2013年2月24日

海外医薬ニュース2013年2月24日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 週末のニュース:アフィマックスと武田が腎性貧血治療薬を自主回収
  • GS-7977のC型慢性肝炎試験が全て完了
  • FDAはRepros社の治験計画変更案を部分的にしか認めず
  • Stallergenesも芝花粉アレルギー用薬を米国で承認申請していた
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが日本でTMC435を承認申請
  • CHMP:ヴィ-ヴァスの体重管理薬を再度却下
  • ロシュのバイオコンビ薬が米国で承認


【レイト・ブレイカー】


アフィマックスと武田が腎性貧血治療薬を自主回収

(2013年2月23日発表)

アフィマックス(Nasdaq:AFFY)と武田薬品は、米国で昨年発売したばかりの腎性貧血治療薬、Omontys(peginesatide)を全量自主回収すると発表した。市販後に致死例を含む過敏反応症例が報告されたため。発生率は低いが、エリスロポイエチン作用剤は他にも存在するため、敢えて使う必要はないと判断したのだろう。発生率が低いだけに原因究明は困難と思われ、このまま販売中止の公算がある。

Omontysはエリスロポイエチン受容体に結合する2つのペプチドをリンカーで繋げて更にポリエチレン・グリコールを結合して半減期を長期化したもの。既存薬であるEpogen(epoetin alpha)が165個のアミノ酸からできているのに対してOmontysは21個と少ない。アフィマクスは2006年に武田薬品と共同開発販売契約を結び、米国はフィフティ・フィフティで共同開発販売、海外は武田の単独販売で欧州で承認審査中。米国ではフレゼニアス等の透析センターがテスト中で、全施設採用を決めるケースも出始めたところだった。

昨年4月の発売以来、累計25000人に投与されたが、アナフィラキシー等の過敏反応が報告された。発生率は0.2%、うち3分の1は深刻で、致死例の発生率は0.02%だった。このため、昨年11月にドクターレターを発出、警告したが、遂に全ロット自主回収に至った。既に治療を受けている患者についても再投与しないよう呼びかけている。Omontysのウェブサイトも変更され、今回のドクターレターしか見れなくなった。

Omontysはアミノ酸配列が異なるため、抗エポエチン抗体が天然のエリスロポイエチンも破壊して深刻な貧血症が起きるPRCA患者に使える可能性があり、残念な結果になった。

リンク:アフィマックス/武田のプレスリリース

リンク:2012年12月のドクターレター(pdfファイル)

リンク:2013年2月のドクターレター

【新薬開発】


GS-7977のC型慢性肝炎試験が全て完了

(2013年2月19日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はNS5Bプロテアーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)のFUSION試験の成功を発表した。遺伝子型(GT)1型など各種のC型慢性肝炎の第三相試験四本が全て成功し、年央に承認申請に向かう予定。

FUSION試験はインターフェロン・ベースの一次治療が奏功しなかったGT2型と3型の患者を対象に、GS-7977(400mgを一日一回経口投与)とribavirinの併用療法を12週間または16週間、施行したところ、SVR12(持続的ウイルス学的奏効率12週:治療完了の12週後になってもウイルスが探知不能であった患者の比率)が12週間コース群は50%、16週間コース群は73%となり、ヒストリカル・コントロール(文献などに示された過去の治験データを対照群とする)の25%を上回った。

被験者の37%を占めるGT2型は各86%と94%、63%を占めるGT3型は30%と62%だった。GT3型は16週間治療する必要がありそうだ。有害事象で投与を中止した例はなかった。

ギリアッドは忍容性の高い抗HIV薬tenofovirを礎に、様々な薬とのコンビ薬をラインアップすることで治療成績と利便性の向上を実現、グラクソ・スミスクラインを抜いてHIV/AIDS治療薬でナンバー・ワン企業になった。シェアの面では天井が見え始め、また、tenofovirは米国で2017年末にテバがジェネリック薬を発売することになったが、日本たばこからライセンスしたインテグラーぜ阻害剤elvitegravirに続いて、ファーマセット社買収で入手したGS-7977も承認申請に向けて順調に歩んでいる。

一発当てた後に二の矢が用意できず身売りする新興企業が多い中で、特定の領域におけるドミナンスを生かして次々と新薬を入手・製品化してきた同社の商品開発戦略は、大いに参考にすべきだろう。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

FDAはRepros社の治験計画変更案を部分的にしか認めず

(2013年2月21日発表)

テキサスの新興企業であるRepros Therapeutics(Nasdaq:RPRX)は、先月、Androxal(enclomiphene citrate)の二次性性腺機能低下症治療第三相試験二本のうち一本目に関して、治験計画変更の可能性を示唆した。ある医療施設の患者背景データに異常が見つかったため、この施設のデータを除外してもう一本の試験の患者を移すことで補うというのだ。

Androxalは抗エストロゲンで、代表的な既存薬であるAbbVie(アボットからスピンアウトした会社)のAndroGelがゲル状の塗り薬であるのに対して、経口カプセルであることが特徴。50年の臨床歴を持つclomiphene citrateのトランス異性体だ。第三相試験では、偽薬、12.5mg/日(25mgまで増量可)、25mg/日の各群の奏効率(テストステロン値が正常化した患者の比率)と性機能安全性(精子量が大きく変化しない)を主評価項目としている。

ところが、151人を組入れた一本目の試験で、某医療施設が組入れた40人の精子量データが他の医療施設と大きく異なることが判明した。Reprosは、典型的な患者と異なるのでこの施設の成績は一般化できず、除外すべきと判断した。承認申請用の試験は、その試験成績が全米の患者に当てはまるものであるべき、と考えた。

同社はFDAと相談したが、部分的にしか受け入れられなかったことが2月21日に明らかにされた。一本目の試験は予定通り年央に解析を行い、その代り、当該医療施設を除外した解析も行うことが決まった。二本目の試験は組入れを拡大することができる。これらの試験は事前にFDAの特別プロトコル評価(SPA)を受けているが、この程度の変更ならSPAは撤回されないとのことだ。

FDAの意見は尤もだ。当該医療施設が組入れ条件、除外条件に違反しているなら除外が適切だが、そうでないなら、除外するほうが不適切だ。精子量が他の患者と大きく異なる患者が存在するなら、そのような患者に関する治療効果や安全性を確認することは重要な課題だからだ。治験成績の一般化を可能にするためには、特定のタイプだけを組入れるのも、除外するのも、どちらも好ましくない。

同社がFDAの意見を受け入れたのは適切だろう。治験開始後にプロトコルを変更するとSPAが撤回される可能性があり、承認審査時に改めてプロトコルの妥当性が俎板に乗せられる公算があるからだ。解析後に当該施設のデータの不当性が判明し、症例除外によって検出力が不足しフェールしたとしても、斟酌されるだろう。

リンク:Reprosのプレスリリース

【承認申請】


Stallergenesも芝花粉アレルギー用薬を米国で承認申請していた

(2013年2月18日発表)

Stallergenes S.A.(Euronext Paris CAC small:GENP)は、FDAがOralairのBLA(生物学的製剤の承認申請)を受理したと発表した。芝・牧草アレルギーの患者がシーズン前とシーズン中に服用してアレルゲンに慣れる、免疫寛容療法用の舌下錠。

MSDもデンマークのAlk AbelloのGrazaxをライセンス、チモシー芝アレルギー用をMK-7243、ブタクサ・アレルギー用をMK-3641として第三相試験を行い今年1月に米国で承認申請したところだが、Stallergenesのほうが一足早かったことになる。

Oralairは欧州の一部国で2008年に発売、昨年はフランスやカナダでも承認された。チモシーに加えて、ライ芝やケンタッキー・ブルーグラスなど計5種類の芝・牧草のアレルゲンを含有していることが特徴。同社は免疫寛容療法用薬を主力製品とするフランス企業。経口免疫寛容療法が比較的普及している欧州でも剤型は経口液が中心で、同社の2012年の免疫療法用薬売上高2.1億ユーロのうち、Oralairは1600万ユーロのみだ。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンが日本でTMC435を承認申請

(2013年2月22日発表)

スエーデンの新興医薬品会社であるメディビア(OMX: MVIR)が開発したNS3/NS4Aプロテアーゼ阻害剤、TMC435(simeprevir)が、ライセンシーであるジョンソン・エンド・ジョンソンによって日本で承認申請された。遺伝子型1型のC型慢性肝炎の一次治療、二次治療にPEG化インターフェロン及びribavirinと併用する。服用頻度が1日一回であることと、先行品と比べて忍容性が比較的良いことが長所。日本では一次治療、二次治療などの第三相試験が実施された。

リンク:メディビアのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP:ヴィ-ヴァスの体重管理薬を再度却下

(2013年2月22日発表)

EUの薬品監督機関であるEMAは、医薬品科学的評価機関であるCHMPの月例会議を開催、サノフィの6種混合ワクチン等に肯定的意見を出した。一方、ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)の体重管理薬Qsiva(phentermineとtopiramateの合剤)は再び否定的評価となった。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、まず、サノフィとMSDの欧州合弁が開発した6種混合ワクチン、Hexacima/Hexyon。ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、インフルエンザ菌B型感染症、B型肝炎を予防する。同社は同様なワクチンであるHexavacを販売していたが、B型肝炎抗原の免疫原性が低下していることが発覚、2005年に販売中止となった。この余波でグラクソ・スミスクラインのInfanrix Hexaの需要が増加、年商12億ドルの大型製品になった。サノフィ・パスツールMSDは巻き返しを図る。

リンク:サノフィ・パスツールMSDのプレスリリース(pdfファイル)

次に、Lucane Pharmaが承認申請した尿回路異常症治療薬、Pheburane(sodium phenylbutyrate)も肯定的意見。この窒素結合剤は米国でもハイペリオン社(Nasdaq:HPTX)が承認申請し、今月初めに承認された。

EUで医薬品の販売許可を得るには、EMAに申請する方法と、加盟国のどれかに申請し、承認された後に他の加盟国に相互認証を求める方法がある。EMAが承認した薬はジェネリック品もEMAが承認審査する。今月は、アルツハイマー病薬Namenda(memantine、和名メマリー)のGE品が肯定的意見を得た。一つは米国のマイラン、もう一つは同じく米国のアクタビスの製品。アクタビスは、Glivec(imatinib、和名グリベック)のGE品も肯定的意見。

一方、ヴィーヴァスは昨年10月にCHMPが否定的意見を出したため再審請求を行ったが、今回もダメだった。心血管アウトカム試験を行って心安全性を確認することを求められた。FDAも市販後の実施を求めているので、数年後に結果が出た後で欧州再申請となりそうだ。

欧州は米国に負けず劣らず、肥満症治療薬に関するネガティブな経験を持っている。まず、Qsivaの活性成分の一つであるphentermineは、米国のfenfluramine/dexfenfluramine併用例で心弁変形や肺高血圧症のリスクが高まることが判明、欧州の多くの国で販売中止となった。

クノール(後にアボットが買収)のReductil(sibutramine)は2002年にイタリアで承認停止となったが、CHMPがリスクより便益の方が大きいと判定し沈静化、日本でも承認申請され2009年に部会を通過、承認の一歩手前まで行った。ところが、同年に心血管アウトカム試験の結果が判明し、予防効果がないだけでなくむしろリスクを高める可能性が示唆されたため2010年に販売中止、日本も申請取下げとなった。

更に、fenfluramineと同様にセルビエが開発し1976年に糖尿病用薬として発売したMediator(benfluorex)が2009年に心毒性を理由に販売中止になった。33年も放置されたのが不思議だが、フランスでは政治家を巻き込むスキャンダルになっているようだ。

これらの歴史を考えると、米国で昨年、Qsymiaとして承認された薬が欧州で承認されなかったのも無理はないだろう。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース(2月21日付)

【承認】


ロシュのバイオコンビ薬が米国で承認

(2013年2月22日発表)

FDAは、ロシュのジェネンテック子会社のKadcyla(ado-trastuzumab emtansine、開発名T-DM1)を、her2陽性転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)及びタクサン系抗癌剤の前治療歴を持つ患者向けに承認した。転移性乳癌の二次治療だけでなく、早期乳癌の切除術付随療法として両剤を用いたが半年以内に再発した患者の一次治療も適応。

第三相試験では、her2陽性転移性乳癌の代表的な二次治療レジメンであるXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の併用療法と比較したところ、PFS(無増悪生存期間)がメジアン9.6ヶ月と対照群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65だった。メジアン生存期間も30.9ヶ月対25.1ヶ月、ハザードレシオ0.68だった。実薬対照試験でこれだけ大きな差が出たことに驚かされる。副作用は、肝毒性、左室駆出率低下、催奇性が枠付警告された。

KadcylaはHerceptinの活性成分である抗her2モノクローナル抗体に、DM1と呼ばれる強力な微小管重合阻害剤を結合したもの。癌細胞の成長因子受容体であるher2に結合し、細胞の中に入るとリンカーが外れ、DM1が細胞毒性を発揮する。癌細胞選択的に作用する抗体に細胞毒を搭載する『ミサイル療法』はアイディアとしては昔からあったが、血液中でリンカーが外れてしまうことがボトルネックだった。

しかし、イミュノジェン(Nasdaq:IMGN)がHerceptinにDM1を結合する技術を開発。2000年にジェネンテックがライセンスし、2006年に臨床入りさせた。シアトル・ジェネティクス(Nasdaq;SGEN)も同様なドラッグ・アンティバディ・コンジュゲート技術を用いた抗リンパ腫薬Adcetris(brentuximab vedotin)を一足早く2011年に発売している。潰しの効く、有望な技術である。

価格は高く、1ヶ月分が$9800/月、患者一人当たりメジアン$94000と推定されている。現在は二次治療薬だが、Herceptinと同様に、一次治療、切除術付随と用途を広げ、将来はHerceptinに取り替わっていくだろう。タクサン系とHerceptinの併用療法と比べて副作用が小さいことが長所だ。日本でも中外が1月に承認申請した。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿