2012年6月3日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月3日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • ASCO:BMS/小野のPD-1標的薬が複数の癌に有望な成果
  • ASCO:Zytigaの一次治療試験が成功
  • ASCO:ロシュのT-DM1は転移性乳癌の二次治療として有望
  • ASCO:アバスチンは何度でも使える?
  • SGLT2阻害剤が米国で承認申請
  • エグゼリキシスが甲状腺髄様腫用薬を米国で承認申請
  • 血小板が少なくC型肝炎治療を受けられない患者の為に
  • アクトスの膀胱癌リスク

新薬開発


BMS/小野のPD-1標的薬が複数の癌に有望な成果

ASCO(米国臨床腫瘍学会)が始まった。今年の目玉第一弾は、BMSの抗PD-1完全ヒト化抗体、BMS-936558だ。200人以上を組入れた大規模な第一相試験で肺癌、黒色腫、腎細胞癌に有望な成果を挙げた。

PD-1は活性化したT細胞に発現する抑制刺激受容体で、京都大学の本庶佑教授が発見し1992年に論文発表した。癌細胞ではレガンドであるPD-L1やPD-L2が多く存在し、T細胞の殺細胞力を妨げている。PD-1やレガンドをブロックしてやれば、免疫力を強化できるかもしれない。BMS-936558はBMSが09年に買収したMedarex社と小野薬品の共同研究の産物で、かってはMDX-1106と呼ばれていた。小野の開発コードはONO-4538。

BMSはT細胞の副刺激受容体を標的とする抗体医薬の開発で実績があり、抗リウマチ薬Orencia(abatacept、和名オレンシア)、腎移植後拒絶反応抑制薬Nulojix(balatacept)、抗黒色腫薬Yervoy(ipilimumab)を商品化した。ASCOでは抗PD-1抗体の第一相試験結果も発表されるが、抄録を読む限りではBMS-936558のほうが良さそうだ。

今回の第一相試験は296人を組入れて、最初のコフォートは0.1mg/kgをテストし、段階的に10mg/kgまで引き上げていった。二週間に一回の点滴静注。有効性(RECIST基準の反応率)の中間解析は、非小細胞性肺癌が76人中18%、黒色腫は94人中28%、腎細胞癌は33人中27%だった。反応した30例中20例では奏効が12ヶ月以上持続。尚、結腸直腸癌と前立腺癌は反応率ゼロだった。重篤な有害事象の発生率は11%、有害事象治験離脱率は5%。薬物関連の間質性肺炎が9例(3%)発生、うち3例は死亡した。

多くの患者が複数の薬剤を経験済みであることを考えれば有望な結果だ。免疫療法は一部の患者には長く効くが誰に効くのか予測できないという難点がある。BMS-936558は反応率が比較的高いことに加えて、有望なバイオマーカーも見つかった。一部の患者のサブスタディで、PD-L1陽性癌は25例中36%が反応したが、陰性17例はゼロだったのである。治療の便益と副作用のバランスを更に改善する余地がありそうだ。BMSは上記三種類の癌で第三相試験を開始する予定。

リンク:BMSのプレスリリース
ASCOの患者向けニュースリリース
オンラインで同時刊行されたNew England Journal of Medicine誌の論文(三本ともオープン・アクセス):
  BMS-936558第一相試験
  BMS-936559(抗PD-L1抗体)の第一相試験
  エディトリアル

Zytigaの一次治療試験が成功

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17A1阻害剤、Zytiga(abiraterone acetate)は去勢抵抗性転移性前立腺癌の化学療法の二次治療として欧米で2011年に承認された。テストステロンの合成を阻害する作用を持つ、一日一回服用の経口剤で、広い意味ではホルモン療法と似ている。化学療法施行前の患者を組入れた一次治療試験も成功し、年内に承認申請される見込みだが、ASCOでデータが発表された。

最初にTPOを整理しておこう。前立腺癌は切除、放射線療法、ホルモン療法が有効だが、切除・ホルモン療法後に再びPSA値が上昇すると警戒が必要になる。化学療法薬は副作用がきついので、転移したり症状が悪化するまで待って施行することが多いようだ。今回の一次治療試験は、転移したが未だ疼痛などの症状が出ていないか軽度に留まっている患者を対象としたもの。prednisone(5mg)を一日二回とZytiga(1000mg)を一日一回、何れも経口投与する群と、prednisoneと偽薬を投与する群を比較した。

主評価項目は放射線学的無増悪生存期間。腫瘍の大きさの変化だけを進行評価項目としたのは元々の症状が軽いからだろう。中間解析が成功したため盲験解除し、偽薬群の患者もZytigaを服用できるようにした。メジアン値は偽薬群が8.3ヶ月であったのに対してZytiga群は未だ到達していない(増悪・死亡例が50%未満)。ハザードレシオ0.43、pは0.0001未満。

全生存期間は偽薬群27.2ヶ月、Zytiga群は未到達、ハザードレシオ0.75。pは0.0097だが、中間解析に割当てられたアルファは0.0008なので、有意とは言えない。(一本の試験で何度も解析を繰り返すと偶然に低いpが出るリスクが高まるため、一回一回の解析の有意性認定基準を通常より低く設定して多重性補正を行うのが統計学的に正しい方法。)

心毒性を持つこともホルモン療法と似ている。重度以上の心臓疾患の発生率は6%と偽薬群の3%より高かった。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

ロシュのT-DM1は転移性乳癌の二次治療として有望

ASCOではロシュのT-DM1の第三相試験の結果も発表される。2日にASCOのプレス・ブリーフィングで取り上げられ、エンバーゴ(報道規制)が解除されたため、ロシュがプレスリリースを出した。

T-DM1はロシュの抗her2ヒト化抗体Herceptin(和名ハーセプチン)の活性成分であるtrastuzumabとDM1(maytansine)という微小管重合阻害剤をリンカーで繋げたもの。乳癌細胞に選択的に分布するため、DM-1の全身性副作用が緩和される。米国のイミュノジェン(Nasdaq: IMGN)との開発提携の産物だ。

この試験では、転移性乳癌の一次治療としてタクサン系の抗癌剤とHerceptinを使った患者が二次治療を受ける時の効果を、ロシュのXeloda(capecitabine;和名ゼローダ)とグラクソ・スミスクラインのher2/EGFR阻害剤Tykerb(lapatinib;和名タイケルブ)の併用療法と比較した。結果は、主評価項目の一つである無増悪生存期間がメジアン9.6ヶ月と対照群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、pは0.0001未満となり、成功した。

もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析なので該当例が少なく、有意性判定基準に到達していない。具体的には、メジアンは未到達、対照群は23.3ヶ月、ハザードレシオ0.62、p=0.0005だった。2014年の最終解析では有意になるだろう。

T-DM1のもう一つの長所はHerceptinやTykerbを化学療法と併用するよりも副作用が軽いことだ。この試験ではG3以上の重度有害事象の発生率が41%と対照群の57%を下回った。血小板減少例は多かったが、下痢や手足症候群、嘔吐は少なかった。将来的には一次治療でもタクサン系とHerceptinの併用療法を駆逐するだろう。ロシュは年内に欧米で承認申請する予定。

リンク:ロシュのプレスリリース

アバスチンは何度でも使える?

ASCOではロシュのAvastin(bevacizumab;日本では中外製薬のアバスチン)のML18147試験の結果も発表される。プレス・ブリーフィングで取り上げられ、ロシュがプレスリリースを出した。統計学的には成功したが、治療効果は案外である。

この試験は、転移性結腸癌の一次治療としてAvastinを使った患者に二次治療を行う時に、再びAvastinを使う効用を調べたもの。一次治療も二次治療も化学療法を併用した。結果は、化学療法だけの群の全生存期間がメジアン9.8ヶ月であったのに対して、Avastin群は11.2ヶ月となり、ハザードレシオ0.81、p=0.0062だった。全生存期間の場合、ハザードレシオが0.8なら立派なものだが、メジアン値の差は1-2ヶ月に過ぎない。そんなものか、という印象だ。

Avastinの用量は二種類あるが、この試験は二次治療の代表的な薬であるirinotecanと併用する時の用量である5mg/kg(二週間に一回投与)を採用したようだ。一次治療の代表的な薬であるoxaliplatinと併用する時は10mg/kgなので、一次治療時より量を減らすことになる。Avastinは続けるうちに抵抗性が生じる可能性があるので、減量しなければもっと良い結果が出たかもしれない(忍容性は悪化するだろうが)。

リンク:ロシュのプレスリリース

承認申請・承認


SGLT2阻害剤が米国で承認申請

ジョンソン・エンド・ジョンソンはSGLT2阻害剤JNJ-28431754(canagliflozin)を米国で二型糖尿病治療薬として承認申請した。田辺三菱製薬と共同開発したもので、田辺はTA-7284と呼んでいる。グルコースは腎臓で濾過された後にSGLTによって血液中に戻される。SGLT2阻害剤は近位尿細管に分布するSGLT2を阻害してグルコース排泄を促進する。腸に多く分布するSGLT1を阻害しないため胃腸副作用が起き難い。一日一回、経口投与する。

SGLT2阻害剤で最初に承認申請されたのはBMSのForxiga(dapagliflozin)で、欧州では4月にCHMPの肯定的評価を受けたが、米国は審査完了に留まった。メカニズム的に腎障害を持つ患者には適さないが、どこで線を引くか(eGFRの閾値)が必ずしも明確ではないことや、治験で膀胱癌や乳癌の発生に偏りがあったことが理由と推測される。後者は、canagliflozinのデータが公表されれば傍証になりそうだ。

SGLT2は大阪大学の金井教授が同定した。PD-1の発見も、ファイザーが開発したXalkori(crizotinib;和名ザーコリ)の標的である染色体転座型ALKがある種の肺癌に関与していることを発見したのも、日本の研究者である。日本の基礎研究が海を渡って新薬という果実を生むケースが増加している。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

エグゼリキシスが甲状腺髄様腫用薬を米国で承認申請

腫瘍学に特化した米国の新薬開発企業であるエグゼリキシス(Nasdaq: EXEL)は、XL184(cabozantinib)を進行性、切除不能、局所進行性、または転移性の甲状腺髄様腫に使うためのローリング承認申請を完了した。XL184はmetやret、VEGFR2、kitなど多くの腫瘍関連物質を阻害する小分子薬。グラクソ・スミスクラインがインライセンス・オプションを行使せず、BMSが共同開発販売権を返還するなど、事業開発面では苦労したが、取り敢えず最初の道標にたどり着いた。

臨床試験では無増悪生存期間がメジアン11.2ヶ月と偽薬群の4.0ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.28、pは0.0001未満だった。症状がどの程度改善するのかが注目される。

ローリング承認申請は承認審査をスピードアップする目的で導入された制度で、承認申請に必要なCMC(化学的評価、製造方法、管理)、前臨床、臨床の三種類の書類が揃うのを待たずに、出来たものから提出して承認審査を開始してもらう。通常の承認審査期間は10ヶ月、優先審査でも6ヶ月だが、ローリング承認申請された抗癌剤の中には申請完了から3ヶ月で承認されたものもある。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

血小板が少なくC型肝炎治療を受けられない患者の為に

グラクソ・スミスクラインはスロンボポイエチン作用剤Promacta(eltrombopag olamine;和名レボレード)の適応拡大申請を欧米で行った。突発性血小板減少症治療薬として承認されているが、新たに、血小板数が少ないためにインターフェロン治療を受けられないC型肝炎患者に投与する用法の承認を求めた。

インターフェロン治療の前だけでなく開始後も服用を続けるが、同社のプレスリリースを読むと、後者は欧州と米国でニュアンスが若干異なるようである。EUのEMAに対しては「インターフェロン・ベースの治療を行う間」の治療法として、FDAに対しては「インターフェロン・ベースの治療を最適化するための」治療法として、申請した。この種の薬は血小板が増えすぎて血栓性疾患のリスクが高まることがあり、また、Promactaは肝毒性を持つので、医薬品審査機関によって慎重さが若干異なるのかもしれない。

リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

医薬品の安全性


アクトスの膀胱癌リスク

武田薬品の二型糖尿病薬Actos(pioglitazone;和名アクトス)と膀胱癌の関連性に関する新たな疫学論文がBritish Medical Journal誌に掲載された。英国のGP(ホームドクター)のデータベースを用いたネステッド・ケース・コントロール試験である。

1988年から2009年までに二型糖尿病の経口剤治療を開始した11万人のうち、平均4.6年の観察期間中に470人が膀胱癌と診断された(10万人年当たり89.4)。pioglitazone服用者のリスク(レート・レシオ)は1.83、95%信頼区間は1.03-3.05だった。リスクは用量や累計服用期間と関連性が見られた。

膀胱癌の発生率は元々低く、pioglitazoneによるリスクの上乗せは10万人年当りで最大137とのことだ。尤も、pioglitazoneを服用している患者は多いので、もしこの推計が正しいとしたら、一年間に2万人以上が発症することになる。そのせいか、BMJ誌のエディトリアルはpioglitazoneに厳しい評価をしている。

リンク:BMJ誌:
Azoulayらの疫学試験論文
エディトリアル

今週は以上です。

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