2012年12月16日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月16日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:アンビット/アステラスの開発品はAMLに有効
  • ASH:セルジーンの第三の免疫調停薬の第三相試験が成功
  • イーライリリーはsolanezumabの追加試験を実施へ
  • イーライリリーのリウマチ性関節炎第三相試験にブレーキ
  • SYK阻害剤の坑リウマチ作用はTNF阻害剤に劣る?
  • バイエルがラジウム223を前立腺がん治療薬としてEUで承認申請
  • ファイザーがエストロゲン・SERMコンビ薬を米国で承認申請
  • CHMPが三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価
  • 難治性CML用薬が米国で承認
  • Zytigaを化学療法に先駆けて使うことが承認
  • 米国で肺炭疽治療薬が承認
  • クッシング病の治療薬が米国で承認



【新薬開発】


ASH:アンビット/アステラスの開発品はAMLに有効

(2012年12月10日発表)

先週末にASH(米国血液学会)で様々な開発品の第二相、第三相試験の結果が発表された。先ず、米国のアンビット・バイオサイエンス社がアステラス製薬と提携して開発しているFLT3チロシンキナーゼ阻害剤、AC220(quizartinib)の第二相AML(急性骨髄性白血病)試験。AMLの3割を占める、FLT3遺伝子にインターナル・タンデム・デュプリケーション(ITD:遺伝子の中で同じ塩基配列が何度も繰り返されるもので悪性度が高く治療に反応しにくい)を持つタイプに効果が高そうだ。男は135mg、女は90mgを一日一回経口投与する。

60歳以上の一次治療不応患者を組入れた第一コフォートのうちFLT3-ITD型(90人)では、複合完全寛解率が53%だった。赤血球・白血球が正常化しない完全寛解が50%で殆どを占めた。メジアン反応持続期間は10週間、メジアン全生存期間は19週間。FLT3-ITD以外では複合完全寛解率36%だった。

18歳以上の再発性・難治性患者を組入れた第二コフォートでもFLT3-ITD型(100人)は複合完全寛解率46%(赤血球・白血球が正常化しない完全寛解が40%)、それ以外は32%と第一コフォートと同様だった。

今後の開発方針は明記されていないが、AMLの治験の割には規模が大きいので、加速承認申請に向けて当局と相談する可能性がありそうだ。

リンク:ASHの様々な新薬治験発表に関するプレスリリース(12月9日付)

リンク:アンビットのプレスリリース

リンク:アステラス製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

ASH:セルジーンの第三の免疫調停薬の第三相試験が成功

(2012年12月9日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)はThalomid(thalidomide)とRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)の二種類の免疫調停薬を多発骨髄腫の治療薬として商品化しているが、第三のCC-4047(pomalidomide)も第三相試験が成功した。Revlimidとbortezomib(和名ベルケイド)による前治療経験を持つ多発骨髄腫患者455人を2対1の割合で組入れた三次治療試験で、dexamethasoneだけの群と二剤併用群の無増悪生存期間(PFS)を比較した。

中間解析で主目的を達成、対照群の患者が併用療法にスイッチすることを認めた。ハザードレシオは0.45、全生存のハザードレシオも0.53で共にpが0.001を下回った。尤も、PFSのメジアン値は3.6ヶ月対1.8ヶ月で差はそれほど大きくない。有害事象はこれまでと同様に熱性好中球減少症が増加した。

CC-4047は第二相試験の結果に基づいて今春、欧米で承認申請された。第三相試験の成功で承認に一歩近づいたと言えるだろう。

リンク:セルジーンのプレスリリース

イーライリリーはsolanezumabの追加試験を実施へ

(2012年12月12日発表)

イーライリリーの坑アミロイドベータ(11-20)抗体、LY2062430(solanezumab)は、アルツハイマー病の第三相試験が二本実施されたがどちらもフェールした。一本では軽度患者に効果の兆しが見られたため同社は承認申請に向けて欧米等の当局と相談したが、支持してもらえなかったようだ。2013年に追加試験を開始することを決めた。

アルツハイマー病は難病なので治療効果が小さくても承認される可能性はあるが、偽薬比で統計的に有意な差があることが前提だ。二本のうち一本しか有意ではなかったのだから、承認申請が認められなかったのは当然だろう。坑うつ剤を見ても分かるように、もう一本成功すれば治験が二勝一敗でも承認される可能性があるが、成功するだろうか?

リンク:イーライリリーのプレスリリース

イーライリリーのリウマチ性関節炎第三相試験にブレーキ

(2012年12月13日発表)

イーライリリーは、坑BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)のリウマチ性関節炎第三相試験の一つが無益性で中止されたと発表した。他の二本は投与を継続しているが、新規組入れは中断となった。坑BLyS完全ヒト化抗体Benlysta(belimumab)もリウマチは第二相試験がフェールしたので、この作用機序は効果が限定的なのだろう(BAFFはBLySの別名)。

Benlystaの承認用途と同じ全身性エリトマトーデスの第三相試験は続行されている。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

SYK阻害剤の坑リウマチ作用はTNF阻害剤に劣る?

(2012年12月13日発表)

アストラゼネカはライジェル社(Nasdaq: RIGL)からSYK阻害剤R788(fostamatinib disodium)をライセンスして坑リウマチ薬として第三相試験を実施中だ。結果は来年上期に明らかになる見込み。販促面で残念なことに、後期第二相単剤投与試験でHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)に負けたことが明らかにされた。偽薬には勝ったので効果はあるのだろうが、発売後の競争相手は少なくないので直接比較試験で勝てなかったことはハンデになる。

尤も、R788は経口剤なので利便性が高い。11月に米国で承認されたファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib)も経口剤だが、免疫抑制作用が強いために日和見感染症や癌が増える懸念がある。この二剤は標的が異なるものの、IL-6の低下など作用が類似しているので、もし忍容性が優れているなら出番はあるだろう。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


バイエルがラジウム223を前立腺がん治療薬としてEUで承認申請

(2012年12月14日発表)

バイエルは二塩化ラジウム223を去勢抵抗性前立腺癌で骨転移がりdocetaxelによる治療に不耐・不適・不応な患者向けにEUで承認申請した。第三相試験では全生存期間のハザードレシオが偽薬比0.695で統計的に有意、メジアン生存期間は13.6ヶ月対8.4ヶ月だった。

二塩化ラジウム223はカルシウムに似ているため骨の分布が良く、局所的にアルファ線を放射する。ノルウェーのAlgeta社から世界開発販売権を取得したもの。

リンク:バイエルのプレスリリース

ファイザーがエストロゲン・SERMコンビ薬を米国で承認申請

(2012年12月13日発表)

ファイザーが2009年に買収したワイスはエストロゲン製剤の大手で、ライガンド社(Nasdaq: LGND)からライセンスした選択的エストロゲン受容体調節剤bazedoxifeneとエストロゲンのコンビ薬も開発している。FDAがbazedoxifeneを承認しなかったため開発が遅れていたが、EUに続いて米国でも、承認申請が受理された。適応症は閉経期の血管運動性症状や外陰部・膣萎縮の治療と閉経後骨粗鬆症の予防。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価

(2012年12月14日発表)

EUの医薬品科学的審査委員会であるCHMPは12月の委員会で三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価を下した。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、先ず、ロシュの坑2C4ヒト化抗体Perjeta(pertuzumab)。同社のHerceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)やdocetaxelと併用で、her2陽性の転移性・局所再発性切除不能乳癌の一次治療に用いる。Herceptinはher2に結合して本来のレガンドの結合を阻害するが、Perjetaはher2の異なったエピトープに結合してEGFR、her3、her4と共役するのをブロックする。

臨床試験ではHerceptin・docetaxel群と比べて三剤併用群の無増悪生存期間はメジアン18.5ヶ月と6ヶ月延長、ハザードレシオは0.62だった。全生存のハザードレシオも0.66で有意だった。米国では6月に承認され、5900ドル/月の価格で発売された。三剤併用は薬だけで月1万ドルを超えるので、医療保険や患者の負担が大きい。

リンク:ロシュのプレスリリース

次に、ルンドベックのSelincro(nalmefene HCI)がアルコール依存の治療薬として肯定的評価を受けた。オピオイドのミュー、デルタ、カッパ受容体を選択的に調節する薬で、臨床試験では大酒(男はアルコールを60g以上、女は40g以上)飲酒日数が6ヵ月後に6割以上減少、偽薬群も半減したが統計的に有意な差があった。二本目も6割以上減ったが偽薬群も同程度減少した。これらの試験では禁酒指導は行わなかった模様だが、CHMPは心理社会的な支援が必要と判定した。

フィンランドのBio Tie Therapiesから欧州などの権利を取得したもの。EUのアルコール依存有病率は男が5-6%、女は1-2%とのこと。別の会社が病的賭博で第二・三相試験を行ったことがあるが、フェールした。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

リンク:EUのプレスリリース

Alexza(Nasdaq: ALXA)のAdasuve(loxapine)も肯定的評価を受けた。統合失調症や双極障害の興奮(アジテーション)症状を迅速に治療する、吸入用薬。治験では10分後から有意な治療効果が見られた。

リンク:Alexzaのプレスリリース

一方、否定的評価を受けたのはISIS(Nasdaq: ISIS)がサノフィ傘下のジェンザイムと共同開発したKynamro(mipomersen)。ApoB-100の遺伝子の翻訳を妨げるアンチセンス薬で、家族性高脂血症患者に週一回皮注した治験ではLDL-Cが偽薬比20%減少した。支持されなかった理由は有害事象に関する懸念で、インフルエンザ様症状や注射箇所反応、肝臓副作用による離脱が比較的多かったため、慢性病薬としての適性が疑われた。肝臓脂肪の蓄積や深刻な心血管疾患のリスクも見られた。

先週号で新薬絡みのインサイダー取引を取り上げた。立件はされていないが、mipomersenもフロントポイント・パートナーズのヘッジファンド・マネージャーが第二相試験で肝毒性が発生したことを素破抜き、ISIS側がそれほど深刻ではないと否定したことがある。

リンク:ISISのプレスリリース

ヴァンダ(Nasdaq: VNDA)が統合失調症治療薬として承認申請したFanaptum(iloperidone)も否定的評価を受けた。効果が小さくオンセットが遅い上にQT延長の懸念もあるため、便益がリスクを上回るとは言えない、と評されている。ヴァンダは異議申立・再審手続きを要請する考えだ。

リンク:ヴァンダのプレスリリース

【承認】


難治性CML用薬が米国で承認

(2012年12月14日発表)

アリアド社(Nasdaq: ARIA)が承認申請していたCML(慢性骨髄性白血病)用薬Iclusig(ponatinib)が予定より早くFDAに承認された。アリアドは年内に9580ドル/月の価格で発売する予定。

CMLはノバルティスのGleevec(imatinib)が有効だが、T315I変異が生じると効果が減じる。この変異はTasignaなど他のbcr-abl阻害剤にも抵抗性を持つが、Iclusigは第二相試験でT315I変異型慢性期患者における主要細胞遺伝学的反応率が70%だった。一次治療試験でどれだけの効果を挙げるか、注目される。

リンク:アリアドのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

Zytigaを化学療法に先駆けて使うことが承認

(2012年12月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17A1阻害剤Zytiga(abiraterone)の適応拡大が米国で承認された。2011年に去勢抵抗性前立腺癌で化学療法の前治療歴を持つ患者向けに初承認されたが、まだ化学療法を受けていない患者に対象が広がった。前立腺癌は手術や放射線療法、ホルモン療法が有効だが、再発した場合は化学療法を施行するのが一般的だった。しかし、作用が若干異なるもののテストステロンの分泌を抑制する薬であるZytigaが有効であることが分かったので今後は化学療法の出番が減少するだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

米国で肺炭疽治療薬が承認

(2012年12月14日発表)

GSKは坑炭疽菌保護抗原完全ヒト抗体raxibacumabが肺炭疽治療薬として米国で承認されたと発表した。肺炭疽は炭疽菌を吸い込むことによって発症する。ごく稀だが死亡率は著しく高い。発生率が低いため薬効は動物試験で確認した。サルでは生存率64%、ウサギでは44%、偽薬群は何れもゼロだった。抗生剤併用ウサギ試験では生存率82%と抗生剤だけの65%より高かった。

貿易センタービル事件の後、TVニュース・キャスターに炭疽菌が郵送され生物兵器テロかと騒がれた。それ以前に、米国政府のアドバイザーがソビエトの生物兵器研究所勤務時代に感染性を高める遺伝子操作を加えた炭疽菌を見たと報告したこともあった。米国など多くの国がキノロン系合成抗菌剤を備蓄したが、米国はraxibacumabも数万回分を備蓄した。民需は小さいので、今後は、政府の期限切れによる追加発注が需要の中心になりそうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

クッシング病の治療薬が米国で承認

(2012年12月14日発表)

ノバルティスはSignifor(pasireotide)がクッシング病治療薬として承認されたと発表した。手術不適・不応の患者に用いる。クッシング病は癌などが原因で副腎皮質刺激ホルモンが過剰分泌され、様々な症状が起きる。患者数は日米欧で1万人。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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