2012年6月10日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月10日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • ASCO:GSKの二剤の転移性黒色腫第三相試験が成功
  • ASCO:ベーリンガーのafatinibの肺癌試験が遂に成功
  • ASCO:バイエルのregorafenibはGIST試験も成功
  • MSD/アリアドのmTOR阻害剤は承認されず
  • ノボの新型インスリンの承認が遅延
  • ロシュの新規抗癌剤が米国で承認
  • レグパラの心血管アウトカム試験がフェール

新薬開発


GSKの二剤の転移性黒色腫第三相試験が成功

グラクソ・スミスクラインの二種類の化合物をテストした末期・転移性黒色腫第三相試験が何れも成功した。ASCO(米国臨床腫瘍学学会)で発表され、日本たばこから導入したMEK1/2阻害剤、trametinibの試験はNew England Journal of Medicineのホームページで論文も同時刊行された。

trametinibのMETRIC試験はbrafという腫瘍関連遺伝子にV600E又はV600Kというアミノ酸置換変異を持つ患者(3分の2は治療未経験)を対象にPFS(無増悪生存期間)を化学療法(dacarbazine又はpaclitaxel)と比較したところ、メジアン4.8ヶ月と化学療法群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ(HR)は0.45、pは0.001未満だった。オーブンレーベル試験なので第三者評価に基づく解析も行われたが、HRは0.42と大差なかった。

この試験は全生存期間の解析は行われていない。治験開始後にロシュやBMSの新薬が承認され増悪後の治療に偏りが生じる懸念が発生したことが原因である模様だ。クロスオーバー(化学療法群に割当てられていた患者が増悪・治験離脱後にtrametinibを使う)を認めた。尤も、延命効果を示唆するデータもある。6ヶ月生存率が81%と化学療法群の67%を上回ったことだ。

重度以上の有害事象はラッシュ、疲労、高血圧など。braf阻害剤と異なり扁平上皮腫は増えなかった。GSKは承認申請する予定。

もう一つはbraf阻害剤dabrafenibのBREAK3試験で、brafのV600E変異を持つ転移性黒色腫の一次治療薬としての効果をdacarbazineと比較した。メジアンPFSは5.1ヶ月と対照群の2.7ヶ月を上回り、HRは0.30、pは0.0001を下回った。全生存期間の解析は今後、行われる予定。GSKは承認申請する予定。

主な有害事象は頭痛、発熱、関節痛などに加えて、角質増殖、皮膚パピローマ、扁平上皮腫、手足症候群、光過敏など。皮膚有害事象はロシュのZelboraf(vemurafenib)でも見られる。クラス・イフェクトなのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース
trametinibのNEJM論文 (オープン・アクセス)

ベーリンガーのafatinibの肺癌試験が遂に成功

ASCOではベーリンガー・インゲルハイムのEGFR/her2阻害剤BIBW 2992(afatinib)の肺癌試験の成功も発表された。EGFR変異型線種非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者をafatinib群とAlimta(イーライリリー、和名アリムタ)・cisplatin併用群に割付けてPFSを比較したところ、各11.1ヶ月と6.9ヶ月となり、HRは0.58、pは0.0004未満と中々良い数値が出た。

この試験の患者背景は、女性が65%、アジア72%、喫煙経験なしが68%だった。既に実用化された二剤と同様であり、やはり、EGFR阻害剤はこの三条件を満たす線種肺癌に強い。

afatinibは二次・三次治療試験も行われ、無増悪生存期間は有意に延びたものの、主評価項目の全生存期間は偽薬と大差なく、メジアン値はむしろ悪かった。偽薬群は治験離脱後にEGFR阻害剤による治療を受けた患者が多かった由であり、これが原因かもしれない。何れにせよ、無増悪生存期間が全生存期間と連動しなかったのだから、今回の試験でも追跡を続けて延命効果を確認すべきだろう。

リンク:ASCOの抄録
ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

バイエルのregorafenibはGIST試験も成功

ASCOではバイエルとオニクス(Nasdaq: ONXX)のVEGF受容体・raf阻害剤、regorafenibのGIST(消化管間質腫瘍)サルベージ試験のデータも発表された。

切除不能でGleevec(和名グリベック)やSutent(和名スーテント)による治療をすでに受けた患者に160mgを一日一回、21日服用、7日休薬のスケジュールで投与したところ、PFSが4.8ヶ月と偽薬群の0.9ヶ月を上回り、HRは0.27、pは0.0001を下回った。全生存期間は未だイベント数不足でHR0.77、p=0.20と有意水準に達しなかった。バイエルのプレスリリースによると、増悪後のクロスオーバーが認められたことが原因かもしれない。

regorafenibは先に結腸直腸がんのサルベージ試験が成功、5月に欧米で承認申請された。GISTは今年下期に承認申請の予定。

リンク:バイエルのプレスリリース

承認申請・承認


MSD/アリアドのmTOR阻害剤は承認されず

MSD(メルク)はアリアド(Nasdaq: ARIA)からライセンスしたmTOR阻害剤、ridaforolimusを軟組織肉腫・骨肉腫の維持療法として欧米で承認申請したが、FDAは承認を見送り、審査完了通知を出した。追加試験を求めた模様だ。

第三相試験では死亡リスクが偽薬群比で有意に低下したが、メジアン生存期間は16週間と偽薬群の14週間と大差なく、俗に言う、統計的には有意だが臨床的には無意味な結果となった。有害事象による治験離脱が14%と偽薬群の2%より高く、治療の便益とリスクが釣り合うかどうか明確ではない。このため、3月の諮問委員会では承認賛成一人、反対13人と否定的な委員が圧倒的に多かった。

リンク:MSDのプレスリリース

ノボの新型インスリンの承認が遅延

ノボ ノルディスクは持続作用性基礎インスリンdegludecを昨年9月に糖尿病治療薬として欧米で承認申請、米国は8月にも審査結果が出るはずだったが、3ヶ月延期となった。追加データ提出に伴い、FDAが審査期間延長規定を適用したもの。

一日一回投与型基礎インスリンはサノフィのLantusがベストセラーとなった。insulin degludecは同社のアシル化技術を用いて開発したもので、一日一回だけではなく数日間に一回投与する試験も実施された。

同社の超速効性インスリンaspartを配合したコンビ薬も承認申請されたが、用量の組み合わせが限られているので、誰でもが使える薬ではなさそうだ。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

ロシュの新規抗癌剤が米国で承認

ロシュのジェネンテック部門が開発した抗her2ヒト化モノクローナル抗体、Perjeta(pertuzumab)がher2陽性転移性乳癌の一次治療薬として米国で承認された。標準治療レジメンの一つであるdocetaxel及びHerceptin(trastuzumab )と併用する。Herceptinも抗her2ヒト化抗体だが、Perjetaはher2がher3などherファミリーの他の受容体と共益するのを阻害する。

臨床試験では無増悪生存期間がメジアン18.5ヶ月と偽薬併用群の12.4ヶ月を上回り、HR(第三者評価)は0.62で統計的に有意だった。全生存期間もHR0.64、p=0.005と良いトレンドが見られたが、今回は中間解析であり成功認定の基準がp=0.0012と厳しいため、未だ延命効果を確認したとは言えない。

FDAはプレスリリースで生産問題を指摘している。もし解決しなかった場合は欠品が生じる可能性があるようだ。発売が2週間後と遅いのも生産問題が影響しているのかもしれない。

FierceBiotechの報道によると、Perjetaのメーカー出荷価格は月5900ドルであり、Herceptinも月4500ドルと高価なので、患者一人当たりのメジアン薬剤費は18万ドルを超えると推測されている。厚生大臣が国会で貧乏人は偽薬を使えと発言する日が近づいているのだろうか?

リンク:ジェネンテックのプレスリリース
FDAのプレスリリース
FierceBiotechの報道

アウトカム試験


レグパラの心血管アウトカム試験がフェール

アムジェンは、二次性副甲状腺ホルモン過剰症治療薬Sensipar(cinacalcet、和名レグパラ)の心血管アウトカム試験がフェールしたことを発表した。慢性腎疾患透析期で副甲状腺ホルモン過剰を合併した患者を組入れて心血管疾患発生状況を観察したところ、偽薬群より少なかったが有意水準には達しなかった。

この試験は偽薬群の患者も他の薬で治療を受けた模様なので、結果的に、Sensiparと他の種類の副甲状腺ホルモン抑制剤を比較する格好になり、治療効果が表面化しにくくなってしまったのかもしれない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

今週は以上です。

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