2012年10月28日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月28日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功
  • バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功
  • アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表
  • イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう
  • 欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請
  • FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?
  • オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず
  • エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認
  • テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認



【新薬開発】


セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功

(2012年10月23日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)は、CC-4047(pomalidomide)の第三相多発骨髄腫三次治療試験が成功したと発表した。代表的な薬剤である同社のRevlimid(lenatidomide、和名レブラミド)と武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケード)による前治療経験を持つ再発性難治性患者を対象としたもの。

投与方法は28日サイクルでpomalidomide群は4mgを一日一回、21日連続経口投与とdexamethasone(以下、DEX)の40mg(75歳以上は20mg)を週一回、経口投与。対照群は同量のDEXを4日連続投与、4日休薬を三回繰り返し最後は4日休薬(28日サイクル)。両群とも癌が進行するまで施行した。その結果、主評価項目のPFS(無増悪生存期間)だけでなく、二次的評価項目である全生存期間でも統計学的に、そして臨床的にも有意な差があった。データは今後の学会で発表されるだろう。

pomalidomideは米国で今年4月に承認申請されたが、第二相試験のデータしかなかったせいか、優先審査指定されず審査期限は来年2月10日となった。第三相試験の成功は承認に追い風となりそうだ。EUでも今年5月に承認申請された。

セルジーンはThalomid(thalidomide)とRevlimidの二種類の多発骨髄腫用薬を持っている。どちらも売上高が既に天井圏に達したので、pomalidomideと乾癬治療用の新薬apremilastには大きな期待がかかっている。

リンク:セルジーンのプレスリリース

バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功

(2012年10月22日、23日発表)

バイエルのBAY63-2521(riociguat)の第三相肺高血圧症試験の結果がCHEST 2012(米国胸部専門医学会)で発表された。

一本はPAH(肺動脈高血圧症)患者を12週間治療したもので、6MWT(6分間歩行試験)の成績が偽薬比で平均36m改善した(統計的に有意)。既存の薬を服用している患者(36m改善)でも、服用していない患者(38m改善)でも、有意な効果があった。この治療効果はエンドセリン受容体拮抗剤と大差なく、臨床的にも意味があるだろう。WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。

もう一本は、承認されている薬がない難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を16週間治療した試験で、6MWTが偽薬比46m改善、WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。二本の試験で観察された有害事象は、頭痛、消化不良、末梢浮腫、悪心、眩暈、下痢など。バイエルは2013年上期に承認申請する予定だ。

riociguatは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤のファースト・イン・クラス。酸化窒素が血管平滑筋を弛緩させるパスウェイに介入し、sGCの酸化窒素感受性を向上するとともに、酸化窒素に依存しない直接的なsGC刺激作用も持っているようだ。全身的な降圧作用は比較的小さい。PAH試験で確認されたように、PDE5阻害剤やエンドセリン受容体拮抗剤と補完的なので併用にも適している。用法は1mgを一日三回、経口投与で開始して、8週間かけて2.5mg一日三回まで漸増する。

リンク:バイエルのプレスリリース(PAH試験)

リンク:同(CTEPH試験)

アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表

(2012年10月22日発表)

CHEST 2012ではスイスのアクテリオン(SIX: ATLN)が開発したエンドセリンA/B受容体拮抗剤、ACT-064992(macitentan)の第三相症候性PAH試験のデータも発表された。この試験の特徴は主評価項目が6MWTではなく、病状悪化・死亡という臨床的転帰であることだ。肺高血圧症治療薬の試験では初で、成功が発表された時は大変驚いた(2012年5月6日号で報道)。

偽薬、3mg、10mgを夫々一日一回、経口投与する群に割付けて、メジアンで1-2年治療したところ、主評価項目である全死亡・PAH増悪のリスクが3mgで30%、10mgは45%、偽薬群より低かった。二次的評価項目では、PAHによる死亡・入院が各33%と50%、低かった。

更に、10mg群は6ヶ月時点の6MWTが偽薬比平均23m改善した。症状の軽い患者も組入れたため治療効果が小さくなっているが、WHO機能クラスIII、IVの患者だけの解析では37mと、他の薬と同様な数値が出た。10mgはPDE5阻害剤を服用している患者にも有意な効果があった。忍容性面では、類薬の副作用である肝機能検査値異常は増えなかったが、重い貧血のリスクが見られる。

6MWTの数字を見る限りでは特に効果が高いようには見えない。結局、6MWTを改善する薬はPAHの病状進行も抑制できるということなのだろう。とは言え、臨床的な転帰を改善できるというエビデンスを持つ薬は他にはない。同社のフラッグシップであるエンドセリンA/B受容体拮抗剤、Tracleer(bosentan、和名トラクリア)の特許切れを数年後に控えて、有望な後継が現れた。

アクテリオンは、米国で承認申請したことも発表した。商標名はOpsumitの予定。

リンク:アクテリオンのプレスリリース(学会発表について)

リンク:同(承認申請について)

イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう

(2012年10月22日発表)

アミリン社が他社に先駆けて開発、発売したGLP-1作用剤は二型糖尿病患者の血糖値を下げるだけでなく、血糖治療薬としては唯一、体重を減らす作用も持つ。難点の一つは注射薬であることだが、一日二回ではなく一回、あるいは、週一回投与型の開発が活発化している。企業買収や提携、提携解消も盛んで、アミリンは当初、イーライリリーと共同開発・販売していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと糖尿病領域で提携したため解消。その後、BMSとアストラゼネカの連合に買収された。

一方、イーライリリーは、GLP-1融合蛋白LY2189265(dulaglutide)をベーリンガー提携とは別に単独で開発している。DPP-4に分解され難く改変したGLP-1にヒトのG4型免疫グロブリンの固定領域を共有結合することで作用を長期化、週一回注射で足りる。同じ週一回投与型であるBydureonと異なり太い針を使う必要がないので注射箇所の痛みが小さいはずである。

複数の第三相試験のうち、三本の成功が発表された。何れもHbA1c治療効果で主評価項目を達成したが、二次的評価項目の実薬対照優越性解析も成功したとのことだ。このうち、exenatide(アミリンのGLP-1作用剤)は半減期が短いせいか、他の週一回投与型と比べた試験でも効果が見劣りしたので、驚きではない。

Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)は、血糖降下作用が穏やかであるものの経口投与可能で、深刻な副作用のリスクが比較的小さく、体重が増えないという長所を持つので、効果の多寡だけでは結論を出せない。

驚かされるのは、metformin対照試験で勝ったことだ。主評価項目の非劣性解析が成功したため二次的評価項目の優越性解析が実施され、有意に優れていた。この試験は早期二型糖尿病患者が対象なので、metforminの用量が小さかった可能性があり、また、病歴の長い患者でも勝てるのか、26週時点だけでなく52週時点の解析でも勝てるか、という疑問が残るものの、近年の新薬は勝てなかったものが多いので価値がある。

尤も、近年の試験は組入れ数が多いので、小さな差でも有意差が出てしまう。学会発表時に、臨床的に意味があるかチェックする必要があるだろう。

残りの二本は何れもLantus(insulin glargine、和名ランタス)対照試験でまだ結果が出ていない。非劣性解析が成功したら優越性解析に進むプロトコルだ。インスリン対照非劣性試験は対照群の用法の妥当性がしばしば議論になる。低血糖リスクに配慮して用量を抑え、血糖値を治療目標まで下げないことが多いからだ。治験の価値としては今回概要が発表された3本のほうが重要だろう。

GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤は膵臓に作用するせいか市販後有害事象報告で膵炎発症例がやや多いように感じられる。dulaglutideは動物の毒性試験でも第二相試験でも膵炎リスクが見られたので、GLP-1作用剤の中でもリスクが高い可能性があるが、リスクを探知すべく密接に観察したことによるオブザベーション・バイアスかもしれない。5本の試験が完了した段階でメタアナリシスが行われるのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請

(2012年10月25日発表)

大日本住友製薬と武田薬品は、EUでlurasidoneを統合失調症の治療薬として承認申請し、受理されたことを発表した。米国ではLatuda名で2010年に承認されている。他の非定型的向精神薬と比べて体重増などの代謝性副作用が小さいことが特徴。大日本が開発、英国以外の欧州では武田薬品が販売する。

同日、ノバルティスが決算発表資料の中でQVA149をEUで承認申請したことを公表した。ベータ2作用剤Onbrez(indacaterol、和名オンブレズ)とムスカリン拮抗剤Seebri(glycopyrronium bromide)の活性成分を配合した合剤で、COPDの維持療法として用いる。日本でも年内に承認申請される予定。米国はベータ2作用剤に対するハードルが高く、2014年に承認申請の見込み。

リンク:大日本/武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?

(2012年10月26日発表)

ノボ ノルディスクの持効性インスリンTresiba(insulin degludec)は9月に日本でトレシーバ名で承認、欧州でも10月にCHMPが肯定的意見を出したが、米国は承認審査が長引いていて、審査期限が10月29日に延期されただけでなく、11月8日に諮問委員会が招集されることになった。おそらく、審査期限までに結論が出ないという意味だろう。

GLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)やLevemir(insulin detemir、和名レベミル)の時もそうだったが、ノボの糖尿病薬は米国ではすんなりと承認されないことが多い。何故だろうか?

そんな時、ノボは、FDAが諮問委員会に備えて公表した利益相反表明に関するプレスリリースを発出した。意外な内容で、第一のサプライズは、利益相反のある諮問委員を召集した理由を表明する資料の中に、開催の目的が記されていたことだ。第二に、FDAが懸念しているのはTresibaの心血管疾患リスクであることが明らかになった。

TresibaはサノフィのLantusが最大のライバルなので、直接比較試験が実施された。作用が24時間安定的に推移するためか、夜間の低血糖が有意に少なかった。FDAはこの長所と心血管リスクがLantusより高いことを天秤にかけるよう諮問する考えだ。

ノボは10月19日に医薬品医療機器総合機構が公表したトレシーバの審査文書の概要について英文プレスリリースを出した。機構の評価が海外で言及されることは稀なので驚いたが、悪い内容ではなく、EUの承認審査も順調に進んでいる模様なので、私は米国で何か悪い話が出ていてそれに反論する意図なのだろうと推測した。結局、批判者はFDAの審査官だった訳だ。

それにしても不思議なのは、機構の審査文書を読んでも心血管リスクがあるようには見えないことだ。総計8941例のメタアナリシスで、MACE(主要な有害心血管イベント)の発生率は100人年当り1.48件、対照群は1.44件で、ハザードレシオ1.10、95%信頼区間は0.68から1.77となっている。FDAのガイドラインによれば、95%上限が1.8を超える場合は追加試験を行うなり、心血管アウトカム試験を実施して懸念を払拭しない限り承認を得ることはできないが、Tresibaはぎりぎりセーフなはずだ。

考えられるのは、第一に、その後に完了した試験で多くのMACEが発生し、最新の解析では1.8を超えている可能性だ。第二は、市販後心血管アウトカム試験がまだ開始されていない模様であることを懸念している可能性。95%上限が1.3-1.8の薬は、市販後に十分な検出力を持つ試験を行ってリスクが1.3未満であることを証明しなければならない。中央値は1を超えているのだから懸念があるのは確かであり、ノボにはFDAだけでなく患者に対しても挙証義務がある。

現地時間で11月6日にも一般公開される、諮問委員会用ブリーフィング資料の内容が注目される。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:同(機構の審査文書に関する10月19日のリリース)

オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず

(2012年10月22日発表)

オレキシジェン(Nasdaq: OREX)は体重管理薬Contrave(bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤)を2010年に米国で承認申請し、諮問委員会の支持も得たが、承認されなかった。同社は心血管アウトカム試験を開始すると共にFDAに紛争仲裁請求を行ったが、結果が出る前に承認することは認められなかった。

次の手段として、中間解析結果が出る前に再申請することをFDAに提案する考え。認められれば発売が数ヶ月早くなる。この中間解析結果はMACE(主要有害心臓イベント)が87件に達した段階で行われるが、到達は2013年第2四半期の見込みであることも発表された。前倒し再申請が認められなくても、2014年第1四半期には承認されることになりそうだ。勿論、中間解析で悪い結果が出ないことが前提だ。

広く予想されていたとおり、数日後に増資が発表された。新興企業は財務基盤が弱く最低限必要な資金しか持っていないために、定期的に好材料を発表して株価を刺激した上で資金調達を行う必要がある。これがもし大手製薬会社なら、紛争仲裁請求に労力や資金を費やさずにさっさと心血管アウトカム試験を開始しただろう。

Contraveは中枢神経系で食欲抑制的・エネルギー消費促進的に作用するアルファMSHの放出を二つの活性成分が促進し、naltrexoneは代償機構を抑制する作用もあると考えられている。体重抑制作用は既存の薬と大差ないので、副作用の多寡が問題になる。米国承認後は武田薬品が販売する予定。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

【承認】


エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認

(2012年10月22日発表)

エーザイが開発した経口AMPA拮抗剤、Fycompa(perampanel)が7月のEUに続いて米国でも承認された。部分癲癇の発作予防に用いる。麻薬取締局によるスケジュール審査を経て発売される予定。スケジュールはIからVまであり、Iが最も厳しい流通・処方規制を受け、IV、Vは軽い。Fycompaは専門医が使う薬なのでIに指定されない限り普及の妨げにはならないだろう。

AMPAはグルタミン酸受容体のサブタイプ。Fycompaはシナプス後AMPAがグルタミン酸によって活性化され神経が過剰に興奮するのを抑制する。パーキンソン病や偏頭痛予防など様々な用途が探索されたが、遂に実用化にたどり着いた。中枢神経系の薬の開発はネバー・ギブアップの精神が必要だ。

癲癇は薬によく反応するが、複数を併用しても発作を十分に抑制できない患者に追加する新薬に対するニーズは高い。服薬を怠った患者の交通事故がしばしば報道されるが、怠る理由は副作用なのだろうから、忍容性に優れる薬を開発することも重要だろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:エーザイの和文プレスリリース

テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認

(2012年10月26日発表)

テバ・ファーマシューティカル(NYSE: TEVA)のSynribo(omacetaxine mepesuccinate)が慢性骨髄性白血病(CML)の三次治療薬として米国で承認された。二種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤(ノバルティスのグリベック等)による治療を既に受けてしまった患者に用いる。

サルベージ療法なので反応率はそれほど高くなく、第二相試験では慢性期の患者の主要細胞遺伝学的反応率(MCyR)が18%、メジアン反応持続期間は12ヶ月、加速期の患者は主要血液学的反応率(MaHR)が14%、メジアン持続期間は4.7ヶ月だった。CMLの反応評価方法は似たような名前のものが色々あるが、ここでは寛解という言葉は出てこない。

omacetaxineはMDアンダーソンがCML治療薬として90年代から開発を続けてきた。オーストラリアのChemGenexがライセンスして治験を実施、承認申請後の2011年にセファロンが企業買収し、更にセファロンをテバが買収した。アポトーシス誘導作用や血管新生阻害作用を持つと考えられている。

テバは世界最大のGE薬メーカーだが、GE薬業界を取り巻く環境は次第に厳しくなってきた。米国、ドイツ、英国などのGE薬先進国では、民間保険会社や政府が普及促進を後押しする段階を終え、GE薬メーカー同士の価格競争を促す段階に進んでいるからだ。業界再編が活発に行われているが、再編が進めば今度は大手同士の体力勝負になるので、20世紀の二度の大戦と同様に、中々決着が付かずお互いに消耗する結果になりかねない。

テバは将来を予測して買収によって企業構造を変えていく能力に長けており、他のGE薬メーカーに先駆けて新薬シフトを進めている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テバのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿