2012年7月15日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月15日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • バイエルが長期作用性第VIII因子の第三相出血予防試験を開始。
  • カテプシンK阻害剤の大規模第三相試験が中間解析で成功
  • セルジーンのPDE-4阻害剤は最初の第三相試験が成功
  • 第三のインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功
  • GSK/HGSのGLP-1作用剤の第三相試験が成功裏に完了
  • mGlu2/3受容体作動剤の最初の承認申請用試験がフェール
  • Halavenの転移性乳癌二次治療試験がフェール
  • GSKがテラバンスと共同開発したICS/LABAコンビ薬を承認申請
  • HGSが肺炭疽治療薬を再承認申請
  • GSKがタイケルブの適応拡大申請を米国で撤回
  • ヴォリブリスは特発性肺線維症には逆効果

【新薬開発】


バイエルが長期作用性第VIII因子の第三相出血予防試験を開始

(2012年7月8日)

血液凝固に係わる因子は臨床開発が活発だ。初の遺伝子組換え品や、作用を長期化して投与頻度を減らしたものなどだ。バイエルは、ポリエチレン・グリコールを結合して半減期を伸ばした長期作用性第VIII因子BAY94-9027の第三相試験入りを発表した。頻繁に出血するA型血友病患者を組入れて、出血時だけ治療する用法と、ルーチンに投与する予防用法を試験する。

同社のKogenateを用いて予防する場合は二日に一回、点滴するが、BAY94-9027の試験は最初の10週間は週二回点滴し、管理が良好な患者は5日毎投与群と7日毎投与群に無作為化割付して更に26週間試験する。

リンク:バイエルのプレスリリース

カテプシンK阻害剤の大規模第三相試験が中間解析で成功

(2012年7月11日)

MSD(米国メルク)は、MK-822(odanacatib)の骨粗鬆症性骨損壊予防試験が中間解析で成功したと発表した。安全性などを引き続き観察して、2013年上期に米欧日で承認申請する予定。

MK-822は、破骨細胞に多く分布するコラーゲン/ゼラチン分解酵素、カテプシンKを阻害して、骨吸収(カルシウムが血液中に移行する)を抑制する。骨粗鬆症の代表的な治療薬であるビスフォスフォン酸と異なり、骨吸収に係わる代理マーカーは低下するが骨形成代理マーカーには影響しない。骨の新陳代謝を妨げるのではなく、骨塩の減少だけを妨げるというイメージだ。

今回の試験は16000人以上の骨粗鬆症性骨折高リスク患者を。MK-822を週一回、経口投与する群と偽薬群に無作為化割付して、股関節骨折リスクを比較したもの。237例に達した段階で最終解析、その70%に到達した段階で中間薬効解析を行うプロトコルだったが、データ監視委員会が中間解析の薬効や有害事象プロファイルに基づいて治験成功を認定、打切りを勧告した。

この試験は両群ともカルシウムとビタミンDを投与したので単純な偽薬対照試験ではなく、過去のビスフォスフォン酸の試験と類似したデザインだが、ビスフォスフォン酸が普及した今日では、長期大規模な偽薬対照試験を行うことに批判もある。この試験は股関節骨折という発生率の低いイベントを主評価項目にしたので、沢山の患者を組入れざるを得なかった面もある。中間解析で打ち切られたのは、倫理面の配慮が影響した可能性もあるだろう。

安全性に係わる幾つかの点に関しては引き続きフォローアップするとのことだ。何が問題なのかは分からないが、考えられるのは、皮膚毒性、臓器影響、ホルモン影響だ。皮膚毒性は過去の治験でラッシュが見られた。これが理由で開発中止になった他社開発品もあるので、程度の差はあれ、クラス・イフェクトなのだろう。

カテプシンKは上皮細胞やマクロファージ(アテローム部位のマクロファージも含む)でも多く発現している模様なので、癌や心血管疾患が増えないか、長期間観察する必要がありそうだ。そう言えば、MK-822の前立腺癌・乳癌骨転移予防第三相試験は、治験登録後の早い段階で中止された。また、日本の試験で副甲状腺ホルモンの著増が見られた。

リンク:MSDのプレスリリース

セルジーンのPDE-4阻害剤は最初の第三相試験が成功

(2012年7月12日)

米国の新興製薬会社セルジーン(Nasdaq: CELG)は、経口PDE-4阻害剤CC-10004(apremilast)の一本目の第三相試験が成功したと発表した。乾癬性関節炎の患者に二種類の用量をテストしたところ、何れも症状スコアが有意に改善した。二本目の結果は第3四半期(7-9月)に判明する見込み。成功なら、2013年上期に米国で承認申請する予定。

乾癬でも第三相試験中で、年末から結果が出始め、好首尾なら2013年下期に承認申請する予定。欧州はこの段階で二つの適応症に申請する予定。更に、強直性脊椎炎も第三相試験中だ。

セルジーンは多発骨髄腫治療薬Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)など血液癌領域の薬で有名だが、もうそろそろ、売上に天井が見え始めた。CC-10004の三用途はバイオ薬が多く競合が激しいが、市場自体は大きく、経口剤の強みもあるので、成長の次の原動力として有望だ。

リンク:セルジーンのプレスリリース

第三のインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功

(2012年7月11日)

GSKとファイザーのHIV/AIDS治療薬合弁会社であるViiVと塩野義製薬の合弁会社、Shionogi-ViiV Healthcare LLCは、S/GSK1349572(dolutegravir、塩野義の開発コードS-349572)のHIV/AIDS治療第三相試験の成功を発表した。

抗ウイルス治療を初めて受ける患者に核酸系逆転写阻害剤二剤と併用したところ、非核酸系逆転写阻害剤と核酸系逆転写阻害剤二剤のコンビ薬であるギリアッド社のAtriplaと比べて、治療成功率が非劣性だった(88%対81%)。プロトコルに従ってシーケンシャルに優越性解析を行ったところ、有意な差があった。有害事象による治験離脱率が2%対10%で少なかったことが寄与した。

もう一本のナイーブ(初治療)試験ではMSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)と非劣性だった。一日二回ではなく一回の服用で済むので、利便性の点だけ上回ることになる。治療経験者の試験も二本進行中で、年内に結果が判明する見込み。

インテグラーゼ阻害剤はHIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられる過程を阻害する。他の抗HIV薬と比べて忍容性が優れることが長所だ。メカニズムが新しいので抵抗性ウイルスに感染している患者は少ないはずだ。dolutegravirはin vitroでraltegravir抵抗性ウイルスの多くに活性を示したことも注目される。尚、第二のインテグラーゼ阻害剤はギリアッドが日本たばこから導入して開発し米国などで承認申請した、elvitegravirだ。

リンク:Shionogi-ViiV Healthcareのプレスリリース

GSK/HGSのGLP-1作用剤の第三相試験が成功裏に完了

(2012年7月11日)

グラクソ・スミスクラインは、アルブミン融合rhGLP-1作用剤albiglutideの第三相試験が完了したと発表した。その一本である腎機能低下のある患者を組入れた試験でHbA1cがDPP-4阻害剤(MSDのJanuvia)より統計学的に有意に低下したことも明らかにされた。更に、心血管メタアナリシスもFDAの要件を充足した模様。CMC(化学、製造、管理)に関する承認申請書類の完成を待って2013年初めに承認申請する予定。

GLP-1は小腸ホルモンで、血糖値に応じてインスリン分泌を刺激し、グルコースの前駆体であるグルカゴンの異常分泌を抑制し、食物が胃から腸に移行するのを遅らせ、食欲を抑制するなど多彩な作用を持つ。天然のGLP-1はDPP-4によって直ぐに分解されてしまうので、薬として使うには工夫が必要だ。

アミリンのByettaやサノフィのlixisenatideはアメリカ毒トカゲの唾液から発見された成分の類縁体を化学合成したもの。ノボ ノルディスクのVictozaやGSKのalbiglutideはヒトGLP-1遺伝子を組替えてDPP-4結合部位を置換し、更に、Victozaは脂肪酸を結合することによってアルブミン結合能を高め、albiglutideはアルブミン自体を融合して、長期間体内に留まるようにした。アミリンのBydureonやサノフィのlixisenatideと同様に、週一回、皮注する。

Januvia対照試験は薬効が有意に優れていたが、差はそれほど大きくない。むしろ、GLP-1作用剤の弱点である悪心や嘔吐がそれほど増えなかったことに注目すべきだろう。Victoza対照優越性試験がフェールしたことから、GLP-1作用剤としての効果は先行品と大差なさそうだ。

albiglutideはヒューマン・ジノム・サイエンス(Nasdaq: HGSI)社がアルブミン融合技術を用いて開発したもの。同じ技術で開発されたアルブミン融合アルファ・インターフェロンは第三相試験で肺毒性が発覚し、開発中止になった。

GSKはHGSIと長い付合いがあり、全身性エリトマトーデス治療薬Benlystaを共同開発、2011年に発売に漕ぎ着けた。HGSはGSKの買収オファーを断ったが、HGSのパイプラインは決して多くないのでホワイト・ナイトが現れる可能性は低く、最終的には友好的買収が成立するのではないだろうか。

リンク:GSKのプレスリリース

mGlu2/3受容体作動剤の最初の承認申請用試験がフェール

(2012年7月11日)

イーライリリーは、mGlu2/3受容体作動剤LY2140023(pomaglumetad methionil)の最初の承認申請用試験がフェールしたことを明らかにした。統合失調症急性期の患者に40mgまたは80mgを一日二回投与した第二相試験で、症状スコアの改善が偽薬比有意ではなかった。risperidoneを投与した群は有意に改善したので、試験がフェールしたのではなく試験薬がフェールしたと考えざるを得ない。

当初の計画では第二相試験と第三相試験のデータに基づいて承認申請する計画だったようだが、今回のフェールを受けて、第三相試験の中間解析を行うことを決めた。もし効果が見られない場合、少なくとも単剤投与の開発は中止するのではないか。アジャンクト用途(既存の薬に追加する)の第二相試験も行われているので、直ぐには開発中止にならないだろう。

mGlu2/3作動剤はグルタミン酸の受容体を作動する新しい作用機序を持つ。ドーパミンやセレトニンの受容体に作用する既存の向精神薬とメカニズムが異なるため、十分に反応・忍容しない患者に追加・スイッチできるかもしれない。過去の第二相試験では効果が見劣りしたので、単剤投与よりも併用のほうが向いているかもしれない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース 

Halavenの転移性乳癌二次治療試験がフェール

(2012年7月9日)

エーザイのHalaven (eribulin mesylate)は、米国で2010年に、日欧でも2011年に、転移性乳癌の三次治療薬として承認・発売された。臨床試験では、治験医が選んだ他の抗癌剤と比べて生存期間が有意に長かった。二次治療試験も行われたが、今回、フェールしたことが公表された。尤も、エーザイは承認取得を諦めてはいない様子だ。

この二次治療試験は、転移性乳癌でアントラサイクリンとタクサン系抗癌剤による治療を既に受け、最後の薬に反応しなかった患者を、Halaven群とcapecitabine(ロシュ/中外製薬のゼローダ)群に無作為化割付して、全生存期間及び無増悪生存期間を比較したもの。capecitabineはレーベル通りの用量が採用されたが、一般的には、もっと少ないほうが良いと言われている。

全生存期間も無増悪生存期間も事前に設定したハードルをクリアできなかった。前者はHalavenが上回るトレンドが見られたが、後者は差が無かった。エーザイは、副次的評価項目やサブグループの解析を進めた上で、承認申請の可能性について承認審査機関と相談する考えだ。

二つの主評価項目が設定された試験は、多重性を回避するために、アルファを分けるか、順位を設けるかする必要がある。前者は、例えば、全生存期間の解析のp値の要求水準を0.039にして無増悪生存期間は0.011とする。結果が0.04であった場合はフェールとなる。後者は、全生存期間の解析が成功した場合だけ無増悪生存期間の解析に進む。全生存解析がフェールしたら、無増悪生存解析が成功しても成功とは呼べない。

プレスリリースの書き振りからすると、おそらく、Halavenの試験はアルファを分ける方法が採用され、p値はそれより高かったが、通常の有意性判定基準である0.05は下回ったのではないだろうか。

承認審査上の問題は、優越性の解析はフェールしたが延命効果のトレンドがあったことをもって、capecitabineと同程度の効果があると認定することが出来るかどうかだ。通常、非劣性試験は優越性試験よりも厳格に計画、実施する必要があり、今回の試験で非劣性解析が成功したとしても、効果を認定することは出来ないだろう。

承認審査機関は、今回の試験のデータ(ハザードレシオやp値、サブセグメント分析)や三次治療試験の成績を総合的に考えて、承認に値するかどうかを判断することになるだろう。日米欧の三極で見解が分かれる可能性がある。私の予想は、日本は承認、欧州は非承認、米国は諮問委員会で過半数が支持もFDAは承認せず、というシナリオだ。

リンク:エーザイの英文プレスリリース

エーザイの和文プレスリリース

【承認申請・承認】


GSKがテラバンスと共同開発したICS/LABAコンビ薬を承認申請

(2012年7月13日)

グラクソ・スミスクラインは、米国の新興企業であるテラバンス(Nasdaq: THRX)と共同開発したコンビ薬をCOPD/喘息症向けに欧米で承認申請した。吸入用ステロイド(ICS)のfluticasone furoateと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)vilanterolを配合しており、GSKのAdvair(和名アドエア)の次世代品という位置付けだ。

Advairとの違いは、LABAは新規活性成分、ICSは新しい塩が用いられていること。第二は、一日二回ではなく一回吸入するだけで足りること。第三に、Elliptaという名の新しいドライ・パウダー・インヘイラーを用いていること。薬効は大差なさそうだ。喘息症の用量は100/25mcgと200/25mcgの二種類、COPDは100/25mcgのみ。

申請内容はEUと米国で異なる。EUはRelvarという製品名で喘息症とCOPDの両方に申請した。COPDに関しては増悪歴を持つ一秒量が予測値の70%未満の患者の症状を治療する薬という位置付けだ。米国はBreo名で、COPDだけに、慢性気管支炎や肺気腫のような気道閉塞を伴うCOPD患者の増悪を削減するための長期維持療法として申請した。

米国で喘息症の承認申請が遅れたのは、FDAがLABAの安全性に懸念を持っているからだろう。COPDの適応・効能が若干違うのは、疾患や治療の意義に関する認識が違うからだろうが、治験成績に対する評価が異なるのかもしれない。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース 

HGSが肺炭疽治療薬を再承認申請

(2012年7月10日)

HGSは炭疽菌の抗原に結合する抗体医薬ABthrax(raxibacumab)を開発し、米国政府の戦略的国家備蓄向けに納入しているが、FDAの承認は未だ取っていない。2009年の審査完了通知に対する回答を提出したところ、FDAがほぼ完全な回答として受理し、12月15日を審査期限と定めた。

肺炭疽は症例数が少なく、致死性も高いため、臨床試験を行うのは困難だ。FDAはヒト以外の霊長類の試験を薬効のエビデンスにすることを認めており、これまでにフルオロキノロン系の抗生物質が承認された。ABthraxの標的であるBAPAは炭疽菌が放出する毒素の一つで、受容体に結合して他の毒素の侵入を手助けする。前臨床試験の成績は素晴らしく、感染・発症や感染後の死亡率を大きく改善した。

国家備蓄があれば戦争中の軍人やテロにあった民間人を救うことができるが、正式に承認されれば化学兵器と無関係な感染の治療を行うことも出来るようになる。

リンク:HGS社のプレスリリース

GSKがタイケルブの適応拡大申請を米国で撤回

(2012年7月12日)

Tykerb(lapatinib、和名タイケルブ)はher2陽性転移性乳癌の一部に承認されている。今年2月に、同じher2標的薬であるロシュのHerceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)による前治療を受けた患者に両剤を併用する用法が欧米で承認申請されたが、米国は撤回となった。FDAの質問事項に回答できないため、他の試験の結果が出るまで待つ。

詳細は明らかではないが、治験のデザインが適応と一致していないのかもしれない。承認申請時のリリースによると、EUの適応はHerceptin前治療に進行した抵抗性患者だが、米国は単にHerceptin前治療を受けた患者となっている。おそらく、FDAは前治療時の進行判定の信憑性を問うて、抵抗性患者と断定することを認めなかったのだろう。例えば、Herceptinとタクサン系の抗癌剤の併用に反応しなかったようなケースである。

また、この用途用法を試験した臨床試験の一つでは、併用をTykerb単剤と比較していた。これではTykerbではなくHerceptinの適応拡大試験である。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ヴォリブリスは特発性肺線維症には逆効果

(2012年7月9日)

選択的エンドテリンA阻害剤のLetairis(ambrisentan、和名ヴォリブリス)は肺動脈性肺高血圧症の治療薬で、ギリアッド(Nasdaq: GILD)が開発し、米国以外の一部の国ではGSKが販売している。特発性肺線維症の適応拡大アウトカム試験が実施されたが、意外なことに、進行・死亡した患者が27%と偽薬群の17%を上回ったことから打ち切りになった。肺機能低下も見られたので、大きな失敗だ。

難病の治療では、他の用途に承認されている薬を流用することがしばしばある。Letairisもオフレーベル使用されていた模様であり、今回、カナダの厚生省が注意喚起した。GSKがドクターレターを発出した由である。

リンク:ヘルスカナダの注意喚起

今週は以上です。

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