2012年12月9日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月9日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:BTK阻害剤がCLLに著効
  • SABCS:ファイザーの画期的新薬が第二相試験で有望な成績
  • SABCS:ハラヴェンの効果はゼローダを大きく上回ってはいない
  • アルツハイマー病新薬:MSDは第三相にゴー、BMSはストップ
  • EUがPTC124の承認申請を受理
  • バイエルがEUでアイリーアをCRVO性黄斑浮腫に適応拡大申請
  • 製薬会社や医学研究者の皆さん、インサイダー取引にご注意!



【新薬開発】


ASH:BTK阻害剤がCLLに著効

(2012年12月8日発表)

ファーマサイクリクス社(Nasdaq: PCYC)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同で第三相試験を実施しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)の第二相慢性リンパ性白血病(CLL)試験の結果概要を発表した。ASH(米国血液学会)で発表される予定だが、学会側の記者発表会で8日に取り上げられたためエンバーゴ(報道・発表禁止)が解除されたようだ。

後期第一相/第二相試験では116人の高齢患者に一日一回、経口投与したところ、初めて治療を受ける患者では反応率68%、26ヶ月無増悪生存率は96%、再発・難治性のCLLと小リンパ性白血病の患者では各71%と75%だった。高リスク患者にrituxanと併用した第二相試験でも反応率83%と著効を示した。主なG3/4(重度/深刻な)有害事象は骨髄抑制だった。真菌感染に肺炎を合併した致死例も一例あったようだ。

BTKはBセルのサバイバルに関わるチロシン・キナーゼで、阻害するとアポトーシスが誘導される。両社は2011年12月に開発販売提携を結び、2012年に第三相のofatumumab対照再発性・難治性CLL試験と、bendamustine・rituximab併用試験を開始した。来年1月にはchlorambucil対照高齢者一次治療試験も始まる予定。マントルセル・リンパ腫のtemsirolimus対照二次治療試験も進行しており、期待のほどが窺われる。

リンク:ファーマサイクリクス社のプレスリリース

リンク:MedPageの記事

SABCS:ファイザーの画期的新薬が第二相試験で有望な成績

(2012年12月5日発表)

CTRC-AACRサンアントニオ乳癌会議(SABCS)でファイザーのCDK4/6阻害剤の乳癌第二相試験結果が発表された。中々良い成績で、同社は2013年に第二/三相試験を開始する計画だ。

この試験は閉経後局所進行性・転移性乳癌でエストロゲン受容体陽性、her2陰性の患者165人を、アロマターゼ阻害剤letrozole(Femara、和名フェマーラ)とPD-0332991(PD-991)を併用する群と、Feramaだけを投与する群に無作為化割付した、オープンレーベル一次治療試験。letrozoleは2.5mgを一日一回経口投与、PD-991は125mgを一日一回、21日間連続経口投与し7日間休むサイクルを繰り返した。

主評価項目のPFS(無増悪進行期間)はメジアンで各26.1ヶ月と7.5ヶ月となり、ハザードレシオ0.37、pは0.001未満となった。反応率は各45%と31%で有意に上回ったが、PFSほど大きな差はなかった。主なG3/4(重度・深刻な)治療関連有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制と疲労。

乳癌のうちエストロゲン受容体陽性・her2陰性は6割を占めるので、PD-991の用途は広い。この第二相試験は第一部と第二部に分かれ第二部では前臨床の知見に基づき特定のタイプだけを組み入れたが、効果は大差なかったようだ。

CDK4とCDK6は細胞分裂・増殖過程に関与するキナーゼで、阻害すると、細胞周期がG1期からS期(遺伝子複製期)に進めなくなる。PD-991はファイザーが買収したワーナー・ランバートがオニクス(Nasdaq: ONXX)と共同開発したアッセイを用いてスクリーニングしたもので、オニクスは最大で1700万ドルの達成報奨金と一ケタ台の売上ロイヤルティを受取る権利を持っている。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:CTRC-AACR SABCSのプレスリリース

リンク:第二/三相試験の治験登録

SABCS:ハラヴェンの効果はゼローダを大きく上回ってはいない

(2012年12月7日発表)

SABCSではエーザイのHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の局所進行性・転移性乳癌第三相試験の結果も発表された。摘出術後や転移後の標準的な薬であるアントラサイクリン系とタキサン系の抗癌剤を既に使ってしまった患者1102人を組み入れて全生存期間とPFSをcapecitabine(Xeloda、和名ゼローダ)と比較したが、どちらも有意差はなかった。副作用の出方や投与方法が異なるので、患者に応じて使い分けることになりそうだ。

全生存期間はp=0.056と惜しかったが、主評価項目が二つあるので通常より厳しく評価する必要があり、また、メジアン値の差は1.4ヶ月、ハザードレシオは0.879なのでそれほど大きな差ではない。サブポピュレーション分析ではher2陰性患者とトリプル・ネガティブ(her2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の何れも陰性)患者で比較的良い数値がでた。後者はポストホック分析だが、ハザードレシオが0.702と良くく、トリプル・ネガティブに有効な薬は少ないことを考えれば、更に探索する価値がありそうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

リンク:CTRC-AACR SABCSのプレスリリース

アルツハイマー病新薬:MSDは第三相にゴー、BMSはストップ

(2012年12月3日と11月30日発表)

アルツハイマー病の坑アミロイド療法は二種類の抗体医薬とガンマ・セクレターゼ阻害剤の第三相試験が相次いでフェールし行き詰まった感があるが、まだ希望が残っているようだ。BMSが11月30日にガンマ・セクレターゼ阻害剤BMS-708163(avagacestat)の開発中止を発表した一方で、MSD(米国メルク)は12月3日にBACE1阻害剤MK-8931の第二/三相試験開始を発表した。BACE1阻害剤はイーライリリーやエーザイ等も臨床開発を進めており、次の開発激戦区になりそうだ。

アルツハイマー病患者の脳で蓄積が見られるアミロイド斑は、アミロイド前駆蛋白(APP)がアルファ、ベータ、ガンマの三種類の酵素で切断されてできる。このうち、ベータ・セクレターゼは若年性アルツハイマー病の一部にも関係しており創薬ターゲットとして有望なのだが、ガンマ・セクレターゼ阻害剤と比べて開発が遅れていた。

ところが、ガンマ・セクレターゼ阻害剤はLY450139(semagacestat)の二本の第三相試験で症状がむしろ悪化する懸念が浮上、第二相では見られなかった皮膚腫瘍も増加した。BMS-708163も高用量を投与した群で同様な現象が見られたことがあるので、開発中止は止むを得ないところだろう。

MK-8931は第一相単回投与試験で脳脊髄液中のアミロイド・ベータ(1-40)と同(1-42)が9割以上減少、10分の一の量を反復投与した試験でも50~80%減少した。アミロイド・ベータをノックアウトしたマウスでは神経細胞の機能に異常が見られるようだが、MK-8931はマウス、ラット、サルの何れでも問題なかった。もしMK-8931が駄目ならベータ・セクレターゼ阻害剤による治療は無効と結論できるような、キチンとした試験薬を用意するところは流石、MSDだ。

今回の第二/三相試験では、先ずフェーズIIポーションで200人の軽中度アルツハイマー病を組み入れて、偽薬、12mg、40mg、60mgの何れかを一日一回投与し、安全性を検討する。良好ならフェーズIIIポーションで1700人を組み入れ、78週間後の認知機能、生活機能をADAS-CogとADCS-ADLというオーソドックスな病状評価スコアを用いて比較する。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:MK-8931の第二/三相試験の治験登録

リンク:
BMSのプレスリリース


【承認申請】


EUがPTC124の承認申請を受理

(2012年12月6日発表)

PTCセラピュティクスは、EUの薬品審査機関であるEMAがPTC124(ataluren)の承認申請を受理したと発表した。適応は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのうち、ジストロフィン機能喪失変異(ナンセンス・ミューテーション)を持つ患者。難病なのでキチンとした第三相試験で薬効を確認することを条件に承認される可能性もあるが、薬効の裏付けが惜しくもフェールした第二相試験なので、不透明だ。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは筋力が低下し歩行能力やバイタルな機能が次第に低下する難病。米国の患者数は約1万人で、このうち約13%では、ジストロフィンの遺伝子の途中にpremature termination codon(PTC)と呼ばれる塩基配列があり、mRNAの翻訳が途中で終わってしまうためちゃんとしたジストロフィンを作れない。イスラエルでは5割と特にこのタイプが多い。PTC124はこのPTCを探知する機能を阻害する模様。

第二相試験では二種類の用量をテストしたが、6MWT(6分間歩行試験)の改善幅は偽薬比有意ではなかった。しかし、低用量群では、事前の解析計画に基づく調整を行なう前の素の数値が29.7m改善し、治験の仮説であった30mを若干下回っただけだった。解析方法の違いに関する詳細は不明であり、また高用量群は偽薬並みだったので、本当に効果があるのかどうかは分からない。

PTC124は嚢胞性線維症の第三相試験でも呼吸機能を若干改善したが有意ではなかった。何らかの作用を持つのだろうが、薬としては効果不足なのかもしれない。それでも、他社も同様な薬を開発しているので、やがてはもっと優れた薬が登場するかもしれない。

リンク:PTCセラピュティクスのプレスリリース

バイエルがEUでアイリーアをCRVO性黄斑浮腫に適応拡大申請

(2012年12月6日発表)

バイエルはEylea(aflibercept、和名アイリーア)をCRVO(網膜中心静脈閉塞症)患者の黄斑浮腫の治療薬としてEUで適応拡大申請した。滲出型加齢性黄斑変性の治療薬として承認されている坑VEGF薬で、同じ作用機序を持つLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)と適応症で肩を並べるために重要な用途のひとつ。

Eyleaはリジェネロン(Nasdaq: REGN)がトラップ技術を用いて開発した抗体医薬。VEGFの二種類の受容体の可変領域と免疫グロブリンの固定領域を細胞融合したもの。通常の抗体と異なった方法で作るため、既存の抗体医薬の特許を侵害せずに類似した薬を開発できる可能性を持つ、有望な手法だ。バイエルは米国外の権利を持っている。日本でも9月に承認された(参天製薬が販売、バイエルと共同販促)。

リンク:バイエルのプレスリリース

【今週の話題】


製薬会社や医学研究者の皆さん、インサイダー取引にご注意!

日本で今年、大手証券会社が絡むインサイダー取引事件が二件、表面化した。米国でもSEC(証券取引委員会)が強力な捜査陣をフルに活用して多くの犯罪を摘発している。気になるのは、高名な医学者や製薬会社職員が逮捕されたり、辞職したりする事件が増えていることだ。インサイダー取引というと証券売買を行わない人には無縁のように思われがちだが、場合によっては、新薬に関わる重大な未公開情報を気軽に漏らすだけでも犯罪になりうる。情報を求めてあの手この手で近寄ってくる人もいるので、注意が必要だ。

新興医薬品会社の開発品を巡るインサイダー取引で有名なのは、2011年に逮捕されたフロントポイント・パートナーズ社のDr. Joseph Skowronだ。同社はヘルスケア関連株式の投資で有名なヘッジファンド。Skowronはエール大で学位を取りハーバード大でレジデントとなったが金融界に転身した。逮捕の理由となったのは、ヒューマン・ジノム・サイエンシーズ(HGS)社が開発していたアルファ・インターフェロン新製剤の臨床試験で深刻な副作用が発生したことを知り、保有していた同社株を売却して空売りまでしたことだ。

この情報を漏らしたのは欧州最大の病院であるHopitaux de Paris-Pitie-SalpetrierのBenhamou博士で、先にSECに逮捕された。博士はこのアルファ・インターフェロンの治験実施委員会のメンバーで、同時に、フロントポイントのコンサルタントでもあった。報道によると、Skowronはこの新薬を高く評価し同僚が心配するほど多額の運用資産をHGS社株に投資していたが、Benhamou博士のおかげで副作用懸念が表面化する前に売却できたため、推定30億円の損失を回避できた。

Skowronがハーバードを辞めて転職したSAC Capitalという運用資産でトップクラスのヘッジファンドとその系列会社でも多くのインサイダー取引が発覚している。今年11月にはMathew Martomaが、エランが開発していたアルツハイマー病薬のインサイダー情報に基づいて保有株式を売却し200億円以上の損失を回避したとして、SECに告発された。売却したのは2008年で、彼は同年末に7億円以上のボーナスを貰ったとのことだ。

2011年にはFDAの新薬承認審査官がインサイダー取引で逮捕された。同僚から承認審査の情報を聞き出し、予め売買した上で、審査結果が発表され株価が動いた段階で反対売買を行うことを繰り返した。

最近、サノフィ、セルジーンなどの製薬会社職員がチームを組んで行ったインサイダー取引も摘発された。勤務先の会社が買収しようとしている会社の株式を他のメンバーに買わせて利益を山分けするという、違法行為がばれにくい工夫をしたが、最後は見つかった。報道を読むと一人当りの利益は数千万円に過ぎず、職を失うダメージのほうがはるかに大きかっただろう。

それと比べると、ヘッジファンドが絡む事件は巨額の資金が動く。Scrip誌によると、アメリカには機関投資家や証券会社にオピニオン・リーダー的な医学者を紹介するビジネスも存在するようだ。新薬開発の成否によって株価が大きく動く新興企業に投資する者にとって、治験を主導する医師は重要な標的であり、投資の損得や成果報酬の額が大きいだけに、情報を引き出すための予算やモティベーションも大きい。

思い出すのは2007年にASCO(米国臨床腫瘍学会)の学会誌に掲載された注意喚起だ。ヘッジファンドはあの手この手でアプローチし、巧みに情報を引き出すが、治験医はその新薬を開発している製薬会社に対して守秘義務を負うのが一般的であり、場合によってはインサイダー取引で摘発されることもあるので気をつけろ、という内容だ。ASCOを始め、多くの学会が学会発表の抄録を一般公開するようになったが、これも、インサイダー取引を回避するための配慮である。

研究者のスキャンダルというと収賄とか、不正論文が代表的だが、新興企業株式に絡むインサイダー取引はプロが潤沢な予算で行うのでトラップに嵌らないように、くれぐれも注意してください。

リンク:Journal of Clinical Oncologyの注意喚起

リンク:SECのMartoma告発に関するプレスリリース

今週は以上です。

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