2013年1月13日

海外医薬ニュース2013年1月13日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Cangrelorの再挑戦が成功
  • 抗葉酸受容体抗体の第三相試験はフェール
  • サノフィが味の素から導入した血管崩壊剤の開発を中止
  • MSDが米国で筋弛緩回復薬を再承認申請
  • GSKがCOPD用コンビ薬をEUでも承認申請
  • 第二のSGLT2阻害剤もFDA諮問委員会の意見が分かれた
  • バイエルの低用量レボノルゲストレル放出子宮内避妊システムが米国で承認
  • ベタニスがEUでも承認
  • Zytigaの早期使用がEUでも承認
  • MSDがTredaptiveの販売を暫定的に中止
  • 女性はマイスリーの用量を減らすようFDAが推奨
  • 日本のCirculation誌がKYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回


【新薬開発】


Cangrelorの再挑戦が成功

(2013年1月8日発表)

メディスン・カンパニー(Nasdaq: MDCO)は、cangrelorのCHAMPION PHOENIX第三相試験が成功したと発表した。年内に欧米で承認申請する予定。2009年に二本の第三相試験が無益性で中止されたことを考えれば、治験名の通り不死鳥のように復活した。

cangrelorはアストラゼネカからライセンスした点滴用ADP受容体拮抗剤。アストラゼネカの経口ADP受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor)は急性冠症候群試験で心筋梗塞予防効果がPlavix(clopidogrel)を上回った。今回、PCIを受ける患者の48時間心筋梗塞予防効果でcangrelorがPlavixを上回ったのも、驚天動地とは言えない。

だがそれにしても、先行して実施された二試験との違いは何か、興味が湧く。この二本でも、代理マーカーに基づく心筋梗塞を除けば効果が上回った模様であり、今回の試験では症候性虚血性イベントに重点を置いて評価したのだが、このような事後的解析に基づく再挑戦が成功することは珍しい。学会・論文発表が待望される。

リンク:メディスン・カンパニーのプレスリリース

抗葉酸受容体抗体の第三相試験はフェール

(2013年1月10日発表)

エーザイの子会社であるMorphotek社は、MORAb-003(farletuzumab)の第三相プラチナ感受性卵巣癌試験がフェールしたと発表した。タクサン系抗癌剤とcarboplatinの併用療法に更にMORAb-003を追加しても無増悪生存期間を有意に延ばすことはできなかった。サブポピュレーション分析で一部のタイプに効果の兆しがあった模様だが、このような分析はあまりアテにならない。

リンク:Morphotekのプレスリリース

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

サノフィが味の素から導入した血管崩壊剤の開発を中止

(2013年1月8日発表)

サノフィはJPモーガンのヘルスケア・コンファレンスで開発パイプラインのアップデートを行い、2001年に味の素から全世界での開発販売権を取得した血管崩壊剤、AVE8062(ombrabulin)の開発を中止したことを公表した。肉腫の二次治療薬としてcisplatin併用で第三相試験を実施したがフェールした。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認申請】


MSDが米国で筋弛緩回復薬を再承認申請

(2013年1月7日発表)

MSD(米国メルク)はsugammadexをFDAに再承認申請し受理されたと発表した。2013年上期中に審査結果が出る見込み。追加試験によって過敏反応リスクがどの程度明確になったのか、注目される。

Bridion(sugammadex、和名ブリディオン)はrocuroniumなどの筋弛緩剤に結合して不活性化する、中和剤。オルガノンの開発品で、同社を買収したシェリング・プラウをMSDが買収した。2008年に欧州で発売されたが、2010年発売の日本のほうが広く用いられているようだ。

米国でも2007年に承認申請されたが、承認されなかった。FDAは過剰感作リスクを懸念した模様だ。日本でもアナフィラキシー症例が報告されているようなので、MSDが実施した健常者アレルギー感受性試験の結果が明らかになれば、高リスク患者の特定に寄与するかもしれない。

リンク:MSDのプレスリリース

GSKがCOPD用コンビ薬をEUでも承認申請

(2013年1月8日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq: THRX)は喘息症やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)領域で様々な新薬を共同開発している。長期作用性ムスカリン阻害剤GSK573719A(umeclidinium)は長期作用性ベータ2作用剤GW642444(vilanterol)との合剤の開発が先行、昨年12月に米国で承認申請されたが、この度、EUでも承認申請されたことが発表された。EUではANOROという商標名を予定している。

長期作用性ムスカリン阻害剤はベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)が大成功している。複数の新薬が登場し始めているが効果は大差ないように感じられるので、ベーリンガーの開発品も含めて、重症患者向けのコンビ薬が主戦場になりそうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


第二のSGLT2阻害剤もFDA諮問委員会の意見が分かれた

(2013年1月10日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集して、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発し米国で承認申請したInvokana(canagliflozin)について、意見を求めた。便益がリスクを上回るか(承認に値するか)という質問には10人がYES、5人がNOと回答し、思った以上に意見が分かれた。尤も、NOと答えた委員の多くは中度腎機能低下患者に対する効能に疑問を呈した模様なので、EUと同様にこの患者層を適応外として承認される可能性は残っていそうだ。

悩ましいのは心血管安全性に関わるデータが万全ではないことで、諮問委員会の意見も、市販後に確認すれば良いと考える委員が7人、否が8人と真っ二つに分かれた。通常の第二相、第三相試験では心血管疾患のリスクが偽薬より低い傾向が見られたのだが、心血管疾患高リスク患者を組入れたアウトカム試験、CANVASの当初30日間の集計で、発生率が0.45%対0.07%と偽薬群を大きく上回った。

症例数が少ないため有意ではなく、そもそも、偽薬群でたった1例しか発生しなかったことのほうを異常と考えるべきなのだろうが、リスクを検出する上で最も優れたデザインの試験で懸念が浮上したことは看過できない。この試験の本来の解析結果がまとまる2015年まで承認を見送るべきなのか、判断が難しい。

Invokanaは腎細管のSGLT2を阻害して、腎臓で濾されたグルコースが血液中に戻るのを妨げる。尿排泄を促進することで血糖値を引き下げる斬新なメカニズムを持ち、体重も若干減少する。副作用は、尿道のグルコースが培地となり尿道感染、性器感染の発生率が高まること。

今回の諮問委員会では、類薬を開発している製薬会社にとって重要な情報が明らかになった。SGLT2阻害剤は癌原性試験でリスクを示すものが多いということだ。最初に承認申請され昨年欧州で承認されたBMS/アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin)の試験では腎細管の非定型的肥大が見られただけだったが、これまでに試験成績がFDAに提出された他の4剤の全てで、腎細管、甲状腺、精巣ライディヒ細胞などの新生物のリスクが高まった。一酸化炭素の吸収不良が影響しているようだ。

臨床試験では逆に、Forxigaに懸念が発生しInvokanaでは問題なかった。FDAは、SGLT2阻害剤の癌原性リスクは臨床試験のデータや安全域(動物試験でリスクが増加した用量と医療に用いる量の比率)を見て判断すべきと考えている模様。つまり、新薬の癌原性試験がグレイだったとしても慌てる必要はなく、シロであったとしても油断はできない。

FDAの審査結果は13年3月の見込み。米国で最初に承認されるSGLT2阻害剤はForxigaか、それともInvokanaか、注目される。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


バイエルの低用量レボノルゲストレル放出子宮内避妊システムが米国で承認

(2013年1月10日発表)

バイエルは子宮内避妊システム(IUS)ミレーナを販売しているが、新たに、低用量levonorgestrelを放出するSkylaを開発、昨年12月の欧州に続いて、米国でも承認を取得した。小型のT型ディバイスで、最長3年間に亘る避妊が可能。

リンク:バイエルのプレスリリース

ベタニスがEUでも承認

(2013年1月11日発表)

アステラス製薬はベータ3受容体作動剤Betmiga(mirabegron、和名ベタニス)がEUで過活動膀胱治療薬として承認されたと発表した。日本では2011年に、米国でも2012年に承認されている。過活動膀胱の治療における薬物療法の位置付けは決して高くないので、ムスカリン・ブロッカーなどとの併用療法の探索が期待される。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

Zytigaの早期使用がEUでも承認

(2013年1月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、テストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate)を従来より早い段階の患者に用いることがEUで承認されたと発表した。2011年の初承認は去勢抵抗性前立腺癌で化学療法による治療を既に受けた患者が対象だったが、今回、化学療法を受ける前の未だ症状が軽い患者も適応となった。米国でも昨年12月に適応拡大されている。

臨床試験では、prednisoneだけを投与した群のメジアン生存期間が30ヶ月であったのに対して、Zytiga併用群は35ヶ月だった。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


MSDがTredaptiveの販売を暫定的に中止

(2013年1月11日発表)

MSD(米国メルク)はナイアシンとナイアシン誘導性紅潮を抑制するlaropiprantのコンビ薬を開発、米国では承認されなかったが、EUなど多くの国でTredaptive名で販売している。しかし、心血管疾患予防効果を検討したHPS-2 THRIVE試験がフェールしたことで事態が一変、昨年12月に新患には使わないようドクターレターを出した。更に、今回、販売を暫定的に中止することを決めた。前後して、EUの医薬品監視リスク評価委員会(PRAC)もEUにおける販売、供給、承認を停止するよう勧告した。

2012年12月23日号で書いたように、HPS-2 THRIVE試験がフェールしたのはナイアシンの効果が期待外れだった可能性も、laropiprantが足を引っ張った可能性も、薬物相互作用が犯人の可能性もある。Tredaptiveだけがリコールとなると、ナイアシンではなくlaropiprantが犯人のように見えるが、どちらが犯人でもTredaptiveという薬に価値がないことに変わりはない。

医薬品承認審査機関の考え方は必ずしも同じではなく、FDAだけが承認しない薬もあればFDAだけが承認した薬もある。私見ではFDAとEUの判断が分かれたケースでは後にFDAが正しかったことが判明することが多いように感じられるが、今回もこのパターンだった。

リンク:MSDのプレスリリース

女性はマイスリーの用量を減らすようFDAが推奨

(2013年1月10日発表)

FDAは睡眠薬Ambien(zolpidem、和名マイスリー)を女性に用いる時は用量を減らすよう勧告した。Ambienは一回5mgまたは10mg、徐放製剤の場合は6.25mgまたは12.5mgを服用するが、高齢者と同様に、女性も低量だけを用いるほうがよい。翌日に眠気が残るリスクが高まるからだ。

今回の用量制限のきっかけは、男性と比べて女性は薬の排泄が遅いことが判明したため。Ambienで性差の話が出たのは初めてで、米国のレーベルにも日本のインタビューフォームにも記されていない。フランスで発売されてから26年、米国発売からでも20年経っているのに、なぜ今まで分からなかったのだろう?

リンク:FDAのプレスリリース

【倫理問題】


日本のCirculation誌がKYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回

(2012年12月27日発表)

日本循環器学会のCirculation Journalが、KYOTO HEART STUDY関連の論文二本を撤回した。データ解析に数々の深刻な誤りが見つかったため、とのことだが、査読誌としての権威を維持するためにはミスの内容や発覚の経緯をもっと詳しく公表すべきだろう。

KYOTO HEART STUDYはノバルティスのDiovan(valsartan)の心血管アウトカム試験で、Diovanの心血管保護作用が同程度の降圧作用を持つARB・ACE阻害剤以外の降圧剤よりも優れていることを立証した、ランドマーク的な試験である。ARBが発売された当初は多彩な臓器保護作用を持つことが期待されたが、アウトカム試験の結果は失望的で、Diovanも海外で行われた同様な試験では、「降圧が同程度ならどのメカニズムの薬も心血管リスク削減効果は同程度」という結果だった。

ところが、KYOTO HEART STUDYとJIKEI HEART STUDYはARB支持派の医学者が期待した通りの結果になった。日本人は特殊なのかもしれないが、プロブレス(candesartan)の日本の試験は海外の試験と同様に、どの薬も同じであることを示している。奇妙である。

KYOTO HEART STUDYのデータで印象的なのは、Diovanを追加投与した群の平均血圧の推移と、ARB・ACE阻害剤以外を追加した群の血圧推移が殆ど一致していることだ。治験のプロトコル通りであり降圧が同程度でなければDiovanの多彩な作用を検討することができないのだが、通常は、中々こうはならない。

今回撤回された論文の第一著者は一本が京都第一赤十字病院、もう一本は京都第二赤十字病院の、循環器内科医長だ。KYOTO HEART STUDYの中心的な研究者である京都府立医科大学の松原弘明教授も名を連ねている。AHA(米国心臓協会)は昨年、AHAの医学誌に刊行された同教授の論文に関して、懸念表明を出した。データや画像に不適切なものがあった疑いがあるようだ。

重要性は今回撤回された二本の論文のほうが大きい。日常医療に直接関わる内容だけに、もし間違いであった場合は多くの患者が影響を受けるからだ。それだけに、真相究明と結果の公表を期待したい。

リンク:Circulation Journalの撤回公告(京都第二赤十字病院循環器内科医長 木村 晋三らの論文)

リンク:Circulation Journalの撤回公告(Jun Shiraishi白石淳京都第一赤十字病院循環器内科医長らの論文)

リンク:KYOTO HEART STUDYの治験論文(European Heart Journal)

今週は以上です。

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