2012年8月19日

海外医薬品ニュース週末版 2012年8月19日号




【ニュース・ヘッドライン】



    今週は海外もバケーション・シーズンのようでニュースが少ないですが、最初のトピックはやや心配です。

  • C型肝炎ポリメラーゼ阻害剤がまた部分的治験中断に
  • Ampyraの市販後臨床試験がフェール
  • ネキシウムも欧米などでOTCスイッチへ
  • エランが創薬活動をスピンアウトへ



【新薬開発】


C型肝炎ポリメラーゼ阻害剤がまた部分的治験中断に

(2012年8月16日)

抗ウイルス薬の開発に特化する米国の新興企業、アイデニクス社(Nasdaq: IDIX)は、FDAからIDX184の部分的治験中断(partial clinical hold)を命じられたと発表した。BMS-986094(旧称INX-189)の治験中断に次ぐもので、他のポリメラーゼ阻害剤にも波及するか、注目される。

C型慢性肝炎はウイルスの研究が進み、遺伝子に含まれる増殖に必要な蛋白を阻害する薬の臨床開発が活発化している。NS3/4A部位のプロテアーゼを阻害する薬が複数実用化されたのに続き、NS5Bポリメラーゼ阻害剤、NS5A複製複合体阻害剤などの臨床開発に拍車が掛かり、有望なコンパウンドを持つ新興企業の買収も活発化した。

その中で、NS5Bポリメラーゼ阻害剤の一つであるBMS-986094が、8月5日号で書いたように、第二相段階で治験中断となった。標準療法であるPEG化インターフェロンやribavirinと三剤併用した試験で重篤な心不全が一例発生したことが原因と考えられている。

BMS-986094とIDX184はどちらもグアノシン誘導体のプロドラッグで、活性代謝物が類似している。また、IDX184の第二相三剤併用試験では1割以上の患者で呼吸困難の有害事象が見られた(但し、8例はG1と軽度であり、G3重度は一例だけだった)。FDAが全例の心電図検査を要求したのは、この二つが根拠と推測される。尚、この試験は既にIDX184の投与を完了しており、他の二剤だけを投与するステージに入っている。他の試験でも、IDX184の投与を受けている患者はいなかった。

同社によると、IDX184のin vitro試験ではBMS-986094と異なり心毒性が見られなかった。また、アイデニクスの肝臓標的技術を用いて創製されたので活性代謝物の末梢濃度がBMS-986094の数分の一と低く、安全域を持っている。呼吸困難は併用した二剤の過去の試験でも発生しており、IDX184のせいとは言い切れない(アイデニクスの三剤併用試験では偽薬群が設けられていなかったので二剤併用群と比較することは出来ない)。

尚、アイデニクスとFDAの口頭のやり取りでは容疑がIDX184だけに向けられているのか、NS5Bポリメラーゼ阻害剤全体に及ぶのかは分からないとのことだ。株式市場では、ギリアッドやヴァーテックスなどNS5Bポリメラーゼ阻害剤を開発している他の企業の株価も下落した。

IDX184は以前にも治験中断になったことがある。他の開発品との併用試験で重度肝機能検査値異常が発生したことがきっかけで、結局、その開発品が開発中止になり、IDX184は治験再開が認められた。アイデニクスは治験中断を命じられることが多いような印象があり、新興企業にはありがちなことだが、ステージアップのゴー/ノー・ゴー判定が甘いのかもしれない。

リンク:アイデニクスのプレスリリース

Ampyraの市販後臨床試験がフェール

(2012年8月13日)

アコーダ・セラピュティクス(Nasdaq: ACOR)のdalfampridine徐放錠は多発性硬化症による歩行障害を改善する薬として米国ではAmpyra名で2010年に、EUではFampyra名で2011年に承認されたが、薬効が穏やかで意識喪失を伴う癲癇発作の懸念があることから、FDAもCHMPも当初は承認に前向きではなかった。忍容性を向上するために市販後試験を実施して承認用量(10mg一日二回経口投与)の半量をテストしたが、5mg群だけではなく10mg群もフェールした。

逃げ道は、二次的評価項目や第三相試験と同じ評価方法を用いたポストホック分析では10mg群が偽薬比有意であったことだ。薬効が確認されなかったからといって、承認が取り消されるリスクは小さいだろう。

評価方法によって結果が異なると言うことは、効果が小さいということである。上記のポストホック分析では、25フィート(7.5m)歩く平均速度の改善は10mg群が毎秒0.44フィート、偽薬群は0.30フィート、治療効果は毎秒0.14フィート(4cm)に過ぎない。dalfampridineの薬効が小さいことが再確認されたので、需要は減るだろう。

Ampyraはアイルランドの新興企業であるエランの徐放製剤技術を用いて共同開発したもので、米国ではアコーダが、米国外はバイオジェン・アイデックが販売している。アコーダの2011年の売上高は2.1億ドル、今年の会社予想は2.55-2.75億ドル。

リンク:アコーダ社のプレスリリース

【製薬会社の動き】


ネキシウムも欧米などでOTCスイッチへ

(2012年8月13日)

制酸剤はRx-OTCスイッチが活発で、H2ブロッカーに続いて、アストラゼネカのPrilosec(omeprazole、和名オメプラールなど)などもOTC版が発売され、商業的に成功している。同社は異性体のNexium(perprazole/INN、esomeprazole/USAN、和名ネキシウム)もOTCスイッチすべく、昨年欧州で承認申請、米国でも2013年申請の予定だが、今回、世界独占販売権をファイザーに供与した。

契約頭金は2.5億ドルで、これだけで同社の2012年の予想EPSを2%以上押し上げる、大きなディールだ。

大手製薬会社は新薬特化型が減少し、新興国市場を視野に入れてGE薬事業を強化したり、医療機器や眼科、皮膚科など収益源を多角化する企業が増えている。アストラゼネカは数少ない新薬特化型だが、他社との提携を活発化することで開発リスクを分散したり、今回の事例のように、超大型薬という財産を活用して財務力を強化する取組みを行っている。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

エランが創薬活動をスピンアウトへ

(2012年8月13日)

アイルランドの新興企業、エランはドラッグ・ディスカバリー部門をNeotope Biosciences社としてスピンアウトすることを決めた。同社の事業の三本柱のうち、ドラッグ・デリバリー事業は2011年にAlkermes社に資本の75%を売却しており、今後は、多発性硬化症用薬Tysabri、アルツハイマー病向けなどに開発しているELND005、アルツハイマー病免疫療法分野におけるジョンソン・エンド・ジョンソンとの合弁会社だけが残ることになる。

Tysabriはバイオジェン・アイデックとの共同開発・販売品だ。事業を絞り込めばバイオジェン・アイデックが買収オファーを打ち出しやすくなるので、今回のスピンアウトは秋波を送ったと言えるだろう。

リンク:エランのプレスリリース

今週は以上です。

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