2012年8月5日

海外医薬品ニュース週末版 2012年8月5日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • BMSが慢性C型肝炎用薬の第二相試験を自主的に中断
  • リジェネロン/サノフィの新種のバイオ薬が承認
  • Arcalystの適応拡大は認められず
  • GSKが二種類の悪性黒色腫用薬を承認申請
  • アリアドがponatinibをローリング承認申請
  • ファイザーの抗リウマチ薬は承認遅延の公算



【新薬開発】


BMSが慢性C型肝炎用薬の第二相試験を自主的に中断

(2012年8月1日)

BMSは、BMS-986094(INX-08189)の慢性C型肝炎第二相試験を自主的に中断したと発表した。プレスリリースには記載されていないが、報道によると、証券アナリスト達は投与を受けた30人のうち一人で心不全が発生したことが原因で、開発中止の可能性が高いと言っている。2月に25億ドルを投じて買収したインヒビテックス社の最も重要な化合物が風前の灯となった。

たった一例で開発中止になるということは、第一に、重篤な急性心不全が発生したのだろう。第二に、原因として薬物誘導性不整脈が疑われ、尚且つ、これまでの治験でもQT延長(心電図に現れる脈拍異常)のリスクが見られたのだろう。

投与したのは200mgである模様。量を減らせば副作用を緩和できるかもしれないが、効果も減弱する。一型ウイルスに感染し初めて抗ウイルス治療を受ける患者に7日間投与した試験では、200mg群のウイルス量がメジアンで4.25 log10 IU/mL減少したのに対して、100mg群は2.53、50mg群は1.47 log10 IU/mLに留まった。

BMS-986094はヌクレオチド系のNS5Bポリメラーゼ阻害剤。BMSにとっては残念だが、他社も同程度の力価を持つ化合物を開発しているので、インターフェロンを用いない全経口剤レジメンや、ribavirinを用いないレジメンの夢が消失したわけではない。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請・承認】


リジェネロン/サノフィの新種のバイオ薬が承認

(2012年8月3日)

米国のバイオ企業であるリジェネロン(Nasdaq: REGN)と開発販売パートナーであるサノフィは、Zaltrap(ziv-aflibercept)が米国で承認されたと発表した。切除不能・転移性結腸直腸癌で、oxaliplatinベースの多剤併用療法に反応しなくなった患者に、FOLFIRIというirinotecanベースのレジメンと併用する。

Zaltrapは一風変わった抗体医薬で、二種類のVEGF受容体のサブユニットをG1型免疫グロブリンの定常領域と細胞融合した。ロシュのAvastin(bevacizumab)に似ているが、VEGF-Aの様々なアイソタイプに結合することが特徴。臨床的な特徴はAvastinと大差ないように感じられるが、作り方が違うため、先行企業の特許を掻い潜って類薬を発売することを可能にする、注目の技術だ。

ロシュが『眼科のアバスチン』とも言うべきLucentisをラインアップしたのと同様に、リジェネロンはバイエルと提携して『眼科のaflibercept』であるEyleaを販売している。今回初めて知ったが、Zaltrapの一般名は接頭辞としてzivが付いている。Wikipediaによるとヘブライ語で光という意味のようだが、レーベルを読んでもEyleaとどこが違うのか、分からない。日本人の感覚では、ザルなトラップという商品名も違和感がある(^_^;) 。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:リジェネロンのプレスリリース

Arcalystの適応拡大は認められず

(2012年7月30日)

リジェネロンはZaltrap、EyleaのほかにArcalyst(rilonacept)も販売している。IL-1受容体の二種類のサブユニットを免疫グロブリン定常領域と細胞融合したもので、CAPS(クリオピリン関連周期性症候群)という自己免疫性希少疾患の治療に用いる。ノバルティスの抗IL-1ベータ完全ヒト化抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)も承認されており、両社は適応拡大競争をしているが、思ったより難航している。

リジェネロンは痛風の尿酸治療に伴うフレアの予防薬として米国で適応拡大申請したが、審査完了通知を受領した。追加データを求められた模様だ。5月に開催された諮問委員会では、11人の委員が全員一致で承認に反対した。治験の投与期間が短いこと、深刻な有害事象が見られたこと、効果が穏やかであることなどが理由だ。Ilarisの同様な適応拡大申請も認められなかった。

大手製薬会社は新薬開発戦略をマーケット・インからプロダクト・アウトに転換している。アルツハイマー病用薬とか、血糖治療薬とか、先に目標を決めてから実現方法を検討するのではなく、手元にある斬新なコンパウンドや特許を元に、その薬に最も適した疾患を市場性を問わずに最優先する。もし成功し、発売の目処が立ったら、もっと大きな市場に適応拡大を検討する。

抗IL-1抗体はこの戦略のフラッグシップとも言うべきプロジェクトだが、やはり、米国の患者数数百人の疾患と数百万人の疾患では求められる安全性(エビデンス)のレベルが大きく異なるようだ。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

GSKが二種類の悪性黒色腫用薬を承認申請

(2012年8月3日)

グラクソ・スミスクライン(GSK)は、V600変異型BRAFを持つ切除不能・転移性黒色腫に用いる経口剤を二種類、米国で承認申請した。一つはBRAF阻害剤GSK2118436(dabrafenib)で、承認されればロシュのZelboraf(vemurafenib)に次ぐ第二号になる。もう一つは日本たばこからライセンスしたMEK1/2阻害剤GSK1120212(trametinib)で、こちらはファーストインクラス。併用試験が進行中だが、今回はどちらもモノセラピーとしての承認申請だ。

欧州では、まずdabrafenibを承認申請した。trametinibも数ヶ月内に申請の予定。遅れる理由は明らかではない。

両剤の第三相試験の結果は今年のASCO米国臨床腫瘍学会で発表され、大きな注目を集めた。どちらも活性薬対照試験で、dabrafenibは増悪・死亡のハザードレシオが0.30、メジアン無増悪生存期間は5.1ヶ月対2.7ヶ月。trametinibは同じく0.45、4.8ヶ月、1.5ヶ月だった。効果は前者のほうが高そうだ。忍容性は前者は扁平上皮腫など皮膚有害事象が発生しやすく、後者は駆出力低下・心室不全や疲労のリスクがある。

RAFはEGFRなど成長因子受容体に端を発する細胞内シグナル伝達に関与する腫瘍関連遺伝子(蛋白)で、その川下で機能する腫瘍関連遺伝子がMEKだ。V600EやV600K変異型のbrafは活性が高く、成長刺激を送り続けて細胞の成長・増殖を促す。braf阻害剤はこのタイプの癌に高い効果を発揮するが、brafなどが更に変異して効かなくなることがある。そこで注目されるのがMEK阻害剤の併用だ。braf阻害剤耐性変異を誘導しにくい可能性がある。また、扁平上皮腫のリスクが低下する公算がある。

リンク:GSKのプレスリリース

アリアドがponatinibをローリング承認申請

(2012年7月30日)

米国の新興製薬会社アリアド(Nasdaq: ARIA)は、ponatinibを治療抵抗性・不耐性の慢性骨髄性白血病(CML)やフィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の薬として米国で承認申請したと発表した。CMC(化学・製造・管理)に関する書類の一部は9月までに提出する予定とのこと。

承認申請するためには臨床、前臨床、CMCの三種類の書類を提出しなければならないが、ponatinibはローリング承認申請が認められたので、出来上がった順に提出して審査を開始してもらうことができ、その分、早く承認を得る可能性が生まれる。優先審査指定されるだろうが、前例では、ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)のように、最後の書類を提出してから4ヶ月で承認されたものもある。

ponatinibはグリベックと同じbcr-abl阻害剤だが、グリベック抵抗性を持つT315I型にも活性を持つことが特徴。承認申請の根拠となる第二相試験では二種類以上のbcr-abl阻害剤に反応しなくなった慢性期CML患者に投与したところ、主要遺伝学的応答率(MCyR)は全ユニバースで54%、T315I変異型だけだと70%に達した。主要分子遺伝学的応答率(MMR)は全ユニバースで30%だった。

承認審査におけるリスク要因は、第一に、非対照試験のMCyRやMMRデータが薬効のエビデンスとして十分と看做されるかどうか、だろう。T315I型に有効であることは例外扱いに値するので、このタイプに限定して承認される可能性もあるが、この場合、検査方法が確立していない模様であることがリスク要因だ。アリアドはプレスリリースの中でMolecularMD社が検査キットをPMA(医療機器の販売承認申請)したことに言及しているが、このキットの特異度や感度が重要になる。

リンク:アリアドのプレスリリース

ファイザーの抗リウマチ薬は承認遅延の公算

(2012年7月31日)

ファイザーは、抗リウマチ薬として欧米で承認申請中のJAK阻害剤、tofacitinibに関して二つの発表を行った。第一は、methotrexate(MTX)対照試験の一年経過時点の解析で症状改善効果(ACR70)と関節損傷抑制効果(mTSS)が有意に優れていた。mTTSは過去の偽薬対照試験で解析がフェールしたが、やはり、半年間の治験で有意差を出すのは難しいのだろう。

もう一つの発表は、米国の承認が遅延しそうであること。審査期限は8月21日だが、FDAの要請に応じて今月上旬に追加分析を提出する予定であり、日程的にタイトになった。

tofacitinibはIL-2などの受容体の細胞内シグナル伝達に係わるJAKを阻害する経口剤で、臨床的な作用・副作用は中外製薬の抗IL-6受容体ヒト化抗体、アクテムラ(tocilizumab)と良く似ている。経口剤としての免疫抑制作用は臓器移植後の拒絶反応を防ぐカルシニューリン阻害剤(プログラフなど)に匹敵し、高量を投与した拒絶反応予防試験では日和見感染症が見られた。リウマチ試験でも癌や深刻な感染症の発生率が偽薬群より高かった模様。

それでも、MTX以外の経口剤を望む声は強く、5月に開催された諮問委員会では10人の委員のうち8人が承認を支持した。欧州や日本でも承認審査中。

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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