罹患期間を観察した。

結果は、ウイルス発芽(AUCで評価)が用量依存的に減少し、最大量(負荷用量1200mg、維持用量600mg)を投与した群は偽薬群より94%少なかった(統計的に有意)。更に、メジアン罹患期間は1.9日と偽薬群の3.7日を下回った(同)。

バーテックスは慢性C型肝炎や嚢胞性線維症の治療薬を開発・販売しているが、これらの専門薬とは異なり、抗インフルエンザ薬はプライマリーケア医向けの巨大販売部隊が必要だ。そのせいか、同社は、開発販売パートナーを探す考え。

リンク:バーテックスのプレスリリース

GSK/塩野義の抗HIV薬は先行品より効果が高い可能性

(2013年3月6日発表)

グラクソ・スミスクライン、ファイザー、塩野義製薬のHIV/AIDS治療薬合弁であるViiVヘルスケア社は、昨年12月に欧米で承認申請したインテグラーぜ阻害剤、S/GSK1349572(dolutegravir)の第三相直接比較試験の中間解析結果を公表した。24週時点のウイルス抑制がraltegravir(MSDのインテグラーぜ阻害剤、和名アイセントレス)より有意に優れていたが、他の時点ではそれほど差がなく、最終解析でも優越性が示されるかどうかは不透明だろう。一次治療試験では有意差はなかった。

このSAILING試験は多剤併用療法がフェールしつつある患者約710人を、dolutegravir群とraltegravir(MSDのインテグラーぜ阻害剤、和名アイセントレス)群に無作為化割付して、48週間の治療成果が非劣性であることを確認するもの。両群とも他に二種類の抗HIV薬を併用した。dolutegravirは50mgを一日一回、raltegravirは400mgを一日二回、経口投与。

24週経過時点の中間解析ではウイルス抑制成功率が79%とraltegravir群の70%を有意に上回った(p=0.003)。dolutegravir群は耐性ウイルスがraltegravirより少なく、この試験でもノンレスポンダーがraltegravir群より少なかったことが奏功したのだろう。

尤も、時系列的にみると、第8週までは差が広がったが、第12週と第16週は縮まり、その後第24週にかけてdolutegravir群の成功率が上昇、raltegravir群はあまり上昇しなかったため有意差が生じた恰好で、コンスタントに上回った訳ではない。一次治療直接比較試験では非劣性に留まっており、SAILING試験も主評価項目である非劣性検定は成功、事前に設定された二次的評価項目である優越性検定はフェール、となる公算があるだろう。

リンク:ViiVのプレスリリース

【承認申請】


武田薬品がvedolizumabを欧州で承認申請

(2013年3月8日発表)

武田薬品の子会社のミレニアム・ファーマスーティカルは、MLN0002(vedolizumab)を中重度活性期の潰瘍性大腸炎とクローン病の治療薬としてEUに承認申請した。米国でも申請に向かうのではないだろうか。

vedolizumabはアルファ4ベータ7インテグリンに結合するヒト化抗体で、リンパ球などが血管から組織に移行するのを阻害する。バイオジェン・アイデックの多発性硬化症・クローン病治療薬Tysabri(natalizumab)と似ているが、アルファ4ベータ1とVCAM-1の接着は阻害しないため、進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスクが小さい可能性がある。

ミレニアム社が1999年に買収したLeukoSiteの開発品で、1997年にインライセンスしたジェネンテックがPOC試験を実施、そこそこの成績だったが、権利返還となった。ミレニアムにとって優先プロジェクトではなかったが、武田薬品による買収やTysabriのPML禍などを経て、2008年に第三相入りしたもの。

リンク:武田薬品のプレスリリース(和文)

GSKがalbiglutideをEUでも承認申請

(2013年3月7日発表)

グラクソ・スミスクラインはGSK716155(albiglutide)をEUでも承認申請したと発表した。週一回皮注用の二型糖尿病薬で、遺伝子組換え型ヒトGLP-1にアルブミンを融合したもの。2012年に買収したHGS社が、企業買収を通じて入手したアルブミン融合技術を応用して開発した。競合品の多くは一日一回、または二回皮注なので週一回で済むことは便利だが、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)と直接比較した試験で効果が非劣性ではなかった。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


イグザレルトの適応拡大は二巡目の審査でも認められず

(2013年3月4日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の急性冠症候群適応拡大がFDAに承認されなかったことを明らかにした。一巡目の審査で打切り例の多さが指摘されたため、追跡調査を行って提出したが、審査完了通知を受領した。

XareltoはXa阻害剤で非弁性心房細動患者の脳卒中リスク削減や、関節置換術後の深静脈血栓塞栓予防、深静脈血栓塞栓の治療等に承認されている。今回の用途では亜急性期の患者約16000人を組入れて偽薬、2.5mg、5mgを一日二回服用する3群の心血管アウトカムを比較したところ、2用量合計で偽薬比ハザードレシオ0.84、p=0.008と有意なリスク削減効果が示された。一方、大出血や頭蓋内出血が有意に増加した。特に5mg群のリスクと便益のバランスが悪かったため、2.5mgを承認申請した。

この試験はTIMIが主導した。血栓学で数々の成果を上げている米国の研究者共同試験グループで、信頼性は高い。だが、意外なことに、承認審査ではデータの信頼性が俎上に上がった。追跡打切り例が多く、その分、誤差が大きい。治療効果(心血管イベント発生率の差)は小さいため、許容できないというのである。

このような批判は初めてではなく、FDAの心臓腎臓薬審査チーム・リーダーが繰り返し主張してきたものだ。アストラゼネカのBrilinta(ticagrelor)、イーライリリーのEfient(prasugrel)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)等々、同様な問題がボトルネックとなり承認が遅延した薬は枚挙に暇がない。

心筋梗塞の再発予防などの分野は既に複数の薬が存在するので、新薬の上乗せ効果は自ずから小さくなる。例えば、治療しない時のリスクを100として、Aという薬を服用すれば50に減り、更にPを追加すれば30に減るとする。更にXを追加することで相対リスクを15%削減できたとしても、30が25に減るだけだ。このような小さな差を検出するためには大規模な長期試験が必要で、大規模長期試験を行うためには、医師や被験者の負担を軽くするために、治験の厳格性をある程度犠牲にせざるを得ない。

だが、統計的に有意でも元データに誤りがあったら意味がない。100が50に減るなら、実際は80に減るだけである可能性が残っていても許容できるが、30が25に減るだけなら許容できる誤差も小さくなる。新薬の承認の遅れは好ましくないが、問題点の所在が周知されるに従い、治験実施委員会や製薬会社の考え方も変わり、もっとキチンとした試験が行われるようになるだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


PerjetaがEUでも承認

(2013年3月5日発表)

ロシュは、抗2C4ヒト化抗体Perjeta(pertuzumab)がher2陽性転移性乳癌の一次治療薬としてEUで承認されたと発表した。乳がんの代表的な腫瘍関連受容体の一つであるher2がher3などと二量体化し成長因子受容体として機能するのを阻害する。her2標的薬であるHerceptin(trastuzumab)やTaxotere(docetaxel)と併用する。米国では昨年承認され、Herceptinの3割増しの価格で発売された。併用するので薬剤費が倍以上に上昇することになる。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年3月3日

海外医薬ニュース2013年3月3日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ロイヤルティ・ファーマがエランに買収オファー
  • バンコマイシン系静注点滴薬の第三相試験が成功
  • AAD:apremilastの効果は穏やかだが忍容性に注目したい
  • cilengitideの第三相神経膠芽腫試験がフェール
  • Heplisavは審査完了
  • 塩野義の性交疼痛治療薬が米国で承認
  • 持効性エビリファイ筋注が米国で承認
  • 米国でバイエルのVEGF受容体阻害剤が適応拡大
  • EUでSelincroとIlaris(適応拡大)が承認


【今週の話題】


ロイヤルティ・ファーマがエランに買収オファー

(2013年2月25日発表)

米国のロイヤルティ・ファーマは、アイルランドの新興製薬会社エランに買収オファーを行ったことを公表した。一株当り11ドル、総額65.5億ドルの巨大買収だ。エランがオファーを無視して独自の事業計画を公表したことに業を煮やし、公表に踏み切った。今後、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどエランの主要な株主が価格引き上げを求めることになりそうだ。

エランは多発性硬化症用薬Tysabri(natalizumab)を開発したことで有名。2012年のグローバル売上高16億ドル、安全性面でやや難があるものの再発予防効果ではピカイチだ。このほかにアルツハイマー病薬の開発や、既存薬の徐放製剤の開発を事業の柱としていたが、近年は事業売却を進め、アルツハイマー病薬はファイザーとの共同開発プロジェクトに関する権益の5割強をジョンソン・エンド・ジョンソンに売却。ドラッグ・デリバリーは事業ごと売却した。

更に、今年2月には、Tysabriもバイオジェン・アイデックとの提携を合弁方式からライセンス契約に切り替えた。アルツハイマー病の第三相プロジェクトは既にフェールしたので、今後の利益の柱はTysabriのロイヤルティ収入だけとなっている。同社は、Tysabriの契約変更で入手する頭金、32億ドルを活用して有望新薬の導入交渉を活発化する考えだ。

一方のロイヤルティ・ファーマは、新薬に係るロイヤルティ権を買収する一風変わったビジネスモデルを採用している。ニューヨークのマンハッタンに本社を構えるが、会社自体はアイルランドの単位型信託という形を取っている。以下のように、1996年の創立以降、様々な医薬品のロイヤルティ権を取得している。


  • 2006年にアストラゼネカからHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)関連の権利を7億ドルで買収。
  • 2007年にノースウェスタン大学から抗癲癇薬Lyrica(pregabalin、和名リリカ)関連権を7億ドルで買収。
  • 同年にニューヨーク大学からRemicade(infliximab、和名レミケード)関連権を6.5億ドルで買収。
  • 2011年にアステラス製薬からDPP-IV阻害剤に係る権利を6億ドルで買収。
  • 2012年にバイオジェン・アイデックが昨年2月に米国で承認申請した多発性硬化症薬BG-12(dimethyl fumarate)に係る権利を7.6億ドルで買収。


ロイヤルティ権というと新興企業が開発品を大手に導出するケースを連想するが、同社の「仕入れ先」は大学関係と企業買収関連が多い。大学にしてみれば、政府の補助に頼れない中、新たなプロジェクトの予算を手当てするためには長期間に亘る不確定な収入よりも今、一時金で貰う方がよいだろう。また、企業買収を行った会社は、不要資産の売却収入を買収資金の返済に充てることができる。

こうしてみると、ロイヤルティ・ファーマのビジネスモデルは時代が生み出したものといえるだろう。

リンク:ロイヤルティ・ファーマのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:エランのプレスリリース

【新薬開発】


バンコマイシン系静注点滴薬の第三相試験が成功

(2013年2月25日発表)

Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、バンコマイシン系抗生物質であるdalbavancinの二本目の第三相試験が成功したと発表した。急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症における治療効果がバンコマイシンとlinezolid(オキサゾリジノン系抗生剤、和名ザイボックス)を用いた群と非劣性だった。同社は米国で2013年央に、欧州でも年末に、承認申請する予定。

dalvancinはファイザーが2005年に19億ドルで買収したVicuron Pharmaceuticalsの開発品。週一回の静注点滴でMRSAやMRSEを含むグラム陽性菌の治療ができる抗生物質として2004年に承認申請されたが、製造基準問題や治験デザインの妥当性などがネックとなり、2008年に申請撤回となった。その後、Durataが全世界の開発販売権を取得、FDAの特別プロトコル評価を経て二本の試験を実施、何れも成功した。

今回の二本目の試験では、薬物関連治療時発現有害事象の発生率が12.2%で対照群の10.1%より数値上高く、治療時発現有害事象による治験離脱も2.4%対1.9%で上回った。深刻な有害事象がどの程度増えるのか、詳細発表が注目される。大手製薬会社に見捨てられた薬が蘇るのか、それともファイザーの目に狂いはないことが明らかになるのか?承認審査や発売後の需要も注目される。

リンク:Durata社のプレスリリース

AAD:apremilastの効果は穏やかだが忍容性に注目したい

(2013年3月2日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はCC-10004(apremilast)の乾癬治療第三相試験の結果がAAD(米国皮膚学会)で報告されたことを発表した。効果はバイオ薬(TNF阻害剤)ほどではなさそうだが、経口剤であることや日和見感染症のリスクが小さそうなことを考えれば、methotrexate不応・不耐患者には有益な治療手段になりそうだ。将来的に、methorexateに代わる第一選択薬になる可能性も残っているだろう。

apremilastはPDE-4阻害剤で、TNFアルファやIL-6、17、23、インターフェロン・ガンマなどの分泌を抑制する。一日二回、経口投与。第三相は乾癬と乾癬性関節炎に計5本実施され何れも成功した。3月に米国で乾癬性関節炎向けに、下期(7~12月)に乾癬向けと欧州で両方の適応症に、承認申請される見込み。

一本目の乾癬治療試験(ESTEEM 1)のデータは今回初めて公表された。16週間の治療後のPASI-75(PASI症状診断スコアが75%以上改善した患者の比率)が33.1%と偽薬群の5.3%を有意に上回った。この試験は初めて治療を受ける患者からバイオ薬経験者まで様々な前治療歴を持つ患者が組入れられたが、初治療サブグループのPASI-75は38.7%対7.6%なのでそれほど変わらない。有効率はバイオ薬ほど高くないと考えてよいだろう。

一方で、忍容性はよさそうだ。主な有害事象は下痢、悪心、頭痛。深刻な有害事象の発生率は2.1%対2.8%、重度有害事象は3.6%対3.2%で大きな差はなく、日和見感染症や心血管疾患も増えなかった。無事承認されたら、バイオ薬を使う前に試してみる薬になるのではないだろうか。

リンク:セルジーンのプレスリリース

cilengitideの第三相神経膠芽腫試験がフェール

(2013年2月25日発表)

ドイツのメルクは、EMD121974(cilengitide)の第三相試験がフェールしたと発表した。神経膠芽腫の標準的一次療法である放射線療法とTemodor(temolozomide)のコースに追加する効果を、MGMT遺伝子のプロモーターがメチル化して機能しないタイプの癌に限定して検討したが、成功しなかった。

同社はMGMTプロモーターがメチル化していない患者を組入れた第二相試験も実施中だが、期待薄になった。

リンク:メルクのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Heplisavは審査完了

(2013年2月25日発表)

ダイナバックス・テクノロジーズ(Nasdaq:DVAX)はFDAからHeplisavの審査完了通知を受領したと発表した。HeplisavはB型肝炎ワクチンで、アジュバントとしてTLR9アゴニストを添加していることが特徴だが、この前例のないアジュバントの安全性がネックである模様だ。

昨年11月に開催された諮問委員会では、14人の委員中13人が有効性を認めたが、安全性は支持5人、不支持8人、棄権一人と不支持が上回った。治験でウェゲナー肉芽腫とギラン・バレー症候群が一例ずつ発生し、クリニカル・ホールドになったこともある。2007年にMSDが世界権を取得したが、クリニカル・ホールド後に返還した。

同社は40歳以上の慢性腎疾患患者に限定して承認を得るべくFDAと相談する考え。慢性腎疾患患者は抗体ができにくく既存のワクチンだと何度も接種しなければならないので、Heplisavのような効果の高いワクチンが発売されれば意義がある。とは言え、安全性が問題だけに、追加試験を行わずに承認を得るのは難しいのではないだろうか。

リンク:ダイナバックスのプレスリリース

【承認】


塩野義の性交疼痛治療薬が米国で承認

(2013年2月27日発表)

塩野義製薬は、米国でOsphena(ospemifene)が承認されたと発表した。閉経後膣萎縮症に伴う中重度性交疼痛の緩和に用いる。QuatRx Pharmaceuticalsから2010年にライセンスした経口選択的エストロゲン受容体調節剤で、臓器によって受容体を作動したり阻害したり異なった働きをする。

性交疼痛はエストロゲン外用薬で治療することが多いが、エストロゲン単剤療法は脳卒中や深静脈血栓のリスクを高める。Osphenaも子宮内膜肥大に加えてこれらの疾患が枠付警告されているが、発生頻度は脳梗塞が千人当り0.72、出血性脳卒中は同1.45、深静脈は1.45なので、リスクはエストロゲンより小さそうだ。

リンク:塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:FDAのプレスリリース

持効性エビリファイ筋注が米国で承認

(2013年3月1日発表)

大塚製薬とルンドベックは、Abilify Maintenaが米国で2月28日に承認されたと発表した。非定型向精神薬aripiprazoleの持効性製剤で、一回の筋注で効果が30日間持続する。治療開始後2週間はaripiprazoleの経口剤(Abilify、和名エビリファイ)を併用する。

AbilifyはBMSと共同販売しているが、特許が切れる2015年4月に提携解消となる。非定型向精神薬の長期作用性注射用製剤はジョンソン・エンド・ジョンソンなどの製品が成功しているのでBMSがライセンスすると思われたが、2011年にルンドベックが共同開発販売権を取得した。Alkermes社が同様なaripiprazole新製剤を2014年にも承認申請する予定なので、予定通り1年早く発売できることはプラスだ。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文)

米国でバイエルのVEGF受容体阻害剤が適応拡大

(2013年2月25日発表)

バイエルは、米国でStivarga(regorafenib)の適応拡大が承認されたと発表した。切除不能消化管間質腫瘍で他の抗癌剤に反応しなくなった患者に用いる。米国では年間3300~6000人が消化管間質腫瘍と診断される。ノバルティスのGleevec(imatinib)やファイザーのSutent(sunitinib)が承認されている。

StivargaはNexavar(sorafenib)の水素原子をフッ素原子に置換した小分子薬で、Nexavarと同様に、オニクス社(Nasdaq:ONXX)との共同創薬研究の成果。転移性結腸直腸癌のラスト・ホープとして昨年9月に承認された。日本でも昨年、この二つの適応症で承認申請された。VEGFを阻害する薬なので出血、血圧上昇、胃腸穿孔などのリスクがあり、致命的な肝毒性が枠付警告されている。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

EUでSelincroとIlaris(適応拡大)が承認

(2013年2月28日、3月1日発表)

EUで、ルンドベックのアルコール依存治療薬Selincro(nalmefene HCI)と、ノバルティスのIlaris(canakinumab、和名イラリス)の痛風発作予防適応拡大が承認された。

Selincroはオピオイド拮抗剤。様々な会社が病的賭博など様々な用途で開発したが、アルコール依存の第三相試験が成功。飲酒量が偽薬比6割減少した。フィンランドのBioTie Therapiesから導入。新薬排他権期間が5年と短いため米国では承認申請しない予定。

リンク:ルンドベックのプレスリリース(pdfファイル)

Ilarisは抗IL-1ベータ抗体で、クリオピリン関連周期性症候群に次ぐ二つ目の用途が承認された。難治性痛風で年3回以上発作が起きる患者が対象。日本でも薬価が一回143万円と高価な薬なので、価格を見直すか、他の適応拡大が成就するまで待つか、思案のしどころだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

今週は以上です。

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