2013年2月3日

海外医薬ニュース2013年2月3日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Feuerstein・Ratainの法則~セルシオンの第三相がフェール
  • リツキサン後継薬の第三相試験が成功
  • 鉄系高リン血症治療薬の長期投与試験が成功
  • MSDの骨粗鬆症治療薬の承認申請が遅延
  • MSDが経口減感作療法用薬を米国で、不眠症薬を日本で、承認申請
  • FDA諮問委員会がベーリンガーのLABAを支持
  • FDA諮問委員会が嚢胞性線維症用薬を支持せず
  • FDAがApoB-100アンチセンス薬を承認
  • FDAが尿回路異常症の治療薬を承認
  • EUがコレバインを承認


【今週の話題】


Feuerstein・Ratainの法則~セルシオンの第三相がフェール

(2013年1月31日発表)

セルシオン(Nasdaq: CLSN)は、ThemoDoxの切除不能肝癌試験がフェールしたと発表した。ThermoDoxはdoxorubicinを熱感受性リポソームに入れた抗癌剤で、今回の試験では、高周波アブレーションの付随療法としてPFS(無増悪生存期間)を向上する効果を高周波アブレーションだけの群と比較したが、有意差が出なかった。

日本ではヤクルトが導入、今回のHEAT試験にも参加していたが、残念な結果になった。

リンク:セルシオンのプレスリリース

さて、セルシオンの第三相試験がフェールしたことで再び脚光を浴びたのがFeuerstein・Ratainの法則だ。

TheStreet.comという株式投資サイトのコラムニストであるAdam Feuersteinと、シカゴ大学の腫瘍学者であるMark Ratain博士は、2011年に米国立癌研究所の機関誌JNCIに"Oncology Micro-Cap Stocks: Caveat Emptor"という論評を刊行した。

それによると、過去10年間の抗癌剤59品の第三相試験を分析したところ、時価総額3億ドル未満の企業の開発品21品は全てフェールだった。一方、10億ドル以上の企業の開発品は27品中21品、78%が成功した。大変な違いである。この法則は、昨年4月にperifosineの試験がフェールしたケリックス・バイオファーマシューティカルズにも当てはまる。

抗癌剤は第二相試験の結果に基づいて承認されるケースもあり、比較的開発投資が小さいため資金力に劣る新興企業に適した領域のように思われがちだが、実際は違うのだ。セルシオンは第二相試験を行わず第一相から一足飛びに第三相へ進んだが、大手製薬会社なら第一相がよほど良くない限り、順番を守るだろう。

米国の新興企業は一年分の資金しか持っていないことが多く、開発に時間を掛ける余裕はない。それどころか、有望新薬の開発を中止すると株価が暴落し資金調達できなくなるので、最後の審判の日が来るまではフェールしない方法、つまり、白黒付かないような中途半端なプルーフ・オブ・コンセプト試験を行って第三相に全てを賭ける戦略を取らざるを得ないのである。

まあ、有望な新薬なら株式投資家が注目して時価総額が増えるだろうし、それ以前に、大手製薬会社がライセンスするだろう。また、私は普段、事後的分析はアテにならないと言っているのだから、両氏の事後分析にも同じ注意書きを付けるべきである。だがそれにしても、頭の片隅には入れておいた方がよいかもしれない。

リンク:FeuersteinとRatainの論評(JNCI、フリーアクセス)

【新薬開発】


リツキサン後継薬の第三相試験が成功

(2013年1月31日発表)

ロシュは、GA101(obinutuzumab)のCD20陽性慢性リンパ性白血病一次治療chlorambucil併用試験の成功を発表した。欧米で承認申請される予定。

GA101はRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同じリンパ球表面のCD20を標的とする抗体医薬だが、キメラではなくマウス由来のアミノ酸が少ないヒト化抗体であり、また、糖鎖を改変することによってADCC(抗体依存的細胞障害)活性を向上したもの。Rituxanの主用途である非ホジキン型リンパ腫などでも第三相直接比較試験が進行中で、将来はRituxanに取り替わることが期待されている。

今回の第三相試験は二つのステージがあり、第一ステージではchlorambucil単剤投与群とPFS(無増悪生存期間)を比較、成功した。第二ステージではRituxan・chlorambucil併用と比較しているが、futulity(無益性)分析の結果、第二ステージ続行が認められた。Rituxanより優れていることが確認されたわけではないが、期待は裏切られていないことになる。

GA101の糖鎖改変はロシュが2005年に2億スイスフランで買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いている。グリコシルトランスフェラーゼの遺伝子を過剰発現するCHOセルに抗体を生産させることによって、翻訳後装飾でフコースが付加されるのを防ぎ、NKセルやマクロファージのFcガンマ受容体IIIaに結合する力を高めた。協和発酵キリンのポテリジェント技術はFUT8を発現しないCHOセルを用いることによってフコース欠如抗体を生成しており、セルラインは違うが結果は類似している。

抗CD20ポテリジェント抗体のin vitro試験論文は中々インプレッシブだった。ロシュのジェネンテック部門がポテリジェント技術をライセンスしたので私はポテリジェント・リツキサンの登場を想定していたのだが、ジェネンテックを完全子会社化したロシュはパイプラインを整理、ロシュが別途開発していたGlycoMAbベースのGA101を選択した。

リンク:ロシュのプレスリリース

鉄系高リン血症治療薬の長期投与試験が成功

(2013年1月28日発表)

米国のケリックス・バイオファーマシューティカルズ(Nasdaq:KERX)は、Zerenex(ferric citrate)の長期投与試験が成功したと発表した。1年間投与後の離脱試験の結果も発表されたが、今回の試験の主目的は安全性や効果の持続性を確認することと推測されるので、ここでは取り上げない。2013年第2四半期に欧米で承認申請される予定。

Zerenexは鉄系の経口リン吸着剤で、末期腎疾患の患者の高リン血症の治療に用いる。日本ではJT/鳥医薬品が導入してJTT-751として開発、一足早く今年1月に承認申請した。

バイオ系の企業は挫折と復活の繰り返しである。ケリックスはperifosineの結腸直腸癌第三相試験がフェールし株価が暴落するなど挫折が続いたが、今回の発表の翌日に公募増資を発表しており、息をついた。

リンク:ケリックスのプレスリリース

MSDの骨粗鬆症治療薬の承認申請が遅延

(2013年2月1日発表)

MSD(NYSE: MRK)は2012年第4四半期決算発表に合わせて開発パイプラインのアップデートを行った。意外だったのは、MK-822(odanacatib)の承認申請が2014年に先送りされたことだ。経口骨粗鬆症治療薬として2013年上期に承認申請されるはずだった。

決算発表会では複数の証券アナリストが入れ代わり立ち代わり質問したが、会社側は、承認申請用試験の結果が先日まとまった、二重盲検延長試験の結果は未だであり、その結果が出るまで待つことを決めた、と繰り返すだけだった。

同社の昨年7月の発表によると、骨損壊予防試験の第一回中間解析でデータ監視委員会が主目的達成と認定、治験の繰上完了を勧告した。同時に、特定の分野の安全性問題が残っていることから、8000人以上を組入れた延長試験は予定通り続行するよう勧告した。承認申請遅延はこの安全性問題が原因と推測されるが、具体的な内容は分からない。

MK-822はカテプシンK阻害剤。破骨細胞のコラーゲン/ゼラチン分解酵素を阻害することによって骨吸収を阻害する。他の骨粗鬆症治療薬と異なり破骨細胞に影響しないため、間接的に造骨細胞を阻害することもない。

臨床試験ではラッシュ(皮疹や結節)が見られた。カテプシンKは皮膚にも分布しているので、その影響かもしれない。カテプシンKは心臓、肺、脾臓、肝臓、膵臓、マクロファージなどにも分布している。また、日本の試験では副甲状腺ホルモンの大幅な増加が見られた。承認遅延はこれらの懸念が顕在化したのかもしれない。

勿論、治験でノイズが発生しただけである可能性も考えられる。骨損壊予防試験は大規模なので、滅多に発生しない有害事象で偶々、群間の偏りが発生することがある。滅多に発生しないので偶然であることを証明するのは難しく、少しでも症例を多く集めて偏りが縮小するのを期待する以外に方法がない。

MK-822は骨塩密度改善作用がビスフォスフォン酸並みで、週一回服用だがビスフォスフォン酸は月一回の製品があり、競争力は決して高くないだろう。それだけに、安全性で見劣りしないことが重要だ。

リンク:MSDの2012年第4四半期決算発表リリース

【承認申請】


MSDが経口減感作療法用薬を米国で、不眠症薬を日本で、承認申請

(2013年2月1日発表)

MSDはMK-7243を米国で、MK-4305を日本で、それぞれ承認申請したことも明らかにした。

MK-7243はコペンハーゲンのAlk Abello社が欧州でGrazaxとして販売している製品を米国市場などで導入したもの。草アレルゲンを含有する舌下錠で、シーズン前の3~4ケ月間、一日一回服用することによって、体をアレルゲンに慣れさせ、アレルギー性鼻結膜炎の発症を予防する。米国ではブタクサ・アレルギー向けとチモシー芝アレルギー向けの二種類で第三相試験が実施された。

治験成績を見ると効果は穏やかだが、効く人には効きそうだ。欧州は米国より普及しており、フランスでは過半の患者が経口減感作療法を受けているとのことだ。日本で多いスギ花粉アレルギー向けは未だ存在しない模様。

MK-4305(suvorexant)はオレキシン受容体アンタゴニスト。オレキシンは視床下部で分泌されるホルモンで、日中でもふとした拍子に眠ってしまうナルコレプシーという疾患に関連している。それだけに、治験では脱力発作の類が発生しないか密接に監視した模様だ。2012年11月に米国で承認申請が受理された。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がベーリンガーのLABAを支持

(2013年1月29日発表)

FDA肺・アレルギー薬諮問委員会がベーリンガー・インゲルハイムのBI 1744(olodaterol)をCOPD用薬として承認することを支持した。薬効、安全性、両者のバランスの何れについても、17人の委員のうち15人が支持、1人が不支持、1人が棄権だった。

同社はCOPD用のムスカリン阻害剤、Spiriva(tiotropium bromide、和名スピリーバ)が大成功している。BI 1744は長期作用性ベータ2作用剤(LABA)で、Spirivaだけでは十分に増悪を防げない患者に追加するのが標準的な用途になりそうだ。同社はコンビ薬も開発中。

リンク:ベーリンガーののプレスリリース

FDA諮問委員会が嚢胞性線維症用薬を支持せず

(2013年1月30日発表)

その翌日、FDA肺・アレルギー薬諮問委員会はオーストラリアのファーマキシス社(ASX: PXS)が承認申請したBronchitol(mannitol)を検討したが、14人の委員全員が支持しなかった。効果については3人、安全性についても3人が支持しただけだった。

Bronchitolはmannitolの吸入用粉末製剤。嚢胞性線維症の肺機能改善作用を調べた第三相試験では、一本で穏やかな、偽薬比有意なFEV1改善作用が見られたが、ドロップアウトが多かったので、intent-to-treatベースの治療効果は希薄化される。二本目はドロップアウトが少なかったが有意差がなかった。有害事象では喀血が見られた。

欧州ではCHMPが一度は否定的評価を下したものの、その後、承認した。米国もFDAが諮問委員会と異なった判断をする可能性があるが、楽観はできないだろう。

リンク:ファーマキシスのプレスリリース(1/31付、pdfファイル)

【承認】


FDAがApoB-100アンチセンス薬を承認

(2013年1月29日発表)

アイシス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ISIS)とサノフィがホモ接合型高脂血症治療薬として承認申請していたKynamro(mipomersen sodium)がFDAに承認された。諮問委員会で賛成9人、反対6人と票が分かれたため私は楽観していなかったが、意外な結果になった。ホモ接合型高脂血症はスタチンを服用してもLDL-C値が数百mg/dLと著しく高く、心血管疾患のリスクが高いため、肝安全性に懸念のある薬でも便益がリスクを上回ると判断したのだろう。

Kynamroは皮注用薬で200mgを週一回、投与する。作用機序は、VLDL-Cの一部であるApoB-100のメッセンジャーRNAの塩基配列と入れ替わり、正常なApoB-100の生成を妨げる。スタチンなどによる治療を受けている患者を組入れた治験では血清LDL-C値が偽薬比25%、113mg/dL減少した。それでも正常値より高いので効果がもっと高ければよかったのだが、高量を投与すると肝毒性のリスクが高まる。

ホモ接合型高脂血症は両親から受け継いだ両方のLDL-C受容体遺伝子に異常があり、LDL-C値が著しく高い。患者数は米国とEU5ヶ国の合計で600人と推測されているが、LDL-C受容体遺伝子が正常な亜型も多い模様であり、今後、対象患者数が増加する可能性もある。希少疾患用薬なので価格が高く、一回分が3380ドル、年17.6万ドル。先日承認されたAegerionのJuxtapid(lomitapide、経口剤)の年23.5-29.5万ドルよりは安い。

アイシスはApoB-100のように通常の薬では阻害できない標的のRNAを標的とする「アンチセンス」薬の開発に特化した米国の新興企業だ。アンチセンスは近年注目されているRNA介入の一種と考えることもできる。アンチセンス薬の第一号はHIV/AIDS患者のCMV網膜炎治療薬として米国で1998年に承認された同社のVitravene(fomivirsen)で、15年を経て第二号が実用化された。

同社は希少疾患用薬大手のジェンザイムと世界共同開発販売提携を締結、そのジェンザイムをサノフィが買収した。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

FDAが尿回路異常症の治療薬を承認

(2013年2月1日発表)

FDAはハイペリオン・セラピュティクス(Nasdaq: HPTX)のRavicti(glycerol phenylbutyrate)を2歳以上の尿回路異常症の慢性管理薬として承認した。蛋白制限食だけでは足りない患者に用いる。4月末に発売される予定。

尿回路異常症は遺伝子疾患で、蛋白吸収・分解過程で発生する窒素を尿素に変換するサイクルが機能せず、窒素がアンモニアとして蓄積して脳に障害を与える。有病率は新生児1万人に一人とのこと。Ravictiは1日三回服用の経口液で窒素に結合し尿排泄を促す。既存の治療薬であるBuphenylと比較したクロスオーバー試験では、効果が同程度だった。副作用は下痢、鼓腸、頭痛など。効果が同程度では競争力が弱そうだ。

リンク:ハイぺリオンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

EUがコレバインを承認

(2013年1月29日発表)

田辺三菱製薬は、BindRen(colestilan/INN、コレスチミド/JAN、和名コレバイン)が透析期慢性腎不全患者の高リン血症治療薬としてEUで承認されたと発表した。日本で1999年に高脂血症治療薬として承認されてから14年、遂にグローバル・デビューすることになる。

日本では1.5~2gを一日二回、経口投与するが、海外では2~3g一日三回と高量を使う。作用機序の異なる既存薬に対抗するために必要だったのだろう。高リン血症治療薬は様々な製品があるので、競争は激しい。

リンク:田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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