2012年9月30日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月30日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • リラックス・ホルモンの急性心不全試験が成功
  • 長期作用性B型血友病薬の第三相試験が成功
  • ノボの速効性第VIIa因子は第三相で開発中止
  • 新興企業が治験結果発表を撤回(抗PS抗体、belinostat)
  • アヴェオ・オンコロジーがtivozanibを米国で承認申請
  • アリアドがbcr-abl阻害剤のローリング承認申請を完了
  • BMS/ファイザーのapixabanが承認審査第二巡入り
  • バイエルの結腸直腸癌用薬が米国で承認



【新薬開発】


リラックス・ホルモンの急性心不全試験が成功

(2012年9月24日)

ノバルティスは、RLX030(serelaxin)の第三相急性心不全試験が成功したと発表した。呼吸困難症状に係わる二つの主評価項目の一つが成功しただけでなく、死亡率も低かった由だ。どちらの解析が成功したのか、どの程度改善したのかは明らかにされず、11月のAHA(米国心臓協会)科学会議で発表される見込み。

RLX030は遺伝子組換え型のヒトrelaxin-2。Relaxin-2は体内のホルモンで、女性が妊娠すると心血管や腎臓の変化、再生産道の弛緩などを調停するとのことだ。第二相試験で急性心不全患者に対する効果の兆しが見られ、ノバルティスが2010年に開発会社であったCortheraを買収した。

第二相用量変動試験はよくわからない点も多かった。用量依存性が見られず、最低用量の30mcg/kgを投与した群の呼吸困難症状改善効果が最も高かった。この群の症状改善奏功率と180日心血管死は偽薬比有意に優れていたが、pは0.04であり、多重性を考慮すれば有意とはいえないだろう。

American Heart Journalに刊行されたデザイン・ペーパーによると、第三相試験は急性心不全で収縮期血圧が125 mmHg超の患者1,161人を組入れた無作為化偽薬対照試験。RLX030は一日30mcg/kgを48時間連続静注点滴、血圧が大きく下がったら中止する。主評価項目の一つは呼吸困難の重さをVAS(ビジュアル・アナログ・スケール)を用いて5日間に亘って評価・記録し、AUC(曲線化面積)を偽薬群と比較した。もう一つは中程度以上の改善に成功した患者の比率で、6時間、12時間、24時間後に評価した。

急性心不全の臨床試験はなかなか成功しないし、症状改善に成功しても、死亡率の高い病気であることを考えれば死亡リスク削減効果を検討すべきという批判を受けがちだ。デザイン・ペーパーによると、EUの承認審査機関は新薬開発ガイドラインの中で、延命効果を確認することが望ましいが、症状改善効果を確認するだけでも、死亡リスクが高まらないことを条件に可、としている。FDAも過去の相談で同様な意見を表明したようだ。

全死亡が少なかったのはポジティブだが、主評価項目ではなく、この解析より上位の解析がフェールしているので、pが0.05を下回っても統計学的に有意とは言えない。副作用で死亡が増加する懸念はなかった、位に受け止めるべきだろう。また、この試験一本だけで販売承認を取るためには、効果が著しく高くなければならないだろう。結局、呼吸困難症状を改善する効果が患者にとって意味のあるものであったかどうかが学会発表時の注目点になりそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:Ponikowskiらのデザイン・ペーパー(PubMed。AHJのサイトでオープン・アクセス)

長期作用性B型血友病薬の第三相試験が成功

(2012年9月26日)

バイオジェン・アイデック(NASDAQ: BIIB)とスエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO: SOBI)は、遺伝子組換え型長期作用性第IX因子の第三相試験が成功したと発表した。出血リスクが高いB型血友病患者を組入れた予防試験で、出血エピソードの頻度が6~13分の1に減少した。米国では来年上期に、欧州では小児試験を終えてから、承認申請される予定。

B型血友病は第IX因子が欠乏・活性低下していて、出血時に血液凝固・止血できないため、遺伝子組換え型第IX因子を投与する必要がある。頻繁に出血し治療を受ける患者には予防的投与も行われている模様だが、現在の製剤は作用が短いので3~4日に一回投与しなければならない。

SOBIがBIIBと共同開発しているrFIXFcは、第IX因子と免疫グロブリンG1を細胞融合して体内で分解されにくくしたもの。今回の第三相試験では、週一回投与する用法と、患者に合わせて投与頻度を調整する方法を、出血時に治療する(予防は行わない)方法と比較したところ、各群の出血エピソードが年率2.95回、1.38回、17.69回となり、予防に成功した。

頻度調整群の投与実績は、メジアンで14日に1回だった。現行の製剤の3~4分の1で済むことになる。出血時投与群では、90%のケースでは一回の投与で治療に奏功した。

両社は、A型血友病に用いる長期作用性第VIII因子も開発中だ。

リンク:両社ののプレスリリース

ノボの速効性第VIIa因子は第三相で開発中止

(2012年9月28日)

長期作用性の第IX因子や第VIII因子など、遺伝子組換え型血液凝固因子新薬は複数の会社が臨床開発中で、ノボ・ノルディスクもその一社だ。同社は遺伝子組換え型活性化第VII因子NovoSevenの作用を早くしたNN1731(vatreptacog alfa)をスーパーセブンとして第三相入りさせたが、開発中止となった。被験者数人で試験薬に対する抗体が誘導されたため。

このうち一人の抗体はNN1731の活性を中和する可能性が示唆された。また、一部の患者の抗体はNovoSevenにも結合する交差抗体だった。幸いなことに、試験薬の効果を阻害する抗体ではなさそうで、治療の妨げにはならなかった模様だ。

血液凝固因子などの高分子薬を投与すると体内でそれに対する抗体が誘導されることがあり、既存の薬も頻度が少ないだけで発生しないわけではない。有名なところでは、欧州でジョンソン・エンド・ジョンソンのエポエチンを使った患者でPRCA(真性赤血球形成不全)が多発したことがある。薬に対する抗体が天然のエリスロポエチンの効果まで阻害し、赤血球を増やすどころか減ってしまったのである。深刻な副作用と呼べるだろう。

NN1731はそこまで酷くはないようだが、第VIII因子や第IX因子に対する抗体(インヒビター)を持ち第VII因子を代用しなければならない患者も使うだろうから、潜在的には深刻なリスクである。NovoSevenでは発生したことがない由なので、今回の開発中止は頷ける。

リンク:ノボのプレスリリース

新興企業が治験結果発表を撤回

(2012年9月24日)

新興企業が臨床試験の結果速報を撤回・修正することが時々ある。株式公開企業は重要な情報をタイムリーに公表する義務があるので、治験結果は良くても悪くても速やかに公表しなければならない。しかし、臨床試験の経験が豊富な企業は少ないので、アウトソース先でトラブルが発覚したり、解析方法が厳格でなかったり、関連企業とのコミュニケーションが不十分だったりすることに気付かずに、すべての検証が終わる前に『勇み足』で発表してしまうことが起き得る。先週は、私が過去に報じた二件のニュースが撤回された。

まず、2012年9月9日号の記事、『PFSは延びなかったがOSは延びた!』で報じたPeregrine Pharmaceuicals(NASDAQ: PPHM)の抗PS抗体の第二相非小細胞性肺癌二次治療試験。「実力なのか、フェイクなのか?治験論文刊行が待望される。」と記したが、それ以前に、試験薬と偽薬の割付に過ちがあった可能性が浮上した。一部の患者に対する検査で、コードの割付と不一致が発見されたのである。群の割付や試験薬・偽薬のコード付与、配布を担当した外注先がミスをしたようだ。

実際に何を投与したのか追跡できれば良いが、できなかった場合は第二相試験をやりなおすことになる。大変な時間の無駄である。

そう言えば、MSD(米国メルク)が日本で行った子宮頸癌予防用ワクチンの試験でも、類似したトラブルが発生し、承認申請が大幅に遅延したことがある。開発者は治験が完了するまで群の割付や薬の配布が正しく行われているかを確認できないので、大企業でもこのようなことが起こり得るのである。

リンク:Peregrineのプレスリリース

もう一件は9月23日号で報じたbelinostatの第二相末梢T細胞リンパ腫試験だ。スペクトラム・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: SPPI)に導出したTopotarget社が21日に治験成功と発表した。「スペクトラム側ではプレスリリースを出していない。」と記したが、24日に出されたリリースは意外なものだった。未だ7人が治療中でデータベースロックは11~12月、最終解析はその後、というのである。

癌の第一相、第二相試験では途中で何度も中間解析を行うことも珍しくないが、承認申請するつもりなら、統計学的に正しい方法で解析を行わなければならない。この試験は群が一つしかないので何れにせよきちんとした解析はできないのだが、中間解析結果を公表すると治験医に先入観を与えORR(客観的奏功率)の評価が甘くなるかもしれないので、好ましくない。

末梢T細胞性リンパ腫の治療薬が同様な単群試験のORRのデータに基づいて承認された前例があるが、承認審査機関にしてみれば、エビデンス・レベルが高い良くデザインされた無作為化対照試験で延命またはそれに準じる効果が確認されていない薬を承認するのは不本意だろう。それだけに、エビデンスとしての価値を更に下げるようなことはするべきではない。今回の勇み足と訂正は、承認審査にも影を落としそうだ。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

リンク:Topotargetの21日のプレスリリース

【承認申請】


アヴェオ・オンコロジーがtivozanibを米国で承認申請

(2012年9月28日)

アヴェオ・オンコロジー(NASDAQ: AVEO)はVEGF受容体阻害剤tivozanibをFDAに承認申請したと発表した。適応症は末期腎細胞腫で、化学療法未経験の患者を組入れた第三相試験では、無増悪生存期間がメジアン11.9ヶ月と、バイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を投与した群の9.1ヶ月より長かった。インターフェロンやインターロイキンによる治療を受けていない患者では12.7ヶ月対9.1ヶ月と差が更に広がった。

この試験はハードルが低い。末期腎細胞腫の一次治療はNexavarではなくファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を用いるのが通常だからだ。tivozanibも二次治療、三次治療で用いられる可能性が高いが、Sutentに反応しない患者に対する効果は明確ではない。

tivozanibは2007年にキリンからアジア以外の権利を取得したもの。2011年にアステラスがアヴェオと共同開発販売する権利を取得している。

リンク:アヴェオとアステラス製薬の共同プレスリリース

アリアドがbcr-abl阻害剤のローリング承認申請を完了

(2012年9月27日)

アリアド・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: ARIA)はAP24534(ponatinib)のローリング承認申請を完了したと発表した。前臨床や臨床データは既に提出しFDAが承認審査を開始しているはずなので、通常より早く承認される可能性がある。

ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)と同様なbcr-abl阻害剤で、Gleevecなどの既存薬に抵抗性・不耐の慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病に用いる薬として承認申請した。既存のbcr-abl阻害剤三剤に抵抗性を持つT315I変異型にも活性を持つことが特徴だ。

リンク:アリアドのプレスリリース

【承認審査】


BMS/ファイザーのapixabanが承認審査第二巡入り

(2012年9月26日)

米国の承認審査は、承認申請、受理、審査、結果通知というプロセスを経る。審査結果は承認または審査完了(Complete Response、字義通りに訳すと完全回答)のどちらかであり、後者の通知は、承認しない理由や足りない情報が記されている。承認申請者が不足情報を提出しFDAが完全回答(Complete Response)と認めると、第二巡に入り、新たな審査期限(通称PDUFA)が通知される。第二巡の審査期間は、内容が軽微なら2ヶ月、そうでなければ6ヶ月となる。

BMS/ファイザーは2011年9月にXa阻害剤apixabanを心房細動患者の脳卒中予防薬として米国で承認申請し、優先審査指定を受けたが、2012年6月に審査完了通知を受領した。臨床試験のデータ管理や検証に関する追加情報を求められた模様だ。両社が提出したところ、完全回答と認められ、承認審査期限は6ヶ月後の2013年3月17日となった。

FDAの心血管用薬チームのリーダーは、アウトカム試験が必ずしも厳格に実施されていないことと、疑問点を残したまま承認するFDAの現状に疑問を持っていて、徹底的な調査・検討を行う癖がある。第一三共/イーライリリーのEfient(prasugrel)などの承認審査が長引いたのは、これが原因とみなされている。

apixabanのワーファリン対照試験は心血管領域で数々の重要なアウトカム試験を実施したデューク大学に在籍する研究者が主導しており、学会の評価は高いのだが、心血管チーム・リーダーは、決して大きくない治療効果を正しく検出するためには、打切り例をできるだけ少なくしたり、評価項目の報告漏れを防ぐことが重要と考えているようだ。

アウトカム試験は費用が嵩むため、比較的安い東欧やアジアの施設で多くの患者を組入れるケースが増加した。しかし、治験の厳格さに対する考え方は国により区々であり、我が日本も、欧米ほど厳格ではないようだ。失敗経験が少ないため、理論がどんなに立派でも検証試験をやらなければ真実とは言えないことに気付かないのである。副作用渦や不正論文事件も軌道修正の契機になりうるのだが、喉元過ぎると熱さを忘れてしまう。

本題に戻ると、人間は万能ではないので真実解明を待っていたら患者を救えない。どこかの段階で真相探求を完了し、後は、今後実施される試験で同じ問題を起こさないよう、学会やオピニオン・リーダーに働きかけることになるだろう。

今回のFDAの問題提起は承認申請者が3ヶ月で完全回答できるようなものではなく、6ヶ月審査となったことも、FDAが簡単に審査できるものではないことを示唆している。しかし、有用な薬の一つなのだから、やがて承認されるだろう。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

【承認】


バイエルの結腸直腸癌用薬が米国で承認

(2012年9月27日)

バイエルは、FDAがStivarga(regorafenib)を結腸直腸癌のサルベージ療法として承認したと発表した。審査期限より1ヶ月近く早かった。臨床試験では、全ての既存薬による治療を既に受けてしまった患者をStivarga群(28日サイクルで最初の21日間、160mgを一日一回経口投与)と支持療法だけの群に無作為化割付したところ、中間解析でメジアン生存期間が各6.4ヶ月と5.0ヶ月、ハザードレシオ0.77、p=0.0102となった。この試験は日本の施設も参加した。

ORRは両群大差なく、メジアン無増悪進行期間は10日程度の差しかなかったが、何と言っても、寿命が1ヶ月延びたことが重要だ。抗癌剤には深刻な副作用が付き物で、Stivargaは重篤なそして致死性もある肝臓障害が枠付警告されている。

Stivargaは同社のNexavarと酷似しており、Naxavarの共同開発者であるオニキス(NASDAQ: ONXX)が権利を主張、結局、頭金と売上ロイヤルティを払うことになった。

報道によると、WAC(問屋取得価格)は1サイクル分が9350ドル。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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