2013年2月17日

海外医薬ニュース2013年2月17日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国で人工網膜が承認
  • ファーマサイクリクスの開発品もFDAのブレークスルー・セラピー指定を獲得
  • 優先審査は実質8ヶ月、標準審査は同12ヶ月
  • バイエルがriociguatを欧米で承認申請
  • tivozanibは全生存期間ではネクサバールとの差を示せず
  • トレシーバは米国では承認されず
  • ジクロフェナクはエッセンシャル・メディスンから外すべき?


【今週の話題】


米国で人工網膜が承認

(2013年2月14日発表)

FDAは進行した網膜色素変性症の患者が使う人工網膜システムを承認した。話に聞いたことはあるが、医療機器として承認されるほど開発が進んでいたとは驚いた。現時点では能力に限りがあるようだが、将来に期待が持てそうだ。

このシステムは、カリフォルニア州のセカンド・サイト・メディカル・プロダクツ社のArgus II Retinal Prosthesis System。仕組みは、眼鏡に取り付けられたミニチュア・ビデオ・カメラが撮影した画像を、ショルダーバッグに入れた映像処理コンピュータで電気信号に変えて、眼球にインプラントされた人工網膜に無線で伝送。人工網膜の電極が電気シグナルを発し視神経が認識、脳に情報を送る。

この電気的シグナルは本来の網膜が発するシグナルとは異なり、脳に結ばれる映像が何を意味するか判断できるように練習する必要があるようだ。安全性の面では、被験者30人中11人が23件の深刻な有害事象を経験した。結膜びらん、インプラント後の縫合糸の裂開、網膜剥離等である。

適応になるのは網膜内層の機能に問題がない患者だけだ。更に、今回の承認は人道的配慮による特例承認なので、光は認識できても光が来る方向は分からないような重度の患者が対象になる。

それでも、周りの人や物の動き、明暗等を認知できるようになるので、生活機能が向上する。大きな字が読めるようになる可能性もあるようだ。

網膜が画像をどのように変換しているのか解明が進めば、もっと良い製品が開発できるかもしれない。今回のような正式承認の道筋が用意されていれば、民間企業や投資家が集まり、競争の中で開発がスピードアップするかもしれない。色々な意味で感慨深いニュースだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:セカンド・サイト社のウェブサイト(このシステムを簡単に説明したビデオあり)

ファーマサイクリクスの開発品もFDAのブレークスルー・セラピー指定を獲得

(2013年2月12日発表)

2012年に導入されたブレークスルー・セラピー(BT)指定制度の第二号が明らかになった。ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)で、予定適応症はマントルセル・リンパ腫とワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症。

マントルセル・リンパ腫で第三相段階だが、第二相試験(再発性・難治性患者に客観的反応率68%)のデータに基づいて年末までに承認申請される予定。2012年12月9日号で書いたように、再発性・難治性慢性リンパ性白血病の第一相/二相試験でも客観的反応率68%という良い成績を上げ、第三相に進んだ。BTKはBセルのサバイバルや増殖に関わるチロシン・キナーゼで、PCI-32765は様々なBセル腫瘍に適応拡大が進みそうだ。

BT指定制度は2012年7月発効のFood and Drug Administration Safety and Innovation Actに基づくもので、深刻な、または命に係わる病気や症状に対して、既存の薬より顕著に優れる効果を示した開発品に与えられる。臨床的に重要な評価項目に関するエビデンスがあれば開発初期段階のデータしかなくても適用される。IND(治験許可申請)時またはその後に開発者が適用申請する。

第一号はバーテックス社(Nasdaq: VRTX)のKalydeco(ivacaftor)で、適応拡大とVX-809併用療法でBT指定されたことが1月6日にJPモルガンのヘルスケア・カンファレンスで発表された。Kalydecoは2012年に欧米で承認されたCFTRポテンシエイターで、G551D変異型嚢胞性線維症(対象患者は世界で約2000人)の治療に用いる。複数の適応症でBT指定された模様で、R117H変異型と非G551Dゲーティング変異型の嚢胞性線維症に関する第三相段階のプロジェクトも対象と推測される。

VX-809はCFTR矯正剤(corrector)と呼ばれる、Kalydecoとは異なるメカニズムを持つ小分子薬。VX-809はCFTRを増やすことによって、KalydecoはCFTRチャネルをポテンシエートすることによって、クロライド・チャネルの機能を向上し、嚢胞性線維症に伴う粘液の蓄積を改善する模様だ。米国の嚢胞性線維症患者の5割弱を占めるF508欠損ホモ接合型の第三相併用試験が間もなく始まる予定。

米国には新薬開発をスピードアップ・支援するための様々な制度がある。ファースト・トラック指定や加速承認、優先審査などでだ。これらの制度とBT指定制度の違いは明確ではなく、バーテックスも、BT指定されるとどのような恩恵(インプリケーション)があるのか現時点では不明と述べている。第一号、第二号は開発がかなり進展しており、後期第一相試験の反応率データで承認取得を狙うという野心的なプロジェクトではない。どちらかと言えば、取れるものなら取っておいた方が有利という判断だったのではないだろうか。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース(2013年2月12日付)

リンク:FDAの開発・承認審査推進策に関する一般向け説明ページ

優先審査は実質8ヶ月、標準審査は同12ヶ月

先週はバイエルの去勢抵抗性前立腺癌骨転移治療薬とGSK/塩野義の抗HIV薬がFDAに優先審査指定されたことが発表された。GSKのインテグラーぜ阻害剤dolutegravirは承認申請が昨年12月17日で審査期限(PDUFA date)は今年8月17日、バイエルのradium-223 dichlorideもプレスリリースも8ヶ月審査と記されている。これは、PDUFA改正で審査期間が実質的に延長されたからだ。

Prescription Drug User Fee Actは医薬品業界から承認申請時及び毎年、フィーを徴収して承認審査体制の拡充に充てるもの。見返りに、承認審査期間の目標を課した(但し、未達でもペナルティはない)。FDAに対する医薬品業界の影響力が強まるという懸念があったため5年間の時限立法とされたが、承認審査のスピードアップなどの成果が上がったため、これまでのところ毎回延長され、更には、GE薬や医療機器にも同様な制度が導入された。

但し、前回のPDUFA IV辺りから審査期間短縮が最大目標ではなくなり、昨年10月1日発効のPDUFA Vでは実質的に延長された。審査期間の起算が承認申請(submission)から受理(filing)された時点に変わったのである。承認申請から受理まで約2ヶ月かかるので、優先審査は2+6ヶ月で8ヶ月、標準審査は2+10ヶ月で12ヶ月となったのだ。

PDUFAは開発者がFDAと臨床開発に関する相談をできるようにするなど広範な成果を上げたが、その分、FDAの仕事量も増えている。FDAの科学者の中には審査官としてキャリアを積んだ後にコンサルタントのような職業に就くことを希望している人もいるので、毎年の退職者も少なくはなく、体制強化が必要なほどには進んでいない。今回の審査期間延長は、最優先すべき薬とそうでない薬のメリハリを付けることを意味しているのではないだろうか。

【承認申請】


バイエルがriociguatを欧米で承認申請

(2013年2月11日発表)

バイエルはriociguatを手術不能CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈高血圧症)の治療薬として欧米で承認申請した。可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤で、酸化窒素合成酵素がcGMPを増やして血管平滑筋を弛緩するパスウェイを強化する。酸化窒素に依存せずにsGCを活性化することが特徴。肺高血圧症には四種類の代表的なサブタイプがあるが、CTEPHに効果を示した薬はriociguatが初。一日三回服用する経口剤なので使いやすい。

CTEPHの第三相試験では16週間の治療後、6分歩行テストの成績が偽薬比46m改善した。PAH試験でも12週間で偽薬比36m改善。WHO機能クラスも改善した。主な治療時発現有害事象は頭痛、消化不良、末梢浮腫、悪心、眩暈、下痢など、バイエルはピーク年商を2.5~5億ユーロと予想している。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


tivozanibは全生存期間ではネクサバールとの差を示せず

(2013年2月12日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq: AVEO)とアステラス製薬はVEGF受容体阻害剤tivozanibを末期腎細胞腫の一次治療薬として米国で2012年9月に承認申請した。第三相実薬対照試験でPFS(無増悪生存期間)がバイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)より有意に優れていたことを薬効のエビデンスとしたが、二次的評価項目である全生存期間の解析では有意差がなかったことがプレスリリースで公表された。

16日にGU ASCO(米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム)でも学会発表されたとのことだが、私は内容を把握していない。プレスリリースによると二次治療を受けた患者の比率に群間の偏りがあったとのことなので、それが原因だろう。tivozanibの不可逆的副作用が原因で二次治療を受けられなかったとか、今後の解析でハザードレシオが悪化するとかいうようなことが起きない限り、承認の妨げにはならないのではないだろうか。

発表によるとtivozanib群のメジアン生存期間は28.8ヶ月、Nexavar群は29.3ヶ月、ハザードレシオは1.245、p=0.105だった。この試験のNexavar群の患者は癌が進行し治験を離脱した後にtivozanibの長期投与単群試験に参加することができたが、tivozanib群の患者には特別なプロトコルは用意されなかった。そのせいか、Nexavar群の患者は74%(tivozanib等の抗VEGF療法だけでも70%)が二次治療を受けたが、tivozanib群は36%(10%)に留まった。

メジアンPFSでは3ヶ月の差があったが二次治療を受けた患者が少なかったため全生存期間の差が縮小した、というシナリオは十分に考えられる。但し、代替的シナリオも想定できる。例えば、各剤の副作用の影響。Nexavar群は副作用が原因で十分な治療を行えず進行した患者が多かったが、これらの副作用は可逆的であったため投与中止後に改善し、二次治療の妨げにならなかったとか、逆に、tivozanib群の副作用は中々軽快せず二次治療を断念せざるを得なかった、というようなことがあったかもしれない。

あるいは、Nexavar群は医師が警戒して早めにCT/MRI検査を行ったためにPFSが早く判定された、というシナリオも考えられる。抗癌剤は特徴的な副作用を持つことが多いため二重盲検試験でも試験薬の割付を推測できる可能性がある。腎細胞腫の一次治療はSutent(sunitinib、和名スーテント)を用いるのが通常であり、Nexavar群に割付けられた患者の担当医が効果に不安を持ったとしても不思議ではない。

承認されている薬が複数存在する中でわざわざこの試験に参加したのはtivozanibに期待したからだとすれば、治験をさっさと終わらせて確実にtivozanibを使うことができる長期投与単群試験に移ることを望んだかもしれない。

数字面で気になるのは、ハザードレシオの数値が悪いことだ。統計学的には有意ではないが、p=0.105なので無意味とも言えない。今後、死亡者が増えるにつれて治験の検出力が高まることになるが、有意な差が出ないことを期待したい。

リンク:アステラス製薬のプレスリリース(和文)

トレシーバは米国では承認されず

(2013年2月10日発表)

ノボ ノルディスクは持効性インスリンのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)と、その活性成分とNovoLog(insulin aspart)をプリミックスしたRyzodegを米国でも承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。心血管アウトカム試験のデータの提出と、デンマークの工場の品質管理体制改善を求められた。

Tresibaは臨床試験で心血管疾患を発症した患者が対照群より多かったが、ハザードレシオは1.1とそれほど高くなく、症例数が少ないこともあり統計的な有意性はなかった。昨年11月の諮問委員会では12人の委員全てが心血管アウトカム試験の実施を求めたが、結果が出るまで承認を見送るべきと判定したのは4人だけで、残りの8人は承認後に行って安全性を確認すれば十分とした。

アウトカム試験はまだ開始されていないはずなので、中間解析のデータで足りるとしても、提出は2015~16年になってしまうのではないか。

品質管理問題は昨年12月にFDAが警告状を出している。例によって細かい違反内容が列記された後に、問題が矯正されるまで新薬・適応拡大承認を見送るかもしれないと記されている。この種のcurrent Good Manufacturing Practice違反問題は解決まで数年かかるケースも散見されるので、要注意だ。

Tresibaは欧州でロールアウトが始まった。ロイター報道によると、英国の価格はLantus(insulin glardine、和名ランタス)の60~70%増しで決まったとのことだ。日本でも遅れていた薬価収載が決まったので間もなく発売される見込み。一方、米国は、GLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の時と同様に、大幅遅延になりそうだ。偶々運が悪かったのか、何か特別な理由があるのか、再検討した方が良いのではないだろうか。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:
FDAのcGMP違反警告状


リンク:英国の価格に関するロイターの記事

【医薬品の安全性】


ジクロフェナクはエッセンシャル・メディスンから外すべき?

(2013年2月12日発表)

PLOS Medicine誌に、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)diclofenacをエッセンシャル・メディスン・リスト(EML)から外すべきと主張する論文が掲載された。EMLは医療に不可欠な医薬品のリストで、選定はWHOがイニシアティブを取っている

NSAIDsの中でも、rofecoxib(Vioxx)、diclofenac(VoltarenとGE品)、etoricoxib(Arcoxia)の三剤は心血管疾患リスクを高めることが様々な疫学的試験や前向き無作為化割付試験のメタアナリシスで確認されている。VioxxはMSDが販売を中止、Arcoxiaも売上高は小さいが、diclofenacは74ヶ国のEMLに収載されていて市場シェアは平均30%弱と、NSAIDsの中で最も高い。

一方、心血管リスクが最も小さいnaproxenは27ヶ国、10%足らずに留まっている。このため、論文著者はEMLから除外するよう主張している。

NSAIDsの副作用と言えば真っ先に連想するのは胃腸副作用だ。Vioxxは胃腸粘膜のヒーリングに寄与するCox-Iを阻害せず炎症に関わるCox-IIだけを阻害することで胃腸安全性を高めたが、意外なことに、心血管リスクが高まることが判明した。これを契機に他のNSAIDsも含めた心血管安全性が検討されたが、私の印象では、胃腸に安全な薬は心血管に安全ではない。逆に、心血管安全性が最も高いと考えられているnaproxenは胃腸安全性があまり高くない。

また、diclofenacやアセトアミノフェンは高用量で肝毒性を持つことが海外で報じられている。アセトアミノフェンは日本では低量しか承認されておらず海外でも承認用量を守れば肝毒性は小さいと考えられているが、diclofenacは関節炎の場合は日本でも一日75~100mgと、海外とそれほど変わらない用量が採用されている。

鎮痛剤は反応や副作用に個人差があるので様々な治療オプションが必要であり、結局、どの薬を第一選択にすべきかが検討課題になる。コンセンサスはまだないようだが、著者は、少なくともdiclofenacではないはずだ、と言いたいのだろう。

リンク:McGettiganらの論文(PROS Medicine、オープン・アクセス)

今週は以上です。

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