2012年7月29日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月29日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • アルツハイマー病薬の第三相試験:一本目はフェール
  • タルセバの肝細胞癌適応拡大試験がフェール
  • 武田がAMG706の第三相試験に再チャレンジ
  • アルミラルとフォレストが共同開発したCOPD維持療法用薬が米国で承認
  • 高純度EPA製剤が米国で承認
  • 欧州でエーザイの抗癲癇薬とヴァーテックスの膿胞性繊維症用薬が承認
  • FDA諮問委員会が二種類の眼科用薬の承認を支持
  • エビリファイの長期作用性筋注用製剤は承認遅延



【新薬開発】


アルツハイマー病薬の第三相試験:一本目はフェール

(2012年7月23日)

ファイザーはbapineuzumab(通称バピ)の第三相試験四本のうち、ApoE epsilon 4型の遺伝子を持つ患者(以下、キャリア)を対象に北米で実施した試験がフェールしたと発表した。

メディアの論調は「やっぱりアミロイド・ベータ標的薬は駄目」というニュアンスのものが多いが、第二相試験でもApoE型に対する効果は見られなかったのだから結論を急ぐべきではない。ApoEキャリアではない、ノンキャリを組入れた試験の結果が今夏中に出るまで、待つべきだろう。とはいえ、バピは第二相試験の裏付けが不十分なので、成功を期待べきではないだろう。

バピはアイルランドのバイオ企業、エランがワイスと共同開発した、アミロイド・ベータ(1-5)を標的とするヒト化抗体だ。エランは第三相試験ロンチ後に権利をジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)との合弁会社に移管、現在はJNJが開発の主導権を握っている。ワイスはその後、ファイザーが買収した。

アルツハイマー病の患者の脳にはアミロイドの蓄積が見られることから、凝集しやすいアミロイド・ベータの生成が発症の原因と考えるアミロイド仮説が生まれた。若年性アルツハイマー病ではアミロイドベータの生成に係わるセクレターゼの遺伝子の変異がしばしば見られることも理論的な裏付けになった。

一方で、アミロイドベータを除去しても無駄なのではないかという意見もある。エランとワイスはアミロイドベータに対する免疫を誘導するワクチンを開発し第二相試験を行ったことがある。被験者の4%で髄膜脳炎が発生したことから治験中止となったのだが、アルツハイマー病が進行して死亡した被験者の剖検で、アミロイドベータの除去が確認された。アミロイドベータを除去しても病気の進行を抑えることは出来ない可能性を示唆している。

バピの後期第二相試験はフェールしたが、サブセグメント分析でノンキャリには有意な治療効果が見られた。尤も、症例数が少ないためp値はそれほど低くなかった。忍容性面では、用量依存的な血管原性浮腫が見られ、中でも、キャリアの発症率が高かった。この浮腫はMRI画像上に現れる異常で、症状は伴わない模様だ。ファイザーは、ARIA-E(アミロイド関連造影異常-浮腫・浸出)と呼んでいる。

加齢性(老人性)アルツハイマー病の疾病関連遺伝子はあまり見つかっていないが、ApoE epsilon 4型キャリアはノンキャリより発症率が高い。アセチルコリン還元酵素阻害剤やグリタゾンの臨床試験で、片方には効いたがもう片方には効かないという現象が見られたが、真実なのか、騙しなのかは確認されていない。

ARIA-Eとの関連性については、キャリアは元々、脳血管壁にアミロイドベータが蓄積する脳アミロイド血管症が発生しやすいので、薬で除去する時に周辺組織に損傷を与えやすいのではないか、という見解があるようだ。

第三相試験はJNJが北米でキャリアとノンキャリに一本ずつ、ファイザーが海外中心(日本の施設も参加)に同じく一本ずつ、ロンチした。月に一回、点滴静注で0.5mg、1mg、2mgの三種類をテストする予定だったが、2mgは海外の一部の国でARIA-Eを懸念する声があったことから打ち切った。キャリアを組入れた試験は初めから0.5mgしかテストしなかった。

北米キャリア試験がフェールしたことを受けて、ファイザーは海外キャリア試験の中間解析を急ぐ考えだ。もし中間解析で北米キャリア試験と同様に治療効果が無くARIA-Eが発生しているようならば、打ち切りになる公算があるだろう。北米ノンキャリア試験は今夏に結果が出る見込み。イーライリリーのsolanezumab(アミロイドベータの第11-20アミノ酸部位に結合する)はキャリアとノンキャリを区別せずに第三相試験を二本実施したが、ClinicalTrials.govの治験登録を見ると完了と記されているので、間もなく成否が明らかになるだろう。

エランは多発性硬化症の維持療法薬、Tysabri(natalizumab)をバイオジェン・アイデックと共同開発・販売している。バピの開発が失敗し株価が下がれば、バイオジェンが買収に動く可能性もありそうだ。コーポレート・レイダー(企業乗取屋)として有名なアイカーン氏が株式を取得して様々な揺さぶりを掛けているので、バイオジェンとしても株価上昇につながるアクションを取りたいところである。

リンク:ファイザーのプレスリリース

タルセバの肝細胞癌適応拡大試験がフェール

(2012年7月23日)

バイエルとアステラス製薬は、非小細胞性肺癌に承認されているEGFR阻害剤Tarceva(erlotinib、和名タルセバ)とバイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を併用した肝細胞癌第三相試験がフェールしたことを発表した。延命効果はNexavar単剤と変わらなかった。

Tarcevaは元々、OSI社がファイザーと提携して開発していたが、ファイザーが様々なEGFR阻害剤を開発していたワイスを買収したため提携解消となり、新たにロシュ・グループと提携した。アステラスがOSIに非友好的買収オファーを行った時にOSIは買収価格が低すぎると主張したが、その根拠の一つが今回の肝細胞癌適応拡大試験だった。

不思議なのは、今回のフェールについてアステラスと共同でプレスリリースを出したのがロシュではなくバイエルであることだ。ClinicalTrials.govの治験登録によると本試験のスポンサーはバイエルである。当初はNexavarの共同開発会社であるオニクス社やロシュ、ジェネンテック、OSIもコラボレーターとして名を連ねていたが、アステラスがOSIと買収で合意した後に、記載が消えた。どのような事情なのだろうか?

リンク:両社のプレスリリース

武田がAMG706の第三相試験に再チャレンジ

(2012年7月26日)

武田薬品はアムジェンのVEGF受容体阻害剤、AMG706(motesanib diphosphate)を共同開発していたが、第三相の非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療試験はフェールした。ところが、アジア人のサブセグメント分析で効果の兆しが見られたことから、アムジェンからグローバルな独占開発販売権を取得して、日本や香港、韓国、台湾で再び第三相試験に着手した。

フェールした試験は日本を含むグローバル試験で、paclitaxelとcarboplatinの併用療法と、AMG706も投与する三剤併用療法を比較した。当初は扁平上皮腫も組入れたが、中間解析で喀血リスクが見られたため、新規組入れや薬効解析からこのタイプを除外するプロトコル変更を行った上で再開した経緯がある。

結果は、全生存期間がメジアン13ヶ月、二剤併用群は11ヶ月、ハザードレシオ0.9で有意差が無かった。深刻な有害事象の発生率が49%と二剤併用の34%より高かったことも影響したかもしれない。

事前に設定されたアジア患者のサブセグメント分析は、ハザードレシオ0.75、95%信頼区間0.59-0.97というもので、数字は良い。しかし、サンプル数が287例と少なく、95%上限は1に近いので、偶然良い結果が出た可能性もありそうだ。

他のVEGF受容体阻害剤では同じような話は聞かないので、薬物動態的な理由があるのかもしれない。アジア人に有効と考える理由を知りたいものだ。

リンク:武田薬品の和文プレスリリース

【承認申請・承認】


アルミラルとフォレストが共同開発したCOPD維持療法用薬が米国で承認

(2012年7月23日)

米国のフォレスト社(NYSE: FRX)は、スペインのアルミラル(MC: ALM)から導入したTudorza(aclidinium bromide)がCOPDの維持療法用薬としてFDAに承認されたことを発表した。同種の薬では、ベーリンガー・インゲルハイムがファイザーと共同販売しているSpiriva(tiotropium、和名スピリーバ)が大成功している。

一日二回吸入なので一回だけのSpirivaより不便だが、吸入器に30日間分入っているので薬剤を一々詰めなくても良い。効果はSpirivaと大差ないように感じられる。MDIを好む患者には適しているかもしれないが、市場性は明らかではない。両社はベータ2作用剤や吸入用ステロイドとの合剤の開発に期待している模様だ。日本はキョーリンが開発販売権を持っている。

リンク:両社のプレスリリース

高純度EPA製剤が米国で承認

(2012年7月26日)

米国のアマリン(Nasdaq: AMRN)はVascepa(icosapent ethyl)が重度トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として承認されたことを発表した。96%以上の高純度EPA製剤で、GSKのLovazaと異なり、DHAは配合されていない。臨床試験ではTG値が偽薬比33%低下し、Lovazaと異なり、LDL-C値は上昇しなかった。臨床的転帰を改善する効果を確認するアウトカム試験は実施されていない。

アミリンは最適な販売体制を検討した上で、来年第1四半期に発売する予定。販売提携やコントラクト・セールスの起用、そして、会社を売却することも選択肢に含まれている。Lovazaが売れているので買収に手を上げる会社もありそうだ。Vascepaの価値はFDAが新化学物資(NCE)と認めるか否かによって変わってくるので、来月に結果が判明した後に買収交渉が本格化するのではないだろうか。

リンク:アミリンのプレスリリース

欧州でエーザイの抗癲癇薬とヴァーテックスの膿胞性繊維症治療薬が承認

(2012年7月27日)

エーザイはFycompa(perampanel)がEUで部分癲癇の治療薬として承認されたと発表した。AMPA阻害という画期的な作用期序を持つ。複数の抗癲癇薬を併用しても癲癇発作を十分に防げない、難治性患者に追加投与する。米国は10月に承認審査結果が判明する見込み。

リンク:エーザイのプレスリリース

米国のヴァーテックス(Nasdaq: VRTX)もEUでKalydeco(ivacaftor)が承認されたことを発表した。膿胞性繊維症の患者のうち、CFTR遺伝子にG551D多型を持つタイプに用いる。対象人口は米国で1200人、欧州は1000人と推定されている。先に米国で承認・発売されたが、患者が少ない分、価格が年29万ドルと高い。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

FDA諮問委員会が二種類の眼科用薬の承認を支持

(2012年7月26日、27日)

ロシュ・グループのジェネンテックは、7月26日に開催されたFDA諮問委員会で、Lucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)を糖尿病性黄班浮腫(DME)の治療に用いる適応拡大が支持されたことを発表した。既に浸出性加齢性黄班変性などに承認されているが、DMEの治療を受ける患者は米国だけで19万人と多いので、承認されれば売上拡大が見込まれる。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

スロンボジェニクス(Euronext Brussels: THR)は、症候性硝子体黄班癒着(VMA)の治療薬として承認申請したocriplasminが7月27日に開催されたFDA諮問委員会で支持されたことを発表した。VMAは硝子体内のゲルが黄班と癒着、穴(黄班孔)が開くこともある。患者数は推定50万人とのことだ。

ocriplasminは遺伝子組換え型ヒト・プラスミン。第三相試験では硝子体内に一回注射して28日後に治療効果を判定したところ、一本の試験は消散成功率27%、もう一本は25%で、注射する振りをして空気だけを吹き付けたシャム群の各13%と6%を有意に上回った。

米国外の開発販売権は、ノバルティス・グループのアルコンが持っている。

リンク:スロンボジェニクスのプレスリリース(pdfファイル)

エビリファイの長期作用性筋注用製剤は承認遅延

(2012年7月26日)

大塚製薬とルンドベックはFDAにAbilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の持効性筋注用新製剤を承認申請していたが、審査完了通知を受領した。この製剤は無菌凍結乾燥製剤を用時懸濁するが、溶解用注射用水の製造委託先で不備が指摘されたとのこと。他の指摘は無かったので、早晩、承認に漕ぎ着けそうだ。

Abilifyなどの非定型向精神薬は旧世代の薬と比べて忍容性がやや優れ、陰性症状に対する効果も持つ。薬を飲みたがらない患者に使う即効性あるいは持効性の注射用薬がラインアップされていないことが弱点だったが、後者については解消されつつある。市場性は経口剤より小さいが、Abilifyは数年後にGE化する見込みなので、ある程度のバッファーになるだろう。欧米でルンドベックと共同開発している。

リンク:両社のプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿