2012年7月1日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田薬品の経口プロテアソーム阻害剤が第三相入り
  • ギリアッドが二種類の抗HIV薬を承認申請
  • アステラス製薬がMDV3100を、ジョンソン・エンド・ジョンソンがcanagliflozinを、EUで承認申請
  • バイエルのregorafenibが優先審査指定
  • アリーナ/エーザイの体重管理薬が遂に承認された
  • アステラス製薬のベタニスが米国でも承認
  • AMAG/武田の静注用鉄製剤がEUで承認
  • FDAはapixabanの承認も見送り
  • BMSがアミリンと買収で合意、アストラゼネカも相乗り
  • SU剤は死亡リスクを高める?
  • ゾフランの用量変更

【新薬開発】


武田薬品の経口プロテアソーム阻害剤が第三相入り
(2012年6月29日)

武田薬品が買収したミレニアム・ファーマシューティカルズは、プロテアソーム阻害剤Velcade(bortezomib)を多発骨髄腫の標準療法の一つに育てたことで有名だ。Velcadeは点滴用だが、先日、皮注用薬も承認された。第三弾が経口プロテアソーム阻害剤のMLN9708(ixazomib)で、第三相入りしたことが発表された。

ClinicalTrials.govの治験登録によると、再発性・難治性の多発骨髄腫で一次から三次までの治療歴を持つ患者を、Revlimid(lenalidomide、和名レブリミド)と低量dexamethasoneを併用する群と更にMLN9708を三剤併用する群に無作為化割付し、二重盲検で無増悪生存期間を比較する。MLN9708は28日サイクルで第1、8、15日に経口投与する。2014年6月に解析のためのデータ収集を行う予定。

組入れ・除外条件で特徴的なのは全員にアスピリン(325mg)を投与すること。Revlimidは血栓リスクがあるのでアスピリンで予防する手法が広く採用されているが、MLN9708も血栓リスクがありそうだ。一方で、血小板減少症も見られるので、痛し痒しである。薬物相互作用関連ではCYP1A2強阻害作用やCYP3A強阻害・誘導作用を持つ薬の同時使用が禁じられている。

リンク:ミレニアム社のプレスリリース

リンク:武田薬品のプレスリリース(和文)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録

【承認申請・承認】



ギリアッドが二種類の抗HIV薬を承認申請
(2012年6月27日、28日)

抗HIV薬で世界一の売上高を誇る米国のギリアッド社(Nasdaq: GILD)は、日本たばこからライセンスしたインテグレーズ阻害剤elvitegravirと、3A4インヒビターcobicistatを、夫々27日と28日に米国で承認申請した。この二つの活性成分は昨年10月に承認申請された四剤コンビ薬、Quadの配合成分でもあるが、単剤が承認されれば他の薬と組み合わせることが可能になる。

インテグレーズ阻害剤の第一号はMSDが米国で07年に発売したIsentress(raltegravir)だ。elvitegravirは抗HIV作用、交叉耐性、忍容性の何れも大差ないが、3A4インヒビターを併用すると代謝が遅れ作用が長持ちするので服用回数が一日一回ですむ(Isentressは二回)。一方、cobicistatは、現在はアボットのritonavirが独占している3A4インヒビター市場に参入する。ritonavirは特許切れが近いので、ギリアッドはジョンソン・エンド・ジョンソンやBMSと提携して、夫々の会社の薬とのコンビ薬で差別化を図る構え。

リンク:ギリアッドのプレスリリース(elvitegravir)

リンク:同 (cobicistat)

アステラス製薬がMDV3100を、ジョンソン・エンド・ジョンソンがcanagliflozinを、EUで承認申請
(2012年6月26日)

米国のメディベーション(Nasdaq; MDVN)とアステラス製薬は、アステラスが欧州でMDV3100(enzalutamide)を転移性去勢抵抗性前立腺癌の二次化学療法として承認申請したことを発表した。同薬は経口アンドロゲン受容体阻害剤でホルモン療法薬と似ているが、受容体のシグナル伝達を多様に阻害するためか、ホルモン療法に反応しない(去勢抵抗性)患者にも効果がある。

同日に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがSGLT2阻害剤canagliflozinをEUで二型糖尿病治療薬として承認申請したことを発表した。同種の薬ではBMS/アストラゼネカのdapagliflozinが4月にEUのCHMPから肯定的評価を受けており、canagliflozinは第二号となる見込み。

両薬とも、米国では5月に承認申請されている。

リンク:メディベーション/アステラス製薬のプレスリリース

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

バイエルのregorafenibが優先審査指定
(2012年6月28日)

バイエルが米国で転移性結腸癌用薬として承認申請したVEGF受容体拮抗剤、regorafenibが優先審査指定された。順調なら10月にも承認されることになる。

リンク:バイエルのプレスリリース

アリーナ/エーザイの体重管理薬が遂に承認された
(2012年6月27日)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ARNA)とエーザイは、体重管理薬Belviq(lorcaserin Hydrochloride)がFDAに承認されたことを発表した。FDAや麻薬管理局の依存性審査・スケジュール指定を受けた後に発売する予定。米国の体重管理薬市場は熱しやすく冷めやすいので、ロシュが13年前にXenical(orlistat)を発売した時と同様に、初めは売れるだろうが直ぐに天井に達するだろう。承認審査中の他社の薬のほうが効果が高いので、こちらの審査結果も注目される。

一日一回、経口投与した2年間の臨床試験では、一年目に体重が平均で約9kg低下した(偽薬群は4kg)。二年目は3kgのリバウンドが見られたが、偽薬群でも1kgのリバウンドがあり、二年目に偽薬にスイッチした群は5kgリバウンドしたので、服用を続けたほうがよさそうだ。最初の12週間で体重が5%以上低下しなかった患者は続けても意味のある減量は期待できないので中止する。主な有害事象は頭痛、めまい、疲労、悪心、ドライマウス、便秘などで、糖尿病患者では低血糖も見られた。

ダイエット薬は過去に副作用渦が数多く発生しており、90年代にはfenfluramineが心弁変形や肺高血圧症の懸念から米国で販売中止になった。近年も、09年にsibutramineが心血管アウトカム試験で懸念が浮上したため欧州で承認取消、米国でも禁忌強化となった。

Belviqはメーカー側が大規模な第三相試験を行って心臓安全性を検証したが、FDAや諮問委員会が慎重であったために、申請から承認まで2年半かかった。脳のセロトニン受容体である5-HT2cを作動して食欲を抑制する作用機序だが、選択性が低いとはいえもし5-HT2b受容体も作動するとfenfluramineと同じような有害事象が発生する恐れがあるからだ。

今回の承認は、副作用懸念の小さい薬の開発に情熱を燃やしたメーカー側と、それを後押しする一方で承認審査に関しては妥協しなかった承認審査機関の努力の結晶と言えるだろう。尚、麻薬指定されている薬はモルヒネ系鎮痛剤を初めとして少なくなく、Belviqと同じ中枢神経系の体重管理薬や睡眠薬も麻薬指定されている。スケジュールIVなら規制が緩く、過去には世界年商が10億ドルを超えた薬もある。

ところで、sibutramineは日本では09年に第一部会を通過したため、私は、心血管アウトカム試験の結果がもうすぐ発表されることを知らないのだろうかと危ぶんだ。薬事分科会で継続審議となったためギリギリ助かったが、もし順調に承認されていたら、発売直後に医師や患者が副作用渦に巻き込まれるところだった。ドラッグラグの解消は重要だが、路面状態が悪い時までスピードを出すのは禁物である。

リンク:FDAのリリース

リンク:アリーナとエーザイのプレスリリース(英文)

リンク:アリーナとエーザイのプレスリリース(和文)

アステラス製薬のベタニスが米国でも承認
(2012年6月28日)

アステラス製薬といえば排尿障害治療薬の世界的なベストセラーとなったtamsulosinや、過活動膀胱治療薬solifenacin(和名ベシケア)をラインアップする泌尿器科の雄だ。新規作用機序を持つmirabegronの開発にも成功、日本で2011年9月にベタニスとして発売した。海外は承認審査機関が心臓安全性などの確認を求めたため承認申請が遅れたが、遂に米国でMyrbetriqという製品名で承認された。

一日一回服用の経口剤で、用量は25mgで開始、50mgまで増量可。第三相試験では100mgも試験したが、承認されていない。主な有害事象は鼻咽頭炎、便秘、疲労、頻脈、腹痛など。管理不良の重度高血圧症や末期腎臓疾患、重度の肝機能障害を持つ患者には用いるべきではない。

過活動膀胱は排尿切迫感や失禁を伴う高齢女性には珍しくない疾患で、米国の患者数は3300万人と推定されている。骨盤底筋体操などが第一選択。薬物療法の効果はそれほど大きくないので、作用機序の異なる薬の併用が注目される。tamsulosinで排尿を改善し膀胱を空にして、solifenacinで不随意な膀胱収縮を抑え、mirabegronで膀胱の貯尿能力を高めれば、シナジーを生めるかもしれない。

リンク:FDAのリリース

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

AMAG/武田の静注用鉄製剤がEUで承認
(2012年6月22日)

米国のAMAG Pharmaceuticalsと武田薬品は、前者が開発した鉄欠乏性貧血治療薬Rienso(ferumoxytol、米国名Feraheme)がEUで承認されたことを発表した。慢性腎疾患の患者は貧血症を合併しやすいが、鉄欠乏が原因である場合は鉄を補充し、そうでない場合はエリスロポイエチンを用いる。

リンク:AMAGのプレスリリース

FDAはapixabanの承認も見送り
(2012年6月25日)

Xa阻害剤Eliquis(apixaban)を共同開発しているBMSとファイザーは、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。非弁膜性心房細動の患者の脳卒中リスクを削減する用途で承認申請し、優先審査指定を受けたが、審査期間が延長された挙句に承認見送りという失望的な結果になった。第三相試験のデータの管理・検証に関する情報が不十分と見做された模様だ。

FDAの心血管疾患チームのリーダーは、グローバル大規模アウトカム試験の実施方法に不満を持っている様子であり、これまでも様々な新薬についてエビデンスの欠陥を指摘している。主評価項目該当例の報告漏れ、追跡打切り例の多さ、などである。標準医療が進歩した結果、小さな治療効果しか生めない新薬が増えたため、治験を厳格、正確に行って誤差を小さくしなければならないという問題意識だ。

Xa阻害剤ではジョンソン・エンド・ジョンソンがバイエルから導入して承認申請したrivaroxabanも承認見送りとなった。

こういう事は後から言われてもどうにもならない。多くは研究者主導試験なので、FDAのメッセージが治験実施委員会に伝わるとは限らない。産学官のワークショップを開催してコンセンサスを作ることが望まれる。

リンク:BMSとファイザーのプレスリリース

【製薬会社の動き】


BMSがアミリンと買収で合意、アストラゼネカも相乗り
(2012年6月29日)

米国の糖尿病薬メーカーであるアミリンは、BMSから買収オファーを受けたが断ったと3月に報じられて株価が急反発した。水面下で誰がどのような交渉を進めているのか注目されていたが、結局、BMSが糖尿病領域で提携関係にあるアストラゼネカと手を組んで買収することで三社合意した。

買収価格は一株当り31ドル、総額では53億ドルで、日本で言えば塩野義製薬や協和発酵キリンの時価総額に匹敵する。アミリンの負債やかってのパートナーであるイーライリリーに払うべき契約上の債務を含めると70億ドルに達する。

株価が下落した新興企業の買収価格は、過去の最高値から最安値の下落幅の半値戻しで決着することが多いが、アミリンはその水準(28ドル)を1割上回った。因みに、アミリンは、これまでに数々の企業の株式を取得し高値で身売りさせることに成功したアイカーン氏の投資先の一つである。

同社は膵臓のベータ細胞が分泌するアミリンというホルモンに注目し、2005年に合成アミリン製剤のSymlinを一型、二型糖尿病の治療薬として米国で発売。同年には、小腸ホルモンのGLP-1に類似した化合物も二型糖尿病薬Byetta(exenatide、和名バイエッタ)として発売した。

Byettaはインスリンの分泌を刺激するが血糖値依存的に作用するので低血糖症リスクが比較的小さい。一部の患者で大きな体重減少が見られることと合わせて、インスリンとは対照的である。このため、管理不良でインスリンなどの追加投与が必要な患者の選択肢の一つとなった。一日二回皮注であることが難点だったが、2011年から12年に掛けて欧米で週一回皮注用製剤のBydureonが承認され、展望が開けた。

同社はByettaとBydureonの開発販売でイーライリリーと提携していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと糖尿病領域で広範な提携を結んだことを契機に、米国は2011年11月、海外は2013年末までに提携解消することが決まった。このため、BMS/アストラゼネカはアミリン製品の利益を他社とシェアする必要がなくなる。

BMSがアミリンを買収した後、アストラゼネカが34億ドルを払ってアミリン事業に参加、利益を折半する。額から判断するとBMSが主導権を握るのだろうが、1.35億ドル払えば戦略的・財務的な決定権を対等に引き上げることができる。

アストラゼネカはアベンティスからスピンアウトしたNovexelを09年に買収したことがあるが、米国のフォレストが買収額の半分に当る額を払い、二社のパイプラインやテリトリーを山分けするような格好になった。今回は二度目の相乗りだ。新薬の開発費用や承認のハードルが上がったのは糖尿病薬や抗生剤だけではない。買収費用や新薬開発費用が膨らんで利益を圧縮するのを防ぎ、開発リスクを他社とシェアする手段として、今後も相乗りが増えるだろう。

リンク:BMS、アミリン、アストラゼネカのプレスリリース

【医薬品の安全性】


SU剤は死亡リスクを高める?
(2012年6月24日)

SU剤はかっては二型糖尿病の第一選択薬、今でも第二選択薬として広く用いられているが、心血管疾患のリスクを高めるのではないかという懸念が繰り返し浮上している。MedPage Todayによると、ENDO2012(内分泌学の学会)で、また、リスクを示唆する疫学試験の結果が発表された。

米国オハイオ州の研究者が行った後顧的コフォート研究で、1998年10月24日から2006年10月12日までの期間にSU剤またはmetforminの服用を開始した23,915人の電子医療記録を分析したところ、全原因死亡のハザードレシオがglipizide服用患者は1.64、glyburideは1.59、glimeprideは1.68と何れもmetforminより有意に高かった。冠動脈疾患歴を持つ2,721人ではglipizide(1.38)とglyburide(1.41)だけが有意に高かった。

疫学試験の弱点は、患者背景の違いが生じてしまうことだ。この試験はモノセラピーの患者だけを対象にしたが、SU剤とmetforminは禁忌が異なるので、患者背景が違っていても不思議はない。疫学試験では様々な手法を用いて違いを「修正」するが、それが正しいという保証はない。この試験も注意が必要だが、それにしても、ハザードリスクの高さは気にかかる。

SU剤の米国のレーベルには、UGDP試験で心血管疾患死のリスクが食事療法だけの群や食事療法とインスリン治療だけの群より高かったことが記されている。その後に行われたUKPDS試験やADVANCE試験ではリスクが見られなかったが、UKPDSは早期段階の患者が対象で、また、今日の試験と比べて症例数が少ないため、検出できなかったのかもしれない。

また、ADVANCE試験はSU剤を用いて集中的血糖治療を施行した群でも平均HbA1c値の低下スピードが穏やかだった。一気に治療目標を達成したというよりは患者の様子を見ながら時間を掛けて少しずつ引き下げた印象である。SU剤に心血管疾患リスクがあるとしたら低血糖が原因ではないかと言われているが、もしそうならば、ADVANCE方式のほうが治療目標達成に向けて邁進する治療ガイドラインお勧めの方法よりも好ましいのかもしれない。

それにしても、UGDP試験の論文が医学誌に刊行されてから40年以上経つのに、未だに結論が出ていないのは残念である。

リンク:MedPage Todayの記事

ゾフランの用法変更

FDAは、Zofran(ondansetron、和名ゾフラン)の初回推奨投与量を引き下げることを発表した。開発者であるグラクソ・スミスクラインがレーベルを変更する。徹底QT延長試験で懸念が確認されたことが背景のようだ。

抗癌剤は吐き気を伴うものが少なくない。重い悪心嘔吐を誘導する薬を用いる場合は、Zofranのような5-HT3受容体拮抗剤を用いて予防・緩和する。Zofranの場合、初回は抗癌剤投与前に32mgを一回、又は、患者の体重に0.15mgを掛けた量を投与前と投与後に三回、点滴静注する二種類の用量・用法が承認されていた。

ところが、徹底QT試験で8mgから32mgまでの量を試験したところ、32mg群はQTcが平均20ミリ秒増加した。8mgも平均6ミリ秒増加した。心電図上の不整脈であるQT延長は心室不整脈、そして突然死と関連しており、20ミリ秒以上延びる薬は懸念が大きい。このため、32mgを一回投与する用法は撤回し、0.15mg/kgを三回投与する場合も一度に16mgを超えて投与すべきではない、という警告が追加された。

尚、日本では一回4mg、一日二回までしか承認されていない。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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