2012年11月18日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月18日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験
  • アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず
  • FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価
  • CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価
  • Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認
  • バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ
  • EUがカルシトニンのリスクを再確認



【新薬開発】


AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験

(2012年11月11-13日発表)

AASLD(米国肝臓疾患学会)でC型肝炎のDAA(直接作用的抗ウイルス薬)併用試験の結果が数多く発表された。幾つかは既に第三相試験が始まっているが、アボットも第三相試験の着手を正式に発表した。ABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とABT-267(NS5A阻害剤)、ritonavirの三剤合剤と、ABT-333(ポリメラーゼ阻害剤)、ribavirinの総計5剤を12週間または24週間、経口投与するもので、1型ウイルス感染者の一次治療試験、二次治療試験などが行われる。2013年から2014年にかけて結果が判明しそうだ。

第二相試験ではSVR12が一次治療で97.5%(79人中77人)、一次治療不応患者(ヌルレスポンダー)の二次治療試験で93.3%(45人中42人)だった。インターフェロンを使わずに、経口剤だけで、全12週間のコースでこれだけの成果が上がったのは驚きだ。一方で、前回書いたように、一次治療なら5剤も併用しなくてもある程度の成果が上がるのではないか、という印象を受ける(後述)。

尚、SVRは持続的ウイルス学的奏功率の略で、通常は24週間経過後に計測するが、12週経過後のSVR12で代用する動きが広がった模様で、アボット、BMSなどの第三相試験はSVR12を主評価項目にしている。

リンク:アボットのプレスリリース(第三相試験の概要)

BMSも様々な第二相併用試験を行っていて、AASLDでは新薬三剤の併用試験、一次治療不応患者に対する新薬二剤併用試験、同じく新薬二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用試験のデータが発表された。同社はNS5A複製複合体阻害剤の開発で他社に先行しており、昨年、BMS-790052(dacltatasvir)が第三相入りした。

同社で次に開発が進んでいるのはNS3プロテアーゼ阻害剤BMS-650032(asunaprevir)で、日本でこの二剤だけを投与する第三相試験が始まった。二剤で足りるのか疑問を感じるが、着眼点は、まず、日本はインターフェロンやribavirinの不耐が少なくないこと。検査の普及が遅れたせいか高齢で治療を開始する患者が多いことが一因と言われている。

第二は遺伝子型Ib型感染者が多いこと。Ia型より反応が良く、今回AASLDで発表された海外の第二相試験でも、Ib型は二剤併用で38人中27人がSVR12を達成した。一方、Ia型はブレークスルー(ウイルス量の急増)が多く、二剤併用の開発は中止された。海外でも今年、第三相入りしたが、基本はこの二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用で、二剤併用はインターフェロン、ribavirin不耐患者だけだ。

この二剤とNS5Bポリメラーゼ阻害剤のDAA三剤を投与する試験の結果も発表された。I型の一次治療12週間コースでSVR12が94%というもので、症例数が少ないとは言え中々良い。第三相入りは2014年の見込みとのことなので、まだ先だ。

リンク:BMSのプレスリリース(二次治療四剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(Ib型二次治療二剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(一次治療DAA三剤併用)

先週号で書いたようにギリアッド(Nasdaq: GILD)も第三相試験をロンチした。NS5B阻害剤GS-7977(sofosbuvir)とNS5A阻害剤GS-5885の合剤と、この合剤とribavirinの三剤併用の、各12週間コースと24週間コースを比較する。ギリアッドの合剤は一日一回服用なので簡便だ。I型一次治療の第二相試験では12週間コースで25人全員がSVR4を達成した。尤も、症例数が少なく治療完了後の追跡期間が短いので過大評価はできない。

ribavirinは多くの国でGE薬が発売されたが、インターフェロンは依然として高価で、DAAも高価だろう。DAAの併用となると尚更である。もしギリアッドの三剤併用レジメンの効果がアボットの5剤併用と大差ないならば、おそらく副作用は前者のほうが小さいだろうから、前者の方が好まれるだろう。一つ一つの薬の値段が大差ないとしたら尚更である。

C型肝炎の治療ではウイルス量を定期的に検査して治療成果を確認し、不十分なら治療期間を延ばしたり薬をスイッチしたりするresponse-guided-therapyが一般的になっている。作用機序が異なる複数の薬が実用化されれば、三剤で開始して不十分ならもう一剤追加するようなことも可能になるだろう。これらのことから、私としてはギリアッドの三剤併用レジメンを応援したい。但し、ギリアッドのほうが第二相試験の症例数が少ないように感じられるので、開発リスクはギリアッドのほうが高そうだ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず

(2012年11月17日発表)

ロシュはAVAglio試験の全生存中間解析が有意水準に到達しなかったと発表した。神経腫瘍学会で発表された由だ。この試験はAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の第三相試験で、神経膠芽腫の一次治療として、RCT(放射線療法とtemozolomideによる化学療法)に追加する効果を検討したもの。主評価項目のうち、治験医評価に基づくPFS(無増悪生存期間)はハザードレシオ0.64、p<0.0001と成功したが、今回公表された全生存期間の中間解析は各0.89、p=0.21となり、未達だった。

中間解析の検出力がどの程度なのか分からないが、ハザードレシオ0.89というのは案外だ。二次的評価項目である1年生存率も72%と偽薬群の66%を若干上回る程度で、p=0.052に留まった。2013年に予想される最終解析がフェールする可能性がありそうだ。同様な試験がもう一本進行しているが、もし同じ結果だとしたら、既に承認されている二次治療薬としての効能にも疑念が生じそうだ。

AvastinはVEGFに結合する抗体で、VEGFが血管新生を促すのを妨げる。血管新生が沈静化すると血管や癌細胞からの水分浸出が減少するため、造影剤の浸出・拡散が減少し、MRI画像上、癌が小さくなったように見えてしまう恐れがある。このため、MRI画像に基づく増悪・進行の評価だけでなく、寿命が延びることを確認する必要がある。乳癌では腫瘍がAvastin抵抗性を取得して治療前より早く成長するようになる疑いが浮上しており、血管新生阻害剤は延命効果を確認することが重要だ。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価

(2012年11月15日発表)

ダイナバックス(Dynavax)社はB型肝炎予防用ワクチンHeplisavを4月に承認申請したが、諮問委員会の評価は厳しかった。B型肝炎のワクチンは既に存在するので、安全性に少しでも懸念があるなら追加試験を実施して確認せよ、という考え方のようだ。承認されないリスクが高まったことから、同社の株価は半減した。

HeplisavはTLR9を作動する強力なアジュバントを用いており、既存のワクチンの3回より少ない2回接種で十分な抗体を誘導できる。小児用は既に混合ワクチンが普及しているため、ダイナバックスは18歳から70歳の人口をターゲットとして承認申請した。効果の点では治験で既存のワクチン並みであったため、諮問委員14人中13人が支持したが、安全性は支持5人、反対8人、棄権1人と否定的な委員が多数を占めた。ギラン・バレー症候群とウェゲナー肉芽腫が各一例、発生したことがネックになった模様だ。

HeplisavはMSD(米国メルク)が2007年にライセンスしたが、翌年、権利返還した。ダイナバックスは用途をアジアに旅行する人や医療従事者、軍事関係者などに絞り込むことを検討したことがあるが、結局、広範な人口に承認申請した。

リンク:ダイナバックスのプレスリリース

CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価

(2012年11月16日発表)

CHMPは11月15日に以下の評価を決定した。肯定的評価を受けたものについては2~3ヶ月以内に承認されることになるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬の肯定的評価_____________

Lyxumia(lixisenatide)

サノフィがZealand Pharmaからライセンスした二型糖尿病用薬。exendin誘導体で、ByettaやBydureonと同様に、GLP-1受容体を作動してインスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの分泌を抑制し、胃から腸への食物の移行を遅らせ、食欲を抑制する。投与頻度は一日一回。GLP-1作用剤はBydureonのような週一回投与型が実用化されているので、今の製剤では競争力が低い。

主な有害事象は悪心、嘔吐、SU剤やインスリン併用時の低血糖症などで、他のGLP-1作用剤と同様。CHMPのリリースによると、潜在的なリスクとしては、甲状腺髄様癌、膵炎、悪性新生物、一時的な心拍数増加があり、動物試験では催奇性があった。

リンク:Zealandのプレスリリース(サノフィのプレスリリースはpdfファイルなのでこちらを選択)

Zaltrap(aflibercept)

サノフィがリジェネロン(Nasdaq: REGN)からライセンスした抗VEGF抗体。大腸癌の二次治療薬としてirinotecanなどを用いるFOLFIRIレジメンと併用する。米国では8月に承認されたが、価格が高いため値下げを余儀なくされたようだ(11月11日号参照)。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

Bexsero(B群髄膜炎菌ワクチン)

ノバルティスが買収したカイロン社の開発品。侵襲性髄膜炎菌性疾患を予防するワクチンはA群、C群、W135に有効なものが存在するが、B群は初めて。種類が多すぎてこれまではカバレッジの十分なワクチンを作れなかったようだ。欧州はワクチンの普及で発生数が減少したが、B群はむしろ増加している模様であり、年3000-5000人が発症して1割弱が死亡、1-2割が永続的な障害を被るとのこと。

Bexseroが売れるかどうかは、EU加盟国の政府がこの被害者数を多いと考えるか、少ないと考えるか次第で、接種が勧奨されれば年商20億ドルも可能だろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大肯定的評価_____

Zytiga(abiraterone)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤。前立腺癌の化学療法二次治療薬として承認されているが、一次治療に用いることが支持された。転移性去勢抵抗性でアンドロゲン枯渇療法がフェールした、症状がない又は軽い、化学療法の適応にならない患者が対象。

Intelence(etravirine)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤。小児(6歳以上)患者の二次治療に用いることが支持された。

Prevenar 13(侵襲性肺炎球菌性疾患予防用ワクチン)

ファイザーのベストセラー・ワクチンの適応年齢が6週児から17歳までと50歳以上に拡大することが支持された。

Exjade(deferasirox)

ノバルティスの経口キレート剤。輸血に依存していない(比較的軽症の)地中海貧血症の患者の鉄過剰症を治療する適応拡大が支持された。同社の点滴用Desferal(deferoxamine)が禁忌または不十分な10歳以上の患者が適応になる。Exjadeは毎日長時間点滴しなくて良い経口剤であることが長所だが、今回の適応範囲を見ても、deferoxamineの完全な代替品ではないようだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

否定的評価_____________

Istodax(romidepsin)

セルジーン(Nasdaq: CELG)がGloucester Pharmaceuticalsを買収して入手したHDAC阻害剤で、元々は旧藤沢薬品が発酵天然物からスクリーニングしたもの。米国では再発性皮膚Tセルリンパ腫と再発性末梢Tセルリンパ腫の二つの適応症で承認されているが、EUは後者だけ承認申請され、7月に否定的評価を受けた。セルジーンは再審請求したが、結論は変わらなかった。延命効果が不明なことやcGMP(生産基準)違反が解消されていないことが理由。

EUも米国も迅速承認制度を設けているが、一部の疾患では評価が食い違うことがあり、予測可能性に難がある。

【承認】


Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認

(2012年11月14日発表)

BMSがアストラゼネカと共同開発しているSGLT2阻害剤、Forxigaが二型糖尿病治療薬として承認された。他の二型糖尿病新薬と同様に、metforminが不適な患者だけが対象。一日一回、経口投与する。インスリン服用患者に追加することも可能。

血液中のグルコースは腎臓で一旦濾過された後、SGLTによって尿から血液に戻される。Forxigaは専ら腎臓に分布するSGLT2を選択的に阻害して、SGLT1阻害に伴う胃腸副作用を回避しながら、糖の排泄を促す。腎臓では一日に180gのグルコースが濾過されるが、Forxigaを服用するとこのうち35-68gが排泄され、これは160カロリー、20分間の中程度エクササイズに相当する。このため、穏やかな体重抑制作用を持つ。

泌尿器の糖が栄養となって泌尿器・性器感染症を発症するリスクがある。治験で乳癌や膀胱癌が増加したため、疫学研究を行う。

リンク:BMSのプレスリリース

【大規模試験】


バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ

(2012年11月13日発表)

バイエルはXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のアウトカム試験、COMPASSを開始すると発表した。数々の心血管アウトカム試験を手掛けたPopulation Health Research Instituteと共に、約2万人の冠動脈疾患、末梢動脈疾患の患者を組入れて、Xarelto単剤やアスピリン併用の効果をアスピリンと比較する。

この用途ではPlavix(clopidogrel)のモノセラピーが承認されているが、もしXarelto・アスピリン併用が成功すれば快挙である。Xa阻害剤は出血リスクが問題だが、この試験では、Xarelto単剤群は5mgを一日二回、併用群は2.5mg一日二回と用量を加減している。尤も、2.5mg一日二回は亜急性期冠状疾患試験と同じなので、出血事故が増加するリスクが無い訳ではないだろう。尚、アスピリンは一日100mgなので、治験参加者は欧州やアジア中心になるのではないか。

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがカルシトニンのリスクを再確認

(2012年11月16日発表)

EMAはカルシトニン含有薬の便益とリスクを再検討し、長期使用すると癌のリスクが若干増加するため、骨粗鬆症の治療に用いるべきではないと7月に結論した。再審査請求があった模様だが、結論は変わらなかった。パジェット病の治療などに短期的に用いることだけが認められる。経口剤ではリスクが0.7%増加するのに対して、骨粗鬆症治療に用いられる点鼻用製剤は2.4%と高かった。

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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